いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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衆院選に怯えた末の菅降ろし 貧乏くじに群がる2軍たち 総裁選は泥船の船頭争い

 菅義偉首相が3日に自民党総裁選への出馬辞退を表明し、自民党内で次期総裁ポストをかけた争いがたけなわとなっている。コロナ禍の昨年8月に安倍晋三前首相が2度目の放り投げをやって以後、その尻拭いを押しつけられるようにリリーフ登板したものの、政府によるコロナ対応のまずさや、そのなかでの五輪強行開催、同時進行で拡大したコロナ第5波での医療体制逼迫などを受けて支持率は低迷。衆院選を前にして党内からも足を引っ張る動きが強まるなかで政権基盤が揺らぎ、わずか1年での降板となった。直接には次期衆院選を巡る自民党内における危機感の高まりを反映した「菅降ろし」であるが、降ろしたからといって誰もが認めうる次なるリーダーが存在するわけでもなし、権勢欲に駆られた者たちが飛び出してきて、目下ポストの奪い合いをしている。衆院選ともかかわって揺れ動く政局をどう見るのか、記者座談会で論議した。

 

コロナ禍で炙り出された本性

 

  菅義偉も直前まで「二階降ろし」で安倍、麻生にゴマをすったり、続投のためには手段を選ばぬといわんばかりの執念を見せていたが、最終的には「コロナ対応に専念する」「総裁選とコロナ対応は両立できない」という理由で辞退を表明した。現職総理の出馬辞退という極めて不名誉で無様な終わり方だが、万事休すで白旗を上げたような感じだ。

 

 権力ポストでもある幹事長、政調会長といった自民党役員人事を動かし、なおかつ9月に内閣改造を実施して心機一転みたいなことも取り沙汰されていたが、各派閥からも袖にされて人材を出してもらえず、最終的には四面楚歌で行き詰まった。安倍内閣の官房長官時代には随分と官僚を恫喝したり腕力を振るっていただろうに、なんともあっけないものがある。

 

 コロナ禍の貧乏くじとはいえ、本人はまだまだ権力ポストにしがみつきたかったのだ。しかし、それが叶わなかった。1年前には二階派や細田派、麻生派などおも立った派閥がみな菅支持というか、安倍の敵前逃亡の尻拭いを押しつけるように担ぎ上げて圧勝の構図だったが、結局のところワンポイントリリーフに過ぎなかった。今回、続投を模索する菅に対してこれらの派閥が後ろ盾にならず、梯子を外して協力しなかったのだ。

 

 ますます自民党の支持率が低下するなかで、こうして菅義偉が不人気の諸悪の根源みたく責任を丸かぶりする形で降板に追い込まれ、「次なる顔」でリフレッシュみたいな騒ぎをくり広げている。自民党に対する批判世論の高まりに恐れおののいて、自壊しているような光景だ。

 

 確かに貧乏神というか疫病神みたいな顔つきには見えるけれども、「顔」を変えたところで自民党は自民党。何も本質は変わらない。しかし、岸田がにわかにれいわ新選組の山本太郎の政策をぱくったような主張を始めてみたり、世論の変化に慌てている。自民党が8月におこなった「衆院選の情勢調査」で40~70議席減という数字が出てきており、仮に70減となると単独過半数はおろか、公明党とあわせてもギリギリのラインになる。相当に厳しい世論に晒されているなかでのあがきなのだ。

 

  自民党若手のなかで「菅では選挙をたたかえない」という反発が強く、各派閥も一筋縄ではまとまらない等々が報道されているが、若手は選挙区を3万軒挨拶回りしろ! とハッパをかけられて歩いて回っており、相当に自民党批判が渦巻いていることを自覚しているのだろう。そんなものは巷を歩いてみれば歴然としている。「横浜市長選で激震」どころではない逆風にさらされており、選挙の顔があの死んだ魚のような目をしていては巻き添えをくらうと危機感を抱くのも無理はない。かといって、誰の顔なら選挙がたたかえるというのだろうか? とも思うが、いずれにしても近づく衆院選への危機感が「菅降ろし」の引き金になっていることだけは確かなのだ。首相お膝元の横浜市長選もあのザマで、相当に痺(しび)れたのだろう。

 

  安倍・麻生と二階の不仲も取り沙汰されてきたが、二階幹事長がいくつかの選挙区の公認争いを巡って岸田派や細田派と衝突していたのも事実だ。山口3区でも現職・河村建夫(二階派)の選挙区に林芳正(岸田派)が鞍替え出馬を挑んでおり、県連レベルでは安倍派も林芳正の3区横取りを容認している。これに対して、二階幹事長が選挙区に二階派のメンバー20人と共に乗り込んできて「売られた喧嘩受けて立つ」と気炎を上げて林派を牽制するなど、河村林のバトルは過熱している。

 

 群馬1区では現職の尾身朝子(細田派)に対して二階派の中曽根康隆(中曽根康弘の孫)が小選挙区からの出馬を切望しており衝突している。新潟2区でも二階派の鷲尾英一郎と細田派の細田健一の公認争いが激化しており、これまた安倍と二階の派閥領袖による面子をかけた争いみたくなっていた。

 

 公認について権限を握っているのは自民党本部の幹事長で、二階が幹事長から降ろされることによって、これらの選挙区の公認がどう転ぶのかも注目される。林芳正なんかはさぞ大喜びだろう。二階派ナンバー2の河村建夫はここにきて当てが外れているのではなかろうか。河村は今回の衆院選で当選して衆議院の議長を目指すのだと地元で豪語しているが、林芳正も「将来の総理大臣」というキャッチフレーズで宇部興産をはじめとした企業の全面バックアップを受けて3区横取りに本気の構えを見せている。両者ともに本人たちの勝手な思い込みや厚かましい願望ではあるのだが、「衆院議長候補」VS「総理大臣候補」の争いなどといっている。地元で好きなことをいうのは勝手だが、「将来性のあるオレ」演出でもしないともたないのだろう。

 

 D こうした公認争いを巡る確執など、二階・菅ラインと安倍、麻生との隙間風を反映した「二階降ろし」が動き、そうした空気を察知した岸田が安倍、麻生ににじり寄る形で出馬表明し、菅が辞退を表明すると河野太郎(麻生派)や高市早苗(元細田派)も出馬に向けて動き出し、石破茂や野田聖子も色気を見せている状況だ。なんだか自民党二軍が「コロナ禍の首相ならボクたちにもやらせてもらえるかも」的な期待を抱いて飛び出してきたような印象だ。安倍や麻生はそんなに裏でゴソゴソするならオマエたちが正々堂々と出てきてやればいいではないかと思うのだが、そこはコロナ禍に脅えて前面には出てこない。卑怯ではないかと思うが、もともと放り出したのは自分で、「貧乏くじ」だと思っているからこその行動原理なのだ。

 

  コロナ禍さえなかったら、安倍晋三が嬉々としてしゃしゃり出てくるに決まっているのだ。今さらキングメーカー気取りで蠢(うごめ)いているのについても、菅義偉からするともともとはオマエが放り投げたんだろ! と思っていてもおかしくない。コロナ禍の政権運営から逃げ出しておいてなにがキングメーカーだよ! と思っているのかもしれない。世間一般でもそのような印象を抱いている人は多いのではないか。

 

 腹を壊して2度目の放り投げをした者が、最近でも地元に帰ってきて「いい薬ができて、もう治ったんですよ」なんてケロッとしているから、地元の有権者でも唖然としている人が少なくない。都合のいいときだけ権力を握って私物化三昧をやり、疫病禍からは逃げ出す――。そんなのが国のリーダーってどうなのよ? と話題になっている。

 

無能政府を見限る世論  支持率は急落

 

  しかし、冷静に考えて首相ポストを貧乏くじ扱いするって何だよ!というのもある。それこそ行政府の長として、疫病対策に全責任を負うわけで、本来なら有能なリーダーこそが出てこないといけない局面だ。ところが、自民党内では逃げ出したキングメーカーたちが裏でゴソゴソやって実権だけは掌握しつつ、権勢欲に駆られた二軍が勘違いして、「オレにやらせてください」争いをしているではないか。まさに貧乏くじ争いだからこその総裁選構図になっている。そういう意味で首相ポストを舐めているのではないかと思う。総裁候補たちを見渡して改めて思うのは、やはり政治の劣化、貧困状態だろう。

 

  だいたい在任中のモリカケ桜その他の私物化疑惑がなんら清算されていないのに、そんな安倍晋三がキングメーカーを気取り、自民党のなかで是正する力が働かないのが致命的だ。公明正大に是々非々をはっきりさせ、疑惑解明についても党としてしっかりケジメをつけるとかするならまだ分かるが、身内をかばいあって、あるいは最大派閥を恐れて自浄作用が働かないのだ。

 

 腐敗と堕落、私物化に対するケジメのなさが安倍政治の象徴だろうが、臭い物に蓋でやり過ごし、コロナが襲ってきたら一目散に政権運営を放り投げ、その間の政府のコロナ対応ときたら2年もたとうかというのに医療体制も強化しなかったために医療崩壊を起こして、やったことといえばお願いベースの緊急事態宣言をくり返したのとマスク2枚に10万円だけ。しかもコロナは抑え込むどころか、東京五輪の開催期間とともに過去最悪の感染者数を叩き出した第5波に直面し、それに対して為す術はなし。さすがに国民としてはブチ切れているし、無能政府を見限ったような空気が充満している状態だ。自民党が次期衆院選で40~70減というのは極めて現実味を帯びた話で、慌てた末に「菅降ろし」となったのも無理はない。しかし、菅を降ろしたところで問題は何も解決していないのだ。

 

  横浜市長選での自民敗北は象徴的だったし、広島の再選挙しかり、主立った地方選挙でことごとく自民党は敗北してきた。これは菅義偉の顔が原因ではなく、自民党への批判世論が吹き荒れていることの証左だ。だいたい顔は履歴書ともいわれるが、菅義偉の顔に全ての因果をこじつけるのはいくらなんでも酷だ。安倍8年、菅1年のこの9年間の政権運営についてや、コロナ禍のダメダメな政府対応について堪忍袋の緒が切れたことが支持率低下の要因であって、このなかでくり広げられる総裁選は誰かがいっていたように泥船の船頭争いみたいなものなのだ。

 

 ここ最近の選挙で顕在化しているのは従来は自民党に入れてきた支持層の離反で、愛想を尽かしたような投票行動の広がりがある。自民党としてはこのつなぎ止めをしなければ衆院選のボロ負けは避けがたいもので、総裁のチェンジはそのための苦肉の策でもあるのだろう。

 

  衆院選前に自民党総裁選を巡るニュースで電波ジャックし、顔のすげ替えによって支持率回復を狙っているという評価もある。しかし、あの候補者たちの顔ぶれを見て、また安倍や麻生みたいなのが大きな顔をして牛耳っている自民党のコップのなかの争いを見て、どれだけの期待値が高まると思っているのだろうか。自民党支持者のつなぎ止めくらいには機能するかもしれないが、世間的には岸田が勝とうが誰がなろうが「安倍、麻生の二人羽織だろ」くらいにしか思わないだろうし、腐っても自民党なのだ。

 

 総裁選の過程でキングメーカー気取りがクローズアップされればされるほど、総裁候補たちの子飼いっぷりが印象付くことにもなろう。岸田の安倍、麻生へのにじり寄りっぷりだけ見ても、宏池会が情けないものだ…と見る人もいるだろうし、まあ人それぞれだ。

 

国民の生命守る政治を  衆院選の争点

 

  いずれにしても、コロナ禍で政府や行政、政治は誰のため、何のために存在しているのか、存在意義がかつてなく問われている。この国に暮らしているすべての人間のために、その生命や財産を守るために国家というものがあるのではなく、疫病禍でなお自助、共助で頑張ってね! というのでは「ふざけんな!」と誰しも思う。先程からも論議したように、コロナ禍における国のリーダーはすぐに放り出して逃げていく奴とか、公共の利益よりも私益とかお友だちの利益に目がない汚れとかではなく、有能でなおかつ国民の生命を守るためにリーダーシップを発揮できる人間が就くべきだ。それは、10月にも予定されている衆院選の重大な争点になると思う。

 

 これだけ税金を絞り上げてきて、いざ国民が疫病禍にさらされて皆がピンチになっているのに、なんら手をさしのべない政治、医療すら受けられず自宅療養といって棄民していく政治等等、コロナ禍がその残酷な本質を暴き出してきたわけで、9年に及ぶ自民党政治、もっと直接にいうと安倍政治への審判が下されることになる。菅義偉なんてものはショートリリーフを任されたオマケみたいなものなのだ。

 

  衆院選への危機感からの自民党の自壊――。野党がパッとしないのは依然として何も変わらないが、しかし衆院選では相当の嵐が吹き荒れるのではないか。政党政治の劣化、馴れ合いと惰性で緊張感を失って弛緩している状態は今に始まったものではないし、この腐敗堕落がいくところまでいった感があるなかで、政治に幻滅し、あきらめるのではなくて、いかなる形であっても受け皿となる勢力を台頭させることが肝だろう。

 

  ここにきて岸田がれいわ新選組の政策をぱくっているが、彼ら(れいわ新選組)の「心配するな。あなたには国がついている」の訴えや政策がどれだけ受け入れられるのかも注目だろう。風依存では吹けば飛ぶような存在にしかなり得ないが、みずからオールを漕いでたぐりよせた議席なら強く、新勢力としての今後につながる。既存政党に幻滅した人々の思いや要求をいかにくみとれるかにかかっている。

 

 選挙区における地上戦という点では組織力が乏しい分心許ない印象も拭えないが、それこそ山口4区、安倍晋三の選挙区にも候補者を擁立しており、下関や長門の有権者のなかでは「竹村かつし、もっと存在感を示せ!」「もっと演説内容を練れ!」という声が日毎に高まっている。ゾウに蟻が挑むようなたたかいという評価もあるが、何事も腹を括ってからが本番。代議士を目指す以上、言論の府での武器は言論、すなわち言葉だ。限界突破をくり返しながら候補者としても高まってもらいたいし、その努力する過程をみんなが見ている。決して甘くないことははじめからわかりきっているが、そのなかでどこまでのたたかいを挑めるのかだ。竹村氏についてはプロレス時代にみずからを鍛え抜いた胆力はあるのだから、今度は言論を武器にたたかう政治家としての自分を鍛え抜いてほしいと思う。4区ではそれは極めて重要な勝負所になると思う。

 

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