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日中“開戦”阻止に全力を~対話と融和の年に 沖縄国際大学教授・前泊博盛

 沖縄では米軍機事故が多発し、水道水の毒物汚染など米軍基地被害が続出し、翻弄された。一方で、周辺海域では日米独豪加英仏が「自由で開かれたインド太平洋」の実現を名目に見せかけの軍事同盟を強化している。米中関係も悪化する中で、日本が不意のトラブルに巻き込まれ、2022年が「開戦」の年にならないよう国民の強力な監視と軍事暴走への歯止めを徹底したい。

 

 

■軍事大国化と軍事衝突の危機回避を

 

 事程左様に昨年沖縄周辺海域で行われた日米独豪加英仏の軍事演習は、第三次世界大戦の準備かと思われる実践的な訓練が連続した。特に夏以降、自衛隊は欧州各国との防衛協力を強め、海自は8~10月には英海軍の空母「クイーン・エリザベス」を交えた共同訓練に複数回参加。陸上自衛隊とフランス陸軍も5月に日本国内で離島防衛の演習を行っている。秋に入ると訓練は多発し、海自が太平洋入りした独海軍フリゲート艦バイエルンと11月4、5両日、合同訓練を実施。同月21日から10日間、日米共同演習と日米豪加独共同訓練を実施したが、自衛隊によると同訓練には海自が艦艇約20隻、航空機約40機を投入、米海軍が艦艇約10隻、豪海軍2隻、加海軍1隻、独海軍1隻という壮大な「日米欧連合艦隊」の結成を伺わせる陣容で、対潜戦、PHOTO EX等の訓練を実施している。

 

 20年ぶりの独軍艦の日本寄港の目的は「日本周辺で活発な軍事活動を展開する中国の抑止を念頭に足並みをそろえる」(防衛省)と、対中対策を明確にしている。陸自は仏陸軍と5月に日本国内で離島防衛の演習を実施。海自は昨年8月から10月に太平洋入りした英海軍の空母「クイーン・エリザベス」を交えた共同訓練に複数回参加するなど、加速する軍事強化に強い危機感を覚えた。

 

 欧米軍と自衛隊の本格的な大規模訓練は、対中「抑止力」のためというが、日中開戦に備えた実戦訓練のようにみえる。当然、中国は反発し、のべ数十回も中国軍機が台湾の防空識別圏を通過するなど牽制行為を展開するなど、軍事的対立状況は危機的状況が顕在化している。主権者たる国民は、軍事大国化と軍事行動と軍の暴走にいかに歯止めをかけられるか。場合によって正念場の年にもなりかねない危険性が高まっていることを肝に銘じておきたい。

 

■琉球弧で強化される自衛隊

 

 陸上自衛隊はここ数年で沖縄本島に加えて宮古群島、八重山群島への新たな自衛隊部隊の配備を強力に進めてきた。離島奪還作戦など「島嶼防衛」を名目に、6 年前に与那国島に監視部隊として配備したのを皮切りに、宮古島、石垣島、奄美群島、さらには種子島横の馬毛島の買収による航空基地建設にも着手し、防衛省がいう「第一次列島線」への部隊配備を加速度的に進めてきた。2023年度には沖縄本島の陸自勝連分屯地への初の地対艦ミサイル部隊の配備も公表されている。

 

 当初は監視を担うとされた与那国島の陸自部隊は、電子攻撃と防衛を担う電子作戦部隊への転換が伝えられた。宮古島の陸自、空自も「レーダー基地」「監視補給基地」が、基地建設後はミサイル部隊へと変貌。奄美大島、石垣島の自衛隊も地対艦ミサイル基地への転換が水面下で進んでいる。昨年は、種子島横の馬毛島の買収を終え、滑走路整備が進んでいる。軍事訓練施設から航空攻撃基地への転換も指摘されるなど、専守防衛から敵基地攻撃能力を高めた先制攻撃部隊への転換が懸念されている。

 

石垣島に建設中の陸上自衛隊ミサイル部隊基地(昨年12月)

■深刻度を増す基地被害

 

 米軍基地が集中する沖縄では、昨年も米軍機不時着事故や部品、装備品、水筒など上空からの落下物など基地被害が多発した。加えて、永遠に消えない化学汚染物質とされる「有機フッ素化合物(PFOS、PFOA等)」による規制基準を大幅に超える地下水源や水道水源の汚染などが立て続けに発覚し、米軍への不信感と反発を増幅させた。

 

 汚染源が米軍基地内とされながら、日米地位協定が壁となり立ち入り調査ができず、汚染源の特定と汚染防止に至らないケース(嘉手納基地)のほか、「環境補足協定」による水源汚染に対する基地内立ち入り調査(キャンプ・ハンセン=金武町)を行っても、調査結果の公表を渋る米軍の意向に忖度する政府と沖縄県が調査結果の公表を半年以上も放置するなど「実効性のない環境補足協定」の実態も浮き彫りになった。日米合同委員会の議事録に「双方の合意がない限り公表されない」とあり、その合意に縛られ、実効性を失っている。

 

 有機フッ素化合物の問題は、在沖米軍基地に限らず、米軍横田基地(東京)、厚木基地(神奈川)、岩国基地(山口)などでも顕在化している。ほか、沖縄では自衛隊那覇基地からのPFOS流出問題も起きている。PFOSを含む泡消火剤が、米軍や自衛隊基地で恒常的・日常的に消火訓練などに使用されてきたため、基地周辺の土壌汚染や地下水汚染を招いてきた。東京都水道局が有機フッ素化合物についての水質調査を始めた2005年度以降、2019年度に一部の浄水所で取水を止めるまで、高濃度の地下水が飲み水として家庭に送られていたという報告もある。防衛省は基地周辺のPFOS汚染の調査を約束したが、命に係わる問題が遅々として進んでいない。仮想敵対応に終始する軍事基地が国民の命を奪う危険性をどう排除するか。国防、防衛問題の重要な論点として抑えておきたい。

 

 また水源汚染の問題は沖縄に限らず、今後は全国的な問題であり、米軍・自衛隊基地による環境・水源汚染は「沖縄問題」から「全国問題」としての位置づけと対応が求められている。

 

 2022年は、沖縄にとって戦後の米軍統治から日本統治に変わった「本土復帰=沖縄返還」から50年の節目を迎える。復帰・返還に込めた沖縄住民の「核抜き本土並み」「基地のない平和な島」への願いは、残念ながら達成することなく半世紀を迎える。それどころか日米両軍による新たな基地建設による新たな基地負担増で地域が分断され、対立と論争の中で県民の中に「チルダイ(脱力感)」も広がりつつある。

 

 今年は普天間・辺野古問題を抱える名護市での新年早々の市長選をはじめ、7月の参院選、9月の知事選、11月の那覇市長選と沖縄は大型選挙の年を迎える。復帰に託した願いが実現できるよう「復帰からの半世紀を反省期」と位置づけ、先人たちが復帰に託した願いを実現につなげる年としたい。

 

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 まえどまり・ひろもり 1960年宮古島生まれ。沖縄国際大学大学院教授(沖縄経済論、軍事経済論、日米安保論、地位協定論)。元琉球新報論説委員長。『沖縄と米軍基地』(角川新書)、『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)、『沖縄が問う日本の安全保障』(岩波書店)など著書・共著書多数。

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