県知事の推進が作った汚濁
中国電力の上関原発建設をめぐる町長選挙が終わるや、当選した加納氏の後援会長であった神崎町議が買収の容疑で逮捕された。町内は一様に大きな驚きにつつまれた。驚きというのは、選挙違反をしていたことを知って驚いた町民は一人もおらず、警察が選挙違反をとりしまったことにびっくり驚いたのである。驚いた顔をした推進派の議員や幹部などはマスコミむけの演技であった。この20年、選挙といえば買収があたりまえであり、5000円から2万~3万円へと相場は上がるばかりであったが、「原発は国策」として警察公認の選挙違反であった。「選挙違反はお国のため」となり、刑事のなかには「反対派をとりしまっているので、推進派はとりしまらない」と広言するものもいた。
「神崎氏は断じて自分のふところからカネを配るような男ではない」というのは、すべての町民が信じて疑わないところである。それは中電のカネにちがいないとみんなが思っている。しかもY氏のような推進派幹部に渡すのは、選挙日当のようなもので、一連の幹部衆に労賃のようにいつも渡しているものだろうと語られている。末端のお婆ちゃんのところでは6000円だったところもあるといわれ、「どっかでぬかれているのだろう」ともいわれている。
選挙の買収というのはいわば「地域振興券」を配るような調子なのだ。「選挙になったら栄養がとれる」というのも上関の常識だが、炊き出しの数百食が地域の年寄りらに配られた。これぞ選挙のときだけの「福祉行政」なのであろう。
かくして選挙違反であげるのなら、平生署のブタバコで間にあうような人数ではない。「難民テント村」のようなものでもつくらなければ間にあうものではない。そこのところは警察も内輪の事情があり、犯罪だからといってみんなを面倒見るわけにもいかないのだ。そこで神崎氏らに「右総代」として白羽の矢を立てたものと思われる。それにしても逮捕後は、町内で何人も連れて行ったとはいうが、すねの傷を脅して口封じのためにやっているのか、その後パッとしないことに疑問も強まっている。
神崎氏が選挙違反なら、金をばらまいてきた中電の白倉社長、井上所長、小池副所長、さらに選挙違反をしてもつかまえないという定説をつくり、選挙違反幇(ほう)助の罪を重ねてきた歴代の山口県警本部長、平生警察署長も逮捕され、とり調べを受けなければならない。警察が議会制民主主義の根幹を侵す犯罪を奨励してきたというのでは法治国家は崩壊したといわざるをえない。さらに県警が選挙違反を幇助してきたのは、警察の親方である県知事が原発を推進してきたからであり、平井元知事、二井知事なども選挙違反推進の元締めとしてとり調べられ、処罰されなければ、法治国家という以上道理が合わない。
人心攪乱した中電
神崎氏の買収問題にかぎらず、町内では選挙後、さまざまな問題で中電が金をばらまいて人心を攪(かく)乱してきたことが語られている。町の推進組織の町連協は、事務局長、女子職員とも中電が雇ったものであり、その会議の出席やビラまきなども中電が日当を出す関係。町民の推進組織の形をした中電の子会社なのであり、推進運動は中電の日当動員運動なのである。さらに「民主主義の殿堂」上関町議会では傍聴まで日当が出ている。それなら中電のために発言した議員の日当はいくらだろうかの詮(せん)索もある。
漁協もまた、漁民に酒を飲ませることからはじまって、漁民の飲み代を中電に回す関係がつづき、下っ端は数年まえに支払いを拒否され数十万円の請求がきて女房にしかられた話とかあるが、幹部はタクシー券を渡され、下は柳井までタクシーで飲みに行き、幹部は広島までタクシーをとばして酒を飲むとか、なかには家族を食事に連れて行って中電に請求を回すものもいるとかも語られてきた。共同管理委員会の日当などはたいしたものであったろうとみられている。町連協の事務局長より働きが大きかったところからみると、それより高級な「コンサルタント契約」があったのかもしれない。
大きな焦点となった神社地問題も、氏子の名をかたったさまざまな裁判もその費用は全部中電持ちで、住民に請求されたことはない。しかも担当した末永弁護士は警察の親方スジにあたる県公安委員というこわもてで、2000万円もの借地料が住民になんの説明もないまま不明なのに、そのような犯罪行為を隠ぺいするために公安委員が働き、警察は首を引っこめるという、フセイン政権崩壊後のイラクのような無法国家のサマとなっている。共有地裁判も、訴えられた住民100人余りが主体であるのに、その住民にはなんの相談もなく中電が控訴した。商業新聞なども見たままあるがままで体裁をとるのも忘れて「中電が控訴」と書く始末であった。
そして町の代表を決める選挙もまた中電のカネ次第であった。「地獄の沙汰もカネ次第」というが「議会制民主主義もカネ次第」「漁協もお宮も裁判もカネ次第」の姿を広く暴露した。
こうして上関町は中電町となり、お宮は中電神社となり、漁協は中電漁協となった。中電は原発をつくるためには上関の土地と海を買うだけでいいのに、それはできずに町の役場も議会もお宮も組合も、そして町民の心までも、手あたり次第に町中を買いあげてしまったのである。それは買収しすぎであり、電気料金の不正流用というほかない。二井知事はすました顔をして「地元自治体の政策選択を尊重する」といって上関原発の合意意見をあげたが、尊重したのは町民の選択ではなく中電と自分の選択の方であった。
中電のおかげで汚くなった町を清潔にしよう、が町民の切なる願いである。中電はカネしか能がないのは明らかだが、税金を食う県警や知事がこの汚濁のバックボーンになっていることが最大の社会的問題である。
<22年の推進運動はどんなものだったか>
【上関】 中国電力、国、県がすすめてきた上関原発計画にたいして、地元町民や山口県民のたたかいは20年をこえる歴史を刻んできた。全国注視のなかで4月におこなわれた町長選挙は、表面に漂う推進・反対派の既存のインチキな構図をふり払い、原発反対の町民の底力をじゅうぶんに見せつける意味深い結果となった。その後の推進派後援会長の逮捕劇は、いまや権力、金力をふりかざす推進勢力をして、原発立地のメドもなくたち腐れ状態に追いこんだこと、「警察もさじ加減を変えた」局面になったことをさめざめとものがたった。20年にもわたる推進運動とはどのようなものであったのか、とりわけ町内外でおこなわれた買収支配の構図が、長年来の封印を切って、反省をともないながら語られはじめている。
警察観察下の無法地帯
選挙後に加納簾香町長陣営の神崎弘司後援会長(町議)や、推進派幹部など計3名が公選法違反容疑(買収、被買収)で逮捕送検された。現金数万円で加納候補への投票と票のとりまとめを依頼したとされ、3人ともが容疑を認めた。町内では、買収がやられていたことについてはだれもが知っており驚きもしなかった。それよりも、「原発の味方」といっていた県警が動いたことに驚きが語られた。歴代のアホな刑事は「わしらは反対派はつかまえるが、推進はつかまえないから安心しろ」と住民に漏らすものもいたが、国策である原発計画推進はお上への協力であり、なにをやっても無罪放免になるという不動の確信が、神崎氏の堂堂たる買収行為の背景にあったことは疑いない。
原発選挙になってからは買収選挙も相場が上がるいっぽうで、はじめは一票5000円であったのが1万円になり、2万~3万円にまで跳ね上がった。今回の選挙では事前にうわさされた相場は「6万円」ともいわれたが、「実際には2万~3万円だった」とか、地域によっては「区切りの悪い6000円だった。○○(推進派運動員)はがめついから、たぶんマージンがぬかれたのだろう」とか選挙後にはさまざまに語られた。
ある推進派町議経験者は語っていた。「初期のころに伊方の町議が上関に来て、“原発がきてから伊方のような田舎選挙でも1000万円は必要になった”と漏らしていたが、上関もまことにそのとおりになった。500万円をケチったら落選。票を買うのはあたりまえ、票を売るのもあたりまえになった。選挙になると連判状まで持ってきて“買わないか?”というものもいるし、かわいそうなのはわしらの方だ」と。
「選挙違反」などという感覚はとっくの昔にマヒしており、原発同様に「絶対安全」の無法地帯がつくりだされてきた。しかも警察観察下の保護区であり、調子づいた無法者が放し飼いされて幅を利かせてきたのであった。
四代の神社地問題では、環境調査の借地料1500万円が山谷良数区長・町議の個人名義口座にふりこまれており、住民にはなんら説明がないばかりか、光税務署にも申告がないものとして横領疑惑が指摘されているが、税務署も動かないし、いつまでたっても県警は捜査に乗り出さない。四代には近年、毎日のように平生署の刑事が覆面パトでやってくるが、横領疑惑には目をつむっている。四代住民の多くは「警察は中電・山谷神社の狛(こま)犬だ」「最近は警察の不祥事も多いが、平生署にも中電の爆弾(現ナマ)がぶちこまれているのではないか」「犯罪者のようなものを警察が守るからよけいに調子に乗るのだ」とインチキぶりにはいいかげんに困っている。
林春彦宮司によって横領疑惑を指摘された山谷氏の弁護には、元県公安委員長の末永汎本弁護士(二井関成県知事の盟友)がついている。末永氏は中電コンサルタント弁護士の肩書きで、上関原発をめぐるそのほかの裁判でも中電の弁護をつとめている。県警を動かす人物が、実際行動でも中電の狛犬弁護士として、犯罪をおおいかくすために奔走しているのである。ちなみに神社裁判も共有地裁判も、地元四代地区の会計報告では計上されていない。漁業補償の裁判もすべて中電が出してやっているのだと推進関係者のなかでは指摘されている。共有地訴訟では地裁岩国支部が原告の一部勝訴の判決を下したが、中電は間髪入れず広島高裁に控訴した。中電も訴えられていたが、並べて被告として訴えられていたはずの四代住民百十数人には相談もなかった。実際には中電裁判なのである。
瀬戸内に浮かぶ素朴で純情だった田舎町は、原発計画の矢が刺さったばっかりに、金と欲にまみれた「原発病」が流行し、病んでしまったのだと町民の多くが指摘している。20年来で経験したのはSARSどころではない、人間のたち腐れであった。この「原発病」を、多少痛みのともなう荒療治で退治して、正常な一歩を踏み出すところへきたのだと、しみじみと語られている。
地元推進派組織として商業マスコミがとりあげる町づくり連絡協議会(町連協)は、事務局長や職員までついているが、給料は中電が月20万円ほど出していること、ビラまきをすると月に1万円もらえることや、会議に出席すれば寝ていても2000円が入った茶封筒がもらえること、議会がはじまると傍聴券のくじ引きに参加しただけで2000円、券を見事にあてて傍聴すると弁当がもらえて、さらにもう2000円もらえることなど、金もうけにはもってこいの仕組みができているのだと経験者の暴露もはじまった。「汗流して働いても時給600円。町連協は我慢して会議に出れば2000円よ!」と勧誘してくるものまでいるという。室津地区では町連協幹部をつうじて現金が配分され、上関では区長経営の旅館で月に一回飲み会がおこなわれる。戸津では貯めておいて年に一回旅行があるという。各地区で買収のやり方は異なる場合もある。働かずして銭もうけをはかる投機的な考え方、自分の努力によって生み出すのではなく中電にたかる癖が培養されているのだと、一般住民のなかでは批判世論が渦巻いている。
国政の縮図の上関
現金買収だけでなく、仕事のあっせん、息子や孫の就職の口利きなど、中電立地事務所の仕事はそれ以外にも忙しい。漁業補償交渉時には柳井の歓楽街が上関の漁業者でたいへんな賑わいとなった。漁協幹部になると中電から制限のないタクシーの無料チケットをもらっているものもいるのだとか、そのチケットを使って広島の歓楽街にまで遠征するものもいるのだとか、柳井の飲み屋は中電のツケでただ酒が飲めるのだとか。中電職員の接待だけでは足らない室津の外村組合長などは、家族同伴の食事もこれまでのようにツケですまそうとしたところ、最近では断られたのだという話も聞かれる。すでに対象外となった周辺漁師のなかでは、「いままでのようにツケで飲んでいたら30万円の領収書がいきなり家に届いてたいへんな目にあった」と数年まえから語られている。その程度はざらに飲んでいた。推進派幹部の一人は、「わしは中電の接待でも2軒目は自腹を切る。そうでないとあとで文句がいえないから。自腹で出すと店のママが“自分で払うような人はいないよ。みんな中電が出すんだからいいじゃない”という」のだと語っていた。中電持ちの接待も1軒ではあきたらず、2軒、3軒のはしご酒は常識だといわれる。柳井の飲み屋で恋をしてママを女房に引っぱってくる町議もいるし、ママに熱を上げてヤクザに身ぐるみはがされそうな羽目になったものもいる。中電のふるまうただ酒におぼれて、肝臓を悪くして早死にした歴代の町議や推進派幹部を数えれば10本の指では足りない。
推進派幹部が病気になれば、広島の中電病院に受け入れ態勢が整備されている。神社地騒動で大暴れした外村組合長は騒ぎ疲れて持病の肝臓を悪化させて中電病院8階の個室病棟に入院していたし、逮捕された神崎氏もその夫人も以前入院していた。心臓の悪い漁協理事も入院していたし、目の悪い推進派幹部も入院していた。これも無料なのではないかという勘ぐりがされるのも、中電が施した町内の買収構造を見る限り当然といえば当然のことである。
中電は20年をかけて漁業権や用地を買収しただけではなかった。漁師そのものを買うし、漁協や神社、役場、町議会、町の各種団体などなんでも買った。小さな町のなかに買収の網の目がはりめぐらされて、町を丸ごと買いとった格好である。人のために働くようなまともな考え方が押しこめられて、人を押しのけてでも自分だけがいい思いをするような我欲が乱れているのだと町民は語ってきた。22年たって地元推進派の瓦解とヒビ割れが進行しているなかで、しだいに内情が語られているのである。このような汚れ政治が大なり小なり日本中にはびこっていることとあわせて、上関はその縮図であることが語られる。二井関成県知事は「地元の政策選択を尊重する」などといっているが、上関の無法地帯を現出し、地元を推進で踊らせたのはまぎれもなく国であり、県であり、中電にある。上関の真の正常化は、町民主権の町づくりであるし、平和な町づくりであること、20年来の買収構図と責任を明らかにしてウミをとり除くことが重要となっている。