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土地規制法案 参院内閣委参考人質疑で識者が警鐘 

 衆議院で強行採決(6月1日)され、参議院に回された「土地規制法案」をめぐり、同法案を審議する参院内閣委員会は14日、参考人として有識者3人を招いて意見陳述と質疑をおこなった。参考人には、与党が推薦した吉原祥子氏(東京財団政策研究所研究員)、野党側が推薦した元東京新聞記者の半田滋氏(防衛ジャーナリスト)、同じく福島原発事故の被害者救済訴訟などに携わってきた馬奈木厳太郞氏(弁護士)が招かれた。メディアではとりあげられていない同法案の問題点を指摘した半田氏と馬奈木氏の意見陳述の内容(要旨)を紹介する。(見出しは編集部)

 

 

■正当な理由なく際限のない私権制限

          防衛ジャーナリスト 半田滋

 

 この法案には三つのポイントがある。

 

 一、米軍や自衛隊、海上保安庁、生活関連施設などの敷地の周囲約1㌔と、国境離島などを個別に「注視区域」や「特別注視区域」に指定し、所有者の個人情報や利用実態を不動産登記簿や住民基本台帳などを基に政府が調査する。

 

 二、必要に応じて所有者に報告を求め、利用中止を命令できる。

 

 三、利用の中止命令に応じなければ、2年以下の懲役、または200万円以下の罰金に処す。

 

 以上の三点である。論点について説明する。

 

個人情報を丸ごと収集

 

 この法案は「注視区域」に指定される対象区域が広く、その分、広範囲にわたって住民の調査が及ぶ。重要施設、つまり自衛隊、米軍基地や海上保安庁施設、そして重要インフラが「注視区域」となり、周辺1㌔に住む住民が調査対象となる。

 

 その「調査」は、現地調査からはじまり、内閣総理大臣が「必要がある」と認めた場合、地方自治体などに「土地利用者の氏名、住所、その他、政令で定めるもの」を求めることができると書かれているが、「その他」が何かは法制定後の「政令」までわからないというあいまいさがある。

 

 土地登記簿や住民基本台帳を見るだけでは氏名、住所が判明するだけで、土地利用者の属性はわからない。そこで、政府が「必要があると認めるとき」に「土地利用者から報告または資料の提出を求めることができる」との規定を根拠に、さらに個人情報を収集することになる。

 

 収集される個人情報は、思想・宗教、家族や姻戚、友人関係、海外渡航歴の有無、現在及び過去の職歴、趣味などを幅広く総合的に収集することによってはじめて意味を成すことになる。つまり、重要施設の近くに住んでいるというだけで個人情報が丸ごと国家に収集されること、そのこと自体に問題がある。

 

土地取引が抑制される

 

 「特別注視区域」に指定された場合、200平方㍍以上の土地取引は、内閣総理大臣に届け出を義務づけ、違反した場合に刑罰を科すことにしている。

 

 例えば、東京屈指の住宅密集地、新宿区にある防衛省の周囲1㌔が「特別注視区域」に指定されるのは確実だろう。

 

 防衛省と同様に米軍で司令部機能のある東京の横田基地、神奈川の横須賀基地及びキャンプ座間、沖縄のキャンプ・コートニーも指定される可能性が高い。

 

 いずれも住宅地に囲まれ、普通に土地取引がおこなわれている。土地取引規制法が制定された場合、内閣総理大臣への届け出と許可という手続きが加わることにより、自由な土地取引が抑制され、土地価格が下落する可能性がある。

 

 土地価格の下落は注視区域においても発生する可能性がある。土地利用者にとっては重要施設の周辺に居住するというだけで財産が目減りする可能性がある。

 

 200平方㍍といえば、これから計画するビルやホテルの多くが該当する。手続きの煩雑さに嫌気が差し、ビルやホテルの建設を他の場所にしたり、諦めたりする例が出てくるのではないか。

 

 政府は昨年、「GoToトラベル」キャンペーンに踏み切り、コロナ禍で苦しむ観光業の支援を実施した。一方、この法案は、ホテル建設を抑制することから外国人観光客を増やすというインバウンド政策と矛盾する。

 

定義が曖昧な重要インフラ

 

 「重要施設」となる生活関連施設(重要インフラ)について、法案は「政令で定める」としており、これまでの国会答弁で政府は「原発」と「自衛隊」と共用している民間空港を挙げている。

 

 だが、例えば内閣サイバーセキュリティセンターは、情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス(地方公共団体を含む)、医療、水道、物流、化学、クレジット、石油の一四分野を重要インフラに特定しており、法施行後、政令によって範囲がとめどなく広がる可能性がある。

 

 こうした重要インフラの多くは都市部に集中しており、今回の土地取引規制法案は、多くの国民に調査の網を掛けることになっている点を指摘しておきたい。

 

 法案にある「政令で定める」との言葉は、行政府への丸投げであり、立法府としての責任放棄にほかならない。法案には何が生活関連施設となるのか具体例を示す必要がある。

 

 外国の例として米国、豪州、韓国には基地周辺の土地取引を規制する法律があるものの、重要インフラにまで踏み込んでおらず、この法案は他に例をみないほど、土地規制の範囲が広がる可能性がある。

 

 そもそも英国やフランスはそうした規制そのものが法律としては存在していない。

 

立法事実がない

 

 法制定する必要性として、地方議会における懸念が示されたことを挙げている。

 

 2013年9月の長崎県対馬市議会で韓国人による自衛隊基地周辺の土地の取得がとりあげられた。対馬市長は、取引を認めたうえで、対馬の土地の0・0069%が該当すると答弁した。市面積の0・01%にも満たない土地の取引が問題視される必要があるか。

 

 面積の問題ではないという指摘もあるだろう。

 

 私は2010年2月、対馬に行って取材した。海上自衛隊対馬防備隊近くの土地を韓国資本が購入したとされ、部隊から見えるところに民宿があった。部隊によると、所有者は韓国人で韓国の釣り人を受け入れているとの話だった。

 

 対馬と対岸の韓国・釜山との間は高速フェリーで約一時間。コロナ禍の前まで対馬は韓国からの観光客や釣り客であふれていた。韓国資本が土地を購入してホテルなどを建設するのはおかしな話とは思えない。

 

 実際に不法侵入、通信妨害など「機能を阻害する行為」はあっただろうか。あったとすれば、現行法で対応できない理由は何なのか、政府は明らかにする必要がある。

 

 防衛省は全国約650の防衛施設に隣接する土地を調査した結果、「自衛隊の運用に支障が出たことは確認されていない」としている。

 

 この法律を制定する必要性、つまり立法事実がないにもかかわらず、法制定を急ぐのだとすれば、別の理由を疑わないわけにはいかない。

 

「機能阻害」はさじ加減

 

 沖縄県警は6月4日、チョウ類研究者の宮城秋乃さんの自宅を家宅捜索し、パソコンやビデオカメラなどを押収した。宮城さんは連日のように事情聴取を受けている。

 

 宮城さんは以前から米軍から政府に返還された北部訓練場から廃棄物の回収を続けてきた。土地の返還時、原状回復は日本政府がおこなうことになっているが、いい加減な作業のため、あちこちに薬莢(やっきょう)や空き缶などの廃棄物が散乱している。その廃棄物の一部を北部訓練場のメインゲート前に置いたことが威力業務妨害に当たるという。置かれた廃棄物は空き缶などで、またいで通れる程度の分量でしかない。

 

 米軍は兵士らの不道徳を恥じることはあっても、宮城さんを逆恨みするのは筋が違うと思うが、通報を受けた沖縄県警の対応は、土地取引規制法案の先取りというほかない。

 

 法案は「安全保障上の観点から重要施設及び国境離島等の機能を阻害する土地の利用を防止」とあるので、政府が「機能を阻害する」と認定すれば、特定の住民が立ち退きを求められることになる。

 

 宮城さんが廃棄物を置いた行為について、県警は「機能を阻害する」と認定した。この事例から、何が機能阻害に当たるのか、認定する側のさじ加減ひとつであることがわかる。

 

沖縄全島が注視区域に

 

 沖縄県などの国境離島は、島そのものが注視区域に指定されるのは確実だ。145万人いる沖縄県民すべてが調査対象になる可能性がある。

 

 これを本土並みに自衛隊基地や米軍基地の周囲1㌔としても相当数の住民が対象となる。例えば普天間基地のある宜野湾市の場合、「沖縄平和運動センター」の調査では対象者は宜野湾市民の9割にあたる10万人と試算している。

 

 普天間基地は、沖縄戦のドサクサで住民が避難している間に、米軍が村役場や住居、田畑を潰して滑走路をつくり、周囲を囲い込んで基地とした。戦後、戻ってきた住民らは仕方なく、普天間基地の周りに家を建てて住み始め、現在のように住宅に囲まれた基地となった。

 

 1972年の本土復帰時、沖縄県の屋良朝苗知事らは原状回復を求めたが、政府はこの要求を受け入れず、基地が固定化された。いまなお米軍専用施設の七割が沖縄に集中し、本土は沖縄の負担のうえにあぐらをかいているといわれても仕方がない。

 

 自衛隊のミサイル基地が開設された宮古島、開設準備が進む石垣島も同様だ。とくに宮古島の場合、収賄罪で起訴された前宮古島市長の3回にわたる防衛省高官との面会で購入を進め、防衛省がこれに従ったゴルフ場跡地に宮古島駐屯地が開設された。

 

 最初に計画した島の北東部の端にある牧場跡地でなく、市街地に近いゴルフ場跡地となったことで周囲1㌔に住む住民が対象となる。

 

 宮古島では現在も弾薬庫の開設をめぐり、反対する住民が多く、反対運動とつなげて情報収集するのは確実ではないか。

 

辺野古ゲート前で座り込みを排除する警察

情報保全隊が前例

 

 自衛隊のイラク派遣に際し、派遣に反対する市民らの行動を東北情報保全隊が監視し、個人情報を収集していた事実が明らかになっている。公表していない本名や勤務先の情報収集はプライバシー侵害で違法だとされ、裁判所から賠償金の支払いをいい渡された。

 

 このように違法な手法で個人情報を収集してきたわけであり、土地取引規制法が制定された場合、個人情報を収集するのは明らかといえる。

 

 現状の政府の体制では個人情報の収集に手が回らなくなるのは明らかで、あらたな組織の新設や拡充がおこなわれ、焼け太りすることも懸念材料となる。

 

 この法案の問題は、沖縄だけの問題ではない。東京や神奈川など大都市の住民が調査対象となり、各地で自由な土地取引が規制される。広く国民全体の問題である。

 

 

■国会の自壊に等しい政府丸投げ法案

              弁護士 馬奈木厳太郎

 

 この法案はおおよそ四つの言葉から成り立っている。「内閣総理大臣」「等」「その他」「できる」だ。例えば、「内閣総理大臣は○○等について、○○その他の○○に対して、○○することができる」というものだ。「等」「その他」という幅を持たせる表現が多い。

 

 何より「内閣総理大臣」という主語が圧倒的に多い。二八カ条の条文中に33回も出てくる。その結果、この法案は国民の権利を保障するものではなく、政府に権限を与える行政命令のような内容になっている。いわば、内閣総理大臣の内閣総理大臣による内閣総理大臣のための法案という印象を抱かざるを得ない。

 

 私は安全保障論の専門家ではなく、法律が適用される現場に携わっている。実務家の立場からは、この法案は一読して現場の人や当事者の意見を聞かないままつくられた法案であると感じる。

 

 区域指定による影響と弊害についていえば、「注視区域については検討中」とのことだが、特別注視区域に指定されると重要事項説明義務が生ずるとされている。売買などの契約に先立ち、宅地建物取引業者が説明をすることになるが、これは書面に「特別注視区域に指定されている」と一行書けばいいというものではない。根拠法令を資料につけたうえで、こんな会話が展開されることになるかもしれない。

 

 A「この土地は土地利用規制法に基づく特別注視区域に指定されています」
 Q「それってどんな法律ですか?」
 A「国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与することを目的とする法律で、土地等の利用実態を調査することになります」
 Q「何のために調査するのですか?」
 A「重要施設に対する機能阻害行為を防止するためです」
 Q「何かリスクがあるのですか?」
 A「リスクの有り無しも含めて調査します」
 Q「調査内容はどんなことですか?」
 A「氏名や住所、その他政令で定めるものですが、なお必要があると認められるときは土地等の利用に関して資料の提出や報告を求められることがあります」
 Q「誰が調査対象者なのですか?」
 A「利用者その他の関係者となりますが、利用者の定義はありますが、その他の関係者の定義はありません」
 Q「いつ調査されるのですか?」
 A「権利変動の際といった限定がないので、恒常的に調査される可能性があります」
 Q「調査されるときは何かお知らせがあるのですか?」
 A「そのような規定は設けられていません」
 Q「どんな手法の調査なのですか?」
 A「手の内は明かせません」
 Q「周りの人にも聞くのですか?」
 A「第三者からの情報提供の仕組みも検討中です」
 Q「機能阻害っていうのは?」
 A「閣議決定において例示されますが、一概には申せません。でも、勧告を受けたらわかりますから大丈夫です」

 

 冗談のように聞こえるかもしれないが、これは政府答弁だ。

 

 当事者の立場で想像してみてほしい。自分が調査されるかもしれない、規制がかかるかもしれないところをわざわざ購入するだろうか。しかも、この法案は、政府の説明では安全保障上のリスクがあるから法整備しようという話だ。

 

 区域指定されると、その地域はリスクがあるという風に一般には受けとめられるのではないか。

 

 5年後には見直しもありうるわけで、そうするとさらに規制が増えるかもしれない。区域指定された地域にとっては大打撃だ。

 

戦争の反省を覆すもの

 

 生活関連施設として原発が検討されているが、なぜ原発が対象になるのか理由がまったく明らかにされていない。

 

 法案では、「機能阻害」というのは施設外から人為的にもたらされる被害が想定されているが、原発については施設の中から被害はもたらされている。被害者は、施設のなかの事業者や、事業者を監督する国ではなく、周辺住民が被害者だ。原発によって阻害されるのは、ふるさとや地域との結びつきという機能であり、日常の生活や生業という機能だ。住民を潜在的な脅威とみなすような考えは、事故を起こした当事者である国として、厳に戒められるべきだ。

 

 さらに二二条では、「内閣総理大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に対し、資料の提供、意見の開陳その他の協力を求めることができる」としており、目的は広範で、「その他」と限定がなく、内閣総理大臣に包括的な権限が与えられている。

 

 例えば、基地ゲート前での座り込みや集会を開き、道路やその付近に工作物などを設置している場合、「安全保障上の観点から適当でない」と判断されれば、道路の管理者に撤去を求めることができるのではないか。しかも政府と地方公共団体は法的に対等なはずだが、内閣総理大臣の下請機関のような扱いになっている。

 

 二三条では、「国が適切な管理を行う必要があると認められるものについて」、「買取りその他の必要な措置を講ずるよう努める」とある。これは端的にいって、土地収用法を潜脱した形で、事実上の強制収用につながるのではないか。

 

 国が買取りを申し入れること自体、所有者には圧力となる場合がある。たとえば、石垣島では自衛隊の基地建設が進行しているが、周辺で建設反対の立場を示している所有者に買取りを申し入れることはないか。

 

 土地収用法は、防衛にかかわるものを、収用や使用ができる事業には含めていない。それは、先の大戦に対する反省があるからだ。

 

 戦後つくられ、長年にわたり守られてきた原則を、衆参通じても20時間程度の審議で、しかもこの論点についてはまったくといっていいほど議論が交わされていないにもかかわらず、覆すようなことがあってはならない。

 

暴走を止める機能なし

 

 さらにこの法案では、止められる人や止められる機関がない。事後的に検証できる制度ももうけられていない。その意味で公正とはいえない。

 

 どのような調査が、誰に対して、どんな手法で、いかなる協力を求めているのか、何を機能阻害行為と判断しているのか、そういった事柄を第三者がチェックし、場合によっては止めるといった手段が必要だ。

 

 法案は、「閣議決定で定める」「政令で定める」「府令で定める」「必要があると認めるとき」といった文言のオンパレードだ。国会の関与もなく、独立した第三者機関の関与もなく、調査対象者に調査の事実を告げるわけでもない。

 

 この法案は、全幅の信頼を政府に寄せることを国民に求めている。しかし、立憲主義の大原則は、権力は暴走することがあるというものだ。法案は、政府が国民を調査し、監視できるかのような内容になっており、完全に転倒している。そして、それを止める術をもたない。第四条は「個人情報の保護に十分配慮しつつ」とか「必要な最小限度のものとなるようにしなければならない」などとあるが、その制度的な担保はない。

 

住民を調査監視対象に

 

 法案によれば、沖縄県内の人が住んでいる島は、沖縄本島も含めてすべてが国境離島等に含まれており、国境離島等の場合には1㌔の制限なく区域指定できることから、その気になれば沖縄県全域を区域指定することができる。つまり、沖縄県民を丸ごと調査対象にすることができるということだ。安全保障の名目で、県民を監視下に置くかのような発想は、まるで戦前のようだ。

 

 沖縄県恩納村にある平和記念館として整備された沖縄研修道場には、都道府県ごとの戦争体験の証言集も置いてあり、戦争体験の辛さや悲惨さとともに、軍が住民をスパイ扱いした事実なども語られていた。資料館では、中国や韓国をはじめ各国との交流も展示してあり、外国の人々について「友」と記されていた。

 

 戦争の教訓も踏まえたとき、地域住民を調査対象とし、監視下に置くようなやり方は正しいものか。友と呼んだ外国人の人たちはこの法案を読んでどんな気持ちになるだろうか。

 

 沖縄は、長年基地被害に苦しんできた。つい先日も米軍の不時着があり、有機フッ素化合物による被害も出ている。ある学校では、米軍機が飛来すると校庭の生徒が避難しなければならない日常にある。政府は、口を開けば負担軽減というが、この法案は、まったく負担軽減にはならず、むしろ逆だ。

 

 この法案が成立すると、もっとも影響を受けるのは、間違いなく沖縄だ。沖縄の人々は、選挙権が停止されていたため、日本国憲法の制定に制度的にはかかわることができなかった。米軍統治のもと、銃剣とブルドーザーで土地を収用されながらも、サンマ裁判と呼ばれるようなたたかいも経て、民主主義や自治を粘り強く獲得してきた。沖縄の民意や自治を、またも踏みにじることは許されることではない。

 

戦前上回る権力の強化

 

 こんな政府丸投げ法案を成立させるようであれば「国会は何のためにあるのか?」という話になる。

 

 国境周辺の離島の実態調査と、都市部も含む防衛施設周辺の実態調査とではまるで意味が違う。そこを機能という言葉で無理につなぎ、軍事的合理性だけで突っ走ったため、ひどい法案になっている。

 

 「おそれ」を理由に規制を始めると、どこまでもその「おそれ」は尽きることがない。時間軸がどこまでも前倒しにされ、範囲が際限なく拡大される危険性がある。勧告や命令を出す根拠として、「機能を阻害する」とかその明らかな「おそれ」という風に定めているが、この機能という用語をキーワード・鍵概念としたことが、行為の特定をたいへんあいまいなものにしてしまっている。これまでの日本の法律で、罪となる事実を機能に着目するというあいまいな形で規定したものはないのではないか。

 

 それを今回「機能」としたのは、行為に着目する形ではとらえきれない、行為とは評価できないものも含めて対象にしたかったからと考えざるをえない。こうした可視化しづらいものを保護法益とするやり方は、罰則を予定する場合の大原則である予測可能性と抵触することになりかねない。今回の法案は、まさに抵触している。

 

 政府は、外国資本による防衛施設周辺の土地購入が安全保障上のリスクだとして、この法案の提案理由を語っているが、すでに衆議院段階で、立法事実がないということは明らかになった。

 

 そもそも「外国資本が……」という発想そのものが、実態としては行為に着目するのではなく属性に着目する発想だ。しかも、国籍という大括りの属性に着目し、特定の国を潜在的な脅威であるかのように扱うものだが、この発想自体が、ゼノフォビア(外国人嫌悪)であり、ヘイトにあたる。

 

 こうした考え方は、個人主義を基調とする日本国憲法とは相容れるものではない。運用に支障がないとされているなか、抽象的なおそれで、それこそ具体的な支障(立法事実)の例を一つも挙げないで、これだけの権利制限や規制をおこなおうというのはありえない。

 

 『何人といえども要塞司令官の許可を得るにあらざれば要塞地帯内水陸の形状を測量、撮影、模写、録取することを得ず』。これは要塞地帯法の条文だ。戦前の法律だが、何をしてはいけないのか明確に書いてある。

 

 いまは戦後だ。すべてを閣議決定、政令、府令に委ねるというのなら、国会はいらないと思う。

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