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なぜ執拗に迫るマイナカード 最大2万円ポイント付与のケチ臭い政策誘導

 マイナンバーカード(マイナカード)普及の司令塔となるデジタル庁を9月に開設した自民党政府が「コロナ禍で落ち込んだ消費喚起策」と称し、公明党が選挙で公約した「1人3万円」をケチった末、マイナカード保有者に2万円分のマイナポイントを付与することで与党合意した。昨夏から5000円分のマイナポイントを「鼻先ニンジン」にしてマイナカード普及を図ったがうまくいかないため、今度は少しリッチな「鼻先ニンジン」を使い、マイナカード普及を一気におし進めようという魂胆にほかならない。だが多くの国民がさほど必要と感じていないマイナカードになぜ自民党政府が執着し、カネをばらまいてまで普及を図るのか? である。「一体マイナカードとは何か?」「マイナカード普及でどのような社会を目指しているのか?」を改めて見てみた。

 

 岸田政府が「公明党からの提案を受けた」という形で、マイナカードの新規取得者や保有者を対象にした「1人3万円分のポイント付与」を検討し始めた。「コロナ禍で冷え込んだ消費の喚起」が大義名分だが、実際は大金を注ぎ込んで「マイナカード普及」を図ることが目的だ。1億人分のポイント総額に匹敵する3兆円規模の予算を想定し、今月中旬にまとめる大型経済対策に盛り込もうとしている。その後、公明党との調整後、2万円分に減額したポイント付与で決着した。

 

 ちなみに2020年7月に受付を始め、今年4月末で受付を締め切った「マイナポイント5000円分付与」(利用期限は2021年12月末)は、マイナカード取得だけでは「特典」を得られない仕組みだった。それはマイナカード取得後にマイキーID取得(ウェブ上で本人を認証するキー)や、自分のスマホやパソコンでキャッシュレス決済サービスアプリとの紐付けが不可欠だったからだ。しかもそのキャッシュレス決済サービスで2万円分チャージして買い物をしなければ25%(5000円分)のマイナポイントは還元されない。

 

 それは「マイナカードを申し込めば5000円もらえる」と思って申し込むと「マイナカード取得」後に「マイキーID作成」「キャッシュレス決済アプリの利用登録」「キャッシュレス決済アプリとマイナカードとの紐付け」の緒手続きがワンセットで押し付けられ、しまいには「キャシュレス決済サービス」を利用した2万円以上の買い物まで強要される内容だった。

 

 そのためマイナカードを取得したが、キャッシュレス決済アプリの利用登録はせず、5000円分のマイナポイント付与を受けなかった人もいる。マイナカードを持っていても「悪用されると怖いから本当は作りたくなかった」「マイナカードはつくったが、できるだけ使わないようにしている」「政府がポイントを付与してまでカード所持を急ぐのは、それ相応のデメリットがあるからに違いない」と今になって取得を後悔する人もいる。

 

マイナカード  いまだ交付率は4割

 

 自民党は2015年10月、第三次安倍内閣のとき全国民に12桁のマイナンバー(個人番号)を通知した。これがマイナンバー制度の始まりだ。そして2016年1月にICチップと顔写真付カードの交付を開始した。これが全国民に割り当てたマイナンバーと個人情報をつなぐカード【マイナカードの見本参照】で、表面には氏名、住所、生年月日、性別、顔写真を表示している。裏面はマイナンバーとマイナンバーを記録したQRコードが記載してあり、個人情報を記録するICチップを埋め込んでいる。

 

 総務省はこのマイナカードについて「顔写真入りのため対面での悪用は困難」「ICチップ部分には税や年金などの個人情報は記録されない」「マイナンバーを見られても個人情報は盗まれない」「不正に情報を読み出そうとするとICチップが壊れる仕組み」と説明してきた。しかし「個人情報の漏洩が心配」「取得する必要性が感じられない」などの理由で取得の動きは鈍い。現時点でのマイナカード発行枚数は4955万人(11月1日現在)で、全人口に対する交付率は39・1%にとどまっている【グラフ参照】。

 

 こうしたなか自民党政府は9月にデジタル庁を発足させ、10月にはデジタル庁主導でマイナカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」の運用を開始した。しかし医療現場ではこれまでコロナ対応に追われ、マイナ保険証の新システム導入に力を割く余裕などなかった。

 

 そのため運用開始時点で顔認証付きカードリーダーの導入など院内システム改修が完了していた医療施設は、全国22万9201施設(病院、医科・歯科の診療所、薬局)のうち1万7032施設(7・4%)で全体の1割にも達していない。マイナ保険証の登録数は568万7328枚(10月31日現在)で全人口の5%にも届いていないのが実態だ。

 

 だが岸田政府は今後、2022年度中にマイナカード機能をスマホに搭載させ、2022年度末までには全国民にマイナカードを取得させる方針を示している。さらに「2024年度末にマイナカードと運転免許証を一体化」させ、「2025年度末までに各自治体のシステムを統一・標準化」し、その後は「生体認証との紐付け」「教育データ(学校健診データやGIGAスクールにおける認証手段)との紐付け」「銀行口座(公金受取口座)との紐付け」を検討していく段取りになっている。

 

失敗した国民総背番号制を意図

 

 多くの国民が嫌がるマイナカードの取得を自民党政府が執拗に迫るのは、何度も失敗してきた「国民総背番号制」を今度こそ定着させようとしているからである。

 

 マイナカードが本当に便利なカードなら、しつこい普及策やカネで釣る姑息な手法をとらなくても自然に利用が広がるはずだ。また「行政手続きの簡素化」が目的なら、2002年に稼働させた住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)への加入を促進すればいいだけだ。しかし自民党政府はマイナカードの普及にこだわってきた。それは現在のマイナンバー制度とマイナカードがこれまでの管理システムとは抜本的に異なる内容を含んでいたからだった。

 

 さかのぼれば「国民総背番号制」の論議は1960年代後半に始まっている。そして1978年に大蔵省(現財務省)が納税者番号制導入方針を明らかにし、「日本版グリーンカード(少額貯蓄等利用者カード)」構想を具体化する所得税法一部改正案を国会に提出した。それは税務署がグリーンカード交付番号と口座を紐付けし、個人の財産を把握する仕組みだった。それでも政府内部で反発が吹き出し実施目前で頓挫した。1988年には竹下登首相が「納税者番号制」導入を目指したが、これも頓挫している。

 

 こうしたなかで登場したのが住基ネットだった。住基ネットは国民一人一人に11桁の番号を割り当て、氏名、生年月日、性別、住所の「基本4情報」を記載した各市町村の住民基本台帳で管理するシステムだ。改定住民基本台帳法を1999年に成立させ、2002年8月に住基ネットをスタートさせ、2003年からは顔写真入りICチップ内蔵の住基カード交付を開始した。だが住基カードは交付から10年以上へても普及率が5・5%どまりだった。しかも住基ネットの住民票コードは市区町村が付番する自治事務であるため、住基ネットから離脱する自治体もあらわれた。その結果、2015年、全国的に新規カード発行はうち切りになっている。

 

 こうした失敗をくり返さないため、すべて国が個人番号を付番し、地方自治体の判断でシステムから離脱できないようにしたのがマイナンバー制度だった。そしてマイナンバー法の「利用範囲」では「刑事事件の捜査」と「その他政令で定める公益上の必要があるとき」を明記し、住基ネットでは認めなかった「警察や公安機関によるデータ利用」も認めた。ここで国が重視したのは、住所が変わり、名前が変わっても同一番号で個人を監視し続ける体制である。この実現のために不可欠なツールがICチップを内蔵したマイナカードだった。

 

 さらに今年5月には「デジタル関連法」を成立させ、デジタル庁設置の段取りやマイナカードと個人情報の紐付けを強力に推進する仕組みを具体化した。このデジタル関連法の中身は、①デジタル社会形成基本法(デジタル化推進の基本理念や重点計画を規定)、②デジタル庁設置法、③デジタル社会形成関係整備法(個人情報保護の仕組みを整備)、④預貯金口座登録法(政府が運営するマイナポータルからの口座登録を可能にし、緊急時の給付金支給に登録口座を使える仕組みを整備)、⑤預貯金口座管理法(マイナンバーと預貯金口座情報の紐付けを規定)、⑥地方公共団体情報システム標準化関連法(自治体の主要業務のシステムを統一・標準化)の6法だった。

 

 このうち個人情報保護関連では、個人情報保護体制を全国統一仕様にする内容を盛り込んだ。それはデジタル庁が全国の自治体からあらゆる個人情報を同一基準で吸い上げるためだった。さらに同法では個人情報保護関連で「業務の遂行に必要で相当な理由のあるとき」は、行政機関が本人の同意なしで個人情報の目的外利用ができることも規定した。それはデジタル庁に全国各地の個人情報をすべて吸い上げて一元管理したうえ、それを警察の捜査や行政の調査に問答無用で活用する内容だった。

 

 こうした段階で全国民をマイナカードに縛りつけることができれば、いつでも職歴、家族構成、所得、不動産などの資産情報、今までに受けた医療情報、失業保険、公営住宅を借りた記録、児童扶養手当など各種手当、生命保険、個人の銀行預貯金、住宅ローン、犯罪歴などあらゆる個人情報を国がすべて管理できる体制がつくれるようになる。ポイントカードや図書館カードと連動させれば「どこで何を買ったか」「どんな本を読んだか」まで特定することも可能になる。

 

 とはいえ最大の要は全国民がマイナカードを所持するかどうかである。国民のなかでのマイナカード所持が進まなければ、たちまち機能不全に陥るシステムだからだ。そのため自民党政府はマイナカード交付開始後の5年間、あの手この手でマイナカードを普及しようとした。甘利明が経済再生担当相だったとき「♪私以外私じゃないの」と歌ってマイナカードをアピールしたことさえあった。だが何をやってもカード普及が進まない。そこで「カネ頼み」に走ったのが自民党政府だった。

 

 ところが「5000円分のポイント付与」で釣ろうとしても、6割以上の国民がそっぽを向いたままだ。そのため「それなら一人3万円でどうだ?」と「鼻先ニンジン」のグレードアップに乗り出したのが岸田政府である。それはマイナカードの利便性も必要性も国民にきちんと説明することができず、「カネで釣る」手法に頼るしかない劣化した政府の現状も象徴している。

 

先行導入した国 なりすまし犯罪が頻発

 

 だがこのマイナンバーシステムの危険性は、世界各地のマイナンバー先進国ですでに実証済みである。

 

 日本のモデルであるアメリカでは1936年から全国民を対象にした社会保障番号(SSN)が始まった。この番号取得自体は任意だが、医療・福祉の補助金申請など行政手続きで必要になる番号である。

 

 また、進学や就職の手続き、銀行口座の開設、クレジットカード取得時にも提示を求められる。どの国民もSSNを取得しなければ行政サービスが受けられない仕組みだ。

 

 ところが米国では他人のSSNを使ったなりすまし犯罪が頻発し、2006年~2008年だけでなりすまし犯罪の被害者が1170万件(アメリカ連邦司法省の統計)に上り、損害額は173億㌦(110円換算で1・9兆円)に達した。2014年にはのべ1760万人がSSN関連被害にあっている。多いのは他人のSSNを使ってクレジットカードを作って金を借り、大量の買い物をするケースだ。米国では暗証番号や顔写真などの認証をクリアすれば銀行口座も開設できるため、ローン地獄に陥った大人が子どものSSNを盗用して金を借りて焦げ付かせる事件も起きている。

 

 「住民登録番号」を1962年に導入した韓国でも、なりすましやネット事業者からの個人情報流出が起きている。2011年には3500万人分の住民登録番号漏れが明らかになり、「住民登録番号」を使ったクレジットカード詐欺、不動産取引詐欺も起きている。

 

 そしてもっとも危険なのは、こうしたシステムを使って行政機構が各家庭の抱える諸問題をみな掌握し、国民監視や兵員募集に活用している現実だ。米国では全高校が生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出しなければ学校の助成金がカットされる制度がある。その個人情報は名前、住所、親の年収及び職業、市民権の有無、生徒の携帯電話番号だった。米軍はこのリストから、貧しく将来の見通しが暗い生徒を選び出し、そこへ軍のリクルーターを派遣して「入隊すれば大学の学費が免除される」「入隊すれば家族も兵士用の医療保険に入れる」と勧誘していた。この手法で米軍はイラク戦争開戦の2003年には新兵を21万2000人も戦地に送りこんでいる。

 

 また米国の国家テロ対策センター(NCTC)のデータベース「TIDE」には100万人規模の監視リスト、航空機の搭乗拒否リストが蓄積され、そこには宗教者や平和団体加入者とともに2歳以下の乳幼児まで含んでいた。いったんこの監視リストに載れば飛行機は搭乗拒否で乗れず、就職試験を受けても不採用になる。こうして経済的困難に追い込み、屈服を迫る仕組みだった。これがマイナンバー先進地で現出した実態であり、マイナカード活用の先行きも暗示している。

 

 岸田政府が全国民にマイナカードを執拗に持たせようとするのは、こうした戦時動員や国民監視・弾圧の意図と無関係ではない。確かに「マイナンバーカードを1枚持っていれば何枚もカードを持ち歩かなくても良くなる」「行政サービスが受けやすくなる」「3万円分のマイナポイントがもらえる」という一時的な利点はあるかもしれない。だが本当に「一時的な3万ポイント取得」と引き換えに、一生涯監視システムに身をゆだねてよいのか? である。マイナカードやマイナンバー制度が持つ長期的な意味合いを良く見極め、慎重かつ冷静な対応をとることが重要になっている。

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