中国電力の原発計画が持ちこまれた上関町は、中電が詳細調査に動いているが、その一方で国、県の側からは町内4漁協の合併すなわち解散がすすめられ、さらに上関町そのものがすっかり財政破たんをして倒産・身売りによる解散のコースが推進されている。「地域振興のための原発誘致」といって、戦後60年のあいだの3分の1をこえる23年間も中電にもてあそばれ、国と県に翻弄されて、大騒ぎをしてきたが、町はつぶれて原発という核のゴミ・大量破壊兵器だけが来るという結果になろうとしている。それは、中電や、国、県がいかに残酷なものであるかを物語っている。
詳細調査というが町を潰す
中国電力は、原子炉設置許可申請に必要な詳細調査の着手にむけて動いている。原子炉設置許可申請に必要な詳細調査は、2年間はかかるとされている。建設予定地周辺のボーリング調査や地表地質調査、原子炉予定地内での試掘抗調査などをおこなうことになる。そのために、中電は必要な許可を県や町に申請していくとしている。
注目されるのは、許認可権を握る二井県政の対応である。中電白倉社長の年頭記者会見では、詳細調査の時期を明言せず、二井知事ともども動揺中であることをうかがわせている。調査に必要な許可は約20種類で、二井知事が権限を握っている。知事合意のときには、「安全を重視して」「許認可をしない」といった雰囲気で合意をしたが、ミサイルも飛んでくる情勢となったいま、どんな「安全」を確認して許可をおろすのか、注目されている。
詳細調査をするといっても、裁判中の共有地問題、神社地問題があり、着工にいたるまでには周辺で計画除外した反対派用地も買収しなければストップする。中電の社長は知事合意のときに「登山口」といったが、原発ができるメドはほとんどない。
県の側は合意をしたあと、「あとは中電さんの努力次第」といってきた。今度は中電の方が、二井知事にゲタ預けをする格好となる。上関町周辺では中電筋から流れたうわさとして「県が腰砕けになるのではないか」「知事の許可がおりなければしかたがない」という空気もある。
上関町民のなかでは、長年もてあそばれてきた思いをこめて、「一般のものは、原発でケンカをさせられてきた」「原発にかかわりあいになっておられるか」と口口に語られており、原発熱はない。町内の推進派も疲れきって、詳細調査歓迎のムードはない。この23年で、町が発展するどころか衰退して、老人でさえ住めない町になったというのが町民の実感である。町民の関心は、漁協の合併・解散問題であり、町役場の倒産と身売りの運命である。
祝島漁協まで対象 特例覆す県
二井県政・水産部は1県1漁協合併計画を強権的にすすめているが、最近突然、祝島漁協についても合併除外の特例を認めないとの動きをはじめた。12月中旬にその話を持ちこみ、年明けの6日に県漁連からやってきて説明会を開いた。祝島の漁民のなかでは、突然の話でどう考えてよいかのとまどいが大きく、いま大騒動になっている。
中電と県水産部に忠実に原発推進をやってきた上関町内の四代、上関、室津の三漁協も合併・解散がすすめられている。県や中電とのパイプを持ったエライ人になった山根組合長がいる平生漁協も合併計画がすすんでいる。
いずれも漁民のなかでは、信漁連問題でどれだけだまされ、しぼりとられてきたかがあらためて暴露され、怒りが渦巻いている。とくに油代は、山口県下でダントツに高い値をかぶせられ、魚の浜値もよそよりうんと安く、20年のあいだで見ると補償金の数倍、立派な家が建つほどよそよりピンハネされてきた実態が暴露されてきた。各漁協のこわい親分衆の値も相当に暴落するものとなった。そのうえ、合併、漁協解散となれば、切望される漁協の共同事業はますます切り捨てられ、信漁連、県漁連の直結したしぼりたてを食らうことになる。
上関漁協では、漁民にこわいボスであるが県には低姿勢の大西組合長などは漁協合併・解散推進、親分衆である役員のなかでも「しかたがないではないか」と「長いものには巻かれろ」の精神が語られている。室津漁協は、仮調印を拒否していたが、昨年末にエライ人のおでましで急きょ方針変更となり仮調印をした。
注目すべきは祝島漁協で、これまで県の方から、「原発問題があり、訴訟問題があるので合併対象から除外する」という特例扱いをされてきた。だが、県もそんなことはいっておられなくなり、昨年末には急きょ参加させる方針に切りかえた。他の漁協は数年かけて論議してきたものを、わずかひと月のあいだに結論を出せというメチャククチャなやり方で、大騒ぎとならざるをえない。
豊北で失敗したのち、上関に原発が持ちこまれたのは、漁協が瓦解しているという条件を利用したものであった。工業地帯として開発された内海という条件があり、かつて海運などで栄えた上関の事情もあって、漁業がきわめて低くあつかわれ、そのなかで不正などがあいついでいたのである。このなかで、上関は漁業を中心に発展してきたし今後もそうだという世論が勝利し90年代には県水産部が乗り出して漁港や魚礁整備、栽培センターなどに数十億円も投入してきた。その結末は、漁協解散というわけである。
漁協が解散となると、組合長もいなくなり、理事もいなくなって、「一般ピープル」になってしまう。それは、漁民支配の統制が崩れるということになる。原発でいえば、これから先も、漁民同意がさまざまに必要になるが、押さえるボスがいなくなることになる。
とくに祝島漁協は、原発反対を貫いてきたが、同時に山戸組合長と県知事・水産部との独特の緊密関係でやってきた。「脱退したなら、出資金が7000万円返らなくなるうえに、年間3000万円の赤字が加算して1億円の欠損が出てやっていけない」といわれているようであるが、漁協がなくなれば漁協としての反対はできなくなる。他方で、反対であるにもかかわらずその発言を封じられてきた全県漁民、とくに内海漁民との関係が強まるようになれば、反対の力は強まることになる。
祝島漁協は、油代もよそが50円台のとき72円、魚のマージンも最高で、漁民は難儀し、漁業振興のための原発反対ではないと、全県はみなしている。二井県政が、合併漁協をふやすために、祝島を対象に加えたとなると、原発は二の次にしたとみなしたことは明らかである。
深刻な町財政破綻 残ったのは借金と継続事業
さらに、町民のなかで深刻な問題は上関の町財政の破たんである。県は、上関町も合併を迫り、原発を終わりにする動きをした。当時の片山町長は、合併を拒否し、中電と密約していた36億円を出せといったが、中電から切り捨てられる結末となった。しかし、国も県も、原発計画があるからといって、特別扱いをして金は出さなかった。「国策」扱いをしなくなったのである。
上関町には、1994年の環境調査にともなって、電源立地地域対策交付金として毎年7億円以上が国から入っていた。それが、今年度で10年間の期限がきれ、来年度からは8000万円しか入らなくなる。地方交付税も、毎年1億円以上が他の市町村と同じように減額されている。
片山前町長時代、中電から5年間で36億円の協力金を見こんで、100人ほどしかかよわない小学校に30億円をかけたり、なんに使うのかわからない埋め立てを室津につくったり、上関の城山に公園をつくったりと大盤ぶるまいの計画をすすめたが、中電との密約はホゴにされ、借金と継続事業だけが残った。
17年度の予算編成は、各課のぎりぎりまでの予算カット、町内の各種団体への補助金の削減、うち切りがされ、これまで積み立てられてきた基金をほぼすべてとり崩して、どうにか形にしたといわれるが、今後の財政はまったく見とおしがたたない。関係者は青ざめた顔になっている。柏原町長は、「協力金はいまのところ中国電力に求める気はない」と中電への公約を守る姿勢で、中電には迷惑をかけずに自己責任をとる様子。
詳細調査といっても、着工にならなければ、つぎの交付金は入らず、そのまえに役場そのものが倒産することは必至の情勢となった。役場の倒産は国の管理下に入り、合併・身売りのもっとも情けないコースということである。
役場がなくなれば、町長もおらず、議員もおらず、町に推進の旗を振るボスがいなくなることになる。事実、1昨年は、片山町長が切られ、中電は、町長選をめぐってすったもんだの騒動をやらせ、あげくは選挙違反で町長選のやり直し。一連の騒動の結果、20年来推進の旗を振ってきたボス連中が陰にかくれてしまい、わけがわからない新人ばかりとなって、ボスの権威もなくしてきた。
こうして、中電は詳細調査をやるというが、二井県政は上関町について、漁協を解散させ、役場も倒産させ、町をつぶしてしまおうとしている。これは原発推進政治が売町政治であったことを示している。原発ができたのちに町がつぶれていくのが、福島県や福井県で問題になっていたが、上関では原発はできないのに、町がつぶれるのである。これは中電や国、県の残酷さを教えている。
上関町内では、23年たって到達した現実をまえに、町民の世論が転換する局面になっている。中電と国、県が長いあいだ、町民をさんざんにもてあそんできたことへの深い怒りがまき起こっている。地域振興どころか、地域破壊となった。漁業は温排水が出るまえにつぶす。役場もつぶす。そして、人が住めなくなったあとに、ミサイルに狙われる大量破壊兵器・核のゴミを持って来るというのである。
いわんや原水爆戦争の標的にし、郷土を廃虚にすることにたいして、さらに内海漁業を壊滅させることにたいして、上関町民と全県、広島、全国の力を結集して、原発問題に決着をつけること、そして23年間苦難を押しつけた上関町民にたいして、中電と国、県に責任をとらせるために、すべての力を結集することが求められている。