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「救える命が救えない」 医療崩壊でコロナ死者過去最多に 岸田政府いいかげんにしろ

 新型コロナの爆発的な感染拡大が止まらない。全国の新規感染者数は19日にはじめて26万人を突破し過去最多となった。「オミクロン株は感染しても軽症」「普通の風邪と変わらない症状」などといって岸田政府は経済活動を最優先し、「3年ぶりの行動制限のない夏」として感染拡大に対して無策を決め込んでいる。その結果、新規感染者数は世界最多、死者数もアメリカに次ぐ数となり、23日には1日当りの死者数は340人と過去最多にのぼった。軽症が大半を占める第7波での死者数急増は、オミクロン株の性質によるものではなく、感染の爆発的拡大による医療崩壊によるもので、まさに人災といっていい事態だ。新規感染者の急増で医療現場は「ひっ迫ではなくすでに崩壊状況」といわれ、「本来なら救える命が救えない」と医療従事者の悲痛な声が溢れている。

 

 東京都の男性は7月下旬に新型コロナに感染した。訪問診療で入院が必要な「中等症Ⅱ」と診断され、救急車を要請した。約30分後に到着した救急隊が約2時間かけて患者受け入れを要請したが、100軒以上の医療機関に断られ、搬送先が見つからず自宅待機となった男性は翌朝早く亡くなった。男性は末期のがんを患い、自宅で治療を続けていた。

 

 心臓病で通院中だった都内の90代の女性は、新型コロナ陽性が判明したため、かかりつけの病院からは「陽性中は病院には出入りできない」といわれ、救急車を呼んだが搬送先はないといわれ、「自宅療養で治してください」といわれたという。

 

 都内在住の80代の男性5日、救急車の受け入れ先が見つからず死亡した。当時、東京都の病床使用率は57・5%だったが、院内感染が多発し、どこも人手不足で受け入れる余裕がなかったという。

 

 また、心不全を患う80代の陽性患者が自宅で容体が急変し、救急要請したが5時間以上も搬送先が見つからず、自宅療養を続けたという例もある。同じく10時間以上も救急車のなかで救命措置を受けた患者がついに力尽きるという事例も出ている。

 

 東京都の調べでは、新型コロナに感染し、入院調整中に亡くなった自宅療養者は7月以降8月17日までにで3人。いずれも基礎疾患がある高齢者で、医療関係者は新規感染者の激増で基礎疾患の有無や重症度に応じた入院調整ができなくなっていると指摘している。

 

 また、東京都では20代の男性が自宅で死亡する事例も起きている。男性は7月20日に陽性が判明し、2日後に死亡した。基礎疾患はなく、軽症だったため自宅療養となっており、症状急変に対応できなかったケースだ。西武学園医学技術専門学校東京校校長は「爆発的な感染者数が発生しており、基礎疾患のない軽症の若い陽性者が入院できないのはやむを得ないのかも知れない。だが、コロナ禍の2年半、軽症者の容体が急変し、死に至る事例は何度も見てきた。都は男性の死を防げなかったのか、徹底検証をおこない、連絡体制の改善などにつなげる必要がある」と指摘している。

 

 沖縄県の高齢者施設では入所者84人のうち59人が感染し、中等症の24人を多目的スペースに集めて隔離したが、その後入院できたのは3人だけだった。施設で療養していた21人のうち6人が亡くなった。「入院させれば救えたはず」という悲痛な声が出ている。

 

 こうした事例は全国で続出しており、救急車は来ても搬送先の病院が決まらなかったり、入院できずに自宅で亡くなるなど、医療体制の不備による死亡者が急増している。

 

「すでに災害レベル」 京都では医師会等が緊急声明

 

 「オミクロン株は軽症」といわれながら、第7波では1日当りの死者数は、過去最多だった第6波に迫りつつある。8月15日時点の重症者数は614人で、第6波のピーク時の4割程度にとどまっており、「第7波の株は重症化しにくい」といわれている。だが、死者数を見ると第7波は220人(1週間平均)であり、第6波のピーク(236人)の9割をこえている。重症者は低く抑えられていながら、死者数は連日200人をこえる多さだ。

 

 WHO(世界保健機関)は8月8日から14日までの1週間の感染状況を報告した。一週間の新規感染者数は日本が139万5301人で4週連続でもっとも多く、世界全体の4分の1を占める。同期間の日本の死者数は1647人で、アメリカに次いで2番目に多かった。

 

 第6波(今年1~6月)は6カ月間で1万2888人が亡くなった。第7波(7月~8月18日)の死者数は2カ月足らずで5008人であり、過去最多の死者数が出るペースだ。

 

 深刻な医療崩壊が死者を増大させているなかで、各府県の医師会など医療従事者が緊急声明をあいついで発している。

 

 8月15日には、京大病院など京都府内の14の新型コロナ感染症重症患者受入医療機関が連名で「災害レベルに達した新型コロナ第7波について」「救える命が救えない」との共同声明を発表した。共同声明の要旨は以下の通り。

 

 1、「行動制限がない」は「感染リスクがない」ということではない。
 「行動制限がない」ということは「行動を拡大しても、感染しない」ということでは決してない。人の集まるところは感染のリスクが溢れている。避けることができる、あるいは延期することができる不要不急の外出はぜひ避けてください。

 

 2、災害レベルに達した新型コロナ感染症第7波による医療崩壊。
 新型コロナ感染症の爆発的な拡大はすでに災害レベルに達している。「行動制限がない」、その裏では感染拡大が災害レベルに達しており、救急医療を中心に医療崩壊が同時に存在する。

 

 京都府内の複数の病院において、クラスター感染がくり返し認められ、感染等による医療従事者の休務者の人数も一つの病院当たり毎日数十人から100人以上となっている。新型コロナ用に確保している病床は京都府においては実質的に飽和状態になっており、どの病院もすぐに受け入れることができない状況になっている。新型コロナ感染症自体は軽症でも、もともとほかに病気がある場合は重症となり、ICUでの治療が必要になることがしばしばある。

 

 新型コロナ以外の通常の病気に対する診療も多大な影響を受けており、手術や入院の停止や延期という事態になっている。とくに救急医療はすでに崩壊といってよい状況にある。
 現在は「救えるはずの命が救えない」という医療崩壊となっている。新型コロナの感染者数が減らない限り、この医療崩壊はさらに進む。

 

「なんらかの行動制限を」  愛媛県医師会

 

ひっ迫する救急医療

 沖縄本島北部地域の首長や医療関係者も18日、「医療崩壊という事態が発生している」との声明を発表した。声明では「北部地域では毎日約300人の感染者が発生しており、救急搬送件数も急増し、入院先がすぐに確保できない事態も発生している」としている。北部地区医師会の副会長は「医療現場では命の選択をせざるをえない状況に追い込まれる可能生がある」と指摘した。

 

 北部病院では18日時点でコロナ病床使用率は80%、コロナ以外は87%にのぼり、医師会病院でもコロナ病床は満床状態、コロナ以外も9割が埋まっている。両病院ともに医療従事者の感染や濃厚接触による欠勤、重症患者の対応などで、人手不足も深刻になっている。

 

 愛媛県医師会会長と愛媛大学医学部附属病院院長も20日に会見し、「なんらかの行動制限が必要」との見解を明らかにした。会見で両氏は、医療現場は「それぞれの局面でひっ迫し、もうこれ以上限界だというところが近づいてきている」「必死に管理している状況で、全体の現場としてはもう100%ぐらいの運用」と、厳しい状況を訴えた。新型コロナの疑いがある患者が10軒ほどの医療機関に問い合わせてようやく診察の予約がとれたという実例もあげ、医療体制が限界に近づいていると訴え、「このままの状況が続くと、必ずコロナ医療提供体制は行き詰まる。コロナにかかっても必要な医療が受けられない。医療崩壊を防ぐために必要なことは感染者数を抑制することだ」とのべた。

 

 そのうえで、基本的な感染対策の徹底や、ワクチンの4回目接種を呼びかけるとともに、「感染症が人と人とが接触することによって広がっていくことは明らかで、逆にいえば人と人とが接触する機会が減れば、どこかでピークを抑えて減少に向かう。行動制限は必要ではないかというのが本音だ」とのべた。

 

なにもしない岸田政府 医療崩壊も意に介さず

 

 医療現場から「救える命も救えない」「命の選択をせざるをえない」といった悲鳴が上がるなかで、岸田政府はどのような対策をとってきたのか。

 

 これまでの感染拡大時には、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置をとり、曲がりなりにも人流を抑える対策をとってきた。だが第7波で岸田政府は「BA・5対策強化宣言」なるものをうち出している。政府が主体となるのではなく、各自治体の判断で「強化宣言」を出させ、市民や企業などに感染症対策の基本に立った行動をするよう要請するだけであり、対策の中身も自治体に委ねている。しかも各都道府県が「強化宣言」をおこなった場合でも、国がおこなうのは「都道府県の感染対策がより効果的・効率的に実施できるよう、関係省庁及び各所管団体等との連携・調整、好事例の提案・導入支援、感染対策に関する助言・指導」「必要に応じて国からのリエゾン職員の派遣」をおこなうというもので、休業補償など財政的なバックアップは一切ない。

 

 「これが毎週のように世界で最多の感染者を出している国の政府の対策か? あきれ果ててあいた口がふさがらない」と専門家はコメントしているが、感染者数がどれだけ膨れ上がろうとも、意に介さないのが岸田政府のスタンスだ。

 

 さらに第7波での医療崩壊をもたらしている要因には、医療従事者が感染したり濃厚接触者となり、職場に出勤できず深刻な人手不足に陥っている現実がある。

 

 福島県では8月8~14日にコロナ関連で職場に出勤できなかった医療従事者は前月同期比7・4倍の1400人にのぼる。スタッフ不足のため、病床が空いていても患者を受け入れられなかったり、コロナ以外の病気での入院や手術を延期せざるをえなかった。

 

 ちなみに福島県では3日に「BA・5対策強化宣言」を出したが、夏休みやお盆で人の移動が活発になり、十分な効果が出ていないとしている。

 

 広島市民病院でも、ある病棟ではスタッフ26人中17人がコロナ関連で欠勤となった日もある。出勤できる人は夜勤の回数が増え、勤務シフトは限界に近づき、「使命感でぎりぎり踏ん張っている」状況だという。人手不足が響き、コロナ以外の診療でも一部の手術はやむなく延期。救急車の受け入れも、心筋梗塞や脳出血など一刻を争うケースに絞りつつある。同病院院長は「災害時に重症度に応じて治療の優先度を決める=トリアージに近い事態が起こっている」とのべている。

 

 静岡県病院協会会長は「感染者数の高止まりと同時に医療現場に追い打ちをかけるのが医療従事者の休職だ。病院では本人が感染、または濃厚接触者になったり、子どもの通う保育施設などの閉鎖などで休職をよぎなくされている医療従事者が増えている。このままでは医療のマンパワーには限界があるので、限界点が来たときにコロナ難民やコロナの医療を重点的にすることで一般の助かる命が助からない可能性も捨てきれない」と懸念している。

 

 ちなみに厚労省はワクチンの4回目接種を高齢者に限定し、医師・看護師らを接種対象から外している。ワクチンは余り大量廃棄も報道されているが、厚労省は医師や看護師への4回目接種をかたくなに拒んだ。医師で全国市長会会長の立谷相馬市長(福島県)は「くり返し厚労省に要請したが、エビデンスがないの一点ばりだった」とのべている。

 

 さらに岸田政府は感染拡大に対応して、コロナ感染者の全数把握を見直す方向を出している。これに対し広島県の病院関係者は「これだけ感染者数が増えると全数登録自体の負担は大きくなってくる。ハーシスを用いた登録システムをやめることで、メリットとしては医療機関・保健所の業務はかなり楽になる」とのべる一方、「デメリットとしては、この登録システムがあるおかげで実施できてきた個々の患者の健康管理、宿泊療養や受診の調整といった行政が担当する支援が非常にやりにくくなってしまう。非常に患者が多いこの状況下で急に定点把握に切り替えると混乱するのではないかと危惧している。ごく簡単な登録方法は維持することで、高齢者などとくに支援が必要な人に絞ってきちんと対応できるような体制にまず移行することが望ましいと考える」と指摘している。「対策強化」というが内実は緩和(国の責任放棄)するだけで、それによる副作用への対策は皆無なのだ。

 

3年経ても国産薬なし 5類引き下げは早計

 

 さらに政府は感染の爆発的拡大に乗じて、現在の感染法上の2類の分類を5類に引き下げ、インフルエンザと同じ扱いにすることを検討している。「5類にすれば隔離の必要がなくなるので保健所や医療の業務ひっ迫が解決する」というものだ。だがこの政府の対応に医療現場は激しく反発している。川崎市立多摩病院の医師は「感染法上の分類を変更したところで、ウイルス自体の感染力が下がるわけではない。また、高齢者や基礎疾患を有する人々にとっては命とりになりうる感染症であることにかわりはない」「現在の感染爆発に対してはやはり、入院が必要な患者自体の数を減らす必要がある」としている。

 

 そのためには「高齢者や基礎疾患がある人になるべく感染させないようにすることが重要だ」とし、「自分が感染していると気付いていない健常な若年者がウイルスを媒介するので、こうした人々に対して迅速な検査で早めに診断し、重症化リスクを持つ人から分離する必要がある。現状では病院でないと検査を受けられない。自宅で検査キットで陽性になっても病院に行かないと陽性者として登録できない。これが特定の医療機関に負担が集中し、医療崩壊を引き起こしている一因となっている。少しでも体調が悪い人は自宅で速やかに検査をして、陽性であればそのまま自宅療養できるような仕組みを整えることが大事だ。ここは行政にいち早く動いてもらわなければならない。本当であれば、感染の波が落ち着いている時に議論してこの仕組みを整えておくべきだった」と提言している。

 

 また、医療関係者らは、コロナ対策の切り札として広く使える「国産の新薬」の必要性を訴えている。琉球大学の藤田名誉教授は「コロナが流行して2年以上たつが、いまだに国産の薬・ワクチンが流通していないことが異常事態だ」と批判し、「感染症の診療の原則は早期診断と早期治療だ。だが今、広く使える薬がない。新薬が出て初めていろんな問題が解決するのではないか」と指摘している。

 

 第7波の爆発的な感染拡大は、オミクロン株の感染力の強さもあるが、岸田政府の無為無策に大きな要因があることが明らかといえる。経済活動を優先する一方、あれほど「医療従事者に感謝を!」といってきた医療現場へのしわ寄せやコロナ死亡者の急増については見て見ぬ振りを決め込んでいる。行動制限をしないのは、国による経済への支援やバックアップを打ち切りたい思惑があるためで、本来は経済対策とは切り離して考えるべき科学に基づいた公衆衛生対策を恣意的に歪めているため、現場の混乱に拍車をかけている。

 

 感染爆発を抑制するためには、なにより行動制限をおこなうことであり、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などをとり、国民全体に再度10万円を支給するなど、国民の生活や事業の継続を保障しながら、国民の命を守る行動をとるのが政治の責務である。

 

(8月24日付)  

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