辺野古新基地問題を最大の焦点とする名護市長選が16日に告示され、23日の投開票に向けて選挙戦が過熱している。今回も一騎討ちとなった市長選は、あえて辺野古新基地建設の是非には触れず、米軍再編交付金を財源にした子育て無償化(保育、医療、給食)などの実績をアピールして逃げ切り、基地建設容認の既成事実化を図る現職の渡具知武豊(自民・公明推薦)に対し、辺野古新基地建設反対を明言し、新基地受け入れという国策に依存した市政運営ではなく、「名護市のことは名護市民で決める」「市民の命と暮らしを守り抜く市政を」と訴える新人(前名護市議)の岸本洋平(オール沖縄等が支援)が激しく追う展開となっている。新型コロナ感染再拡大という条件の下、選挙戦は前回とは打って変わって静かなものとなっているが、水面下で市民の問題意識は激しく揺れ動いている。本紙は、現地取材をもとにした記者座談会で市長選情勢を分析した。
A 市長選の告示後、両陣営の宣伝カーが市内を走り回ったり、各種宣伝ビラがポストに投函されてはいるものの、コロナ感染対策上、政党幹部などを招いた演説会や集会、ローラーによる口コミ作戦などを両陣営が控えていることもあり、市民からは「かつてなくおとなしい選挙」と語られている。
4年前の前回市長選は、当時現職の稲嶺市政に対して「このままでは衰退の一途」「市民の暮らしは苦しくなるばかり」という自民党や公明党の関連団体によるネガティブキャンペーンが展開され、創価学会が本土からも人員投入してチームを組んで個別訪問をやったり、レンタカーを何十台も借りて期日前投票に有権者をピストン輸送したり、徹底的な人海戦術で市長ポストをもぎとった。
当時は、大手広告代理店が作成したといわれる、きらびやかな名護沿岸開発イメージの政策ビラも配られ、「スターバックスが来る」「映画館・屋内アミューズメントパーク」「ロングビーチ」「無料Wi―Fiの設置」などの若者が喜びそうなイメージを振りまき、終盤では「紹介者カードを持って行けばマージンがもらえた」という学生がいたり、高校生や若者などが飲み食いに連れて行ってもらってそのまま期日前投票に行ったことなど、相当に現ナマが飛び交った選挙だったことが今でも市民の語り草になっている。創価学会トップや菅官房長官(当時)など政府与党の重鎮が水面下で業界回りをやる「ステルス作戦」を展開し、最後には小泉進次郎が応援演説にやってきて「ハワイをこえる好景気が名護にもやってくる!」などと大風呂敷を広げるなど、虚実入り混じる騒乱状態だっただけに、それに比べて今回は「不気味なほど静かだ」と語られる。
B ただ今回も水面下では、建設業界、医療業界、農漁業団体などの各業界では自民党本部からの締め付けが強まり、公明党も独自事務所を立ち上げて組織票固めに必死になっている。東京からも業者に直接電話がかかってくるなど、東京司令部が主導するステルス作戦は健在で、もっぱら裏通り選挙の様相だ。
渡具知陣営としては、今回も基地問題を争点にすることを避ける一方、基地受け入れを前提とした米軍再編交付金でおこなった子育て無償化政策などの実績を前面に押し出し、「市長が変わったら、現在の無償化はすべてなくなる!」「この流れを止めるな!」「市民の暮らしをもっと豊かにするには国との協調が必要」といった、「国とのパイプ」による経済問題を中心論点にしている。
前回までは旺盛だった誹謗中傷ビラ作戦や横断幕による陽動は控えめで、東京の大物政治家が前面に出ることもなく、「あえて選挙を盛り上げずに組織票で逃げ切る戦略をとっている」といわれる。市民からは「オール沖縄の足元がぐらついているから、今回は楽勝と高(たか)をくくっているのでは?」と語られ、それはまるで横綱相撲のようにもみえる。「それだけこの4年で投じたカネと締め上げに自信を持っているのではないか」という見方もある。
基地押付ける為のアメに未来を委ねていいか
C 子育て中の若い世代のなかには、この4年でおこなわれた保育料、小中学校の給食費、18歳までの医療費の無償化について「助かっている」という声があるのは確かだ。非正規雇用の共働き世帯が増えているなかで、毎月のやりくりのなかで育児にかかる月数万円の支出が減れば助かるのは当然だし、それそのものは市民にとって必要な施策だ。
だが、それが辺野古新基地を受け入れることを前提にした米軍再編交付金でおこなわれていることはあまり認識されていない現状がある。「無償化が助かるからといって基地が来てほしいと思っている人はいない…」と複雑な思いも聞かれる。
自民・公明党は「基地問題だけが争点ではない」といい、それに支えられる渡具知市長も「容認ではない」とフェイクしながら、基地建設容認の見返りとして振り込まれる再編交付金という“アメ”を子育て世帯に意識的に配分し、「無償化を継続したいのなら、国と協調する現職一択しかない」というのを常套句にしている。
「国との協調」とは、要するに「辺野古への基地建設を容認する」ということでしかなく、アメをしゃぶらせることでそれを既成事実化するものだ。「地獄の沙汰もカネ次第」という言葉があるが、目先の生活が少し楽になるということと引き換えに、未来永劫にわたって市民の生命や財産を脅かす米軍基地を受け入れさせ、有事のさいには真っ先にミサイルの標的になることをみずから選択させるという卑劣なやり方だ。
県土の優良な土地のほとんどを米軍基地として接収されている沖縄県の県民所得は常に全国47番目といわれるほど低く、それによって子育て世代が苦しんでいることをわかっているからこその無償化制策であって、それが本当に必要と思っているのなら、基地とは関係のない予算でやれ!というのが市民の本音だ。現に、毎年14億円程度出ている再編交付金について、国は「基地反対」を主張する稲嶺進市政の8年間には、交付凍結という露骨な経済制裁をおこなった。市民にとって必要な施策、しかも名護の未来を担う子どもたちのための施策を基地受け入れの見返り条件にしていること自体、まさに人質予算だ。
B この市長選にあわせるように国が完成を一年半前倒しした名護東道路にしても、沿岸開発にしてもすべて同じだ。市民にとって必要な施策は多々あるが、「福島の原発立地自治体と同じで、たとえ立派なハコモノが建ち、リゾート開発がされ、水道光熱費が値下がりしても、基地をつくらせてしまえば、ひとたび有事になればミサイルの標的になってすべてが吹き飛ぶ」「子どもや孫の世代が頭上から黒い塊がいつ落ちてくるのかという恐怖に脅かされながらの生活を強いられることになり、現に今基地から米兵が好き勝手に出歩いてコロナを振りまいても国は抗議一つできない。そんなものに運命を委ねていいのか」という問題意識は渦巻いている。
A 「どうあがいても国は基地建設を進めるのだから、もらえるものをもらった方が得ではないか」「国が決めたことだから自治体の長がなにをいっても変わらない」という意見もあるが、それならなぜ国がこれほどまで全力で自治体を買収し、市長ポストをもぎとる必要があるのか? という単純な話だ。そのようにして諦めを誘いながら、地元住民がみずから基地建設容認を選択したという形を作り、地元の名護市長、さらには県知事ポストを奪いとることで、米軍基地建設を容易に進められるという国策の都合があるからこそ、選挙のたびに東京司令部がこれほど全力で名護や沖縄に襲いかかるのだ。だが辺野古の埋め立てはまだ全体の5%程度で、軟弱地盤など解決が見通せない問題は山積みだ。
C 建設業をはじめ地元企業に対する圧力もこの4年で強まったといわれる。オール沖縄を支えてきた金秀グループが撤退したのは、オール沖縄上層部が抱える問題等々の要素もあると思われ、その真意はわからないが、この間、「基地に反対する金秀グループとはJVを組むな」というのが徹底されるなど相当な経済的圧力がかかったのは事実のようだ。以前は基地建設と距離を置いていた業者も建設業協会からの締め付けが強くなり、今回も「建設業者の若手がかなり現職応援のスタッフに動員されている」と語られる。
孫が建設業で働いているという年配男性は、「孫が“現職に入れてくれ”と家に訪ねてきたが、“沖縄戦や米軍統治下の時代を知っているおじぃやおばぁは、あんたの頼みでも米軍基地を受け入れるような候補者を選ぶことはできないよ。お前には生活もあるだろうからとやかくいわないが、本当に名護の未来のためには何が必要なのかよく考えないといけないよ”と伝えた」と語っていた。「若い人たちが生活のために基地建設容認のために駆り出されていることを思うと胸が痛い。やんばる(県北部)では就職先は限られ、大卒でも雇用の受け皿は建設業がほとんどだ。現職を応援しなければ、今後仕事がやりづらくなる。買収だけでなく、常に脅しがセットなんだ」といっていた。
市民は豊かになったか 恩恵は大手のみ
A だが一方で個別に中小企業に話を聞くと、辺野古基地建設の恩恵を受けているのは大手の特Aクラスだけで、B、Cクラスの中小企業はむしろ稲嶺市政のときの方が公共事業が公平に回っていたといわれる。名護市の決算書で建設事業費の推移を見ると、稲嶺市政のときには123億円をこえていたが、渡具知市長になってから年々減額され、2020年度は56億円にまで半減している【グラフ参照】。「国とのパイプで公共事業が増えるならまだしも、半分以下に減っている。かつて積極的に推進の旗を振っていた中堅クラスの土建業者はみな潰れてしまい、“保守政治”になったら仕事が増えるという幻想は地元業者の中にはない」と冷めた思いも語られる。
子育ての無償化だけに目が行きがちだが、コロナ禍における事業所の休廃業や解散率は、名護市は県内最悪の3・34%。健康保険料の滞納による国民健康保険証のとりあげは2020年度には79件で前市政時代の6・6倍に上昇。他市では据置きや値下がりした介護保険料は名護市では値上がりし、国の計算方式の変化も加わって「いきなり3倍になった」という悲鳴も聞かれる。
また、各種無償化政策にもかかわらず待機児童数は2020年度は142人となり、4年前に比べて6倍に増えている。
年間14億円の再編交付金によって歳入はわずかに増えているものの、市債残高も稲嶺市政時代に比べて12億円増(2019年)となっている。市の行政経験者に話を聞くと、「再編交付金は市の歳入400億円の1・5%に過ぎない。それでも以前はハコモノなどに使途が限定されていたが、防衛省が“使途を限定しない一般財源として使える”とする特例を認めたため、自由予算になっている。予算とは、必要なものがあるからこそ国に要求するもの。稲嶺市政時代には再編交付金がない分、各部局が努力して組み合わせて国の省庁から予算をとる努力をしていたが、“自由に使っていい”という交付金が下りはじめると、行政現場はその使い道だけを考えるようになる。その結果、他に必要な予算を獲得することをしなくなり、職員力も落ちていく。国による飼い殺し政策なのだ」と指摘していた。
C 岸本陣営は、稲嶺市政時代の財政ノウハウを検証すれば、「再編交付金がなくても、子育て無償化の継続は可能」と主張している。再編交付金と言っても15年の期限付きだ。鼻先ニンジンのようにぶらさげて、基地推進の構図を温存するための餌にすぎないし、それによって半永久的にもたらされる不利益と天秤にかけられるものでもない。
また始まった利権政治 消防跡地の売却問題
B この間、名護市議会では、名護市東江にある旧消防庁舎跡地の売却をめぐって、市が大和ハウス工業とアベストと売買契約し、「名護市を所在とする新設法人」が土地を所有すると議会では説明しながら、フタを開けてみると渡具知市長の親族(義兄)が経営にかかわる丸政工務店(金武町)の子会社に土地所有権を転売していたことが問題になっていた。昨年から議会に百条委員会が設置されているが、「非公開」とされているため議事録も見ることができず、沖縄2紙も「選挙前だから」という理由で事実関係すら報道していないという。
そのため本紙は公開されている事実関係を掲載した紙面を、告示前に名護市内に数千部配布した。具体的内容は、本紙ホームページに記事をアップしているので参照してもらいたいが、これを読んだ市民からは驚きとともに、「市民が知らないところでまた利権政治が始まっているのか」と過去を振り返りつつ、辟易した思いが語られている。
A 辺野古新基地建設計画が浮上してから25年になるが、国から注がれる巨額の防衛マネーをめぐる一部の権力者による利権争奪や誘導、政官財の癒着関係ができあがってきたといわれる。
名護市では1998年に「米軍のヘリポート基地建設の是非を問う市民投票」がおこなわれ、投票率82・45%で、賛成1万4267票、反対1万6639票で、2000票余りの僅差ながら反対が上回ったが、当時の比嘉鉄也市長は開票3日後、開票結果に反して受け入れを表明すると同時に市長を辞任した。その後も、今回の市長選候補である岸本洋平の父・岸本建男(7つの条件によって事実上基地建設進まず)、島袋吉和と、自民党が抱える推進派市長が、2010年に稲嶺進が市長になるまで続いた。
その間、市政運営を仕切ってきたのは、比嘉元市長とともに、大手砂利業者として辺野古新基地の工事を一手に請け負ってきた東開発グループ会長の仲泊弘次氏(県防衛協会北部支部長、県建設業協会副会長などを歴任)、名護市商工会会長で県商工会会長でもあったやんばる物産元社長の荻堂盛秀氏などの地域財界のボスたちであり、島袋元市長にせよ、その後に市長選に出た末松文信元副市長(現自民党県議)にせよ、相互に依存する関係で、そのような防衛マネーで繋がる利権グループが市政運営を私物化してきたと語られている。今回の市有地の私物化問題に絡めて市民が口々に語るのは、「稲嶺市政でそれらの勢力の勢いが抑えられてきたが、渡具知市政でまたぞろ頭をもたげてきたのではないか」ということだ。
B 数千億円という巨額の国費が動く国策においては、必ず利権集団ができあがる。原発立地自治体でもよく見聞きすることだが、巨大な辺野古新基地問題を抱える名護も例外ではない。そのような利権を牛耳る政財界ボスを窓口にして、国は名護市をコントロールしつつ新基地建設を進めてきたといわれる。
名護市を古くから見てきた市民は、「名護市では、比嘉元市長、東開発の仲泊、商工会顧問の荻堂、島袋市政で“影の市長”といわれた末松副市長(現県議)の4人が名護市を裏で仕切るメンバーだった。とくに辺野古受け入れを表明した比嘉鉄也市長は、市道を自分の土地を通すためにわざわざ都市計画を変更して1億円以上のカネを握り、地域住民から相当に恨まれ、自宅前に警備員を配置していた時期があるほど市政の私物化は目に余るものがあった。市長をやめても隠然とした権力を振るってきた」と語る。
辺野古新基地問題が浮上した1999~2006年にかけて、国から投じられた基地所在地特別交付金(島懇事業)や北部特別新興対策事業としておこなわれたハコモノ事業の多くを見ても、名桜大の人材育成センター(北神建設)、食肉処理センター(東開発)、ネオパーク国際種保存センター(北部道路、東開発グループ)、名桜大の北部生涯学習センター(屋部土建)、スポーク整備事業(名護建設、東開発グループ)、産業振興センター(屋部土建)と、1件当り14億~33億円という巨額事業のほとんどを東開発が受注。そしてその大部分の設計を、当時市の指名委員会委員長であった末松副市長がオーナーを務める事務所が受注していた。
今では公立大学となっている名桜大学(名護市)も当時は県内初の「公設民営」大学でありながら、基地建設の見返りとしての振興資金事業の受け皿となり、補助金を申請するのは名護市で、大学理事長は比嘉市長、大学協力会会長・理事は仲泊氏という利益相反が指摘されたこともある。「末松氏や島袋氏を市役所に引き入れたのも比嘉市長時代。島袋元市長はもともと革新系だったが、畜産事業で大赤字を抱えており、市長になって東京の防衛省に通うようになってから強硬な推進派に変わった。裏金を掴まされたのではないかともっぱらの噂だ。その後も自分の後援会長である東開発に公共事業を独占させていたので“市長が2人いる”といわれていた」といわれる。
また「商工会会長の荻堂氏が経営していたやんばる物産が運営していた道の駅許田でも不正会計が発覚したが、市の予算が使われている第三セクターでありながらうやむやにされ、多額の借金を返済するために周辺の関係者が自殺する事件もあった。12年前、“公正・公平な市政をとり戻す”として反旗を翻した稲嶺進氏が圧勝したのは、そのような基地建設推進グループによる公共財産や市政の私物化に対する市民の怒りが爆発したからだ」とも語られている。
C 辺野古でも、国から投入される多額の防衛マネーによって地域が分断され、いまでも争いが絶えないと語られていた。辺野古新基地建設に伴って国がおこなう工事を、地元の業者が優先的に受注できるようにするためのコンサルティング社団法人として地元有力者による「CSS(キャンプ・シュワブ・サポート)」という組織が作られており、ここでも仲泊、荻堂というボスが君臨している。実質は国との仲介役となって土木業者などからうわまえをピンハネする機関であり、その利益の取り分をめぐって内紛があいついでいるといわれる。
名護漁協組合長も海人ではない元消防署長が長年やっており、1人当り数千万円という漁業補償金を最大化することを主な仕事にしていたが、国と直接交渉をおこなうなかで権限が強まり、「その側近である組合員が土木企業を立ち上げて、国から下りる基地関連事業を受注できるように誘導してきた」といわれる。これらの基地関連事業の受注をめぐって漁協内部で揉め、数年前に組合長や役員が解任される騒動にも発展したという。
また公有地の軍用地料は規定により、名護市に6割、辺野古を含む久辺3区に4割の配分で国から交付される。しかも国は、再編関連の補助金数千万円を自治体を通さずに自治会組織に直接国費を投入するという禁じ手を使っている。そのため人口1900人ほどの辺野古区には年間3億円ものお金が入り、行政はそれにはタッチできない。「そこから婦人会で台湾旅行に行ったり、住民に生活支援金として年間数万円を配当することで住民を黙らせているが、その他のカネがどのように使われているか公的に検証もされない」という。地域住民からも「どこにカネが入ったとか、入らないとかの話ばかりで、住民同士の恨み辛みが酷くなった。それによって自殺者が出た家庭もある。住民から選ばれている行政委員も別のところからコントロールされ、住民のために機能しているとは思えない」「基地問題には正直かかわりたくない」という陰鬱な思いが語られていた。
沖縄に注がれる振興策や補助金をめぐっては、知事が「新基地反対」を唱えると、県を通さずに市町村へ直接交付し、市長も「新基地反対」を唱えると、市を通さずに自治会に交付するという形で、地域をまるごと国の直轄地にしてしまうという手法がとられてきた。それが生み出したことは、公正な行政運営の破壊であり、一部による私物化であり、地域や家庭の崩壊だったとさめざめと語られている。
A 辺野古新基地の埋め立て事業を見ても、1工区は県内最大手の國場組(國場幸之助代議士の出身)、2工区は大米建設(下地幹郎元代議士の出身)、3工区は渡具知市長への献金企業である屋部土建(名護市)、そして4工区は渡具知市長の縁故企業である丸政工務店となっている。国政から市政に至るまで政官財が癒着した利権構造ができあがっており、今回の消防跡地の身内への売却疑惑もその氷山の一角という見方が強い。
公正・公平に市民のために汗を流す市政ではなく、国策に依存し、防衛マネーというカネのために動く市政運営が始まることへ市民の怒りが強いのは、こうした名護市が歴史的にかかえる問題を見てきたからだ。
今度は米軍の捨て石か 復帰50年を迎え
B 名護市長選では常に、基地問題を隠して経済問題へのすり替えるのが特徴だが、沖縄戦や復帰前の沖縄を見てきた市民からは、最大争点は辺野古新基地建設問題だと語られる。沖縄は今年復帰50年を迎えるが、米軍の無差別爆撃と地上戦によって20万県民が犠牲になった沖縄戦を経て、人々は金網に囲まれた収容所に押し込められている間に、ブルドーザーと銃剣によって基地がつくられ、戦後の長い期間にわたって主権や命までが蹂躙されてきた。
沖縄戦で本土の捨て石にしたうえに、今度は米軍の捨て石にするというのが辺野古新基地建設であり、それは名護だけでなく、沖縄全土ひいては日本全体を米軍のための不沈空母にするという意図に基づくものだ。
自民党政府が予算を人質にしながら、新基地建設の容認を既成事実化することを図る名護市長選は、名護市の主権を国が奪いとり、名護市民に再び捨て石になるか否かを選択させるというもので、その手法は詐欺的でもある。このフェイクに満ちた市長選の結果だけで市民の基地反対世論が覆ったと見るのも無理のある話ではあるが、その結果は本丸である秋の知事選にも影響を与えるものでもあり、名護市民の世論がどのように選挙結果に反映されるのかを全県、全国が注目している。