世界中が新型コロナウイルスの蔓延によって震撼している。日本国内でも首都圏や関西圏などの都市部で緊急事態宣言が出るなど、経験したことのない疫病への対処に社会全体が翻弄され、先行きの見えない状態が延々と続いている。およそ100年前に猛威を振るったスペイン風邪は終息したかと思えば再び感染拡大に見舞われるなど第三波まで続いた後、ようやく集団免疫ができて終息に至った。今回の新型コロナウイルスが今後どのように感染拡大し、あるいは終息していくのか予断は許さないが、医療対応を充実させることと同時に、一方で社会を維持し、そこで暮らす人々の生活を支援していくことが感染拡大を防ぐためにも待ったなしの課題となっている。世界はどうなっており、日本政府の対応はどうなっているのか、なにが求められているのか、記者座談会で論議した。
A 既に世界全体の患者数は150万人を突破し、日に日に感染が拡大している。とくに医療制度の歪みが深刻なアメリカでの感染拡大が爆発的で、他国をしのぐ勢いを見せている。米ジョンズ・ホプキンズ大学が日々世界の患者数の推移をホームページでアップしているが、無関係でおれる国などないほど世界中に広がっているのがわかる。このなかで中国、韓国は1日当りの患者数がここ最近は100人未満で推移し、一定の終息にはなっているようだ。一方で、その他の国々では数千人単位で連日のように患者数が膨らんでいる状態だ。
B イタリアや中国にはキューバから医師団が応援にかけつけ、活躍している。日本国内ではあまり報道されないが、キューバで開発されたインターフェロン・アルファ2Bが新型コロナウイルスに対して効果を発揮していることとあわせて、世界的にはキューバの医療外交に改めて注目が集まっている。
経済封鎖によって痛めつけられてきた国ではあるが、栄養失調やそこから派生する失明が問題になって自家菜園を徹底したのとあわせて、そうした国民の健康を守るために医療に力を注ぎ、町医者を充実させることで一人一人に目を行き届かせる政策をとってきた。2000年代には既にその地位を築いていたが、実は医療大国でもある。人口に対する医者数の比率は世界屈指で、世界各地で貧困を理由に学業の道を断たれた若者をも受け入れ、語学研修をさせた後に無料で医学を学ばせて医者に育て上げるなど、独特のシステムも築き上げている。こうして国内医療に余裕を持たせながら、災害に見舞われた国々には医師団を派遣し、今回も我れ先にと医療関係者が武漢に乗り込んで治療にあたっていた。
社会主義体制と資本主義体制の違いといえばそれまでだが、欧米で新自由主義によって病床数削減や医師不足が深刻なものになり、たちまち医療崩壊してしまうのとは対照的に、世界に医師を送り込む余裕を備えていることがわかる。イタリアの空港でキューバの医師団が拍手で迎えられている映像を見ると、イタリア国民の難儀な思いと同時に、医者や医療の存在が社会にとっていかに大切かを考えさせられた。
C 新型コロナウイルスは適切な治療を施せば致死率も抑えられることがわかっている。八割は感染しても重症化しないなど、軽症で済む場合も多いという。一方で、特定疾患を抱えている人々などは用心しなければならないのも事実だ。若者でも死ぬ人は死ぬというし、決して若いから大丈夫という代物でもない。症状の特徴は世界的な情報共有によってもっと見えてくるだろうが、今のところ未知な部分も多い。
問題は、感染が拡大した場合に各国の現状の医療体制では受け入れる余裕がなく、医療崩壊が生じていることだ。適切に治療を施せる余裕や十分な数の病床、人工呼吸器などが完備されていれば、「若い命を優先して高齢者の人工呼吸器を外す」などしなくてもよいが、足りないためにそうせざるを得ない状況が生まれている。アメリカでは医者や看護師が足りず、退職者をかき集めて対応に当たっている。
それこそ、日本集中治療医学会の理事長声明で指摘していたように、10万人当りのICU(集中治療室)の病床数が29~30だったドイツと、12床程度だったイタリアでは致死率がまるで異なる。10万人当り5床程度しか備えがない日本社会で爆発的感染が広がった場合、それはもう大変な事態に見舞われることが目に見えている。病床20万床削減とか医療改革の犯罪性がここにきて浮き彫りになっている。政府はようやく4日に人工呼吸器の増産をうち出したが、あまりにも動きが鈍感だ。
現状では確かに国内の1日の患者数は数百人規模で、各国での広がりとは様相が異なる。しかし、感染経路が不明な感染者も多数出てきており、初期の封じ込めに失敗し、次の段階に入っていることは疑いない状態だ。それで慌てて緊急事態宣言を出したが、中身が空っぽでみんなが激怒している。感染症対策と経済対策を同時に有効にくり出さなければならない局面なのに、国民の生活補償を後回しにするから、よけいに感染症対策も無力なものになる。なにがしたいのかがわからない。
B 感染症対策としては、医療体制が脆弱だったことがこの新型コロナウイルスに対応できない最大の要因なわけだから、一つには医療体制を急いで構築することが不可欠だ。他国と比較しても脆いならなおさら急がなければならない問題ではないか。感染者全員がICUを必要とするわけではないし、それこそ初期症状であったり陽性でも軽症な患者はホテルを借り上げたり、あるいは五輪選手村の部屋等で一定期間隔離しつつ、重症患者を受け入れるための医療施設も同時に確保することが必要だ。病床数とその医療看護にあたるスタッフを万全に整え、人工呼吸器も早急に備えないといけない。
それこそ施設がないなら、中国は10日間でコンテナ病院をつくったし、アメリカでもセントラル・パークなどに野営の病院を設営したり、各国の先例を真似したらいい。また、感染がさほど広がっていない地方の病院から応援スタッフを派遣する体制など、全国の医療スタッフの実力を注ぐことが重要ではないか。中国がニューヨークに人工呼吸器を1000台支援していたが、「中国には頭を下げてたまるもんか」などといっている場合ではない。国民の生命がかかっている問題なのだから、人工呼吸器を回してもらえる可能性がある国に「助けて下さい」と誠実に頭を下げて譲ってもらったっていい。このようなことが臨機応変にできる政府が必要だ。
C 初期の封じ込めに失敗したのは、PCR検査を抑制したからにほかならない。ここ最近でこそ3万件をこえる検査数にはなっているが、東京五輪のために明らかに感染者数を小出しにしようとしていた。本当にふざけた話だ。韓国やドイツは検査を徹底して、それこそ重症者と軽症者を分けて効率的に対応していることが奏功しているようだ。韓国が考え出したドライブスルー方式の検査をドイツやアメリカもとり入れている。日本では当初小馬鹿にしたような論評が多かったが、良いものは積極的にとり入れて、徹底的に検査をして抑え込むというのは医療において当たり前の話だろう。
しかし、「PCR検査をしたら医療崩壊が起こる」「医療関係者に後ろから弾を撃つ行為」などの詭弁で五輪開催のために検査を抑制した。医療崩壊が起こるほど医療体制が脆いのは事実なのだから、その現実を受け入れて、ならばどうすれば対応できるのかを必死に考えるのがまともだろう。しかし、「医療崩壊が起こるからPCR検査をしない(隠れコロナが蔓延しても構わない)」「東京五輪が延期になったら困るから感染者数を抑える(PCR検査をしない)」と脳味噌が別目的で硬直している。このような詭弁をいったい誰が考えつくのだろうかと思う。
検査をすることによってはじめて患者のふるい分けが可能になるし、軽症者の隔離や重症者への治療など的確な医療措置がとれる。早急にこうした体制を構築しなければ話にならない。五輪開催願望論者であったり詭弁論者に付き合う必要などない。死ななくてもよい命が、医療体制の脆さによって死ななければならないというのは罪だ。
機能しない経済対策 カネ出さず自粛だけ
A 医療的にやらなければならないことはそれこそ単純で、患者を見つけ出して治療する、そのための体制を先手先手で構築していくことに尽きると思う。同時に感染症対策として求められるのが外出自粛なわけだが、この感染症対策を有効にするための経済対策が十分でないものだから、結局のところ片手落ちになるという本末転倒が起きている。いろいろあるが、やらなければならないことは単純だ。チンタラしていないで国民の生活補償をやれ! の一言に尽きる。その安心が担保されたらみんな自粛には応じる。
ところがカネは出さないのに自粛だけ要請するものだから、困惑が広がっている。「どうしろというのか?」と--。働かなければ生きていけない人々は当然働きに出るし、「8割の接触を避けて下さい」などといわれても意味不明だ。しかし自粛の風潮は広がっているので、中小零細企業や飲食店などは家賃をどうするか、従業員の給料をどうするか、来月の資金繰りがどうなるか…とみんなが頭を抱えている。飲食ではアルバイトが相当数切られているし、生活のメドが立たない人だって少なくない。学生アルバイトなどは、仕送りが苦しいので家賃や学費を自分で稼いでいる子だっているし、勉学も生活もたちまち行き詰まる。本当に自殺者が出てしまうのではないかと感じるほど影響は深刻だ。そうした社会の隅々で発生している影響を踏まえて、政府はみなが安心できる生活補償を大胆に実行するのが当たり前だ。しかし、麻生太郎とか安倍晋三とかカネの心配などしたこともないような人間で成り立っている政府はとことん出し渋っている。巷の現実が見えてないのだ。
C 本当に誰のための政府なのだろうか? 巷では堪忍袋の緒が切れている人も少なくない。緊急融資などの制度も難解で、さまざまな条件がもうけられ、振るい落とすためではないかと思うようなやり方だ。日本政策金融公庫の窓口は融資の相談に来る人であふれ、その日は無理なので順番待ちの札をもらって帰ってくるような状態だ。学校の休校によって休まなければならなくなった親への補償も書類だけで10枚以上に及ぶのであきらめた、とかの話もざらだ。こうして新型コロナウイルス騒動による打撃を国民がみな被らなければならないとなると、それこそ経済は崩壊するな…というのが実感だ。十分な補償がなく先行きが見えないままの状態に置かれ、要するに棄民されている。しかし、その経済崩壊のツケは国家に丸ごと跳ね返ってくる。各国はその打撃を緩和するために国民へ外出制限しつつ現金支給しているのに、日本政府だけが頑なに拒んでいる。自己責任に委ねて、最悪の事態になった際は「私が責任をとればいいというものではない」などといっている始末なのだ。責任がないということは無責任であるといっているに等しい。
A 労働の対価がなければ収入源は途絶えて生活ができなくなる。それを営業自粛なりで制限するのであれば、政府補償がなければ感染症対策としても経済対策としても機能しない。誰でもわかる話だ。この国に生きるすべての人々の縁の下の力によって社会は支えられているし、生産、物流・運搬、販売、製造業やサービス業など職種の違いはあれど、なにをとっても人と人の力や連関がなければ社会は麻痺してしまう。分業によって社会が成り立っているからだ。ところが、コロナの蔓延が止まらないために心肺停止のような状態をよぎなくされている。そこをしのぎきるために必要な手当を施すという政策がなければ社会は混乱する。
日頃から世間の実情を知らず、浮き上がったところで政治をやっているせいで、このような予期せぬ疫病に直面した際に、なにが有効な政策で、なにが有効でない政策なのかの意味がわからないのだろう。五輪の心配をしていたせいで初期対応が遅れたこともそうだが、為政者の願望のために現実的で科学的な対応に待ったがかかり、社会全体にとっての利害、すなわち安心や安全が二の次になっていることに大きな欠陥がある。国民の生命や安全はいつも二の次なのだ。社会全体の心配よりも為政者の願望や関心が優先され、官僚もそれを忖度していたのでは道を誤る。検査数を抑制してきたのが最たる罪だが、モリカケ、桜などをやらかしてきた感覚で隠蔽や改ざんなどがやられた場合、相手が疫病だけに真実を反映しないことには大変な事態を招きかねない。既に世界からも検査数の少なさに疑念を抱かれている。
事業規模108兆円といいながら政府の財政支出は実は16~17兆円とかの大言壮語もしかり、今必要なのは大きなことをいってみせたり、空砲を打ち鳴らすことではなく、確実な感染症対策と経済対策だ。言葉だけがいちいち大袈裟で浮き上がっているのも特徴だが、必要なのは空回りすることではない。
B しかし、これ以上空回りするなら、「オマエ、どけ!」といって成り代わる者が必要なのではないか。能力のある者がこのような危機に際して陣頭指揮をとらないと、社会全体にとっての悪影響がすごい。自民党のなかには「安倍晋三以外に首相にふさわしいのがいない」そうで、要するに終わった政党であることを自己暴露してもいるが、やはり国民生活を心底心配している人間が政治の実権を握らないとみんなが困る関係を浮き彫りにしている。目先の局面で国民の側の要求を強め、政府に圧をかけて経済政策を実現していくことは大前提ではあるが、「この国の政府は終わっているな…」であきらめるわけにはいかない。いい加減にしてほしいと大半の者が思っているのだ。この国で生きていかなければならない以上、よりよい政府をつくっていく努力を続けなければならないし、危機のなかでその政府の性質を見定めて判断していくことになる。
米軍の中で感染広がる 何を意味するのか
A あと、まったく話は変わるが、この新型コロナウイルスについては武漢で開催された軍人ワールドカップに米軍が持ち込んだという説がまことしやかに流布され、発源地はどこなのかが世界的にも注目されている。
そして、ここにきて露呈しているのは、米軍のなかで相当に感染が広がっていることだ。米空母セオドア・ルーズベルトで乗組員4000人のうち150~200人が感染し、艦長が米軍の許しもないまま世界にSOSを発信して解任されたが、その他の空母でも感染が拡大し、計4隻にのぼっている。在日米軍でも規模は伏せられているが感染が拡大していることから非常事態宣言が出され、在韓米軍でも感染者が増えていることが問題視されている。中東に派遣された部隊からも感染者が見つかるなど、世界的規模で米軍という軍隊内部の感染が異様な事態になっているのは無視できない。
空母は世界各地に展開され、船も異なる乗組員たちが濃厚接触している訳はない。しかも母国から離れて配属されている。ところが、あっちこっちで同時多発的に感染しているから不思議だ。セオドア・ルーズベルトの艦長は解任され、乗組員たちが拍手で送り出している映像が流れたが、軍司令部から隠蔽するよう指示されていたのを蹴って、部下である乗組員たちを救うために腹を切ったのかも知れない。軍隊に処分された艦長を乗組員たちが尊敬の眼差しで送り出していたのが印象的だった。在日米軍の感染実態についても詳細は明らかにされていないが、なにを必死に隠蔽しているのだろうかという疑問がある。
C 一帯一路の玄関口といわれたイタリアでの爆発的な感染拡大、イランでの感染拡大とその後の非人道的な医療制裁、中国での感染拡大、それはなにを意味しているのかも考えさせられる。もっとも今ではアメリカが世界最大の感染国となっているが、なぜこれほど世界でも例を見ないほど国内感染が広がっているのかという疑問は、医療体制が脆弱だからというだけでは説明がつかないようにも感じる。もともと昨年来からのインフルエンザの猛威は新型コロナウイルスだったのではないか? という指摘があるのも事実だ。
B スペイン風邪の際は第一波だけでは収まらず、最終的には第三波まで続いた。一度終息に向かったからといって、第二、第三の波がくることだって十分に考えられる。そのなかで疫病と向き合うためには、やはりしっかりと各国で医療体制を整え、国境や体制の違いをこえて有効な抗薬剤などの情報を共有したり提供し、21世紀の科学や医療の力でもって跳ね返していくほかない。スペイン風邪が蔓延した一世紀前と比較してはるかに衛生状態や医療環境は進歩しているし、その力量が問われているように思う。
そして、社会機能を維持するために国民そのものの暮らしを補償していくことが求められている。国民がどうなろうが知ったことかという放置国家など成立し得ないのだから--。