多国籍企業のタネ支配の危険
今臨時国会で、継続審議となっていた種苗法の改定法案の審議がおこなわれようとしている。日本の種子(たね)を守る会は17日、オンライン全国集会を開催した。同会は前日にも国会議員への要請行動をおこない、農水省が国会議員や農家に対し、「自家増殖は禁止にならない」と説明していることも明らかになってきた。そうした状況も踏まえ、今後どのような活動を展開するか意見をかわした。
初めに山田正彦氏は、いよいよ種苗法改定案が農林水産委員会で審議入りする見通しで、政府は今国会で成立させる強い意向を示しているとのべた。26日に国会が召集され、種苗法改定案は11月初めに審議入り、同中旬には衆・参両院を通過させる可能性があることを明らかにし、まずは農林水産委員会で断固反対するよう、どのような活動をしていくか意見を交換したいと呼びかけた。
種子島のサトウキビ農家の山本伸司氏(パルシステム連合会顧問、日本の種子〈たね〉を守る会幹事長)が論点整理をおこなった。山本氏はまず、現在農水省が国会議員などに「農家の自家増殖の権利が奪われることはない」と説明して回り、「あたかも禁止されるかのようにいっているのは山田正彦氏をはじめ何人かでデタラメだ」と口頭で説いていることが耳に入ってきたことを明らかにした。農水省の説明を聞いた自民党議員や一部野党議員は「自家増殖もこれまで通り自由で、許諾料も負担にならないから大丈夫だ」という認識になっていることを指摘。これは明確なウソだが、種苗法改定の一番の問題点である「自家増殖の原則禁止」が議論から外され、「海外流出を防止しなければならない」「とりしまるのは当然だ」という議論に流れる可能性に危惧を示した。
ユポフ条約(中国や韓国も締結)では、双方の国で品種登録をし、双方の国の法律にもとづいて禁止する構造になっており、現行の種苗法でも海外流出を差し止め、罰することができる。「マスコミのキャンペーンや農水省の議員へのアドバイスのなかでは、あたかも国内で自家増殖が勝手にやられているために自由に持ち出されているかのように、農家の自家増殖が海外流出と結び付けられて宣伝され、『自家増殖を徹底的に管理することで防止できる』という議論のすりかえがおこなわれているのではないか」と指摘した。そのうえで、もっとも重要なのは「本当に農家が自家増殖を許諾なしで、あるいは自家増殖を自由にできるのかどうかだ。自民党も農水省も“できる”といっている。であれば、法的にも文章で明らかにしておかなければならない」とのべた。
また、もう一つの重要な論点として、知的財産権をめぐる問題にふれ、「新品種は知的財産として登録し、開発者の権利を守るのは当然」という考え方は農業現場を知らない発想だとのべた。農産物の場合、まったく同一のDNAを持っている作物でも、畑やつくる人(農家)で変化するからだ。DNAのうち2%が遺伝子で、これを家の骨格に例えると、残り98%が家をどのように使い、動かしていくかを決める働きをしており、それは土地、環境、科学的特性、物理的特性、気候風土、農民の技によって変化することを紹介し、「種や苗は、開発した人だけのものではなく、栽培する人と一心同体で初めて成果物ができるものであり、車や家など人工物とまったく異なる。だから世界的に農民の自家増殖は当然のこととして認められている。人工物の知的財産のようにとり扱う思考方法に陥るとその意味がわからなくなる。命、種、苗は農家にとって非常に重要な権利だ。この部分を多国籍企業が支配していくということは単純に経済的な問題ではなく、自然や農業の根幹的な破壊につながると考えている。農水省の嘘にごまかされないようたたかっていくべきだと思っている」とのべた。
検査規格の見直し コメの本格輸入を意図
続いて、食政策センター・ビジョン21を主宰する安田節子氏がコメに焦点を当てて発言した。安田氏は、種子法廃止、農業競争力強化支援法(八条四項)、種苗法改定と、種子に関する法律が次々と改悪されていることを指摘。種苗法改定は「海外流出防止のため」を理由にしているが、農水省自身がホームページで「海外流出防止は物理的に不可能。海外での品種登録が唯一の防止策」としていることを指摘した。農水省はまた、「登録品種は国際的に自家増殖を認めていない」としてEUやオランダ、イギリス、アメリカなどをあげているが、各国・地域ともにジャガイモや穀類、飼料作物などを例外とし、国民の命にかかわる重要な作物は登録品種でも自家増殖を認めていることを強調した。小規模農家に許諾料なしの使用を認める特例もある。
安田氏は、種子法の廃止でコメ・麦・大豆も公的種子から民間種子にかわることが想定されるなか、「今回の種苗法改定で“一律許諾制、例外作物なし”となった場合、コメはどうなるのか」と疑問を呈した。民間品種が席捲すると、農家は毎年種もみを購入することになるが、企業側は売りたい品種を提供し、これまであった多様な品種は失われていく。またここにゲノム編集種子の投入も十分に考えられ、とくにアメリカではゲノム編集種子も「一般品種」として販売されている点を指摘し、「日本で種を売りたい多国籍企業はゲノム編集に注力している。彼らが日本で種を売りたいが、農家の種とりが認められているともうけが少ない。そこで種とりを禁止しようという思惑が動いているのかもしれない」とのべた。
また一方、今年4月からコメの検査規格の大幅な見直しが急ピッチで進んでいることを指摘した。これまで農協などがおこなってきたコメの検査の厳しさには多くの問題があり、農家が農薬を多用する要因にもなってきた。安田氏らはその見直しを求めてきたが、これまでは拒否されるばかりだったという。しかし今年4月、規制改革推進会議の第9回農林水産ワーキンググループに(株)ヤマザキライスから意見書が提出され、それを反映した「農産物検査規格の見直し」を盛り込んだ規制改革実施計画が提言された。すると7月には意見書とほぼ同じ内容の見直し方針が閣議決定され、「農産物検査規格・米穀の取引に関する検討会」が立ち上がった。9月には4日、30日の2回開催されている。
安田氏は「これまで私たちが求めてきた農家や消費者に不利益を与えてきたコメの検査規格はこれで解消されるが、よくよく見ると大規模生産者とコメ輸出業者の利益と一致すると感じた」とし、コメをめぐる大きな動きにふれた。現在、ミニマムアクセス米で年間77万㌧を輸入し、うち36万㌧をアメリカ産が占めている。TPP協定では無税の輸入枠をもうけてさらに7万㌧上積みし、現在進行中の日米FTA追加交渉では農産物関税の削減がおこなわれようとしている。「こうした背景をみると、コメの本格輸入が待ち構えているのではないか、それを見据えて検査規格の見直しを進めており、種苗法改定もその一環ではないかと思う」とのべた。
アメリカのためにコメが明け渡されれば国内の稲作の衰退に拍車がかかり、コメの自給崩壊が待ち構えていると警鐘を鳴らし、「種子悪法三法は撤廃させなければならないと強く思う。農家の自家採種は企業が持つ育成者権よりも上位の自然権だ。これを脅かす法律は許されない。日本がコメの自給を失ったら食料安全保障は完全に崩壊する。そのことをみなさんと一緒に考えて、種苗法改悪をなんとしても阻止したいと思う」とのべた。
山田正彦氏は、農水省が現在、「自家増殖は自由だ」と説明して回っていることについて、種子法廃止のさいには「主要農作物は種苗法で守る」と与野党に説明したが、前回の通常国会で、種苗法のなかでコメ・麦・大豆を守る法律をつくろうとすると「立て付けが違うのでできない」と主張したことに言及した。「与野党議員にもJAにもウソの説明をしてきたということだ。今回は自家増殖自由を禁止にしようとしているのに、そうではないといい始めている。非常に納得できない」とのべた。
会員の農家などから、農水省が説明のなかで巧妙にごまかしている点がさまざま指摘され、事実を明らかにする必要性が議論された。日本の種子(たね)を守る会アドバイザーの印鑰智哉氏は、「増殖やその後の自家増殖までを前提に種苗が販売されている」(これまでと変化はないことを意味する)という一文を入れていた説明資料を示し、JAにこれを使って説明したあと、こっそり削除していることを指摘した。
活発な地方の動き 50議会が意見書提出
国会審議を前に、どのように活動を進めていくのかに論議は進んだ。
仙台の母親たちのグループはメッセージで、一人でも請願や陳情ができることを知り、宮城県議会に種苗法の慎重審議を求める意見書の提出を求める陳情をあげたことを報告した。そのなかで議会内での勉強会の開催にこぎつけ、自民党を含む全会派が参加したという。「まずはここを足掛かりに、宮城県の優秀な種苗を守る条例づくりや、給食での有機作物の利用への動きにつなげていきたい。残念ながらこの件についてほとんどご存じない議員さんが多いことがわかった。ただ、数人のとりくみでもできることがあるので、これからも折れずに続けていきたい」とした。
松野玲子氏(パルシステム連合会副理事長)も、種子法廃止後の種子条例制定のように広げていくしかないのではないかと提案。農水省の側は「何も変わらない。勘違いだ」と主張していることに、「ほかの問題を変えるときの手法と同じ。私たちは具体的な問題として広げ、映画の上映会などもしながら消費者同士でつながっていきたい」とのべた。
北海道の女性会員も、意見書のひな形をつくり、各自治体で審議してもらえるよう働きかける動きを始めていることを報告した。12月の市町村議会で国会審議に間に合うのかなど、懸念する点はあるものの、「意見書をつくるなかで、数人でもできる活動、一人でも身近な議員に聞きに行くなど行動を起こすことが大事だと考えた」とのべた。
市民レベルの動きは新潟県や岡山県などからも報告があり、「これからは都道府県が種苗事業を守るかどうかが決定的に重要になってくる。県議会が問題を認識するチャンスにすれば、意味は十分ある」などの意見もあり、今後地方の力が重要になってくることが確認された。
種苗法改定をめぐって、慎重審議や審議のとりやめを求める意見書は9月末で少なくとも50の地方議会から提出されている。最近では枕崎市や与論島からも審議とりやめを求める全会一致の意見書が上がっており、全国で動きが始まっていることが共有された。こうした動きを強めると同時に、各地域で地元選出の国会議員への働きかけを強めることも議論された。
日本の種子(たね)を守る会は26日にも参議院議員会館講堂で院内集会を予定している。