国政の場は、総選挙が規定の方針となり、国民の関心とはまったく離れたところで、だれが次の政府の主導権を奪うかをめぐって色めき立った動きをしている。民主党・野田政府の側は選挙になれば総崩れは必至で引き延ばしの見苦しい延命作戦。自民党は選挙をやれば与党に返り咲くと思いこんで総裁選は乱立。谷垣、石破、町村に安倍、林の下関勢。そこにメディアで連日もてはやされているのが、橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」の新党立ち上げ。この連中はいったいだれのために、どっちに向いて国政をやろうとしているのか。そこにはいずれも、戦争をやる国にするのはだれが一番かを競って、だれがアメリカに認められるかという点である。
色めきたつ安倍、橋下、石原ら
民主党は先の総選挙で、自民党がすすめてきた対米一辺倒の新自由主義改革の破産に怒った有権者の力に乗って、与党になった。しかし鳩山、菅から野田に至る過程で、公約のすべてを破棄し、自民党政治の継承者としてあらわれた。メディアにたたかれ、官僚に締め付けられ、アメリカに脅しつけられて、真っ先に覆した公約は普天間基地移転の覆し、日米同盟を柱とする軍事強化である。政治は選挙で決まるのではなく国民とは別のところで決まっていくのだという現実を疑問の余地なく明らかにした。日本社会は民主主義ではなく、専制政治、独裁国家にほかならないことを明らかにした。
東北被災地の復興は外来資本の公共事業食いつぶしの道具となって遅遅として進まず、農林漁業の破壊と工場の海外移転と工場閉鎖・大量首切り、失業者の累積、働いてもまともに生活できない非正規雇用ばかり。そのうえに福祉切り捨て、重税、高負担で国民経済はつぶれるばかり。政府は国民生活のためにはまったく動かない。財界とアメリカのためにだけ尽くす姿を見せつけている。
民主党政府は、国民の経済的な疲弊のなかで、消費税増税は菅が突如として叫びはじめて野田政府が自公と手を組んで強行した。福島原発の収束もしていないのに原発の再稼働を強行し、国民の生命や安全を守る意志などない姿をあらわした。そのうえにTPP参加をすすめ、日本経済をアメリカ企業に丸ごと乗っとらせようとしている。
また尖閣、竹島領有権問題で、感情的な対立を煽り、自衛官を派遣したり、米軍との間で尖閣諸島を想定した島嶼防衛訓練を繰り返したり、事故ばかり起こしてアメリカでは飛行訓練をやめているオスプレイの岩国基地への配備を強行するなど、軍事衝突に向けて突っ走っている。人の住めない無人島の尖閣、竹島のために、国を挙げた戦争をやるというバカげたことを本気でやろうとしているのである。これはみなアメリカの指図である。そして民主党をはじめ、自民党、維新の会などは、みな戦争をやる国家にすることを競っている。
公約覆しで総崩れ必至 民 主 党
もともと民主党は「対等な日米関係」といい、日米地位協定改定、思いやり予算の削減、普天間移設問題など米軍再編計画の見直し、東アジア共同体構想でアジアとの関係を深める、などを公約にした。だが「最低でも県外」といった普天間基地移設は右往左往したあげく自民党と同じ辺野古への新基地建設計画に回帰した。厚木基地艦載機の岩国移転は愛宕山を米軍住宅用地として買いとることを決めた。自民党ですら毎年協定を結んでいた「思いやり予算」は2011年度から5年間、年間約1900億円で維持する特別協定に署名した。「朝鮮のミサイル」と大騒ぎして沖縄や九州で自衛隊が米軍と一緒になって離島を奪う大規模な軍事演習を繰り返してアジアとの関係ぶちこわしに奔走した。そして派遣法改正も郵政民営化全面見直しも覆した。
尖閣諸島問題では石原都知事がアメリカへ行き「東京都が購入する!」と騒ぐと、野田首相も「国が買う」と呼応。小平時代に「将来の世代に解決をゆだねる」としてきた扱いを、わざわざ対立・緊張関係にするために煽り立て、岩国へのオスプレイ配備は「なんといっても日米安保が軸だ。米国がアジア太平洋地域に回帰している動きは歓迎すべきだ」(野田首相)と喜んで受け入れている。
民主党は総選挙以後の3年間で公約をすべて覆し、自民党となんら変わるところがなくなり、とうとう自民党、公明党と合体して消費税増税法を成立させた。そして性懲りもなく野田首相は民主党代表選に意欲を示し、「課題を先送りしないで一歩一歩前進させるのがわれわれの役割だ」と表明している。
民主党も自民党も国民のためというのはまるでなく、アメリカと財界の利益を遂行する道具という姿を隠すこともしない。
戦争の反省の全面覆し 自 民 党
民主党が総瓦解をするというので天下をとったような気になっているのが自民党である。「次期総選挙で第一党に返り咲く」のが既定事実であるかのような調子になっている。民主党が国民に見放されているのは、自民党と同じになったからである。自民党と同じと見なされて落ちぶれているのを元祖の方が喜んでいる滑稽な姿を見せつけている。
総裁選に真っ先に手を挙げているのが、首相を放り投げした安倍元首相である。安倍総裁で総選挙をやったら自民党の票はさらに減るとは思っていない。橋下維新の会が党首に招いたというので、自公維の連立でいけるといっても、安倍党首を志向した維新の会こそ、その本音は「改革」派どころかとんだ時代遅れという姿が暴露されて票が減るのは必至。
そのほかに、谷垣、石破、町村に林などの名前が挙がっている。林芳正は「総裁になるには衆議院」というので、4区の安倍との勝負は恐れて逃げ出し、宇部興産を頼みにして3区への鞍替えをはかったが、河村現職に激怒されてとん挫し恥をさらしたばかり。国民がどう見ているかという感覚はない。
9月の自民党総裁選にむけて意欲を示す安倍は橋下について「たたかいにおける同志」と親密さをアピールしている。共有できる政策として「教育改革」「憲法改正」「慰安婦問題をはじめとする歴史認識分野」をあげ、「憲法改正は大きく戦後体制を変えていく道だ。強い国をつくる」と息巻いている。安倍は尖閣問題について「挑戦を跳ね返すのは純粋に軍事力。本気でこの島を守る意思を示していくべきだ。日本人が尖閣に常駐する必要がある」と主張している。
さらに自民党が政府を握った場合、歴史認識に関する過去の三つの談話について「すべて見直す必要がある」と発言している。教科書で周辺諸国への配慮を約束した宮沢談話、慰安所の設置・管理や慰安婦の移送に旧日本軍が関与したことを認め謝罪した河野談話、植民地支配と侵略戦争について謝罪した村山談話など歴代政府の評価を公然と覆し、憲法も変えて「戦争ができる国」にするというのである。
これはかつての戦争の反省をみな覆すというものであり、朝鮮、中国、アジアの国国の歴史的な恨みを公然と逆なでして衝突していこうというものである。
これは自民党全体の方向であり、自民党はすでに天皇を国家元首、自衛隊を国防軍とする憲法改正案をまとめており、5月末に出された「日本の再起のための政策」でもこの改憲を実現させることを提唱している。
そのほか今度の尖閣問題で「都が買い上げる」とアメリカで発言して火をつけた石原東京都知事は衆参国会議員5人で構成する「立ち上がれ日本」を軸に、集団的自衛権の行使を可能にする憲法改正に向け、新党を結成する動きを見せている。
「みんなの党」は「維新の会」との連携を打診して断られたが「政策は一致している」(渡辺代表)とのべている。名古屋市の姉妹都市である南京市の訪問団に「南京大虐殺はなかった」と発言した河村たかし(名古屋市長)率いる「減税日本」も橋下や石原の新党と連携する方向である。民主党がさんざん公約を覆して掃き清め、猛反発を食らって行き詰まっている戦争国家への道を、「われこそはもっとすすめる」と安倍、橋下、石原などの親米諸勢力が飛び出し、新党まで作ってアメリカに売り込もうというのである。
専制国家作りをめざす 橋下維新の会
メディアが盛んに持ち上げるのは「大阪維新の会」の国政新党立ち上げである。9月中旬に新党を旗揚げする方針で、その目玉候補として東国原前宮崎県知事などの名前が浮上。現在与野党約20人の国会議員が参加を模索しているといわれている。来月9日に、次期衆院選の公約「維新八策」の公開討論会をおこなう予定となっている。
「維新の会」が先月発表した「維新八策」(改定案)は「旧来の日本型国家運営モデルはもはや機能しない」「競争力が必要」として統治機構の作り替えを主張している。首相は公選制にし、道州制を導入し、公務員の身分保障廃止などを盛りこんだ。教育改革では教育委員会制度廃止論をふくむ抜本改革、大学もふくめた教育バウチャー(クーポン)制度導入、公立学校教員の非公務員化などが内容。経済面ではイノベーション(新機軸)促進のための徹底した規制改革、TPP参加、FTA拡大のほか、税制の減免措置原則廃止や国民総背番号制で所得・資産を完全把握することもあげている。
露骨なのが外交・防衛である。「日本の主権と領土を自力で守る防衛力と政策の整備」「日米同盟を基軸とし、自由と民主主義を守る国国との連携強化」「日本の生存に必要な資源を国際協調のもとに確保」などを「大きな枠組み」と位置づけ、アメリカと連携して中国を封じ込める意図を隠さない。
政策例では「日本全体で沖縄負担の軽減を図るさらなるロードマップの作成」「国連PKOなどの国際平和活動への参加を強化」「ODAの継続的低下に歯止めをかけ、積極的な対外支援策に転換」「外交安全保障の長期戦略を研究、立案、討議するための外交安全保障会議の創設」をあげている。これを実現するため「憲法九条を変えるか否かの国民投票実施」を掲げている。
橋下は先月、「集団的自衛権の議論をするとか、TPPへの参加を表明するとか、消費税率も上げて社会保障の議論もするなど確実に『決める政治』をしている野田首相はすごい」と絶賛した。橋下新党はそれをさらに推し進めるものとなる。アジア諸国との関係でも「強制連行(従軍慰安婦)を直接示すような資料はない」「河野談話は証拠に基づかない談話で最悪だ」とのべ好戦的な挑発姿勢をむき出しにしている。
維新の会は自民党や民主党などとは違った新しい改革派というイメージを振りまいてきたが、安倍元首相を党首に求め、自民、民主の脱落議員が中心となる方向である。それはより強力な専制国家づくり、戦争をやる国にするという方向にほかならない。
日本盾に戦争企む米国 新軍事戦略に基づき
以上のような連中を操り指図しているのはアメリカである。財界やメディア、官僚、御用学者などがアメリカの意向をうけて、戦争をやる国づくりの旗を振っている関係である。アメリカが現在、次なる与党に実行させようとしているのはアジアを重視する「新軍事戦略」にもとづき、日本国民が反対しようが、事故が起ころうがまったく聞く耳なく、対中国代理戦争のために日本を駆り立て、米本土防衛の盾にすることである。
アメリカの「新軍事戦略」はアフガン・イラク戦争で敗北し、米国家財政が窮地に陥るなか、アジア重視、中国重視の戦略に転換するというものである。それは米軍はハワイやグアム、オーストラリアなど後方に下げて、中国の核ミサイル攻撃が届く九州、沖縄をはじめ日本列島、台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線を最前線の盾にするというものである。アメリカは日本を戦争の矢面に立たせて、自分は仲裁者のような顔をして利を得るという構図も見えている。対中国戦争となれば、核ミサイル戦争の戦場となるが、前面には日本や韓国、フィリピンなどの近隣諸国の兵員を立たせ、米軍の損害は最少にしてアメリカの国益のために日本人を使うという作戦である。
アメリカのアジア重視の軍事戦略は、TPPなる経済戦略と結びついている。TPPはアジア・太平洋で日本を中心とするアメリカ支配の経済ブロック化をすすめるものであり、中国と対抗して圧力をかけ支配下に置こうというものである。
日本の主権は国民にはなくアメリカにある。各政党、政治家どもは今国民に認められるかどうかはどうでもよく、アメリカに認められるために必死なのだ。どの政党・政治家が政府を担当してもやることは変わらず、みなアメリカのいいなりである。総理大臣をはじめ大臣や議員はアメリカの代理人にすぎない。財務省、防衛省、検察をはじめ官僚組織、軍事・司法組織はアメリカや財界と直結して実際の政治を動かしている。大メディアもアメリカ直結で大本営報道に終始している。そういう権力構造がフル回転して政党を操り政治を動かす姿が浮き彫りになっている。
今国民世論は、国政の方向とは全く逆の方向に向かって歴史的な大転換をしている。東日本大震災は戦後社会のいい加減さを暴露し、共同体的な絆を大切にしてきた民族精神をとり戻させてきた。今の尖閣諸島の領有権問題も、政府やメディアがいくら騒いでも国民は踊らない。むしろ「かつての戦争もああやって憎しみを煽ってはじまった」「あんな島のために戦争をやるなら話は別だ」「戦争をやるならくれてやったらいい」とか「爆破して海にしてしまった方がいい」とも語られている。
売国政治家どもが自分の損得しか関心がなく、いくらアメリカの方ばかり向いて戦争をやる国にしようとしても、国民を動員できなければ戦争などできるわけがない。連中は自分が戦争をやるのではなく国民に戦争をやらせるほかはない。そして日本社会で本当の力を持っているのは空中を漂うような売国政治家どもではなく働く国民である。働く国民が自分たちの存在を役割を自覚し、バラバラ状態を解決しひとつに世論と運動を結びつければ、だれもそれをつぶすことはできない。