参院選は中盤戦に入り、東京選挙区で立候補したれいわ新選組の山本太郎代表は、6月28日には同党公認のがきや宗司氏(愛知県選挙区)が立候補する愛知県名古屋市のJR名古屋駅桜通口、やはた愛氏(大阪府選挙区)が立候補する大阪市のJR大阪駅御堂筋北口前、京橋駅連絡通路、あべのキューズモール前、同29日には奥田ふみよ氏(福岡県選挙区)が立候補する福岡市・JR博多駅前で応援演説をした。その後東京に舞い戻り、JR大崎駅前、JR目黒駅前、翌30日には小田急線沿いの下北沢駅前、成城学園前駅前、多摩センター駅前で連続的に街宣をおこなった。街宣会場はどこも人で埋め尽くされ、猛暑にもかかわらず、足を止めた多くの人々が約1時間に及ぶ演説や質疑応答を熱心に聞き入っている。
演説会場ではどこでも、最初はわずかだった聴衆が、山本氏の演説開始後に一人、また一人と足を止める人が増えていき、質疑応答がおこなわれる街宣終盤には2倍、3倍に膨れあがる。20~40代の若い世代が多く、幼い子どもを連れた親たち、仕事帰りのサラリーマン、自営業者など、幅広い人たちが真剣な目つきで山本氏の熱のこもった演説に耳を傾け、演説後に力強い拍手や掛け声が飛び交う――。
2019年の参院選に比べて聴衆の数や熱狂的なファンの姿は少なくみえるものの、「初めて演説を聞いた」「あまりに熱がある演説なので思わず聞き入った」という人たちが引き込まれるように集まってきて、演説を聞いた後に寄付をしたり、ポスターを手にして帰る。無党派層のなかに着実に浸透していることをうかがわせる光景だ。
れいわの主要政策である消費税廃止、物価高に対応するためのガソリン税廃止、奨学金徳政令(返済免除)、介護士や保育士の給料水準アップ、さらに猛暑下で宣伝される節電キャンペーンで浮き彫りになるエネルギー問題、東アジア情勢の緊迫に備えた外交による安全保障政策など、演説の内容は幅広いが、その一つ一つが道行く人々の切実な政治要求や生活感覚と響き合い、新鮮な共感を広げている。人々は、れいわ新選組や山本氏のどんな主張や政策、姿勢に共鳴しているのか――街頭演説を聞いている人々に意見を聞いた。
カネや利権に縛られぬ政治 全体の奉仕者を
友人と一緒に演説を聞いた後、ポスターを持ち帰った26歳の女性歯科医師(勤務医)は、「たまたま通りかかっただけなので、演説は後半部分しか聞けていないが、“バックに企業や宗教団体はない。一人一人に支えられている”ということが、言葉だけでなく、山本さんの態度からも感じられて、信用できる政治家だなと思った。お金でやっているのではないからだ。歯科医師は、医師会に比べて診療報酬も低く、経営的に苦しいお医者さんが多いので、皆保険で歯科検診を導入することを推進する同業者の政治家が推薦され、自分たちの業界の利益に繋がる政治家を選ぶのが普通だ。今回も同じように歯科医師会からは自民党系の政治家への投票をすすめられたし、政治はそのような利害の結びつきで動いているものだと思っていた。だから、あまり選挙に興味はわかなかった」と話した。
一緒にいた友人の女性歯科医師(26歳)は、「同じ業種だというだけで投票しても、それが本当にいい政治をやることに繋がっているのかといえば、そうではない。今回のウクライナ問題でも、対ロシア制裁で虫歯治療や入れ歯などに使うパラジウムの価格が(ロシアから輸入できず)高騰しており、ただでさえ低賃金で担い手が減っている歯科技工士さんたちがますます苦しい状況に追い込まれている。結局、日本の政治はすべてアメリカのいいなりで、下々の声は政治には届かないものだと思っていた。山本さんのように直接有権者の前に出てきて、同じ目線で政治について語る人は少ない。自分たちの意見を聞いてくれると感じるし、声が届きそうな政治をしてくれそうな気がする。ちゃんと自分の意志を持ち、政治家を見極めて、投票しようと思う」とのべた。
大崎駅前でベビーカーを引いて演説を聞いていた母親は、「初めは“また選挙恒例のパフォーマンスをやってるな…”と斜めに見ながら通り過ぎたが、何度か通るうちに、月並みな言葉や紋切り型ではなく、私たちにもわかる言葉で自分の正直な思いを語っていると感じて最後まで聞き入った。彼には、いわゆるエラい政治家の態度や言葉とは違って庶民の目線がある」と感想をのべた。
また「これまで与党も野党もわからないほど政治には疎かった。数年前から自分が暮らす大崎は、羽田の新ルート設置で上空を飛行機が低空飛行をするようになった。この区域には何万人もが暮らす住宅地もマンションもあり、保育園や学校もある。危ないだけでなく、大気汚染をもたらし、資産価値も下がる。初めは住民が声を上げたら見直されるものだと思って反対運動をしていたが、政治家も企業もまったく聞く耳も持たず、誰もがおかしいと思うことがまかり通った。企業利益優先で国民の生活を脅かすことなどなんとも思っていない政治に憤りを感じる。れいわ新選組は、数年前から街中でポスターが貼られるようになって存在は認識していたが、演説を聞いてみて、弱者にとって頼りになる政党だと感じた」と話した。
圧力に流されず聞く耳を持つ 庶民目線の政治を
下北沢で演説を聞いていた40代の男性は、「ずっと介護の仕事をやっていたが、昨年コロナに感染したことをきっかけに職場に居づらくなって退職し、国の緊急小口融資を受けようと社協にいったが、“コロナが理由ではない”ということで受給できなかった。“生活保護を受けなさい”といわれるだけで門前払いだった。それで再就職した友人も2カ月で契約解除され、途方に暮れていた。そのときに都知事選で山本さんの演説を聞いて、“こんな人がいるのか!”と心から感動した。今は日雇い派遣で日々いろんな現場に行って働いている。個人だけ救済しようと思っても暮らしはよくならない。消費税を廃止して、社会全体を底上げしないといけないと思う。国政を見ていても、野党の立憲や国民なども弱者の味方ではないし、彼らには何も変えられないと感じる。れいわ新選組一択で、一人でも多くの当選を願っている」と話した。
同じく60代の退職者男性は、「自民・公明は、政治家である前に、人間としてやってはいけない嘘を平気でつく。つまり泥棒集団だ。先日も自民党の茂木幹事長は“消費税を下げたら年金を三割カットだ”と恫喝した。民間レベルなら即刻首を切られるような、ならず者が政治をやっている。山本太郎は暑い日も寒い日も、庶民と苦しみを共にしながらずっと街宣をやってきたのを私は見てきた。選挙のときだけではない。これまでいろんな政党を応援してきたが、最後に自分に残ったのがれいわ新選組だ。野党勢力を見ていても、“裏自民党”といえる維新や国民民主など経団連の子分が多い。5年後の日本を想像するとゾッとするものがある。参院選はどんづまりになった日本の政治の転換期だと思っている。れいわには10議席をこえる当選を目指して頑張ってほしい」と期待をのべた。
ピアノ講師の女性(50代)は、「ウクライナ戦争をめぐる国会の対ロシア制裁決議で、ほぼすべての政党が賛成するなかで、冷静に中立の立場を宣言したのはれいわ新選組だけだった。私は音楽活動を通じてロシア人の友人もおり、ロシア人音楽家の劇場からの追放に胸を痛めてきた。れいわの態度を見て、この人たちは圧力や風潮に流されない、骨のある人たちだと感じた。口でいいことをいっても、流される人たちは人の話を聞く耳を持っていない。この人たちなら聞いてもらえると思った」と話した。
さらに「私はコロナ感染後、長く後遺症に苦しんだ。倦怠感で寝たきり状態になり、起き上がれず、トイレに行くのもやっとの生活だったが、ネットで情報を集めて薬で治療をして回復した。SNSで繋がった人たちには2年以上も、頭痛やめまい、記憶障害に苦しみながら、行政や医者に相談しても後遺症と認知されず、周囲から“怠け者”“いつまで寝ているのか”といわれて孤立している人も多い。心を病んで自死した友人もいる。明らかなコロナ後遺症なのに救済制度はなく、まるで存在しない者であるかのように切り捨てられている。今すぐに救済制度を作れとか、補償をしてくれというのではなく、話を聞いて、“必ず助けますよ”と優しい言葉をかけられるだけでも救われる人は多いと思う。今日は山本さんなら話を聞いてくれるはずだと思い、後遺症患者の思いを伝えに来た。真摯に話を聞いてくれ、国による救済にも言及してくれた。その姿勢が一人でも多くのコロナ後遺症患者に伝わってほしい」と胸の内を語った。
消費税廃止でみんなを救え 閉塞状況に風穴を
物流業に携わる40代の男性は、夫婦で演説を聞いていた。男性は、「消費税廃止に共感する。長く不況が続き、大胆な財政政策が必要だと思う。しかも綺麗ごとをいうだけでなく、国債発行が可能という裏付けをもって語られているので説得力がある。山本太郎については、テレビ番組でメロリンキューを踊っていたタレントと思っていたが、街宣を見て印象が180度変わった。私はトラック運送をしているが、取引先には企業が多いので、コロナ禍ですべての荷物が減り、原油高騰でコストも値上がりしている。運送業は大手の寡占化が進んでいるので、中小企業は一個当りの単価で勝負するしかなく、値上がり分を簡単には価格転嫁できない。安値競争、買い叩き競争になってしまっている。それなのに国はガソリン税を減税したり廃止するのではなく、元売り業者への補助金で元売り大手だけが濡れ手に泡だ。こうして若い人たちが熱心に演説を聞いているのも、みんなリアルに生活が苦しくなっている証拠だと思うし、政治に目が向いているのではないか」と話した。
パートナーの女性も「政治家には懐疑的で、どうせ投票したところで政治は変わらないと思って来た。夫がれいわ新選組を応援しているのも冷めた目で見ていた。創価学会の人の常軌を逸した勧誘なども目にしてきたし、特定の政党を応援するのは危険なことだと思って来た。でも、こうして演説を聞くと、この人なら変わるのではないかと思えるようになった。若い人たちが多いのも、普通の人たちが政治について真剣に考えている証拠だと思う。諦めてはいけないと思う」と話した。
成城学園前での演説を聞いていた40代の男性経営者は、「ウェブ関連の企業を経営している。コロナ禍ではリモート需要が増えて売上が上がったが、社会全体の不景気が続くなら同じことだ。日本国内が年々貧しくなり、減っていくパイを奪い合うような生き方を迫られる。この責任は自民党や公明党にある。経団連からお金をもらっているから、コロナを本気で収束させようという気迫も能力も感じられない。野党のなかでも本気で減税をするような政党を選びたいと思っていた。その点では、財源もしっかり担保して消費税廃止を掲げているれいわ新選組が一番説得力がある。今は小さい政党でも、他の与野党を動かしていくような勢力になってほしい」と期待を込めて語った。
街宣終盤の山本氏との質疑応答では、一般の聴衆から「社会に出て何年も経つのに奨学金の返済に苦しんでいる」「国内産業保護で政府調達を増やすといわれるが、そこには農産品など一次産業も含めてほしい」「今になって節電が叫ばれているのはなぜか? また原発を動かすためではないか」などの質問の声もあがり、さまざまな社会問題や生活問題をめぐる有権者との旺盛な論議を交わしながら、「有権者自身が政治のコントロール権をとり戻す」(山本氏)たたかいとして、れいわ流の選挙戦は日に日に盛り上がりを見せている。