東京都議会議員選挙の投開票が4日におこなわれた。都議選は全42選挙区で127議席が争われ、小池百合子・東京都知事が特別顧問を務める都議会最大会派の「都民ファーストの会」(都民ファ)は改選前の45議席から31議席に激減。「自民一強」を批判するスタンスをとりながら都知事になった小池百合子が2017年に立ち上げたが、わずか4年でその賞味期限切れをあらわすこととなった。一方、都民ファの凋落で目先を誤魔化しつつ、復権を狙い衆院選に向けてはずみを付けたかった自民党も伸び悩み、公明党とあわせても目標としていた過半数獲得には及ばなかった。
今回の東京都議選は、各党が、今秋に実施される衆院総選挙の前哨戦と位置づけ、国政選挙並みの態勢で臨んだ。だが、投票率は過去2番目に低い42・39%となり、前回2017年の都議選(51・28%)を8・89下回った。過去最低の1997年(青島都政時代)の40・80%をわずか1・59上回る程度の、きわめて低調な投票行動となった。
国内で新型コロナウイルス感染症のまん延が始まって約1年半が経過するなか、実効性のある感染防止策やそのための生活補償策はうち出されないまま、一般市民への行動や営業の自粛要請と緩和が延々とくり返されるだけで、東京都などで3度発令された緊急事態宣言ももはや効果は見られない。ベッド数が足りず医療崩壊の事態も深刻化するなかで、検査や隔離施設などの防疫体制は一向に拡充されず、陽性者の数字が上がる度に、ただ危機を煽って自粛を要請するだけの政治に対する有権者の失望や不信感の強さを物語った。
また、今年に入ってデルタ株などの感染力の強い変異株が拡大し始める一方、ワクチン接種も進まないなかで、あらゆる特例措置を講じて五輪・パラリンピックは予定通り開催に向かって突き進み、専門家や世論調査における中止や無観客開催を求める声すら無視して、「万歳突撃」状態で開幕(7月23日)を迎えようとしている。
これまで自民党と対峙するポーズをとってきた小池都政も存在感を示せないどころか、「都民ファースト」「東京のことは東京都民で決める」を掲げながら無為無策の国政与党と共同歩調をとり、自民・公明とともに有権者の厳しい審判に晒された。
そして、なにより約6割もの有権者が棄権した選挙は、国政と同じく都議会においても明確な対立軸とみなされる勢力の存在が乏しく、有権者の切実な政治要求を吸収し得る実力を持った受け皿が乏しいというシビアな現実を浮き彫りにした。
都民ファースト 欺瞞はがれ45→31に減
今回の都議選には、平成以降の32年間で最多の271人が立候補し、定数の127議席を争った。
政党別で見ると、改選前に議会最多の45議席を有していた「都民ファースト」は、38選挙区に47人(現職42・新人5)の公認候補を擁立したが、当選者は31人にとどまり、現職11人を含む16人が落選した。
2017年の前回都議選では、前年の都知事選で「都政改革」を標榜して自民党候補に圧勝した小池都知事が、長らく第一党の座にあぐらをかいてきた自民党に対抗する勢力として政治団体を立ち上げ、これに呼応した自民党や民進党、みんなの党の都議や区議などが合流。第三勢力として誕生した「都民ファーストの会」の一挙手一投足をメディアが賑々しく報じ、小池知事と「都議会のドン」こと自民党都連幹事長(当時)の内田茂・元都議との丁々発止を大々的にとりあげるなどして、自民党に反旗を翻す「小池旋風」のムードを演出。公明党も都議選では自民党との協力関係解消を宣言して都民ファ勢力と協力体制をとり、都民ファは擁立候補50人のうち49人が当選。その後、推薦した無所属6人の追加公認を含めて55議席を確保する大勝となった。
これは「自民党をぶっ壊す!」といって総選挙で大勝した小泉政府と同じくメディアの劇場型演出による要素が強く、「自民党と袂を分かった小池百合子」「政界のジャンヌダルク」などの印象をくり返し刷り込むことによって、政治の私物化疑惑があいつぐ自民党一強体制に対して怒りを持つ有権者、とくに都政刷新を望む無党派層(浮動票)をとり込むための大がかりな仕掛けだった。
国政をめぐっても、同年10月の衆院選に向けて、小池都知事が代表となって「希望の党」を設立し、野党第一党の民進党代表(当時)の前原誠司が自党を解党してこれに合流。安倍政府のモリカケ疑惑や安保法強行可決などで湧き上がる反自民世論の受け皿となりうる野党の結集軸を解体し、衆院選において「自民一強」を維持するうえで最大のアシストをした。有権者を陽動するワンポイントリリーフ政党としての役目を果たした後、翌2018年にはあっけなく解散した。
これら小池新党の一連の動きが示すことは、「弛緩した自民党とたたかう第三勢力」という格好をとりながら有権者を惹きつけつつ、野党勢力を解体して自民党体制を補完することが主な役回りであり、メディアや連合を含む財界の代理人が小池百合子を担ぎ上げて仕掛けた欺瞞であった。
だが、1回目の都知事選で訴えた「築地(市場)を守る」の約束も、自民党路線を踏襲して豊洲移転を進め、築地市場は解体。「待機児童ゼロ」「残業ゼロ」「満員電車ゼロ」などの7つのゼロ公約も軒並み達成のメドは立っていない。
「反自民」のメッキも剥がれるなかで、有権者からの批判の煽りを受けて都民ファからは離脱者があいつぎ、都議会で55あった議席は45にまで縮小。その後の区市町村選挙でも連敗が続いた。小池百合子自身は自民党と「復縁」し、昨年7月の都知事選では、それまで対立していたはずの自民・公明両党に加え、連合の推薦も受けて再選を果たした。
昨年から続くコロナ禍の下で、営業自粛や医療逼迫で苦しむ都民を尻目に、国政与党と共同歩調をとりながら五輪開催に突き進み、自民党との政策的な対立点は皆無となった。感染対策に必要なPCR検査の拡充もせず、9000億円以上あった都の基金(貯金)はコロナ対策費用で吐き出し、困窮する事業者に対する支援金の給付さえも滞ったが、財源不足を補うために国に財政出動を迫るなどの動きも見せず、ただ責任のなすり合いに終始した。
一方、東京五輪開催に投じられる都の予算は、現在発表されているだけで総額1兆5000億円にのぼる。1年延期によって都の負担は1200億円上積みされ、その額だけでも昨年末までに実施した時短営業協力金の予算(835億円)の1・4倍、年末年始の医療機関や薬局への支援金予算(40億円)の約30倍に相当する規模に膨れあがっている。
コロナ対策や五輪強行をめぐって批判世論が高まると雲隠れするように入院し、都議選では自党候補の応援にも出向かないなど、都民ファ自体も組織としてのまとまりを失って空中分解の様相を見せていた。都議選の結果は、小池新党「都民ファースト」の賞味期限切れを示すとともに、小池都政5年に対する有権者の強烈な不信任を突きつけるものともなった。
自民党 過去二番目に少ない議席
一方、都議会における復権を宣言していた自民党(改選前25議席)は今回、無投票当選した小平市選挙区を含む全42選挙区に計60人を擁立。前回選挙では過去最低の23議席に落ち込む歴史的大敗を喫しており、今回選挙では公明党との連携を強め、菅首相こそ直接応援に入らなかったものの、安倍前首相、ワクチン担当の河野太郎行政改革担当相らが連日応援に入ってワクチン接種の実績などをアピールし、国政選挙並みの体制で組織票を引き締めた。
だが選挙前には「50議席の大台に乗る」「自公で過半数(64議席)獲得」の目標を掲げていたものの、結果は33議席。かつがつ第一党の座を確保したものの、大敗を喫した前回に次いで過去2番目に少ない議席数となった。
都民ファの凋落といっても、もともと自民党と「同じ穴のムジナ」であり、小池自身の自民党復党も常にとり沙汰されてきた。自民党批判が高まるたびに違う色の衣をまとった別働隊が登場して目先をごまかすという手法が見抜かれた結果であり、全体としては国政与党である自民党への批判の強さを物語った結果といえる。
注目された1人区(4市区)では、自民党が獲得したのは中央区だけで、「都議会のドン」こと内田元都議の娘婿が出馬して議席奪還を目指した千代田区では、鞍替え候補の都民ファ新人に敗北。昭島市、青梅市でも都民ファ現職に敗北し、小金井市では無所属新人に敗北した。また、葛飾区、文京区、大田区、新宿区、日野市では現職があいついで落選した。
都民ファと選挙協力した前回と打って変わって、今回は自民党との協力関係を復活させた公明党は、8回連続の全員当選を目指して23人の現職を擁立し、かろうじて現有議席を維持した。だが、自民・公明をあわせても56議席で、過半数(64議席)獲得には届かず、国政与党としての次期衆院選の雲行きは暗いものとなった。
さらに、大阪を足場にして東京進出を狙った「日本維新の会」(改選前1議席)も、過去最多の13人を擁立したが、当選は1人にとどまった。
都議選にあたり維新は、都債発行による2兆円規模の財政出動や「身を切る改革」として議員報酬カットを唱えつつ、「余分な事業は民間に任せてスリム化」するとして、都営住宅の民間売却または民間委託、都営地下鉄の民営化、水道事業の民営化、都立図書館の民間委託など、大阪モデルの新自由主義的な政策を打ち出した。
小池都政を批判する野党的ポーズをとりながら批判票のとり込みを狙ったが、橋下体制以降10年にわたって「大阪都構想」をゴリ押ししてきた大阪のコロナ禍における全国最悪の惨状は都民の警戒心を高め、維新の東京進出はあえなく失敗に終わった。
一方、わずかに議席を増やしたのが立憲民主党で、擁立した28人のうち15人が当選して改選前から7人増となった。だが、増えたとはいえ改選前議席が少なかったうえに、五輪開催や都立病院の独法化を進める与党との争点が不鮮明で、批判票や浮動票を呼び込む受け皿となり得たとはいえない結果となった。
五輪中止などを前面に出した「共産」は31人を擁立。いくつかの選挙区で立憲民主党と候補者調整をおこなったこともあり、改選前の18議席から1議席増やしたが、これもまた無党派層をとり込むほどの勢いはなく、得票が急増したわけでもない。
れいわ新選組 衆院選に向け課題残す
既存の野党勢力と一線を画し、世田谷区、杉並区、足立区に計3人の新人候補者を擁立したれいわ新選組は、初めての地方選挙への挑戦となり、五輪中止、コロナの災害指定、コロナ禍での10万円給付や事業者支援、PCR検査の拡充などの具体的政策を掲げて無党派層に地道な訴えを広げたが、当選者を出すには至らなかった。シビアな現実を受け止めつつ、課題を明確にして次期衆院選での奮起が期待される。
開票結果を受けて山本太郎代表は、「コロナ禍においても都民の命と生活・事業を守ることに積極的でない都政に、大胆な発想で既得権にしばられず都民と都政をつなぐ政党の必要性を訴え戦った。結果は残念ながら、議席獲得までには至らなかった。選挙の結果からいえば、敗北」としつつ、「今回、これまで選挙に主体的に参加したことがなかったボランティアの方々が、中心的役割を担ってくださった。その数が増えていかなければ、社会を変えることは難しい。多くの人々に犠牲を強い、ごく一握りのための政治に終止符をうち、時代を切り開く力は、ボランティア選挙にこそあると確信している。次回からは都議選で経験を重ねた人々の力がさらに加わり、今回の反省と成果を次期衆議院選挙に繋げ、臨んでいきたい」「明日から、また始めていきます」とする談話を発表した。