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7割がデジタル関連予算 国難に乗じて外資呼び込む布石 73兆円の補正予算の中身とは?

 菅政府がコロナ禍における追加経済対策を盛り込んだ2020年度第三次補正予算案を決定した。国の借金である国債発行(22兆3950億円)、予備費や予算の残りもつぎ込むため一般会計の追加支出は15兆4271億円だが、全事業規模は73・6兆円になっている。だがその内訳を見ると、新型コロナの拡大防止策に充てるのはわずか6兆円で、全体の約7割を占める52兆円規模を「デジタル改革」や「グリーン社会の実現」に大盤振舞する内容となった。「コロナ対策」と称して、マイナンバーカードを軸にした行政のデジタル化を一気におし進め、大企業のエコビジネス支援や外資呼び込みのテコにしていく火事場泥棒的な内容が露わになっている。

 

「雀の涙」のコロナ対策費と対照的に 

 

 菅政府は8日に73兆円規模の「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済政策」(追加経済対策)を閣議決定し、15日の臨時閣議で追加経済対策実施に向けた第三次補正予算案を決定した。この補正予算案は来年1月の通常国会に提出し、同月中の成立を目指す予定で、年明けの国会で対応が決まることになる。

 

 追加経済対策は3本柱で、「新型コロナウイルス感染症の拡大防止策」が6兆円、「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」が51・7兆円、「防災・減災、国土強靱化の進展など安全・安心の確保」が5・9兆円となっている。

 

 それぞれの中身を見るともっとも急がれるべき「コロナ感染拡大防止策」では、①医療供給体制の確保と医療機関への支援、②検査体制の充実、ワクチン接種体制等の整備、③知見に基づく感染症防止対策の徹底、④感染症の収束に向けた国際協力等、さまざまな項目は列記している。しかし医療機関支援策で実際に厚労省第三次補正予算案で示したのは、医療支援の都道府県向け緊急包括支援交付金増額(1兆1763億円)、診療・検査医療機関の感染拡大防止策支援(212億円)、医療機関・薬局の感染拡大防止策支援(858億円)、小児科等に対する支援や感染症回復患者の転院支援に係る診療報酬特例措置(71億円)、ワクチンの接種体制の整備・接種の実施(5736億円)等で、予算の追加額は約1・9兆円にとどまっている。

 

 国民生活に密着した防災・減災対策関連の予算も、総額は5・9兆円規模だが、老朽化した防災設備の更新や防災設備のデジタル化に力点を置いている。そのほか「自衛隊の安定的な運用体制の確保」「戦略的海上保安体制の構築」等を重視し、家屋倒壊などに直面した生活や災害の復旧にはなかなか回らない内容となっている。

 

 他方、こうした「コロナ感染対策」や「防災対策」の8倍をこす52兆円規模の予算をつぎ込んだのが「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」に向けた施策だった。それは「攻めの視点」の項で「行政デジタルの遅れ、東京一極集中など感染症を契機に浮き彫りとなった課題に対処」し、「グリーンやデジタルをはじめ成長分野に民間投資を呼び込みながら、生産性を高め、賃金の継続的な上昇を促し、所得の継続的な拡大と成長力強化につながる施策に資源を集中投下」すると強調し、ここぞとばかりにデジタル改革や経済構造転換を一気におし進めていく姿勢を浮き彫りにしている。

 

 ちなみに「デジタル改革・グリーン社会の実現」の項では次のような施策の実行を明記している。

 

【デジタル改革】

▽クラウド活用を原則とした自治体情報システムの標準化・共通化を今後5年で確実に実現▽マイナポイントによる消費活性化策の拡充▽健康保険証や運転免許証との一体化などマイナンバーカードの更なる普及促進▽オンライン学習システムの全国展開▽GIGAスクール構想の拡充▽保育所や児童相談所におけるICT(情報通信技術)化促進▽オンライン診療・服薬指導の恒久化▽5G(第5世代通信規格)やビヨンド5G(6G=第6世代通信規格)の研究開発、AI(人工知能)戦略研究開発拠点への支援▽スーパーシティ構想の推進▽書面、押印、対面の見直し等デジタル改革に向けた規制改革の推進▽テレワークの普及・促進▽バーチャル株主総会の実現(次期通常国会に関連法提出)

 

【グリーン社会の実現】
▽2050年カーボンニュートラル(2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするという目標)に向けた革新的技術開発(次世代蓄電池、水素、カーボンリサイクル等)に継続的支援をおこなうための2兆円の基金の創設▽再エネ電力や充放電設備の導入と組み合わせた電気自動車・燃料電池自動車の普及促進▽企業の脱炭素化投資を促進する税制導入

 

 しかし、こうした施策の多くは、日本全体がコロナ対応で切羽詰まっているときに、どうしても必要な施策ではない。コロナ禍の混乱に乗じて、これまでできなかった経済政策を一気に実行へ移していく動きがあらわれている。第三次補正予算ではすでに、各省庁が細かい事業項目に数百億円単位で予算を計上している。

 

 さらに「経済構造の転換・イノベーション(技術革新)等による生産性向上」の項では、事業拡大を図る中小企業を行政が手厚く支援する施策や、日本に国際金融センターをつくり国内市場における外資のビジネスを全面バックアップする施策を盛り込んでいる。

 

 「中小企業支援」関係では「業態変更とあわせて事業を拡大する事業者を対象にした事業再構築補助金の創設(最大1億円)」を明記している。「イノベーションの促進」では「世界レベルの研究基盤を構築するための10兆円規模のファンド創設」「宇宙、海洋、AI、量子技術、ゲノム、バイオ、マテリアル等のイノベーション促進」を示している。そして「サプライチェーン(供給網)の強靱化と国際競争力の向上」の項では「対日直接投資の促進など海外活力の取り込み」を重視し「法人設立手続き等のオンライン化や英語対応、外国人の感染対策を含む医療・保険分野や教育・雇用分野など生活面での安心確保等を通じたビジネス環境・生活環境整備を加速する」と明記している。

 

 また「世界に開かれた国際金融センターの実現」の項では「海外で資産運用業等を行ってきた事業者や人材が、同様のビジネスを国内で行いやすくするため規制・税制面でのボトルネックを除去する」と明らかにしている。同時に「官民一体の“金融創業支援ネットワーク”の構築」に言及し「国・地方公共団体・民間一体で、資産運用業等を始める外国人の法人設立・事業開始・生活立上げへのシームレスな支援、事前相談から登録・監督等までの新規海外運用会社等への英語対応、在留資格の緩和や優遇措置の拡充を図る」「安心して日本でのビジネスを検討できる環境を整備する」と強調している。

 

 菅政府は「コロナ対策」「コロナ後を見越して」と主張し、73兆円規模の追加予算を投じて日本全体のデジタル化をおし進めているが、それは日本国内に外資を呼び込み、外資が日本市場を食い物にしていくための下準備にほかならない。

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