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名護 消防跡地がなぜか市長親族企業に 大和ハウス工業からの転売 市議会が百条委員会で検証中

 辺野古新基地建設問題を抱える沖縄県名護市では、23日に市長選を控えており、自民党のバックアップを受ける現職の渡具知武豊氏(60)と、「オール沖縄」が推薦し、辺野古新基地建設反対を唱える名護市議の岸本洋平氏(49)との一騎討ちとなる公算が高まっている。1期4年間に対する市民の評価が問われる渡具知市政だが、現在、同市がおこなった市有地売却をめぐって名護市議会が紛糾し、百条委員会が設置される事態に至っている。主な内容は、市の一等地にある旧消防庁舎跡地の売却をめぐり、議会が知らないところで、渡具知市長の親族企業子会社に土地所有権が移転されていたというものだ。だが、百条委員会が設置されるほど重大な市政問題でありながら、議事や資料が非公開とされ、その内容が市民に知らされていない状況にあるため、本紙は議会議事や名護市が公開している資料、関係者からの取材をもとに事実関係を整理した。

 

市長選立候補者たちのチラシ

 名護市の旧消防本庁舎跡地(名護市東江)は、消防本庁舎が2017年7月1日に同市大北に移転したことにより、現在は約5000平方㍍の更地となっている。名護湾に面し、基幹道路である国道58号沿いにある同地は、周辺に商業施設やホテルなどの集客施設が集積し、市役所や中心市街地にも近い一等地であり、跡地利用については市民からの関心も高かった。稲嶺前市政時代の2017年には、サウンディング(市場調査)をおこない、「定住促進に繋げるため雇用の場の創出及び産業振興、地域振興に資する施設を主たる利用用途とする提案を募集」するという素案をまとめていた。

 

更地となっている名護市旧消防庁舎跡地

 2018年2月の市長選で当選した渡具知武豊市長は同年11月、この旧消防跡地の用途を「宿泊施設及び商業施設」として、売却に係る公募型プロポーザル(事業提案方式)を実施。これに3社が応募し、総合評価方式による採点の結果、住宅建設業大手の大和ハウス工業沖縄支店(本社・大阪市)とホテル運営企業のアベストコーポレーション(本社・神戸市)の共同企業体(以下、大和ハウスJV)が優先交渉権者に選ばれた。

 

 大和ハウスJVの提案は、コンビニやフィットネスジムなどのテナントを含むホテル(地上5階建、8階建)を2棟建設するというもので、落選した沖縄県内でホテル事業を展開するA社(本社・那覇市)は、レストランや温泉施設を備えたホテル(地上10階建)を提案していた。

 

 土地の買取価格は、大和ハウスJV側の4億2000万円に対して、A社は5億5000万円余りを提示しており、両者には約1億3000万円以上もの差があった。通常、市有地の処分はより高い値段で売ることが求められるが、異例にも1億3000万円以上も安い価格を提示した企業体への売却となった。

 

 各社の事業計画を評価したプロポーザル選定委員は8人で、市幹部(部長級)が6人、商工会、観光協会の関係者それぞれ1人で構成されている。事業計画の評価基準は、「コンセプト及びまちづくりとの関係性」等の提案趣旨、施設計画、事業執行体制、資金計画等の事業計画などに80点が配点され、買受価格が20点の合計100点満点で評価された。つまり、大和ハウスJVの提案内容が、1億3000万円の価格差以上に高く評価されたことになる。

 

 2020年6月、市は大和ハウスJVとの間で、基本協定書と土地売買仮契約を締結し、同年7月の臨時議会で議決されたことによって本契約となった。

 

 このときの議会説明で市が提示した「事業スキーム説明書」では、大和ハウスJVが契約先となり、「名護市を所在とする新法人を設立」し、その新法人が土地・建物を所有し、事業運営をおこなうとされていた【図②参照】。議員の多くが、文字通り大和ハウスJVが名護市に新たに法人を立ち上げるものと理解し、市もそれによって雇用が生まれるなど地域貢献のメリットを説いたため、賛成多数となっていた。

 

 ところが同年9月、大和ハウスJVは、この事業のために金武町から名護市仲尾に移転してきた「有限会社サーバント」に、土地売買契約書の内容を引き継ぐことを条件に土地の所有権を移譲することを提案。これを市は議会に諮ることなく承認していた。

 

 サーバントは、渡具知市長の実姉(とぐち武豊後援会の会計責任者)の夫、つまり渡具知市長の義兄が常務執行役員を務める総合建設業者「丸政工務店」(本社・金武町)の子会社であり、代表者も役員体制も同じ。丸政工務店は前回市長選がおこなわれた2018年に自民党名護支部に献金もするなど、市長の支援企業である。また、土砂運搬船を3隻所有し、辺野古新基地の埋め立て事業にも参画しており、ここ数年で急成長した企業といわれている。

 

 また、その後に情報公開された、プロポーザルのさいに大和ハウスJVが提示した事業スキーム説明書には、同じ丸政工務店の子会社「ホクセイ」(本社・金武町)が土地・建物を所有することが記載されていた【図②参照】。つまり、当初から市長の親族が経営に関与する丸政工務店の子会社に土地を所有させる計画であったが、議会ではそのことが伏せられていたことになる。

 

 内容が異なる二つの事業スキーム説明書の日付は同じ「2019年3月22日」(公募締め切り日)であり、「名護市議会は野党議員の方が数が多く、市長の身内企業への売却となると承認されない可能性があるため、あえて企業名を伏せる形で書き換えたのではないか」と指摘する声も聞かれる。

 

 なぜプレゼン段階の資料では具体的に明記されていた土地売却先企業が、議会説明では「新設法人」とカモフラージュされたのか――。担当する名護市企画部情報政策課に聞くと、「公募型プロポーザルのプレゼン時の資料にはホクセイの名前があったものの、そのさい大和ハウス工業からは“この部分は今後変わる可能性がある”と説明を受けていた。仮契約後に、大和ハウス工業から“名護市に所在する新設法人”とする新たな事業スキームが提出され、その内容が議会で承認された」と経緯を説明した。

 

 また市の議会答弁では、議会での承認後、「(融資をする)金融機関からの助言により、有限会社サーバントが候補に挙がり」、市としては「地域貢献として名護市に所在する法人を設置する目的は達成されたと判断」し、大和ハウス工業、アベスト、サーバント、名護市の四者協議のうえ、土地の所有権移転をおこなったという。サーバントは2006年設立の金武町所在の企業であり、「それが新設といえるのか?」という質問には、「名護市への移転によって新設と見なされる」との見解を示している。

 

 名護市では、予定価格2000万円以上、面積5000平方㍍以上の不動産売買については、地方自治法の規定に基づいて議会の議決を必要とする条例があり、旧消防跡地はこれに該当する。議会で説明された土地売買の契約主体は大和ハウス工業とアベストの2社であったにもかかわらず、その土地の所有権を議会承認なく、第三者に移転すること自体、条例違反にあたるとの指摘もある。

 

 これについても市は、「共同企業体を相手方として有効な土地売買契約を締結しており、本件契約の権利の継承の承認は、この有効に成立した契約に基づいておこなったもの。土地等の所有主体が現地法人となる旨は当初より予定されており、議員にも説明がなされていることに鑑みると、権利の継承の承認は売却の相手方を変更するものではなく、また、別の新たな売買契約を本市が締結したものでもないため、再度の議決は必要なかったものと考えている」(昨年12月議会、企画部長答弁)とのべている。

 

 つまり「新設法人」として議会承認を得た以上、サーバントへの土地所有権移転に法的問題はないという見解だ。

 

 だが本来、議会承認の対象になるのは、「土地の売却先」と「売却価格」であり、議会で承認を受けた大和ハウスJVではなく、まったく別の法人が土地所有の主体になること自体、議会や市民をないがしろにしたものといえる。また「名護市を所在とする新設法人」というのも、実態は「名護市の隣接町(金武町)を所在とし、名護市に本店を移転した既設法人」へとすり替わっており、当時すでに社名が特定できたにもかかわらず、それを「新設法人」とすることにも無理があるといわざるを得ない。

 

議会では企業名伏せる

 

 そもそも買取価格が他社より1億3000万円も安いうえに、応募時点で土地の所有者や運営主体も定まらないような事業計画を最優良として選定し、重要な公共財産の売却契約を結ぶこと自体、市民が納得する話ではない。しかも、それが市長の親族が経営に関わる企業の子会社であり、そのことがわからないように議会説明では企業名が伏せられていたことも事実なのである。

 

 市は「地域貢献」を選定理由の一つに挙げているが、落選したA社も、「二次審査通過後には現地法人を設立し、40~50名程度を雇用する」ことを提案しており、これが主な選考理由とも考えにくい。

 

 さらに、大和ハウスJVにかわって消防跡地の買取主体となったサーバントは、2020年9月に名護市仲尾に本店を移転したというものの、実際に本店所在地を訪ねると個人宅の一室を間借りして看板を掛けているだけで、常駐職員はいなかった【写真参照】。議会で「法律をクリアするためだけに設置したペーパーカンパニーではないか」と指摘される由縁だ。

 

名護市仲尾にあるサーバント本店

 市は同社について「名護で実績のある企業」と説明したが、その実績とは「消防庁舎等跡地の建物の建築に関する事務に関して大和ハウス工業の支援等」のみであり、他の業務は存在しないとのべている。もともと300万円だった資本金は、旧消防跡地の土地売買契約が結ばれる19年の6月5日に4500万円に増額しており、議会では、同地を根抵当にしたことによって金融機関からの融資枠が増えた可能性も指摘された。

 

 憶測を取り払って明らかな事実だけを見ても、名護市にとって重要な財産である旧消防跡地は、大和ハウスなどの大手企業を入り口に、市長の親族が経営に関わる企業子会社に所有権が渡り、この一等地で展開されるホテル事業によって土地・建物のオーナーとなる同社には相当な利益が舞い込むという構図となっている。

 

 この経緯をめぐる法的問題点の有無については、議会で継続されている百条委員会の結果が注目されるが、そのことと市民が納得するか否かは別問題である。同時に、土地所有者の社名を明かさないスキームを作成し、土地転売のために一役買った形となった大和ハウスJVにも、市民の疑念を晴らすための十分な説明が求められている。

 

 辺野古新基地建設問題が浮上してから25年、辺野古を抱える名護市を含む県北部地域には、常に国からの基地建設の受け入れ圧力とセットで、札束で頬を叩くように数々の振興策が浮上し、そのたびにその防衛マネーや利権をめぐる汚職や不透明な行政運営があいついできたと市民からは語られている。

 

 多額の国費が投入されながら、それらはいつも一握りの利権業者や本土からやってくる大手企業がつかみ取りし、「立派な箱物ばかり建つが市民生活は貧しい状態は変わらない」「いくら開発されても地元の中小零細業者には恩恵はない」というのが多くの市民の偽らざる実感であり、基地問題を根底にした黒々とした利権構図に対する嫌悪感は強いものがある。

 

 名護市における市有地売却問題を検証するために昨年5月に設置された百条委員会は、与党議員の意見によって「非公開」の措置がとられているため、そこでの議事や資料は明らかになっておらず、現状では報道もほとんどおこなわれていない。そのため、市民はこの疑惑の具体的内容を知ることができない状態となっている。だが、市政運営のあり方は、名護市民が首長の選択をするうえで重要な判断材料であり、背任疑惑が存在する以上、議会における検証とともに、しっかりと事実を公表し、市当局は市民に対して誠実に説明責任を果たすことが求められている。

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