安倍晋三前首相が国会で虚偽答弁をくり返した「桜を見る会」前日の夕食会(前夜祭)をめぐり、東京第一検察審査会は、公選法違反や政治資金規正法違反の疑いで刑事告発された安倍晋三前首相や秘書らを不起訴とした東京地検特捜部の処分について、一部を「不当」と議決(7月15日付)した。検察審査会制度は、国民のなかから選ばれた11人の検察審査員が検察が下した処分の当否を審査するもので、告発人による申し立てを受けておこなわれた。検察には再捜査が求められる。
検察審査会の議決書では、特捜部が不起訴とした以下の点を「不当」とした。
一つ目は、「都内のホテルで、桜を見る会に先立ち行われた『安倍晋三後援会桜を見る会前夜祭』において、選挙区内の後援会員に対し、飲食代金不足分を補てんしたことが後援団体関係寄附に当たる」という公職選挙法違反について。告発状によると、補填額は2015~2019年までの5回で合計916万円にのぼる。
参加した後援会関係者に利益供与を受けたという認識があったかが焦点となるため、東京地検特捜部は複数の参加者の「食事が物足りない」「寄附を受けた認識はない」という供述をもって不起訴とした。
議決では、「寄附の成否は、あくまで個々に判断されるべきであり、一部の参加者の供述をもって、参加者全体について寄附を受けた認識に関する判断の目安をつけるのは不十分と言わざるを得ない」とし、「都心の高級ホテルで飲食するという付加価値も含まれているのであるから、単純に提供された飲食物の内容だけで寄附を受けたことの認識を判断するのは相当とは言えない」と指摘。
また、特捜部は安倍前首相の関係先を家宅捜索しておらず、捜査は任意の事情聴取にとどまった。
議決では「被疑者安倍の犯意について、不足額の発生や支払等について、秘書らと被疑者安倍の供述だけでなく、メール等の客観的資料も入手した上で、被疑者安倍の犯意の有無を認定すべきである」と証拠収集の不十分さにも言及した。
そのうえで「十分な捜査を尽くした上でこれを肯定する十分な証拠がないとは言いがたく、不起訴処分の判断には納得がいかない。したがって、被疑者安倍及び被疑者配川両名とも不起訴処分は不当である」とした。
二つ目は、安倍前首相が代表を務める資金管理団体「晋和会」の会計責任者(西山猛私設秘書)による収支報告書不記載と、その選任監督責任を怠った代表者である安倍前首相の政治資金規正法違反について。前夜祭は後援会主催であるものの、差額を補填したのは「晋和会」であり、告発状によれば5年間の不記載総額は2団体で計5600万円にのぼる。
特捜部は前夜祭の主催者(ホテルとの契約主体)は「安倍晋三後援会」とし、一連の費用は後援会の収支報告書に記載すべきとし、後援会の役職についていない安倍前首相らを不起訴とした。だが、ホテル側が発行した領収証の宛名は「晋和会」だった。
検審の議決は「一般的には宛名に記載された者が領収証記載の額を支払ったことの証憑(しょうひょう)とされるから、宛名となっていない者が支払ったという場合は、積極的な説明や資料提出を求めるべき」「晋和会の資金による支払があったかどうかについて、十分な捜査が尽くされているとは言いがたい」と指摘。安倍前首相についても「選任監督に対する注意義務違反の有無の捜査も行われるべき」とした。
さらに議決は「付言」として、「『桜を見る会前夜祭』の費用の不足分を現金で補てんしているが、現金の管理が杜撰であると言わざるをえず、そういった経費を政治家の資産から補てんするのであれば、その原資についても明確にしておく必要があると思われ、この点についても疑義が生じないように証拠書類を保存し、透明性のある資金管理を行ってもらいたい」「政治家はもとより総理大臣であった者が、秘書がやったことだと言って関知しないという姿勢は国民感情として納得できない。国民の代表者である自覚を持ち、清廉潔白な政治活動を行い、疑義が生じた際には、きちんと説明責任を果たすべきであると考える」と締めくくっている。
東京地検特捜部は昨年12月24日、安倍前首相を「嫌疑不十分」で不起訴処分とし、同じく不起訴にした配川博之公設第一秘書に罰金100万円の略式命令を出した。配川氏について安倍前首相は「本人も反省のうえ、公設秘書を辞職した」と国会で説明したが、本人は現在も私設秘書として安倍事務所で活動していることが話題になっている。