いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「大阪都構想の危険性」について学者・医師が喚起 全国の学者130名から所見集め記者会見

 大阪市を廃止し4つの特別区に分割する「大阪都構想」の2度目の住民投票(11月1日投開票)の告示を受けて11日、関西の学者・研究者たちが「大阪都構想」の危険性を明らかにするための記者会見を大阪市内で開いた。会見には多彩な分野の学者や医師26名が出席し、それぞれの専門的見地から大阪都構想の危険性について意見をのべた。

 

 

 はじめに呼びかけ人である藤井聡・京都大学大学院教授が会見の趣旨を説明した。「大阪市の廃止と4分割については、大阪市民の暮らしや都市のあり方に極めて大きな危険性があることが、行政学、政治学、法律学、社会学、地方財政学、都市経済学、都市計画学等、さまざまな学術領域の研究者から数多く指摘されている」とし、「医療においては事前に医師からリスクの説明を受けて同意するというインフォームドコンセントが原則であり、大手術ともいえる今回の都構想も、しっかりリスクを認識したうえで理性的な判断が求められる。しかしながら、マスメディアではそうした危険性がほとんど論じられず、イメージ論が先行した議論がくり返されている。このままでは、大阪市の廃止・分割という不可逆的な決定を迫られる住民投票において、大阪市民が適切な判断をおこなうことが著しく困難であることが危惧される」と指摘した。

 

 

 そのうえで住民投票における大阪市民の理性的な判断を下すための支援をおこなう目的で「都構想の危険性」についての具体的な内容についての所見を公募したところ、現在までに130人の学者から所見が寄せられたことを明らかにし、「5年前の住民投票前には108名の学者所見が集まり、会見に18名の出席をいただいたが、それを今回は上回っている」とのべた。

 以下、出席した学者の発言(所見を含む)を紹介する。

 

 

■藤井聡(京都大学大学院・教授)公共政策論、国土・都市計画

 

 

 『大阪都構想』と呼ばれる過激な行政改革は、あらゆる学術的視点から考えて「論外」としか言いようがない。

 第一に、市の廃止は「大阪市」という一つの社会有機体の「死」を意味し、柳田国男が徹底批判したいわゆる「家殺し」に他ならない。第二に、それに伴って大阪市民が税の支払いを通して享受している厚生水準が大きく毀損する。第三に、大阪市という大きな活力を携えた共同体の解体によって支えられていた大阪、関西、そして日本の活力と強靱性が毀損し、大きく国益が損なわれる。

 最後に特定公政治権力がこうした危険性についての議論を隠蔽し、弾圧したままに、特定の政治的意図の下、直接住民投票でそれを強烈に推進しようとしている。つまり、それはその中身も推進手続きも論外中の論外の代物なのである。

 

■河田惠昭(京都大学・名誉教授)防災学

 

 防災・減災は選挙の票につながらないと素人政治家は判断し、今回の大阪都構想における大阪市の区割りや大阪府との役割分担において、防災・減災は全く考慮されていない。しかし、南海トラフ巨大地震は今にも起きかねないほど危険である。それだけでなく、もし谷町筋に沿って南北に走る上町断層帯地震が起これば、現状では、大阪市だけでなく大阪府全域が壊滅する。市民の安全・安心を守るのは大阪市行政の最重要課題である。


 地震と津波で大阪市営地下鉄や水道が壊滅すれば、大阪市の繁栄どころか、津波や火災で多くの市民が犠牲となり、復旧・復興もままならず、これが致命傷となり大阪市はさらに没落する。民営化の前にもっと地下鉄と水道をはじめ、社会インフラの防災対策を進めなければならない。大阪市がバラバラになれば防災はできなくなる。
 福祉・教育・医療などサービスを切り詰めていくのではなく、維持し、拡充していかなければならない。銭金勘定ではなく、第一に住民の生命を守るために行政があることを忘れてはならない。

 

■冨田宏治(関西学院大学・教授)政治学

 

 

 民主主義の本質は熟議であり、数の力で押し切る多数決ではない。熟議を尽くして合意を形成することのなく、政治的取り引きや密約によって数を確保して多数決で押し切ることは、究極の反民主主義でしかない。

 政令市である大阪市を廃止して、村以下の権限と財源しか有しない特別区に分割するという「都構想」は、そもそも熟議による合意形成の対象と成りうる代物ではない。

 今回も、維新と公明の密約暴露、禁じ手とも言うべき府市クロス選、公明の不可解な方針転換という熟議を欠いた政治過程の末の住民投票だ。背後には維新、首相官邸、創価学会本部の間のパワーゲームの影が見え隠れしている。

 歴史ある政令市である大阪市の命運をこのような形で尽きさせる訳にはいかない。

 

■熊谷貞俊(大阪大学・名誉教授)工学

 

 府市二重行政の弊害なるものの実態が不明である。もし従来行政措置上の無駄や、支障があったとすれば、突出した政令指定都市である大阪市の広範な自治権に大阪府が容喙することが考えられる。

 我が国の基礎自治体は市がその単位となるべき。都道府県は広域行政単位としては中途半端であり、将来的には道州制(その場合関西州はほぼカナダ一国のGDPに相当)で、自律分散社会を目指すべき。無くすべきは、大阪府であり、御堂筋や地下鉄、大阪港湾を構築整備した大阪市ではない。

 

 

■北山俊哉(関西学院大学・教授)行政学・地方自治論

 

 大阪都構想は、大阪市を複雑骨折させて四つにバラバラにし、市が徴収していた固定資産税、法人住民税等を大阪府に差し出して、都市計画を任せしてしまうものだ。23区が都の7割を占める東京と違い、大阪市は府の3割しかなく、都市計画がうまく進むとは思えない。特別区は資金繰りに苦しみ、他の特別区、一部事務組合、府との調整が難航すること必至だ。特別区議会の議員定数も少なすぎる。

 そもそも二つあるものがダブるからと言って、一つをなくしてしまおうというのは、乱暴に過ぎる議論だ。愛知県と名古屋市の意見が合わないので、名古屋市をなくしてしまおうとは、愛知の人は考えない。

 

 また行政学で明らかになりつつあるのは、行政の重複や無駄を極限まで縮小化していた時に、危機が襲った場合、対応能力が著しく低下することだ。このことが新型コロナウィルス危機によって明らかになった。このような重複や無駄は「冗長性」と呼ばれ、逆に、過誤の発生を抑制し、システム全体の信頼性を高めると言われている。

 

■小野田正利(大阪大学・名誉教授)教育学

 

 2012年3月に維新の会が中心となって成立させた「教育基本条例」以後、大阪の教育は危機的状況に直面している。目の前の課題に黙々と取り組んできた優秀な教師たちが大阪を離れていった。残った教師・新しい教師たちは、踏ん張りながらも疲弊の局地にある。中1から中3まで府独自の「チャレンジテスト」実施が高校入試に大きな影響を与え、大阪市の統一テスト、定期試験や実力試験も加わることで、中3生は平均で年間21日もテスト漬け(授業日の1割)の日々を過ごす羽目になって追いつめられ、学校から躍動感が失われ続けている。

 

 「大阪都」になれば、政令指定都市として有していた独自財源の多くが府=都に吸い上げられる中で、政令指定都市が有していた優秀な教員確保のための採用や研修の権限は喪失し(「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」第58条)、学校設置運営に関わる学校の条件整備も、四つの特別区ごとで大きな差異が生まれ、より劣化し貧弱になっていくことは明確である。市の教育委員会を四つに分割すれば、教員採用事務も学校建築・修繕事務も給食事務も分散化して質が低下する。

 

 コロナ禍による不況で財政収入は激減し、向こう5年近くは改善の見通しが立たない。説明会資料には「国が補助金をくれるから大丈夫」と書いてあるが、市の来年度は500億円の減収であり、国からの交付税は4000億円削減(マイナス2・4%)すると総務省が発表している。収支不足は確定的であり、都構想の根幹となる最も重要な根拠が崩れた。大阪市を廃止してしまえば「成長戦略」ではなく「破滅戦略」としかいいようがない。

 

■西澤 信善(神戸大学・名誉教授)アジア経済論

 

 2015年の住民投票の結果は、たとえ僅差であってもそれを受け入れなければならない。英国のEU離脱の国民投票は一度きりで、それが正しいやり方である。2回目の住民投票にかかる膨大な費用(58億円)は、税金の全くの無駄遣いである。経費の削減を声高に叫ぶ維新の主張と矛盾する。

 

 府市重複の無駄というが、例えば大阪府大と大阪市大の二つの大学が存在しても直ちに重複の無駄とはいえない。大阪府大は獣医学、農学、教育学、法学等を伝統的な強みとしている。大阪市立大学はかつての大阪商科大学であり、東京一橋大、神戸大と並び日本の三大商業大学といわれ、商都・大阪の伝統を一身に背負った大学である。それゆえ商学部や経済学部が強みだ。それぞれ建学の精神も専門分野も異なる大学が二つあることが「無駄」というのは筋の通らない暴論である。

 

■木村 收(大阪市立大学・阪南大学元教授)地方財政学

 

 私は平成6年に大阪市役所を定年退職し、市立大学に赴任した。市役所在職中は、財政局長、市立大学事務局長、経済局長を経て退職し、研究者の道に入った。

 

 「都構想」の法定協議会を37回傍聴したが、学識経験者の意見も聞かず、市民団体も交えず、議員だけで案を作っていることは論外としかいいようがない。

 

 廃置分合では、合併を加算(タシザン)とすると、分割は割り算(ワリザン)でまったく次元が違う難問だ。例えば協定書には、市が保管する膨大な公文書の扱いをどうするのかは何も触れていない。また、分割後につくるマンモス一部事務組合(四特別区による共同管理組合)も、仕事が割り切れないことの象徴である。

 

 また、大阪市の廃止と四分割を2025年正月に設定しているが、前日の大晦日までずっと各役所で公務が続いていることが考慮されていない。府庁職員2000人がWTCに移るだけで15億円かかっている。だが3万5000人の市役所業務を分割移転する今回は13億円しか計上しておらず、しかも正月に一気に市を廃止・分割することは不可能であり、行政に未曾有の混乱をもたらすことは疑いない。

 大阪市を廃止・分割して府区制度を設けようとするのは大阪府の集権主義の具体化であって、これまでの地方分権の流れに反している。いま問われているのは新型コロナへの幅広い対応である。

 

■山田 明(名古屋市立大学・名誉教授)地方財政学

 

 昨年6月から毎回「法定協議会」を傍聴して、怒りを膨張させてきた。協定書を見ても、大阪市廃止・特別区設置は、大阪府による大阪市の乗っ取りであることは明らかだ。特別区は政令市並みの人口だが、権限と税財源はきわめて脆弱で、住民サービス低下は避けられない。介護保険は特別区でなく、一部事務組合が担当し、高齢社会に対応できない。協定書一部は自治権を侵害し、コロナ禍での住民投票強行も「大都市法」の規定に違反するとして、関連予算の執行停止を求めて住民監査請求を行った。大阪市廃止・解体は大阪だけでなく、コロナ危機の日本社会に混乱をもたらす。いま求められているのは、足もとからの持続可能なまちづくり、コロナ対策である。

 

■鶴田廣巳(関西大学・名誉教授)財政学

 

 「大阪都構想」などという東京後追いの政策で大阪の「再生」は不可能だ。大阪市は現在274万人であり、24行政区に分かれている。各行政区の人口は平均11.4万人だ。他の政令市と比べても細かく、手厚い行政がおこなわれている一面がある。ところがこれが四分割再編されると、東京都の23特別区の平均人口約47万人に対し、大阪の四特別区の平均人口は実に67万人になる。各特別区は政令市並みの人口規模になるにもかかわらず、財源の多くを大阪「都」に吸い上げられるため、住民サービスは改善されるどころか、もたらされるのはサービスの切り捨てと住民の皆さんの困惑・不安だけだろう。気づいた時には、もう元の大阪市に戻ることは不可能である。

 

 24行政区の区役所を「地域自治区事務所」として残すというが、平成の大合併で提案された合併特別区も空文句に終わり、合併後に周辺部は衰退した。

 

 「都構想」によって大阪市の歴史的な蓄積や集積の利益が破壊される。大阪は近世以来、二度の衰退と繁栄を経験している。一つ目は幕末から明治初期にかけて、問屋や金融機能に特化した「天下の台所」としての役割を果たしていた大阪には目立った工業がほとんどなく、明治になってからさまざまな特権が廃止されていくことで衰退した。それが政府の殖産興業に併せて大阪造幣局、堺紡績所が設けられたことで再び力を盛り返し、「東洋のマンチェスター」といわれるまでに発展を遂げた。それが衰退した後、高度成長期を経て1970年以降に始まった衰退が現在まで続いている。1970年の大阪万博は「大阪の繁栄が頂点に達した」といわれたが、実はその後の衰退の出発点だった。大阪の地盤沈下は東京一極集中によるものだ。現在の大阪行政には経済政策がなく、カジノと万博だけでは都市再生はほとんど不可能だ。大阪文化の振興と都市づくりを結びつけ、誰もが住みたくなる都市にする、都市格を高めることこそが正道である。

 

■薬師院仁志(帝塚山学院大学・教授)社会学

 

 住民投票で市民の判断に委ねる必要があるのは、その政策にデメリットがあるからだ。メリットしかなければやる必要がない。

 そして今回の案は、むしろ前回よりも無茶な計画だ。見かけの初期費用を約600億円から約241億円に減らしたというが、それは新しく自治体を作るにもかかわらず、その仕事を担う新しい庁舎を用意しないという無茶な計画の上に成り立っている。

 

 大阪市の廃止後、新淀川区の職員の8割近く、新天王寺区の職員の半分以上は、自区内で仕事をする場所がなく、当面の間は新北区にある中之島庁舎(現在の大阪市庁舎)で間借りして働くというのである。また、どの新特別区も新庁舎を建てないため、当面の間は職員が区内各所の間借り施設などに分散配置せざるを得なくなっている。これでは、費用を節約したことにはならない。本来は必ず必要な費用を将来に先送りしただけのことである。しかも、こんな不安定な体制の中、災害や伝染病の流行にでも襲われれば、対処は極めて困難だと言わざるを得ない。

 

 維新の会は、府と市の対立が非効率であるとして「司令塔の一本化」を大阪市廃止のメリットにしているが、大阪市に限らずどの市町村でもそれぞれの地域利害をもっている。大阪市はいくら大きくても人口は府の3割しかない。大阪府の住民の7割はそれ以外の市町村だ。大阪市と府の利害対立だけを問題にしても意味がない。実際に、大阪市の平松元市長と橋下元知事が水道の統合で合意したのに実現できなかったのは、大阪市以外の市町村と大阪府が合意できなかったからだ。「司令塔一本化」によるメリットは架空のものと言わざるを得ない。

 

■平岡和久(立命館大学・教授)地方財政学

 

 道府県と政令市とのいわゆる「二重行政」については、多くの場合ほとんど問題になっていないことから、そもそも政令市を解体する理由にはならない。二重行政がいいか悪いかはそれぞれによる。よい類似施設やサービスであれば維持しなければならないし、連携が必要なことは意思疎通などのやり方を質していけばよく、大阪市を廃止しなければできないというのはとんでもない暴論である。どの都道府県でも事務方で調整してやっている。

 

 そのような理由にもならない理由で大阪市が廃止され、分割された特別区が失う財政権は大きなものであり、大都市税制である事業所税や都市税制である都市計画税を失うばかりか、すべての市町村が有する固定資産税や法人住民税までも失う。

 特別区に対する財政調整があるから問題ないというのは、課税権の重要性を無視するものだ。大阪市民はバラバラにされたうえに一般の市町村がもつ課税自主権すら大幅に失う。大阪市民は、24区の地域共同体を基礎に大阪市という共同体を基礎とした自治体を形成し、継続・発展させてきた。「大阪都構想」が通れば、大阪市民は共同体としての大阪市を失うとともに、共同体がもつ大都市行財政権限を失うことになる。その損失は計り知れない。

 

■柏原誠(大阪経済大学・准教授)政治学・行政学・地方自治

 

 大阪市民としてはこんな議論で市がなくなっていくことはいたたまれない。

 維新の首長たちによれば、「住民投票は究極の民主主義」ということだが、民主主義は、結果以上に公正なプロセスが重要である。その意味で11月1日の住民投票に向けて進んでいるプロセスは著しく不公正と言わざるを得ない。

 

 まず、新型コロナ感染症が収束を見ていない中で、大阪市民の生活不安は大きく、住民投票の判断を下す余裕がないうえに、特別区設置協定書そのものが、コロナ感染症のあとにくる社会像を考慮に入れていない。前提が変わっており、賛成側からも計画の見直しを求める声があがっても当然だ。

 

 次に、住民向けの説明会の回数が制限されているのに加えて、その説明資料も、市の特別参与から疑義が出されるほど推進に偏った資料である。9月初旬の世論調査で7割強の市民が説明不足と答えているのに対して、一方的な推進宣伝が税金を使っておこなわれている。

 

 加えて、大阪市民の5%をこえる外国籍住民が投票から排除されている。住民投票の権利を求める市民団体の陳情に松井市長は、投票したければ日本国籍をとればいいと発言した。大阪市の都市の性格や成立過程を無視した発言であり、この点でも住民投票に問題ありといえる。

 

 このような公平・公正を欠くプロセスのもとに大阪市廃止・特別区設置という地方自治制度上の大手術を行うことは将来にわたって禍根を残すことを、研究者としてだけでなく、半世紀にわたって大阪市民であり続けた市民の一人として懸念する。インフォームドコンセントをとる環境にはまったくない。

 

■石川康宏(神戸女学院大学・教授)経済学

 

 なぜ毎年2000億円を府に差し出して、住民サービスを低下させてまで「大阪都」を作らなければいけないという発想が生まれたのか。2011年11月のダブル選で維新が勝ち、そのさい橋下氏は「次の衆院選は道州制選挙だ」といった。翌12年3月に維新が国政に出るにあたって発表した「維新八策」には、「統治機構の作り直し」とあり、道州制の推進を明言している。これは日本経団連や関西の財界が長く主張してきたもので、国家は国防や外交に特化し、地方の47都道府県を10個ほどの広域自治体にまとめて産業を促進し、住民生活については「自己責任」を基本に貧乏な基礎自治体でやることを公然といっている。

 

 そこで「大阪都」という発想は、道州制における関西州をつくるための一里塚として位置づけられている。2010年7月の大阪府自治政府研究会では、大阪市と府は役割分担が不明確だから、新しい自治体(大阪都)をつくり、さらに関西広域連合を作り、これらを合体させて関西州をつくるという構想が府の資料に出てくる。

 

 つまり、市民や府民のための構想ではなく、財界が喜ぶ国づくりに向けて、道州制を関西・大阪から作り出していくという一里塚に位置づけられている。だから平気で市のお金を府に吸い上げさせ、大きな広域経営体にしていく方向だ。こんなことはまともに市民に説明ができないから、説明会で「マルチ商法のようだ」といわれるやり方になる。こんなものにダマされてはいけない。

 

 コロナ禍の大変な時期に、住民サービスを低下させる「大阪市解体」は、行政が市民に与える「行政災害」あるいは「維新災害」以外の何ものでもない。

 

■桜田照雄(阪南大学・教授)経営財務論

 

 住民に不利益を与えることを住民は享受するのか――これを念押しするために前回に続く今回の住民投票は、法的根拠をもっておこなわれる。それに基づいた説明会やパンフレットを見る限り、2015年の住民投票と同じように「詐欺・瞞着・詭弁・恫喝・利益誘導」などあらゆる手段を使った「大衆煽動」を大阪維新の会はくり広げている。米国での証券取引法では、誤解を避けるために必要な説明を省けば詐欺であると認められている。いま府知事や市長によっておこなわれているのはまさに詐欺である。

 

 彼らにとって唯一の地域経済政策は、カジノ(賭博場)誘致だ。2007~2017年度までの10年間で大阪市の中小企業向け予算は10分の1に削減された。「経済政策は国がやることであり、市がやることではない」という理屈だ。そして、賭博と公共の福祉は両立するものではない。地方自治体の責務である「公共の福祉に反しない」という要件を決して充たさない。コロナ禍のなかでカジノ最大手の米ラスベガスサンズが日本市場からの撤退を宣言した。彼らが推進しているIRカジノというビジネス・モデルそれ自体が、もはや成立しえないことを白日のもとに曝している。にもかかわらず為政者がIRカジノ誘致に執着しつづけている。そのための地ならしである「大阪市廃止・特別区設置」は大阪市民の将来を危うくするものであり、反対の声を上げなければならない。

 

■道野真弘(近畿大学・教授)商法・会社法

 

 2回目の住民投票ということ自体が、前回の約束を反故にするもので、言葉が軽いことを証明している。そして、言葉の軽さは、大学名の英語表記や、あるいは東京都特別区にある北区、中央区をそのまま区名として使おうとする点にもみてとれる。

 

 株式会社の統合の場合にはそれに見合った監視システムがあり、問題が起きれば経営者の責任が発生するが、行政の場合は失政があっても選挙で首長を変えること以外に方法がない。その意味では、これまで大阪市と大阪府はツインエンジンであるとともに互いに牽制し合って進んできたといえる。監視システムがないなかで民間企業の論理を丸ごととりいれるのは、まさにバクチだ。公共セクターの制度は恣意的な運用をさせず、誰がやってもうまくいくように設計されるべきものだが、特別区設置協定書は裁量の余地が大きく、言葉に責任をもたない方が運用すれば、恣意的にどうにでもできる内容になっている。

 

 なお、副首都機能をもたせることと大阪市廃止・特別区設置とは無関係である。地方分権を政府が本気で進める気があれば、今のままでできる。

 

■朴一(大阪市立大学・教授)国際経済学

 

 大阪市には、現在143カ国、14万を超える外国籍住民が居住している。人口の5%、20人に1人だ。大阪市には外国籍住民有識者会議が設置され、外国籍住民の声を市政に反映しようとする動きがみられたが、なぜか橋下徹氏が市長になってから会議は廃止されてしまった。万国博を開催し、カジノで外国人を呼び込むといいながら、今回の大阪市の廃止、特別区への再編をめぐる住民投票でも外国籍住民は排除されている。

 

 大阪市でも、今後、少子高齢化が進むなかで、外国人にも魅力的な街づくりを進めていくうえで、日本籍住民だけでなく、外国籍住民の声も反映する市政改革が必要だと思われる。大阪市の解体、特別区への再編をめぐる住民投票にも条件を満たした外国籍住民を参加させることが必要であるが、現在の大阪都構想の中に外国籍住民の声を反映させる仕組みがまったく見られない。外国籍住民を排除した大阪都構想に、大阪の未来はない。

 

■中林 浩(神戸松蔭女子学院大学・教授)都市計画学

 

 大阪市では戦前の関一市長の為政はじめ、先駆的な施策の伝統をもっている。新憲法下でも市長と市議会の選挙をくり返し、市民の願いを積みあげてきた歴史がある。都市計画の分野で考えると、大阪市域では乱開発も進んだとはいえ、なお魅力ある場所が多いのは市民の自治の力による。大阪市廃止構想は二重行政が問題にしているが、多重のしくみのなかで多様な議論をするから町がよくなるのだ。

 

 この構想は、ベイエリアなどのムダな大規模開発やカジノ建設を断行しようとするためのものだ。むしろ大阪経済の発展のためには、中小商工業者や景観を守り、一度作りだしたインフラを大切にする修復型のまちづくりが求められている。

 

■川端祐一郎(京都大学・助教)都市社会工学

 

 一般に大規模な改革は、それによって失われるものが確実である一方で、得られる効果は不確実である。大阪都構想の主要な効果と言われているものに対しては疑念を持たざるを得ないのが現状であり、性急に改革を進めることが合理的であるとは思われない。

 

 第一に、「二重行政による財政の無駄の削減」は、仮にあったとしても小規模(嘉悦大学に委託された試算でも1年あたり数億円)に留まることが指摘されており、都構想の実施コストに見合わないと考えられる。

 第二に、大阪市を4つの中規模自治体に分割し、公選の首長と議会が新たに誕生することから、住民により密着した行政サービスが提供できるという「ニア・イズ・ベター」の主張があるが、前提として財源と権限を縮小させた上で分割するのであるから、単純に「ベター」であると言えるわけではない。

 第三に、大阪府と大阪市の対立が緩和され、広域的な都市開発プロジェクトの意思決定が円滑化することで、大阪の成長が促されるとされており、決定に関与する主体が限定されれば円滑化するのは当然と考えられるにしても、それはまさに「ニア・イズ・ベター」を犠牲にすることを意味するのではないか。

 

■元橋利恵(大阪大学・助教)社会学、ジェンダー論

 

 コロナ禍のもとで従来社会に構造化されてきた差別が露呈している。ジェンダーの視点からは、人の生命や生活の維持に関わる活動に従事しながらも不安定雇用であったり、家庭内で無償のケアを担うことが多い女性たちが収入減や負担の増大により生活が脅かされていることが深刻だ。そのしわ寄せは、子ども、お年寄り、障がい者などケアを必要とする人たちにより集まっていくことも予測される。そのような中でまず行政がするべきことはコロナ禍を機に差別を是正し働きかたや生活の保障を見直し築いていくことではないだろうか。都構想を押し進めようとし負担やコストのかかる住民投票を決行することが理にかなっているとは思えない。

 

■大神令子(梅花女子大学・講師)キャリア形成論

 

 いわゆる「大阪都構想」は、その基準となる協定書には成立後の具体的な市民の生活がどのようになるかが書かれていない。「その内容や水準を維持するよう努めるものとする」とは書かれているが、その文言を担保するような具体的な施策は一切書かれていない。また、あくまでも維持でしかなく向上については書かれていない。これでは、特別区設置後が良くなるとは言い難い。

 例えば介護保険などの一連の社会保障の劣化だ。介護保険事業については一部事務組合が担うこととなっているが、この一部事務組合は府でも特別区でもなく財源を持たない中途半端な組織だ。介護保険事業のための財源確保が難しくなることは容易に想定できる。

 システムを変える時は悪くなる可能性は最小限に抑えなければならない。しかし、「大阪都構想」では悪くなる可能性を回避できているとは言い難い。

 松井市長は住民説明会で「そんな先のことはわからない」といわれていたが、そのような制度設計では市民を守るべき行政の責任は果たせない。

 

■亀岡照子(大阪健康福祉短期大学・非常勤講師)公衆衛生学

 

 大阪市で定年まで保健師として働き、現在は保育士や保健師の教育に携わっている。国が1994年に地域保険法で全国850カ所あった保健所を約半分に減らした。270万人の大阪市では、全国に先駆けて24すべての区にあった保健所を1カ所に集約するという、当時の厚生省も「健康状態の悪い大阪が一カ所にしてどうなるのか」という懸念を表明するほどの驚きの施策がとられた。保健所は住民のいのちや健康を衛る「砦」であり、それは今回の新型コロナウイルス対策でもいろんな形で明らかになった。

 

 人が減った保健所では過労死ラインまで、働いても働いても対応が追いつかず、人々のいのちを守れない。保健所を減らした国や市の政策のツケが回ってきているからだ。大阪市は患者数も死亡者数も多い。そのなかで、現場の保健師はたいへんな思いをしているが、その努力が報われず、大阪府・市内ではたくさんの保健師が年度途中で辞めていっている。大阪市は他の市と比べても保健師の数が極端に少なく、吹田市の約半分だ。

 

 維新による府・市政は、住吉市民病院を潰し、府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所を統合して独立行政法人化したことで、PCR検査がやりたくてもできていない。このような公衆衛生の崩壊を招くような危機的状態は、維新政治になってから加速した。感染症はいつ発生するかわからない。日頃からの備えが非常に大切であり、熟練した保健師や医師など公衆衛生の専門職の増員が必要だ。財政の裏付けのない「都構想」では、職員の配置も非常に不安だ。大阪市を存続し、新型コロナから市民を守るためにも24区に保健所を取り戻すことが必要である。

 

■伊藤大一(大阪経済大学・准教授)社会政策論

 

 日本に20しかない政令指定都市を自ら返上し、大阪市を解体するメリットを何一つ見いだせない。子を持つ親としては児童の学費無償化には感謝しているが、その大阪市でなぜカジノに投資するようなことをやる必要があるのか。基礎自治体がやることなのだろうか。大阪市を維持して子ども、高齢者、外国人が安心して暮らせる大都市をつくることの方がはるかに価値がある。

 

 

 

■森裕之(立命館大学・教授)地方財政学

 

 大阪市の廃止・解体・特別区化によって、大都市自治体にとって不可欠な都市計画等の行政権限と財源が大阪府に吸収される。大阪市民の税金の4分の3が大阪府税に変わり、国から市へ配分されている地方交付税交付金も大阪府が吸収する。それらを最終的に特別区へどれだけ再配分するかは大阪府が毎年度決める。大阪府内の人口のうち大阪市には3割しか居住しておらず、特別区は将来たえず財政削減の圧力を受ける。その影響は特別区が担う福祉や教育の削減となってあらわれる。特別区間の財政配分をめぐる区民同士の争いも延々と続く。大阪市民にとってのメリットは全く見いだせず、こんな不安定な財政制度は決して取り入れるべきではない。

 

 大阪府市は特別区になった場合の財政シミュレーションを示しているが、二重行政の解消による財源効果はゼロに等しい。その一方で「大阪都構想」によって初期費用240億円、ランニング費用30億円/年が必要となる。誰がみてもマイナスでしかない。

 

 特別区でつくる一部事務組合で国民健康保険や介護保険など120もの事業を担わざるをえないことは、大阪市解体がいかに無茶な制度改革かを示す証左である。その事業費は2500億円にのぼり、特別区の財政圧迫の最大要因になりかねず、中身を変える実質的な審議もできない。さらに新しく現24行政区つくられる地域自治区が加わり、大阪の地方自治制度は類をみない複雑極まりないものになる。財政的・行政的に何ら肯定できる要素はない。

 

■高本英司(大阪府保険医協会・理事長)医学

 

 コロナ禍の今、なぜ大阪市廃止を問う住民投票なのか。

 吉村知事は、新型コロナ対策の「大阪モデル」で有名だが、実際はワクチン治験をめぐる発言や「うがい薬」会見など政治主導で科学的根拠が乏しい。住民投票の実施判断の根拠とした「非常事態基準」を7月には何度も改変した。

 

 松井市長は「バーチャル都構想」を語るのみで大阪市としての独自施策は放棄している。大阪市をなくして特別区になれば市財源の65%は府に吸い上げられ、子ども医療費助成制度の対象年齢引き下げなど住民サービスが今以上に切り捨てられることは必至だ。

 

 市民の皆さんには、いまの医療や介護に満足していないのなら、いまの大阪市潰したらもっと悪くなることを訴えている。住民投票で大阪市廃止が可決されたら、130年の歴史が終わってしまう。三途の川を渡るのと同じだ。

 このたび潰された住吉市民病院が住之江区にあるのは、かつての住吉区を人口が増えたので行政を充実させるため、住之江区に分区したからだ。市民のためにわざわざ分けた区を、前回は9つにするといったかと思えば5つにするといい、今度は4つにするという。とても辻妻があわない。

 道頓堀にプールつくるという計画もあったが、はじめから金もうけが目的なので、もうけられなくなったらすぐに記憶から消してしまった。こんなやり方では大阪市は悪くなる一方だ。反対の声を広げていかなければいけない。

 

■小澤 力(大阪府歯科保険医協会・理事長)歯科医学

 

 新型コロナウイルス感染症では、歯科医療機関の多くが持続化給付金の対象となる収入が前年度比5割減に届かず、対象外となった。そして、現在でも歯科は、感染リスクが高いという風評や予約調整などにより、コロナ以前よりも厳しい状況が続いている。そのなかでも診療所は地域医療を守るために全力を尽くしている。口腔治療や口腔ケアが新型コロナ予防にとって重要だと認識しているからだ。

 

 しかし、吉村大阪府知事は、府の財政規模からすれば、まったくといって良いほどの貧弱な予算しかコロナ対策に計上せず、医療福祉に責任を持つべき松井大阪市長は、府任せで市独自の支援策を全く打っていない。医療に限らず、政令市だからこそ可能なコロナ対策予算をなぜきちんと計上しないのか。松井市長によれば、これが市解体後を想定した「バーチャル都構想」であり、「府市一体のコロナ対策は二重行政にならずうまくいっている」という。府任せで市独自の支援策は極力打たない――これを制度的に整えるのが「都構想」だといっている。

 

 一方、市町村独自の医療機関への財政措置・支援策は、府内でも四條畷市、茨木市、摂津市、高槻市、豊中市など13以上にのぼる。これを見れば、まさに大阪府は大阪市を除いて「二重行政」の巣窟だ。しかし、それは大阪市民からみれば、幾重にも住民の命と健康を守るための素晴らしい二重行政である。大阪市のもてる力をいまこそ市民の命や健康をまもるために使うべきなのに、分割後の特別区での低くなる住民サービスのレベルに辻妻を合わせるために、意図的にレベルを落としているのではないかと疑ってしまう。

 

 さらには、特別区に移行するまでの5年間を考えてほしい。このコロナ禍のなかで、合区や行政区の再編などの膨大な業務を府市の職員は、防疫業務や住民サービスそっちのけでやらなければならない。それが今後5年も続くことは悪夢でしかない。大阪市は一度解体されたらもう元には戻れない。市民のみなさんには「決められないならNO」「わからないならNO」「こんなときにしないでと思ったらNO」、そして棄権することなく、必ず投票に行くことを呼びかけたい。

 

◇  ◇  ◇

 

■山口英昌(大阪市立大学・教授)食環境科学

 

 政令指定都市である大阪市を4つの特別区に解体する大阪都構想は、財源の低減により都市機能を低下させ、大阪市の発展と市民の暮らしを困難にするものだ。市と府の2重行政による弊害が過度に喧伝されるが、根拠はない。そもそも、大阪市・府の経済的地盤沈下は、東京への一極集中と、地方への財源投下の欠如によるもので、都構想によって解決できるものではない。

 

■遠藤宏一(大阪市立大学・名誉教授)財政学・地方財政論、地域政策論

 

 戦後の大阪府・市政、あるいは関西財界の都市・地域政策の失敗は、一週遅れで東京の後追い模倣をする公共・土木事業依存の間接的振興策(外来型開発)を続けてきたことにある。

 しかし新世紀迎える頃、大阪の都市経済の「絶対的衰退」の原因は、関西系企業の本社機能が東京流出し、さらには学術・芸能・文化までも大阪からの離脱したことにあるということに気付き、その反省から官民あげて大阪・関西版「内発的発展論」ともいえる「関西再生」計画を構想し、その具体化への取り組みが提言されたことがある。ちなみにその典型は関西経済連合会『関西経済再生シナリオ』(1999年12月)等にみることができるが、それぞれ共通して、分厚い集積のある中小企業(「エクセレント・スモール・ビジネス」)や歴史遺産・伝統文化・芸能等の関西の強み(=「知的財産」)を現代的に再活用することなどを提言していた。

 しかしその一方で、このようなビジョンの「推進主体」として「府・市統合」論も強調されていたという問題点も隠されていたが、今日の大阪都構想はこの側面のみが突出して顕在化したようにみえる。しかし「大阪都」という行財政制度をつくれば、東京都に匹敵する経済力・行財政力になるというのは本末転倒した錯覚としか言いようがない。

 

■三星昭宏(近畿大学・名誉教授)交通計画学、福祉のまちづくり学

 

 大阪都構想は「思いつき」を何らの検証・討議のないまま、あたかも大阪が東京都と並ぶ発展をとげるかのような幻想をふりまく非科学的なものであり、「構想」の名に値するものではない。「都」という名称すら与えられず単なる意味不明の統合・分割案にすぎない。大阪は地域により個性がありその特徴に応じた発展をとげてきた。大阪市のまとまりに対応した自治体をなくし、無意味で無機質、ご都合主義的な区に分割することは歴史、風土の破壊でありそのような地域づくり・まちづくりは必ずや将来に禍根を残すものと考えられる。

 

 私の専門からの懸念の一例を付記する。大阪府は維新の主導で2013年、保有する「泉北高速鉄道」を米投資ファンド・ローンスターに売却することを決めた。その後沿線市民と自治体の大反対で撤回され売却先は南海電鉄となった。しかし泉北高速鉄道の高い料金を沿線利用者が長年払い続けてきたことにより蓄積した富を社会基盤形成目的ではない「外国の投資ファンド」に売ろうとした事実は地元では今も語られている。「鉄道は誰のものか」だ。

 都構想は無意味であるだけではなく、住民の自己決定を飛び越えた危険な施策ではないかと懸念する次第である。

 

■遠州尋美(元大阪経済大学教授・みやぎ震災復興研究センター事務局長)地域政策学

 

 理由らしい理由と言えば「二重行政解消」が唯一と言える都構想。その本音が大阪市の予算を吸い上げて、大規模開発や大企業奉仕に自由に使える財布が欲しいということにあることは間違いない。「二重行政解消」を声高に叫ぶことは、市民のくらしをないがしろする維新の政治姿勢を自ら暴露するものに他ならない。危機管理の基本は「ダブルチェック」、東日本大震災の経験から導かれた減災の基本は「多重防御」であることを思い起こして欲しい。安心・安全のくらしを守る「人間の安全保障」に必要なのはセーフティーネットの重層化だ。無駄のない効率的な行政は必要でも,二重行政解消を口実に庶民のくらしを破壊する都構想を許すことはできない。

 

■岡田知弘(京都大学・名誉教授、京都橘大学教授)地域経済学

 

 「大阪都」構想推進する大阪府知事・大阪市長は、大阪市を解体して大阪府に併合することで、「大阪経済が活性化する」と繰り返し主張している。地域経済学の視点からみると、この議論はかなり怪しく、むしろ大阪経済のさらなる衰退を招く可能性が強いといえる。

 

 そもそも大阪経済の衰退や財政危機は、「二重行政」によるものではない。1980年代以来の経済のグローバル化の結果、大阪経済を担ってきた製造業が衰退したうえ、2000年代初頭の金融大再編によって大阪に本拠をおく住友・三和グループが解体・再編され、東京に本社・中枢機能を移したことが歴史的要因だった。加えて、関西新空港やATC、WTCといった巨大プロジェクト開発で「活性化」しようとしたが、受注企業の多くは東京や海外企業であり、大阪経済を潤すどころか巨額の借金を残した。

 

 「大阪都」構想でも、カジノや万博、リニア新幹線の建設、大阪スーパーシティの実現がいわれているが、それらの利益を受け取るのは、ほとんどが外国資本を含む大阪府外企業だ。大阪市が4つの「特別区」に分解されると、現市域ではさらなる格差と貧困が拡大するだろう。

 

 今必要なのは、現在の大阪市や区の行財政権限と住民自治機能を強めて、大阪経済の圧倒的部分を担っている中小企業群の再投資力を高め、主権者である住民の福祉の向上を図ることだ。

 

■梅原英治(大阪経済大学・特任教授)財政学

 

 テレビの記者会見などを見れば、大阪は吉村知事と松井市長の2人が並ぶが、東京は小池知事ひとりだけだ。ここに象徴されるように、特別区の存在感は薄く、自治権は弱い。戦後東京の特別区は自治権の制限に苦しみ、拡充を求め続ける歴史だった(いまも)。それは都制が太平洋戦争完遂のための「帝都」として設けられ、統治の便利さゆえ戦後も継続された「戦時集権体制」だからだ。東京都制と大阪都構想は異なるところもあるが、都への権限と財源の集中、そして特別区の限られた自治と都への財政従属という本質に変わりはない。大阪市民は自らの財源を都に吸い上げられた上で、都の財源に依存して生きることになる。これほど地方自治と地方分権の時代に逆行する構想はない。大阪は東京の二の舞になってはならない。大阪市が存在してこそ、大阪市民は自らの願いを実現し、未来を切り拓くことができるのだ。

 

菅原敏夫(法政大学大学院・兼任講師)地方財政学

 

 東京都は条例で「都民の日」を定めている(1952年制定)。10月1日。これはなんの日かというと、1898年10月1日、東京市が官選市長から離れ、「市」として独立した日を記念している。
 都民は戦後反省した。戦時中とはいえ、東京市をなくしてしまったのは間違いだったと。東京市は自治の原点だった。その中で、より小さな自治を「区」として育んで行くべきだった。この順序は逆にできない。未だに完成しない23区の自治。「都」制がじゃまになって、区の自立を妨げている。特に深刻なのはお金。半数以上の区の歳入トップは、自前の財源でなく、都からの交付金です。特別区の自治も自立も絵に描いた餅である。
 自治の真のゆりかご「市」を潰してはならない。

 

〈その他の学者所見はこちらから 「大阪都構想」を考える〉

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロー says:

    「大阪市廃止投票」は大半のマスコミは報道していません。
    長周新聞だけが微に入り細に入り丁寧に伝えてくれています。
    「大阪市廃止」は大阪市民だけの問題ではありません。
    大阪市民以外の方もしっかり都構想とはなにか?
    何を実現したいのか?デメリットはなにかを把握しなければなりません。

    私が危惧するのは大阪廃止が成立すれば、維新は勢いを増し、菅政権とタックルを組み、
    次は日本を壊しにかかることでしょう。
    外資や竹中平蔵氏に食われ、日本が廃れていきます。
    どうぞ一人でも多くの方が長周新聞を熟読し、拡げてください。
    国民を、日本を護るために!。

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