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コロナ禍逆手に取った厳罰化 通常国会で強行狙う菅政府 コロナ特措法改改定、デジタル関連法案、国民投票法改定…

 菅政府は18日召集の通常国会(会期150日間、延長1回まで)で、新型コロナウイルス対策特別措置法(新型コロナ特措法)改定案やデジタル庁設置に向けたデジタル関連法案を成立させようとしている。新型コロナ特措法改定案は緊急事態宣言下で行政が出す指示に従わない個人や飲食店に厳罰を科す内容で、デジタル関連法は日本社会全体のデジタル管理を目指す法案だ。そのほか米軍や自衛隊基地周辺にある土地の利用規制を強める新法、後期高齢者の窓口負担を2割(現行は1割)に引き上げる医療制度改革関連法案、改憲に向けた改定国民投票法案の成立も狙っている。

 

 コロナ禍で最優先すべき対策は、経済的打撃を受けている中小・零細企業や飲食店、失職した若者や生活苦に直面する人々への支援であり、医療・検査体制の拡充だ。だが国民生活を守る施策に力を注ぐのではなく、平時では成立させにくい厳罰・監視体制に直結する法整備を一気におし進めようとしている。

 

国民監視体制の強化

 

 菅政府は13日、与野党による新型コロナウイルス対策連絡協議会を国会内で開き、刑事罰を含む新型コロナ特措法改定案や感染症法改定案を示した。その主な内容は次の通り。

 

【新型コロナ特措法改定案】
 ▼緊急事態宣言の前段階として「予防的措置」(仮称)を新設。政府対策本部長(首相)が措置の期間や都道府県単位の区域を指定。対象となった都道府県の知事は宣言の発令がなくても事業者に営業時間の変更を「要請」できる。従わなければ「命令」に切り替え、違反した場合の過料も導入する。
 ▼緊急事態宣言については、事業者が知事の休業や営業時間短縮「要請」に応じない場合、現行法の「指示」より強い「命令」が出せるようにし、違反すれば50万円以下の過料を科す。
 ▼措置に応じない知事に首相が「指示」できる規定を新設。

 

【感染症法改定案】
 ▼入院措置を拒否した感染者に対して1年以下の懲役、または100万円以下の罰金。
 ▼保健所による行動歴などの調査を拒否したり虚偽答弁をした場合は、6カ月以下の懲役、または50万円以下の罰金。
 ▼患者の宿泊施設や自宅療養を義務化。

 

 こうした法案を菅政府は2月初旬にも成立させる方向だ。新型コロナ特措法は当初、今年1月末日まで(期間は政令で規定)の時限立法だった。そのため年明けすぐに政府は適用期間を1年延長(2022年1月末まで)し、罰則制度導入に乗り出している。

 

 現在の新型コロナ特措法は昨年3月、安倍政府(当時)が「新型コロナウイルスの感染拡大に備える」という理由で成立・施行した。同法成立にあたって安倍首相(当時)は「現時点で緊急事態を宣言する状況ではない」「万が一のための備え」と強調した。緊急事態宣言時について「報道の自由は守られる」とも断言した。そして法案審議入り後、わずか四日間で成立・施行に踏み切った。それは緊急事態宣言を発令し、全国民を首相の「指示」に従わせる前例作りが狙いだった。

 

 現新型コロナ特措法は2013年に施行した新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象に「新型コロナ」を加えた法律だ。それは「新型コロナが全国へ急速に蔓延し、国民生活に甚大な影響を及ぼす恐れが高い」と見なせば「緊急事態宣言の発令」を可能にする時限立法である。

 

 この「緊急事態宣言発動」までの流れは、①厚生労働相が「蔓延の恐れが高い」と判断し首相に報告、②首相が専門家で構成する諮問委員会に諮問、③諮問委が、通常のインフルエンザより重症例が多いなどの「要件」を満たすか判断、④首相が期間・区域(都道府県単位)を定めて緊急事態宣言を発令(緊急時は国会への事後報告も可能)、⑤知事が「具体的な対応」をとる、という5段階を経る。

 

 国民生活にかかわる「具体的な対応」(内閣官房の資料より)については、①外出自粛要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示、②住民に対する予防接種の実施、③医療提供体制の確保、④緊急物資の運送要請・指示、⑤政令で定める特定物資売り渡しの要請・収用、⑥埋葬・火葬の特例、⑦生活関連物資等の価格の安定、⑧行政上の申請期限の延長等、⑨政府関係金融機関等による融資等、を列記していた。

 

 これは「学校や映画館など多くの人が集まる施設の使用を制限」したり「臨時医療施設確保のための土地、建物の収用(強制使用を含む)」「医薬品、食品等の売り渡しや保管命令(強制収用含む)」などの強権を行政に付与する内容である。国や県による物資提供命令を拒む人や企業があれば、名前を公表したり、処罰(6カ月以下の懲役、又は30万円以下の罰金)することも規定していた。

 

 だが今回の改定は「物資や土地の提供」ではなく、営業時間短縮要請や保健所の質問に答えないという行動にも「罰則」を導入する内容だ。本当に「コロナ感染の防止策」を強力におし進めることが目的なら、手厚い補償体制が不可欠だ。だが、そのような体制整備よりも「罰則」導入を急いでいる。

 

 さらに現行の新型コロナ特措法の特徴は、国や国民の責務を変更していることだ。日本国憲法では、国家が国民の生活保障に役割を果たし、国民は公共の福祉(社会)のために役割を果たすことを基本にしている。しかし新型コロナ特措法は、「国、地方公共団体、指定(地方)公共団体の責務」を「新型コロナウイルス対策を迅速に実施する」とし、そのためなら土地の強制収用も認める内容に転換していた。加えて、事業者及び国民の責務は「新型コロナウイルス等の予防に努めるとともに対策に協力するよう努める」と変えていた。このような変更は単に部分的な「私権制限」にとどまる問題ではない。

 

 さらに行政に準じた統制対象となる指定公共機関として医療(日本赤十字社)、電気(全国の電力会社)、ガス(東京ガス等)、鉄道(JR各社)、道路管理(高速道路各社)、貨物運送(日本通運)、空港管理(成田国際空港等)、金融(日本銀行)、報道(NHK)、通信(NTTドコモ、KDDI等)、郵便(郵便局会社等)を指定し、指定地方公共団体には医師会、歯科医師会、薬剤師会、バス協会、トラック協会等を名指ししていた。

 

 こうした特措法の厳罰化を更に強める動きは、自民党政府が導入を目指してきた憲法への緊急事態条項導入とも無関係ではない。自民党は2012年に改憲草案を明らかにしたが、そこへ盛り込んだ緊急事態条項には「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる」という条文案を提示していた。

 

 「改憲」に向けた国民投票法案の成立が進まないなか、「新型コロナ感染を防ぐ」と称して、戦時の国家総動員を想起させる緊急事態条項導入の地ならしに拍車をかけている。

 

デジタル庁 マイナンバー普及急ぐ

 

 こうした法案とセットで成立させようとしているのがデジタル関連法案である。これも表向きは「給付金受給が遅れたのはマイナンバーカードの普及が遅れていたからだ」「コロナ感染を防ぐためにデジタル化を進める必要がある」と主張している。だがこの中心は日本社会を総デジタル化し、全国民をデジタル管理する専門官庁・デジタル庁の創設が狙いである。そのためにデジタル庁設置法案、デジタル社会形成基本法案(デジタル化推進の基本理念を規定)、デジタル社会形成関係整備法案(個人情報保護の仕組みを整備)、マイナンバーと預貯金口座情報を紐付ける預貯金口座登録法案や預貯金口座管理法案等の関連五法案を提出・成立させようとしている。

 

 新設するデジタル庁は今年9月から500人規模で発足させる方向だ。内閣直属組織で首相がトップを務め、担当閣僚として「デジタル相」を置き、副大臣、大臣政務官、デジタル監(特別職)、デジタル審議官を配置する方向だ。CTO(最高技術責任者)やCDO(最高データ責任者)も配置し、すでに100人規模の民間人を積極登用する方向で人員募集が始まっている。このデジタル庁の業務は国、地方、マイナンバー等の情報システムをみな管理し整備・運用することで、各府省への勧告権など「強力な総合調整機能」を持たせる内容を盛り込んでいる。

 

 そしてこのデジタル庁が行政デジタル化の「指令塔」となり、国民管理の要となるICチップ付きマイナンバーカードの普及を強力におし進めていく方針だ。マイナンバー制度は国民総背番号制の進化版で、国はこれまでも「取得者には5000円分のマイナポイント付与」など、さまざまな特典を付けてカード所持者の増加を図ってきた。しかしその効果は乏しく、今もマイナンバーカード所持者の数は24%にとどまっている。カード取得者が少ないままならマイナンバー制度自体の意味がなくなり、全国民をデジタル管理することもできなくなる。そのため政府は強力な権限を持つ専門官庁を作り、半強制的なマイナンバーカード普及に力を入れる構えだ。

 

 今後の予定としては、2022年度に「一人一口座登録の運用開始」「マイナンバーカード機能のスマホ搭載」「年度末までにほぼすべての国民のマイナンバー取得」、2023年度に「4月入省者から国家公務員のデジタル職の採用開始」、2024年度に「年度末までに運転免許証とマイナンバーカードの一体化」を計画している。行政手続きにとどまらず、マイナンバーカードと小中学校の成績まで紐付けする計画も動いている。

 

米軍・自衛隊基地防護 土地利用規制の新法も

 

 今国会では外国資本による自衛隊・米軍基地周辺の土地利用規制を強める新法も成立させようとしている。これは①自衛隊基地や米軍基地をはじめとする軍事関係施設、②国境離島、③重要インフラ施設(原子力発電所、データ通信のインフラとなる国際海底ケーブルの陸揚局、軍民両用機能を有する空港)の周辺の土地を調査・監視対象と規定し「不適切に利用している」と見なせば、所有者に利用中止勧告や命令ができる制度を作る法案だ。土地所有者に加え、建物所有者や建物入居者も調査・規制対象(アパートやビル等高所からの監視・偵察行為を防ぐため)とし、外国企業が米軍基地周辺の土地を買ったり、建物を活用するのを阻止するのが目的である。

 

 「とくに重要性が高い」と見なした土地(司令部機能を持つ軍事施設周辺等)は、事前届出なしで契約を締結したり、虚偽の届出をした場合は6カ月以下の懲役又は100万円以下の罰金を科す。同法案成立後は、「産業スパイ」防衛策を具体化する方向だ。欧米では「産業スパイ」の防衛策として国家機密へのアクセス権限を持つ人を限定するセキュリティ・クリアランス制度(国家機密にアクセスできるのは、家族、戸籍、交際関係、借金の有無、政治思想、海外渡航歴を徹底的に調べ、情報漏洩のリスクがないと認められた人のみ)がある。これをモデルにして防衛機密や先端技術を扱う人の適格性を徹底調査する認証制度の創設を具体化しようとしている。

 

医療制度改革法高齢者窓口 負担2割に

 

 医療制度をめぐっては昨年末に「全世代型社会保障改革方針」を決定し、年収200万円以上(複数世帯の場合は、後期高齢者の年収合計が320万円以上)の後期高齢者の窓口負担を現行の2倍となる2割に引き上げる医療制度改革法を成立させようとしている。菅首相は「2022年には団塊の世代が75歳以上の高齢者となり始めるなかで、若者と高齢者で支え合い、若い世代の負担上昇を抑えることは、待ったなしの課題」と主張している。負担増となるのは約370万人と試算され、2022年度後半にも新制度実施に踏み切ろうとしている。

 

 また、改憲手続きに不可欠な改定国民投票法案は昨年末、与野党が「来年の通常国会で結論を得る」ことで合意し「継続審議」になった経緯がある。

 

 改定国民投票法案は、憲法「改定案」の賛否を問う投票行動について規定した法律で、現国民投票法を2016年の改定公職選挙法(18歳以上の選挙権を認めた)に見合った内容に変える内容を盛り込んでいる。主な変更点は7項目(①「選挙人名簿の閲覧制度」への一本化、②「出国時申請制度」の創設、③「共通投票所制度」の創設、④「期日前投票」の事由追加・弾力化、⑤「洋上投票」の対象拡大、⑥「繰延投票」の期日の告示期限見直し、⑦投票所へ入場可能な子どもの範囲拡大)ある。具体的には、水産高校実習生に洋上投票を認めたり、投票所に同伴できる子どもの範囲を「幼児」から「児童、生徒その他の18歳未満の者」に拡大する、というような公職選挙法では、すでに実行している内容だ。

 

 そのため国民投票法自体に改憲内容に言及する規定はない。しかし国民投票法を成立させ、改憲手続きの整備を完了していなければ、その次の改憲発議に進むことができない。そのため改定国民投票法案の動向は、改憲の有無を左右する重要な焦点である。この改定国民投票法案を巡っては、与野党が通常国会中のもっとも採決しやすい時期を見計らって強行成立させようとしている。

 

 国民生活を直撃しているコロナ禍を利用して、更なる国民監視・厳罰体制を目指す意図があらわになっている。

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