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もらった側も処分せよ 参院広島選挙区の買収事件で東京地検が100人を不起訴

 2019年7月の参院選広島選挙区をめぐる大規模選挙買収事件で、現金を配った公職選挙法違反容疑で逮捕起訴された河井克行法相(当時)に懲役3年、同じく妻の河井案里には懲役1年4カ月・執行猶予5年の有罪判決が下った。一方、現金を受けとった広島県内の県議や市議など100人について、東京地検特捜部は6日付けで全員不起訴としており、自民党による組織的犯罪を擁護するために「選挙の公正性」までも歪める検察への疑念が高まっている。現金受領の議員が跋扈(ばっこ)する議会に対する県民の信用も地に堕ちるものとなっており、信頼回復にはほど遠い。

 

 選挙買収事件は、贈収賄と同じく、買収した側(供与者)と買収された側(受供与者)の双方に犯罪が成立することになる「対向犯」であり、両者が処罰されるのが原則だ。とりわけ公職選挙法違反の罰則適用は、「選挙の公正」を確保するためにおこなわれるものであり、特に公平性が重視されなければならない。多額の現金による買収事件(5万~200万円)でありながら、被買収者側全員の不起訴(起訴猶予)は、前代未聞の刑事処分となり、「公職選挙法そのものを空文化させるもの」と波紋を呼んでいる。

 

 東京地検次席検事は記者会見で、被買収者全員を不起訴処分にした理由について「河井克行が主導した犯罪で、克行が受供与者の選定など全体を差配した。大規模買収だが組織的買収事案とは異なっている」「積極的に求めた者はいなかった。いずれも受動的で、むりやり渡された者もいた」「公判で明らかになったリストでは今回の100人以外の者も含まれているが、証拠によって認定できたのが100人。被告発人100人だけを処分するのは法的な公平性に欠ける」などと説明した。

 

 これに対して法曹界からは、「候補者個人が主導したものだから、被買収者を処罰しなくてもよいなどという話は聞いたことがない」「通常の選挙買収事件は、候補者側が票や選挙運動をカネで買おうとして、積極的にカネを渡そうとするものが大部分であり、被買収者側が投票や選挙運動をしてやる見返りに金を要求する事案はむしろ少ない」「この理屈が通用するのなら、どんな贈収賄事件も、“断り切れずにやむを得ず賄賂を受け取った”で許されることになる」との意見があがっている。

 

 選挙買収事件をめぐっては、自民党本部から選挙資金として政党交付金(税金)を含む合計1億5000万円(同じ自民党候補・溝手陣営の10倍)が河井夫妻の支部に振り込まれており、約3000万円にのぼる買収の原資になった可能性がある。克行氏は公判で「(買収に使った金は)すべて私の手持ち資金」「(1億5000万円は)完全に使い切った。1円たりとも買収資金には使っていない」と強調したが、資金の出所は不明だ。

 

 下関市の安倍事務所から公設秘書などが支援者回りをしていた事実も明らかになっており、100人にのぼる被買収者を処罰すれば、自民党の組織的犯行を裏付ける新たな事実が明るみに出る可能性があったことから、河井夫妻2人のみを有罪とすることで事件の幕引きをはかる政治的な力が働いたと見られている。

 

 被買収側の刑事処分を求めて告発していた広島市の市民団体は、検察の処分を不服として、検察審査会に審査を申し立てている。 

 

受領県議は正副委員長等に

 

 不起訴処分となった広島県内の政治家は40人。不起訴処分と同じタイミングで広島県議会では、6日の人事で、買収事件で現金を受けとった自民党県議13人のうち6人が正副委員長など主要ポストに選出された。

 

 議会運営委員長には、現金30万円を受けとっていた山下智之(自民議連・廿日市市)。常任委員会では、農林水産委員会の副委員長に、30万円を受けとった平本英司(自民議連・三原市)、警察・商工労働委員会の副委員長に、30万円を受けとった佐藤一直(広志会・広島市中区)が選出された。

 

 また、「県土強靱化・危機管理強化対策特別委員会」では、20万円を受けとった渡辺典子(広志会・広島市安佐北区)が委員長に就任。副委員長には30万円を受けとった平本英司。「地域魅力向上・適散適集社会づくり対策特別委員会」では、30万円受領の窪田泰久(自民議連・広島市南区)が、「広島都心エリア活性化推進特別委員会」には50万円受領の沖井純(自民議連・江田島市)が、それぞれ委員長に選出された。

 

 自民党広島県連の中本隆志会長代理(県議会議長)は、不起訴処分に「党としてもほっと胸をなで下ろした」と記者団にのべ、有権者の憤激を集めている。

 

 13人が現金を受けとった広島市議会でも、50万円を受領した伊藤昭善(市政改革ネット・安佐北区)が、議会運営委員会副委員長と大都市税財政・地方創生対策特別委員会副委員長に選出された。

 

 また、30万円受領の石橋竜史(自民保守クラブ・安佐南区)が「都市活性化対策特別委員会」副委員長、30万円受領の木戸経康(自民市民クラブ・安佐北区)が「安心社会づくり対策特別委員会」の副委員長となった。

 

 なお、50万円を受領していた今田良治市議(自民市民クラブ・安佐北区)は、裁判で「受けとった金はまちづくり団体に全額寄付した」と証言し、議会では「団体から返金があった」と説明していたが、団体側からの抗議で、それらの証言が虚偽であり、実際には生活費に充てていたことが判明している。

 

 広島市内の有権者からは「市民県民から負託を受けた特別公務員という自覚がなく、“自分だけではない”と悪事を開き直っているのなら、まさにネクタイを締めた乞食ではないか」「議会が犯罪者集団になっている状態で、まともな議会運営ができるとは思えない」と義憤が高まっている。

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