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なぜ株価だけ「V字回復」? 実体経済は恐慌さながら… 猛烈な金融緩和に浮き立つ市場

 コロナウイルスの感染拡大にともなって世界的に経済活動が冷え込み、アメリカでは4月~6月期のGDP(国内総生産)が年率換算で前期比32・9%減、欧州では同時期のGDPが年率換算で40・2%減、日本でも同27・8%減など、戦後最悪ともいわれる状況が浮き彫りになっている。実体経済においては人、モノの動きが滞り、製造業、農林水産業、サービス業などあらゆる職種に影響が及び、そのもとでコロナ失業も顕在化するなど、リーマン・ショックの比ではないほど冷え込んだデフレ状況が露呈している。ところが、金融市場だけは3月中旬まで暴落して以後は株価が急上昇し、まるでインフレ状態の「V字回復」などと呼ばれる不思議な動きを見せている。人々の暮らしは恐慌さながらなのに、一方ではウォールストリートをはじめとした金融資本主義のプレーヤーたちのなかで、カネ余りに乗じたコロナバブルが生じているのである。いったい何が起きているのか見てみた。

 

 国際通貨基金(IMF)が6月末に発表した世界経済見通し(実質GDP成長率)では、2020年の世界全体の成長率をマイナス4・9%とした。そのなかでアメリカはマイナス8%、欧州はマイナス10・2%、日本はマイナス5・8%、新興国であるロシアはマイナス6・6%、中国はプラス1%と予測。1月に世界経済見通しとして前年比3・3%の成長と予測していた数値を一気に下方修正し、極端に落ち込むとの予測を発表した。世界全体ではリーマン・ショック後の金融危機を反映した09年がマイナス0・1%だったのを大幅にこえる落ち込み方であり、1930年代の世界恐慌に匹敵する規模の景気後退を意味した。日本だけで見れば、リーマン・ショック後の09年の実質GDP成長率はマイナス5・4%であり、それに匹敵する規模との予測となった。

 

 移動自粛やロックダウンなど経験したことのない疫病下で、人、モノの流れが滞り、貿易はじめ国際的往来にも制限がかかり、2月以後は飲食店経営をはじめとしたサービス業、製造業、第一次産業、医療福祉など社会の全分野が凍り付いたような状態に置かれた。通常の経済危機とは異なり、コロナウイルスによって生活の糧となる労働行為すら制限がかけられたり身動きがつかず、世界各国で資本主義経済が窒息したかのような状況に見舞われた。

 

 日本国内でも、移動自粛によって大幅な売上減となったJR東日本、減便を余儀なくされた航空会社のANA、JALの経営難、自動車製造のトヨタの売上大幅減見通しなど、大手企業だけでもいくつもの企業が被っているコロナ禍の苦境が伝えられ、工場では生産停止や派遣切りが進むなど、恐慌突入にも似た様相があらわれた。

 

 サービス業ではとりわけ客足が一気に途絶えた飲食店の経営難が深刻なものとなり、そうした店舗に品物を納めてきた仲卸や市場、生産者にも広く影響は及んだ。インバウンドに依存していた観光地では、関連するホテルやバス・タクシーはじめとした産業もリーマン・ショックどころでない経営難に直面して、倒産するところも出ている。さらに医療機関の経営難も深刻で、コロナによってその他の患者の診察数が減り、赤字に直結する事態も招いている。企業では営業に出向くこともはばかられる等々がざらで、実体経済は肌感覚としても相当に冷え込んだことが誰しもの実感となった。金融市場の崩壊が実体経済に影響を及ぼしたリーマン・ショックとは異なり、疫病で社会全体が凍り付いたことによる経済的危機となった。

 

 こうした状態を放置すればバタバタと倒産・失業の嵐が広がるため、大慌てで政府が持続化給付金や低利子の緊急融資をくり出し、現状ではかつがつ倒産や廃業を免れている中小零細企業が少なくない。融資基準が比較的緩いため、なんとか借り入れによって資金繰りを回しており、これが経営を持ちこたえさせるための頼みの綱になるのか、あるいは倒産・廃業の先延ばしになるだけなのか、今後のコロナ禍の行方次第といった心境で危機感を抱いている事業者は多い。

 

 5月末に緊急事態宣言が解除され、多少の経済活動が戻りつつあるとはいえ、1人10万円の給付も含めてリーマン・ショックの時にはなかったような手当をしてなお、経済そのものが傾いた状態には変わりない現実がある。こうして程度の差こそあれ、世界各国で同じように恐慌突入を思わせる事態が同時多発的に進行し、わずか数カ月のコロナ禍によって「戦後最悪」ともいわれる景気後退を引き寄せることとなった。

 

富豪や投資家の資産増 強欲資本主義の本性

 

 一方で、金融市場だけは実体経済の冷え込みとは裏腹に「V字回復」を遂げているのが特徴だ。世界的に感染が拡大するなか、コロナ・ショックで株価が急落したのは3月中旬までであり、7月には米ダウも日経平均も年初から4割近く下落したのをほぼ元通りに近い値までは戻している。実体経済は「戦後最悪の景気後退」が指摘されながら、金融資本主義そのものは浮き上がったところでバブルに浸っており、何らの影響も被っていないか、むしろ多国籍金融資本や資産家はより資産を増大させている現実がある。

 

 なぜ、株価だけが「V字回復」を成し遂げることができたのか。それは世界各国がコロナ危機に際して緊急経済対策をくり出し、前代未聞ともいえる財政支出、金融緩和に乗り出したからにほかならない。日銀、FRB(米連邦準備理事会)、ECB(欧州中央銀行)を中心とした各国の中央銀行が注ぎ込んだ資金はすでにおよそ1000兆円をこえるとみられ、まだまだ資金を投入する姿勢を見せている。12年前のリーマン・ショック対応の比ではない巨額の資金供給に身を乗り出しており、異次元緩和を凌駕するほどの“超異次元緩和”を実施することによって、これまで(リーマン・ショック以後の金融緩和)にも増してカネが有り余った状態が作り出されようとしている。

 

 実体経済は冷え込み、製造業はじめ各種産業には資金需要がないため、これらのインフレ状態ともいえるだぶついたマネーがみな金融市場に流れ込み、ある種の活況を呈しているのである。日経平均でいえば、いまや最大の買い手が日銀であるように、自由競争の原理はどこへやら、コロナ前から官製的な力によって株価が人為的につり上げられる仕組みが常態化していた。それがコロナ禍を契機に、さらに実体経済とは乖離した状態が強まり、富める者はますます富める構造が担保されている。

 

 そして、ビリオネアといわれる億万長者や一握りの資産家たちはますます巨万の富を握りしめ、例えばコロナ禍で例外的に利益を上げた巨大テクノロジー企業であるアマゾン、アップル、マイクロソフト、フェイスブックなどのCEOやその株主たちは膨大な利潤を手に入れた事が明らかになっている。

 

 金融緩和の恩恵は実体経済とはかけ離れた富裕層に集中しており、例えば米シンクタンクが発表したものでは、3月中旬から6月末だけでも、世界の富豪ランキングでトップのジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)は資産が46%も増加し、1650億㌦(約18兆円)になっている。同2位のビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)は12%も増えて1097億㌦に、同4位のウォーレン・バフェット(世界三大投資家)は6%増の715億㌦、同5位のラリー・エリソン(オラクル創業者)は19%増加して702億㌦、同7位だったフェイスブックCEOのザッカーバーグに至っては63%も資産を増やし、891億㌦になったと伝えられた。億万長者としては全体でコロナ禍に世界が沈み込んだ14週間(3月中旬から6月末)の期間に6280億㌦も資産が膨れあがったとされている。コロナ禍でSNSやIT系が伸びたことも影響し、桁外れの利益を手にしたことがわかる。一方で、米国では6月の失業率が11・1%と高まりを見せ、リーマン・ショック直後を上回る状況が続いている。

 

実体経済と乖離したマネーゲーム 

 

 実体経済と金融市場の乖離--。それはリーマン・ショックでも露わになった現在の歪な強欲資本主義の構造であり、むしろより深まりを見せているといえる。暴走してきたマネーゲームによって世界経済が震撼した後、この10年来はアメリカやEU、日本はじめ先進各国は量的緩和や金利引き下げ、中央銀行による国債買いとり、株式購入など、多国籍金融資本や資産家たちを救済するために前代未聞の応急処置をくり出し、そのツケを各国の国民に押しつけてきた。

 

 リーマン・ショック後は、こうした天文学的な財政出動によってしのいできたが、復活を遂げたマネーゲームの基本的な構造は変わらず、実質的に恐慌突入にも見えるコロナ禍にさいして、さらに強力に官製的な力、国家のテコ入れによって市場を鎮める挙に及んでいる。破綻したはずの強欲資本主義のシステム、実体経済を置き去りにしたマネーゲームの装置だけは維持しようとしているかのような光景だ。

 

 もともと、世界恐慌の導線になったサブプライムローン証券の破綻は、70年代のニクソン・ショックによる金ドル交換停止以後の新自由主義、金融自由化経済の破綻であり、世界各地にバブル経済を起こし、架空の需要でドル支配を謳歌してきたアメリカの破綻にほかならない。ニクソン・ショックから後、金融と通信の技術革新を武器にして世界に新自由主義市場の拡大をはかり、サブプライムローン証券に象徴されるイカサマ金融で世界中の富を強奪してきたのがアメリカだった。このもとで反社会的な金融の論理で産業が支配され、人間性も社会性も無視した大競争が強いられ、奴隷的労働と失業、飢餓人口、貧困人口が世界中で増大した。

 

 そうして世界中が貧乏になっていくために消費需要がなく、買い手がいないため、最終的にアメリカ本国でITバブルをひねり出し、それが破綻してイラク戦争にのめり込む過程で、住宅ローンバブルの借金需要(需要の前借り)を創出し、すべてがパンクしてサブプライムローン破綻、翌年のリーマン・ショックとなり、資本主義経済はガタガタに崩壊を始めた。この10年来は経済破綻のツケを国家財政につけかえ、乗り切ってきたかに見えたが、再び破綻の危機にさいなまれている。従って、コロナ禍で実体経済そのものが危機的状況に見舞われ、本来ならば株価大暴落の事態を迎えてもおかしくないなかで、より強力な異次元緩和によって資金を注ぎ込み、株価だけは異常な回復を遂げているのである。このことは同時に、世界的規模で一層貧富の差が拡大することを教えている。富める者は実体と乖離した有り余ったカネによって働かずして富を得て、その他の圧倒的な国民、社会を実際に下支えしている側は失業や貧困、そして経済危機にも増してコロナに見舞われ、生活が破綻しかねない現実に直面している。

 

 事態の進行は、このような金融投機資本の支配のもとでは世界が成り立たないことをあらわしている。資本主義も極限まで進み、資本主義であるが故の世界の崩壊となってあらわれている。コロナ禍にあって、否応無しにそのことが問われているのである。

 

 社会を成り立たせる原動力は生産活動であり、労働者をはじめとする生産を担う働く側が、社会の公益を代表して、医療や物流、製造であれ生産であれ、共同して社会を担う力を大結集すること、世界的規模でコロナ後の世界はどうあるべきか、行き詰まった金融資本主義の現在地と重ねて議論を深め、アフター・コロナ(コロナ後)と同時にアフター・キャピタリズム(資本主義後)を考えていくことが求められている。

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