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日米首脳会談 野田訪米をどう見るか

 野田首相が4月末に訪米し、オバマ大統領と日米首脳会談をおこなう。民主党野田政府は日本国民の声を聞く耳はなく、選挙の公約はみな覆して、アメリカと財界のいうことは飛びついて実行する。日米首脳会談は自民党小泉構造改革でさんざんに破壊された日本社会であるが、それに輪をかけて日本民族の根本的な利益を売り飛ばすものになる。とりわけ、消費税増税や原発再稼働に加えて、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加による日本市場の大収奪、さらに米軍再編見直しによる、対中国戦争を想定した米本土防衛の盾として、日本を原水爆戦争の火の海に投げ込む方向へ導こうとしている。日本人民がかかえるさまざまな困難の根源として、日米安保条約、対米従属構造がある。「安保」と「日米同盟の深化」をうたう日米首脳会談に反対する日本人民のたたかいの力を強めることが求められている。
 
 「安保」破棄の全国的斗争急務

 野田首相は今月29日から5月2日まで米ワシントンを訪問し、30日にオバマと会談する予定だ。議題は頑強な国民世論に縛られて進まないTPP参加問題や在日米軍再編などが中心。「TPP問題も含めたアジア太平洋地域のルール作りを日米でどうするかを中心に論議したい」(野田首相)、「首相訪米は長期にわたる日米同盟のあり方を規定することになる」(玄葉外相)といっている。
 アメリカ側は「大統領は日米同盟、経済、貿易問題を含む2国間・地域・地球規模の問題について野田首相と協議し、関係を深めることを期待している」(カーニー米大統領報道官)と表明。会談後、「日米同盟関係の深化」を掲げた共同声明を発表する予定になっている。
 アメリカは1990年代はじめの米ソ二極構造崩壊以後、一極支配の野望を進めてきたが、一方でアフガンやイラクへの軍事侵攻で敗退し、もう一方で続けてきた金融支配がリーマンショックまで来て破たんし、腐朽と衰退が著しくなった中で「日米関係の深化」を求めている。それは経済危機の日本への大大的な転嫁であり、軍事力の肩代わり要求を大きな特徴としている。

 消費増税で米国に貢ぐ IMFが要求露骨

 第1の特徴は、日本経済の大収奪である。アメリカが牛耳るIMFに指図されて、日本の財政赤字は世界一であり、消費税の大増税をしなければ破たんすると騒ぎながら、そのIMFに十数兆円を拠出している。「欧州危機の拡大を防ぐため」といって新たに5000億㌦(約41兆円)の資金増強を呼びかけると、出資比率2位の日本が真っ先に手をあげ「600億㌦(4・8兆円)を支出する」と莫大な税金を注ぎこむことを表明した。アメリカは日本が拠出することはほめるが自分は財政難を口実に拠出を拒否。中国やロシア、ブラジルなどは慎重姿勢。
 このなかで安住財務相は「早期の合意形成に向けた流れを作るには、わが国の態度表明が重要」「(拠出額は)加盟国では飛び抜けて最大」と自慢する有様だ。日本政府はリーマンショック後の2009年にもIMFに10兆円拠出した。昨年夏には円高対策として10兆円投じてドル買い介入。そのカネはアメリカ国債の購入に消え、アメリカ財政へのプレゼントとなった。
 日本に消費税増税を要求しているのはIMFである。1月には「2015年までに消費税率を10%に引き上げる」という日本の方針が「不十分」と注文。IMFのコッタレリ財政局長は「消費税率を15%まで引き上げよ」と要求した。今月17日にIMFが公表した各国の財政状況に関する報告書でも「日本は一段と野心的な戦略が必要」とし、2010年代半ばまでに、現在の計画を上回る消費税率の引き上げと社会保障改革を要求した。野田政府は「消費税に政治生命をかける」といったが、そのカネはアメリカが日本から巻き上げるために消えている。野田政府にとって日本国民は奴隷であり、アメリカ支配層が主人なのだ。

 日本社会を丸ごと収奪 TPP参加問題

 日米首脳会談で大きな議題の一つはTPPへの参加問題である。アメリカは「TPP参加を早く決めよ」と迫りつつ、郵政民営化見直し、牛肉やコメの輸入制限、公共事業参入制限などを「貿易障壁」と敵愾(がい)心を燃やし、露骨な要求をつきつけている。
 「郵政民営化」をめぐっては、「見直し法」では手ぬるいとし、米財界や議会が猛烈な圧力をかけている。「見直し法」は小泉改革時の現行法を規制する株式売却凍結法を廃止して郵政株売却に道を開くが、株の3分の1は国が保有し続け、金融子会社2社の株式完全売却を義務づける規定は削っている。この少しでも国の関与が残ることに、米生命保険協会や米商工会議所、米サービス業連盟、在日欧州ビジネス協会など欧米の16業界団体が猛反発。米通商代表部のカーク代表も「保険業界や米議会が強い関心を示している」と脅した。「国の関与が残る企業が相手では競争できない」「競争条件が不平等」と主張して、300兆円以上の国民資産を抱える「ゆうちょ銀行」や「かんぽ生命」の株をすべて売却し、外資が奪いとれるようにすることを迫っている。
 さらに米通商代表部は2日に「2012年貿易障壁報告書」を発表。郵政とともに農業、工業分野、政府調達について再度具体要求を突きつけている。
 「コメ輸入」については「アメリカから輸入されたミニマムアクセス(最低輸入機会)米のごく一部しか日本の消費者のもとに届いていない」「輸入米に対する日本の高度に規制され、不透明な輸入と流通の制度は、日本の消費者への意味ある接近を制限している」と非難し、日本でアメリカのコメがもっと出回るようにせよと要求している。
 牛肉輸入問題については、「牛肉と牛肉製品の輸入を月齢20カ月かそれ以下のものに制限することで、米国産の牛肉と牛肉製品の利用を制限している」と非難し「日本の牛肉市場を再開放することは、重要な優先事項」と要求。「アメリカはあらゆる段階、機会に日本に圧力をかけていく」と脅している。
 野田政府はすでに米国産牛肉の輸入対象を「30カ月以下」に広げる方向だ。米食肉関連企業で構成する米国食肉輸出連合会(コロラド州)は「牛肉は15万㌧」「豚肉は34万㌧」と輸出量目標を発表している。国産牛は福島原発事故でばらまかれたセシウム騒動でチェックが厳しくなり、廃用牛を使ったユッケ中毒の騒動で牛たたきやレバ刺しまで扱うことを禁じられ、畜産農家も食肉店も大打撃となっている。ここに米国産牛の輸入を野放図に増やす方向だ。
 自動車業界についても「さまざまな非関税障壁により、日本の自動車市場への参入は阻害されている」「日本における米国製の自動車や部品販売は低迷を続けている」とし、米国車が売れるような体制作りを要求した。
 そして「報告書」は一定額以上しか公共事業や公的な物品購入を外国企業に開放しない「政府調達」について要求。「大型高速道路、公共建造物、鉄道、都市再開発、港湾」などに「米政府は特別の関心を払っている」とし公共事業の開放を求めた。すでに七兆円かけて第二東名高速道路をつくっているが、東日本大震災にかこつけ「大災害対策」と称して高速道路や新幹線の大公共投資にのりだしている。アメリカの要求というわけだ。震災復興には10年で23兆円かけるが、それは地元復興にことよせたゼネコンの市場となり、それをアメリカ企業に開放しろというわけだ。
 災害便乗資本主義・ショックドクトリンの手法が暴露されてきたが、東日本大震災、世界恐慌というものに便乗して、日本市場の全面開放をさせて、日本社会を丸ごと大収奪するのがTPPであり、オバマ政府は野田政府にそれをやらせようとしている。

 経費負担は大幅に増額 米軍再編見直し

 首脳会談の重要な特徴は、日米軍事同盟の深化である。アメリカは衰退する中でアジア重視の戦略に転換している。アメリカは今年1月「二正面作戦戦略」(朝鮮半島と中東地域での二つの戦争で同時に勝利する)を転換する「新軍事戦略」を打ち出した。
 「新軍事戦略」はアメリカがアフガン・イラク戦争で敗北し、未曾有の経済恐慌で米国家財政自体が窮地に陥り、米陸上部隊の維持すらできないほど衰弱するなか、対中国戦争をにらんで日本や韓国、フィリピンなどの近隣諸国の若者を最前線に配備し、米軍はハワイやグアム、オーストラリアなど安全な後方に下げるものだ。それは日本大収奪計画であるTPPが同時に、アメリカ支配の経済ブロック化をはかって中国包囲網をつくる計画と結びついている。
 現在55万人いる米陸軍は今後10年で6万人以上削減し、米海空軍も後方に配置。中国の核ミサイル攻撃が届くと想定する九州、沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線のなかから米軍を外に出し、日本全土を米本土防衛の盾にして、アメリカは通信ネットワークなどを駆使した「遠隔誘導戦争」をやる作戦である。
 海軍トップのグリナート作戦部長は「連携相手のナンバーワンは日本の海上自衛隊だ」と公言した。日本の自衛隊は使い勝手のいい肉弾としか見なしていない。
 この米軍の再編見直しには、日本の人、物だけではなくカネまで出させようとしている。「普天間移設が進まないから先行実施」と宣伝された在沖海兵隊のグアム移転は、当初の移転人数が8000人から約4000人に半減した。野田政府は「日本の負担を減らせ」ともいえず、逆に負担増を要求される有様。米側は「グアム以外に新たに海兵隊の移転先が増えるから増額が必要」といい張って09年の移転協定で決まった日本の負担額28億㌦を約41億㌦(約3280億円)にするよう要求した。
 野田政府は「消費増税前に命運をかけており負担増は受け入れられない」といってみたが一蹴され、グアム移転費をインフレ率を加えた31億㌦程度に増額するとともに「テニアンで自衛隊が共同訓練する経費」「テニアン整備費」と名目を変えて、グアム移転費増額をカモフラージュする案を打診した。
 アメリカ側は「減額は想定していない。日本側の姿勢にとても満足している」(パネッタ国防長官)、「両政府が合意できると確信している」(キャンベル次官補)とのべている。ただ日米共同文書には具体的な負担額は盛り込まない方向で、事実の公表すらしない対応だ。日米首脳会談ではグアム移転費の大幅増額、それとは別に米領北マリアナ諸島テニアンの米軍基地の整備費も日本側負担を要求するのに対して、野田政府はすべて応じる構えとなっている。
 また、普天間基地を8年間で総額200億円以上かけ全面改修することをアメリカが要求し、永続使用にむけて動き出している。辺野古への移設計画は撤回せず「一刻も早く危険性を除去する」(野田首相)、「普天間の固定化はいけない」(玄葉外相)といいながら継続する方向だ。野田政府は米軍のために普天間基地を整備したうえ、辺野古への新基地も建設する対応。岩国や呉に普天間の海兵隊を移転する案も動いている。
 野田首相の訪米による日米首脳会談は、売国独占資本集団の目先の利益のために、日本民族の根本的な利益を根こそぎ売り飛ばす売国の旅として設定されている。自民党小泉政府以上の怒りを国民から買っている民主党野田政府であるが、国民からいかに浮き上がろうともアメリカに認められることで地位を守ろうというのである。
 失業や生活難、あらゆる苦難が増大する国民生活であるが、あらゆる苦難の根源は敗戦後から続くアメリカの日本支配、国益を根こそぎ売り飛ばす売国奴政治にある。独立、平和、民主主義と繁栄の道か、売国、戦争、反動、貧困の道か、日本全国で大衆自身がそれぞれの個別要求に共通するこの日本の国をどうするかという問題で、巨大な世論を形にする努力が求められている。

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