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連載 安倍2代を振り返る ~国民の幸せのためにどのような貢献をしたのか~(6)

⑬江島元下関市長時代の入札問題

 

安倍晋三(左)と江島潔・参院議員(元下関市長)

 江島元下関市長時代(平成7年4月~平成21年3月)、多くの公共事業の入札で官製談合が疑われたが、このなかで安倍氏ととくに関係の深い業者にかかわる入札といわれた3件の入札について調査した。

 

 このうち2件は安倍氏の出身企業といわれる神戸製鋼を指名した入札で、下関市奥山工場の焼却炉と下関市リサイクルプラザの入札である。

 

 残る1件は安倍氏の実兄が支社長(当時)をしていた三菱商事中国支社が参加した入札で、下関市社会教育複合施設整備運営事業の入札である。

 

 3件ともに公共工事の入札として最低の必要条件である公正性、公平性、透明性を欠いた、考えられないような入札手続きと入札結果となっている。

 

ア、下関市奥山工場ごみ焼却施設建設工事

 

 工事概要~奥山工場の150㌧焼却炉を更新し、新たに180㌧の焼却炉を建設するもの。
 予定価格 124億1000万円(消費税込み)
 落札価格 110億925万円(消費税込み)(落札率88・3%)
 神戸製鋼他2社の計3社による指名競争入札の結果、1回目の入札で神鋼が落札した。(平成12年5月入札)

 

下関市・奥山工場ごみ焼却炉

 ごみ焼却炉もいろいろな焼却方法があり、それに合った焼却炉を選定することになるが、下関市ではストーカ炉という焼却炉を採用することとした。市の規定では「対象工事についての技術的適正」すなわち「技術的にやれる」ということに留意して指名するように定められている。当然のことである。

 

 誰でも自分の家を建てるときは、その業者に家を建てる技術的な能力があるのか、どこでどのような家を建てた実績があるのか等を調べたうえで業者を決定するはずである。本件のように工事金額も大きく、特別な技術を要する特殊工事においては、その会社に技術能力があるのか、あるとしても過去に同種の工事を正当にやったという施工実績があるのかということをとくに重要視しなければならない。

 

 従来から市が指名する場合、他の県や市で同等の工事を問題なく施行しており、その工事は瑕疵(かし)もないし、正常な工事であったという実績を確認したうえで、「技術能力あり」としてきている。

 

 ところが、下関市は神鋼に実績ありといってきたが市議会での議員の追及によって、神鋼にはストーカ炉の工事実績がまったくないことがばれてしまった。市議会本会議で「神鋼には実績があるのか」と議員が質問したが、これに対して建設部長は「神鋼は日本国内での実績はないが、外国での実績はある」と答弁していた。

 

 しかし、その後、文教厚生委員会での議員の追及の結果、市は「神鋼には外国での実績もない」ということを認めざるを得なかった。市議会本会議場での建設部長の虚偽答弁も、一部長が単独でするとは考えられない。多分、上からの意向で虚偽答弁せざるを得なかったものと思われる。この工事に関係した当時の他の部長たちからも、いろいろな声が聞こえてくる。この虚偽答弁以外にも虚偽答弁があるが、今回ここでは省略する。

 

 結局、神鋼には入札参加資格がないのに、市は規定に違反して指名した。

 

 市は、神鋼に実績がないことがばれると、今度は「神鋼に技術能力がなくても、外国企業と技術提携しているから技術の能力ありと認めても良いではないか」という主張を始めた。この外国企業との技術提携も、入札直前に技術提携の契約をしたものと思われる。

 

 従って、神鋼には技術提携による工事実績もなく、この工事が技術提携による最初の工事である。技術提携があったとしても、工事実績は何一つないのだから神鋼指名は市の規定に違反した指名であることには変わりない。下関市にとって重要かつ予定価格124億円という大工事にもかかわらず、規定に反して今回、神鋼に「テスト工事」させている。

 

 技術提携することによって、その業者に入札参加資格を与えてよいか否かについては、数年後の「彦島し尿処理工場更新工事」において、同様のケースがあった。

 

 国内での工事実績がある国内業者との技術提携によって入札参加を希望した業者に対して、市は入札参加資格なしとして入札参加を拒否した。市が入札参加資格なしとしたのは当然のことであるが、それならなぜ神鋼には技術提携しているので入札参加資格ありと認めたのか、当時、業者間でも話題となった。

 

 このことをもってしても神鋼だけを特別扱いしたことを証明している。

 

 以上のように、市は神鋼には市の定める入札指名基準を満たさない、すなわち入札参加資格がないのに入札に参加させる。議会でこれまでの実績を聞かれれば、実績ある旨の虚偽答弁までする。技術提携についても神鋼の技術提携だけは認め、他の企業には認めない。このように神鋼落札へ持っていくために規定も無視、議会も無視である。

 

 議会文教厚生委員会も問題点を把握しておきながら、最終的には「指名の問題等非常に疑問の残る案件であり、継続審査すべきではないかとの意見もあったが(平成)14年12月の新基準に間に合わなければ市民生活に多大な迷惑をかけることになる」ということを大きな理由にして可決している。

 

 結局、ストーカ炉の実績がまったくなく、市の規定に反してまで神鋼を入札に指名したということは、最初から神鋼ありきの入札であったとしか考えられない。

 

 また、市の規定では5000万円以上の工事の場合は8社以上の業者を指名しなければならないとなっている。これほどの大型工事の指名業者がわずか3社ということも、市の規定に反しており問題である。

 

イ、新環境センターリサイクルプラザ建設工事

 

 工事概要~現在の下関市垢田にある環境センターを解体し、同地に新環境センターとしてリサイクルプラザを建設するもの。
 予定価格 60億円(消費税込み)
 落札価格 59億9550万円(消費税込み)(落札率99・93%)
 公募型指名競争入札で、神戸製鋼所JV(神鋼、安成工務店、福永建設、栢野建設)他7JVが入札参加。神鋼以外の6JVは1回目の入札には参加したが、2回目の入札は辞退。このため神鋼1社で2回目、3回目の入札を実施。
 しかし、予定価格に達せず。神鋼との随意契約に切り替えて、同社に見積書を提出させることとし、4回目の見積書で予定価格以下となったため決定。(平成13年8月入札及び見積書受け取り)

 

下関市リサイクルプラザ

 これも異常な入札であり、初めから神鋼ありきの入札であったとしか考えられない入札である。これほどの大型工事の入札において、神鋼JV以外の6JVすべてが2回目以降の入札を辞退するという下関市でも過去に例を見ないような異常事態である。その後、神鋼1社で2回目、3回目の入札をおこなっているが、これは仕方ないとしても、3回目の入札で予定価格以下に達しなかったのだから、その日の入札は不調のままで終わり、入札はやめるべきであった。入札を止めて、辞退した6JVに辞退の理由をよく聞くことも必要だし、その対策を考えることも必要である。3回目の入札で止めて、後日、改めて再入札すべきであった。しかし、市は6JV辞退は神鋼落札のためにはチャンスであるとばかりに指名競争入札の不調後、直ちに神鋼との随意契約に切り替え、あくまでもその日のうちに神鋼落札までもっていこうとした。

 

 市の神鋼落札のシナリオからすれば、確かに神鋼以外の6JVの入札辞退は、市にとっては都合の良いことだったようである。

 

 競争入札をやめて随意契約に切り替え、神鋼から見積書を提出してもらうこととなったが、神鋼は1社だけの見積もりなので他の業者にとられる心配はないし、何回も見積書を提出できるため、少額ずつ切り下げた見積書を提出した。

 

 その結果、5回目の見積書で予定価格60億円に対し59億9550万円、予定価格の99・93%というほぼ予定価格どおりの金額で、神鋼は仕事を受注できた。約60億円の仕事を予定価格よりわずか450万円低いだけで受注できたのである。

 

 予定金額とほぼ同額で神鋼に決まったということは、われわれの払った税金が無駄使いされ、神鋼に支払う結果となってしまったということになる。市議会でも「6JV辞退という異常事態が起きたのに、なぜ再検討もせずにその日のうちに随意契約にしたのか」という質問があった。

 

 これに対して環境部長は「今議会で業者決定の議決がないと、補助金の交付申請ができなくなり、国庫補助金がもらえなくなる可能性がある。そのために業者決定を急いだ」旨を答弁した。

 

 この答弁を聞いた議員が、直接山口県の担当課に聞いたところ、県からは「年度内であれば問題ないと考えている」という回答であった。このため市も「補助金を貰うために業者決定を急いだ」というそれまでの答弁を撤回した。

 

 奥山工場焼却炉工事では、「神鋼には技術的能力の関係で入札資格に問題があるが、時間がないので」という理由が議会を説得するのに大きな効果があった。同じことを考えてリサイクルプラザでも「時間がないので、神鋼決定を急いだ」といえば市議会も納得すると考えたのだろう。ただ、議員がまさか直接、県に確認の電話をするとは思いもしなかった。

 

 要するに、業者決定を急ぐ理由はなかった。神鋼と随意契約する必要は、まったくなかったのである。神鋼に決めるために環境部長までもが議会でウソの答弁をした。それも勘違いなどでのウソではなく、意図的なウソ答弁をした。担当部長もみずからの意思でウソの答弁をしたとは考えられず、ウソをいわされたか、ウソをいわざるを得なかったのだろう。

 

 契約(入札)は、入札金額等で競わせる競争入札が原則で、特定の業者を決めてから見積書(金額)を提出させる随意契約は、例外的な契約方法として地方自治法及び同法の施行令で次のように限定的に認められている。

 

「地方自治法施行令第167条の2(随意契約)
随意契約に出来る場合は次に掲げる場合とする。
1 工事請負契約等で予定価格が130万円以下の場合
5 緊急の必要により競争入札に付することが出来ないとき
8 競争入札に付し、入札者がないとき、又は再度の入札に付し、落札者がないとき」
(なお、2、3、4、6、7、9の各項は本件契約には関係ないので省略)

 

 本件工事は予定価格60億円の大型工事であり、随意契約が認められるのは緊急の必要性がある場合のみである。市は「この入札で請負業者を決めなければ国の補助金がもらえなくなるから」という緊急性を理由に神鋼と随意契約したが、この理由がウソであることが判明した。随意契約にする理由はないのに随意契約したから、この入札は違法であり、従って、契約も違法である。違法契約は無効である。

 

 奥山工場焼却炉工事は、市の規定に違反した違法性の高い不当な神鋼決定であったが、リサイクルプラザ建設工事は、法律で定められている随意契約の理由がまったくない、明らかに違法な契約である。市行政では考えられない無茶苦茶な業者決定である。驚くべき江島市政の一端である。

 

 また、入札業者が7JVというのも市の規定に違反している。この入札は公募型指名競争入札であり、市の規定では16JV程度を目指すとなっている。

 

 以上のように正当性のない違法な神鋼決定であるが、それでもなぜか下関市議会はこの神鋼との契約を認めている。文教厚生委員会での採決では、神鋼との契約に反対3名、賛成3名、保留1名で可否同数となった。そこで委員長が賛成を表明し可決となった。本会議でも「神鋼との契約はシナリオどおりという印象を受ける」などの意見が多く、採決で紛糾したが結局、投票総数28票のうち賛成15票、反対13票で可決となった。

 

 一部の議員が市政正常化のために頑張っても、大事なときに市行政のチェックという市議会としての本来の役目を果たすことができない。これも下関市議会の特徴のようである。

 

 法律に違反し、市の規定にも違反し、また、市議会でウソまでいって神鋼との契約に持っていく。「モリ、カケ、桜」事件の手本になったような違法性の強い政治、行政が下関市ではすでに20年前におこなわれていた。当時も多くの良識ある市職員から、トップによって「不正市政先進都市 下関市」になりつつあると嘆く声をよく聞かされた。

 

ウ、下関市社会教育複合施設整備運営事業

 

 工事概要~細江の文化会館、中央公民館、婦人会館を閉館し、この敷地に文化ホール、公民館、図書館を備えた施設を建設し、供用後の管理、運営は指定管理者制度でおこなう。

 

落札者決定基準
ア 金額(設計、建設、管理、運営)86億3988万8000円(税抜き)
イ 審査項目 ~(略)
ウ 得点方法 ~(略)
入札方法 ~総合評価一般競争入札(提案受け付け締め切り平成18年9月)

 

建設中の社会教育複合施設(2009年7月、現・下関市生涯学習プラザ「ドリームシップ」)

  ○入札の経過

 

 この入札は次のような経過をたどっている。

 

 入札には三菱商事グループ(三菱商事、佐藤総合設計、松井建設、日本管財、図書館流通センター、ジェイコムの6社)と原弘産グループ(9社)が参加。提案内容の審査と参加企業からのヒアリングをおこなった。

 

 平成18年10月13日、市は入札結果について「三菱商事グループに決定した。審査委員は三菱商事グループに百点満点中66・2点、原弘産グループに63・8点をつけた。詳細は10月下旬に公表する」とのみ発表し、肝心の入札価格や審査項目ごとの評価点数は発表しなかった。そして10月17日には三菱グループと基本協定を締結した。

 

 これに対して、一部の市会議員や市民から「原弘産グループの入札金額の方が相当低かったはずだ。安倍議員の実兄が三菱商事中国支社長をしているので三菱に決めたのではないか。最初から三菱商事ありきの政治的決定であり、おかしい」などの声が上がる。

 

 10月26日、原弘産グループはこの落札業者決定は違法なものであるので、決定を取り消すよう山口地裁に提訴。

 

 11月8日になってやっと市は落札業者決定の審査内容を発表する。発表内容は、入札価格は三菱商事グループが約82億9502万円、原弘産グループが73億8450万円で、三菱商事グループの方が約9億1052万円高かった。

 

 入札金額という客観的評価ができる項目の点数は、原弘産グループが高い点数を得られたが、設計とか管理、運営とか審査委員の主観に基づき評価する項目については、原弘産グループの評価点数は相当に低かった。このために三菱商事グループに決定したものである。

 

 その後、三菱商事グループ内の日本管財の社員が、東大病院の工事での入札を巡り逮捕されたため、市は日本管財を3カ月の入札参加停止処分とした。

 

 11月16日、三菱商事グループとの基本協定の終了を決定し、原弘産グループとの交渉に入ることを決定。

 

 11月21日、訴訟の第一回口頭弁論が山口地裁で開かれた。

 

 原告の原弘産グループ側は「三菱商事グループの入札額は原告側より9億円以上も高い。審査委員に市の副市長と教育長の2人が入っており、官製談合だ」と訴えていたが、被告の市側は「評価は入札金額のほか、品質にポイントを置いており、原告は点が低かった。審査結果は合議で決めており、審査委員会で市側の2人が、残りの6人の評価をひっくり返すことはできない」として、全面的に争う姿勢を見せた。

 

 12月14日、市は原弘産グループと契約交渉。市は契約交渉をおこなう前提として、訴訟の取り下げと市への謝罪を求めた。

 

 平成19年2月19日、市と原弘産グループとの交渉決裂。
 3月28日、市は再入札を公告。総合評価方式で審査委員も前回と同じメンバー。
 6月19日、原弘産は、訴訟について「事実を追及したいが、争う目的がなくなった。再入札には参加しない」と説明し、訴訟を取り下げ。

 

 7月23日、市は「合人社計画研究所(本社広島市)」グループ9社を落札者に決定。
 落札額は79億9800万円。再入札は6月28日におこなわれ、このグループだけが参加。

 

 建設企業には、広成建設(本社広島市)のほかに、なぜか真柄建設(本社石川県)が入っている。真柄建設は森元首相の関連企業のようだと噂された。三菱商事グループも再入札に参加を表明していたが急遽、辞退届を提出し不参加。

 

 平成20年7月5日、真柄建設は348億円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請。

 

 ○本件入札の問題点

 

ア、入札参加資格に問題がある

 

 公民館、図書館等の建設、管理運営業務に、商事会社である三菱商事が共同企業体(JV)の中心企業として入ることは妥当か。

 

 三菱商事は建設業や施設の管理運営業務については門外漢のはずであり、この事業の請負業者として入札参加資格があるのか疑問である。安倍代議士の実兄が中国支社長をしているために入札参加を認められたに違いないと多くの市民は感じている。

 

イ、落札業者決定の発表が異常であること


 落札業者発表のときは、入札の信用性の確保や入札の透明性の確保のために、落札業者決定の決め手となった落札金額と評価項目別評価点数を発表しなければならない。しかしそれを発表しなかったのは異常である。落札金額等も発表しないのに、三菱グループとの基本協定は早々と締結している。落札金額等を発表したのは、業者決定の発表から20日以上たってからである。何か業者決定の不明朗さ、不透明さがあったとしか考えられない。

 

 別表(1)の「定量化審査結果一覧表(1)」を見ても分かるとおり、入札価格では、原弘産グループは満点で三菱商事グループより22・8点も高い評価だったが、設計、建設業務、運営業務では逆に三菱商事グループの方が25・2点も高く評価され、わずか2・4点差で三菱商事グループに決まった。

 

 後述するように入札価格の評価点数は客観的評価基準に基づくものだが、入札価格以外の評価点数は主観的評価に基づくものである。専門家による主観的評価点数なら、誰もが認めることができる点数であるが、残念ながら総合評価審査委員の半数は専門家とはいえない人たちである。また、中立的立場とは考えられない人も混じっている。

 

 このような審査評価委員の中での点数差がわずか2・4点である。10月16日の三菱グループ決定の発表の時に、なぜ評価点数の内訳を発表しなかったのか疑問である。この間に何か調整をしたのではないのかという疑問が残る。

 

ウ、入札が総合評価方式であったこと

 

 一般競争入札ではなく総合評価方式をとったため、入札金額では高かった三菱商事グループが落札できた。総合評価方式でも適正な競争ができれば問題ないが、次にのべるように下関市の総合評価方式は適正に実施されていないという声が業者の間でもいわれている。

 

○江島市政における総合評価競争入札の問題点

 

 市(長)が意中の業者に落札させようとするときに、総合評価方式は極めて便利な入札方法である。本件以外の事業でも、市(長)がこの業者に決めたいと思ったときには、コンサルと組んで(コンサルを利用して)設計、建設、管理、運営等を一体としての入札とし、総合評価方式をとっている例が多い。

 

 総合評価方式が市(長)にとって都合が良いのは、競争入札だと金額勝負なのでなかなか市(長)の思いのままにならないが、総合評価方式だと評価審査委員は市長が任命できること、また、評価も入札金額以外は客観的評価点数というのはなく、各委員の主観で評価点数をつけられるので、市(長)の意向に沿った評価点数に誘導しやすいことなどである。

 

 委員の人選においては、その部門の専門家であり中立的立場にあると思われる大学教授等は当然入ることになるが、本市での人選を見るとこれらの専門家が委員会の過半数を占めるような人選は絶対にしない。市職員(専門的知識があるとは思えないが)と市との関係、つながりの深い人、即ち市(長)の意向を無視できないような人とを合わせて専門家と同人数か、それ以上に入れるような人選をしている。

 

 本件での審査委員会のメンバーは、専門家と思われるのが、石田九大教授(委員長)、本杉日大教授、大串昭和女子大教授、上野県立図書館主査の4名。市からは、山村副市長、松田教育長の2名。市の関係団体からM自治連合会長、Y市文化協会長の2名。以上の8名で構成されている。

 

 連合自治会、文化協会ともに、財政的にあるいは職務内容(設立目的)などから、市と非常に深い関係にある団体である。総合評価方式においては、審査評価委員は中立的立場にある専門家としての学者のみとするか、少なくとも学者を過半数にしないと入札の公正性は確保できない。しかし、江島市政においては先述のように専門家を過半数にするような人選はしない。これが江島流の総合評価方式のやり方である。

 

 本件落札者決定処分の取消しを求めた訴訟において、市側が「委員8人中市側はわずか2人だから、合議による審査結果には影響ない」と主張しているが、これもごまかし論法に近い。委員8人中市職員2人と自治連合会長、文化協会長の計4人は、市(長)の意向に沿って動き得る委員である。委員長は九大教授であるので合議には参加しないとなると、委員による合議のさいは、市(長)の意向に沿って動き得る委員は7人中4人ということになる。市が公明正大な総合評価方式だと主張するのなら、専門的学者委員を過半数にすべきである。

 

 前田市長が江島流のこのズルい総合評価方式を真似しないか、今後、注意深く見守る必要がある。今後、総合評価式入札がある際には、厳しくチェックしていかなければならない。

 

 なお、本件入札の総合評価審査委員であったM連合自治会長は、市職員OBで、市議会議長の運転手一筋の人である。運転技術においては一流の人だったが、設計図を見てそれを評価することには慣れていなかった。

 

 従って、市職員の意見、市側の意向を内緒で聞いて評点をつけるしかなかったようである。後年、本人がそのような苦しい胸の内をぼやいていたという複数の証言もある。誰でも、また、どのような仕事でも自分が経験したことのないことを急にやれといわれても無理である。われわれの税金を80億円も使う事業の業者決定を左右する評価審査委員にこのような経歴の人を任命したことは、本人に対しても失礼であるし、市民に対しても失礼である。この人なら市の意向に沿った評価をしてくれるに違いないと考えたとしか思えない。市民のことより自分たちに都合が良いからの人選である。

 

 なお、M連合自治会長に限らず山村副市長は下関市大の卒業生だから経済学を学んではいるが、建設関係は素人である。松田教育長も技術者ではない。Y文化協会長も技術屋ではないはずである。委員8人中専門家は4人で、他の4人は全員設計、建設に関しては素人である。設計図を見て、これの優劣を評価することはおそらくできないものと思われる。

 

 別表(2)の「定量化審査結果一覧表(2)」を見ても、理解しがたい点や、意図的なものを感じる。例えば、「1設計・建設業務に関する事項」の「(1)利用者の利便性に配慮した配置計画及び動線計画」については、三菱グループは満点の6点、これに対して原弘産グループは0・6点。「1の(4)建築計画」についても三菱グループは満点の7点、原弘産グループは0・7点となっている。この2項目だけで三菱グループは11・7点も原弘産グループより多く得点している。

 

 1点にも満たない0・6点や0・7点ということは、ほぼ0点で評価に値しないという点数である。原弘産グループも設計、建設の専門家たちが知恵を絞って出した計画であり、それが1点にも満たないという評価を受けるとは普通考えられないことである。屈辱的な評価である。この評価も、本当の専門家で、かつ中立的立場の委員がしたのであれば市民も納得できるし、原弘産側も不満であってもその評価を厳粛に受け止めざるを得ない。しかし、上述のように設計図の見方もよく分からない素人同然の委員からこのような厳しい評価をされては、原弘産側が納得できなかったのは当然であろう。

 

(つづく)

 

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