農水省は3月上旬に種苗法改定案を国会に提出し、3月中には衆議院を通し4月中にも参議院で成立させることを狙っている。それに向けて農水省は18日、自民党農林合同会議に種苗法改定案を提示し了承された。20日には日本の種子を守る会(八木岡努会長)が自民党農林部会長らに対し、種苗法改定で生産者が不利益を被ったり、混乱を招いたりしないよう求める要請をおこなった。
「種子を守る会」が問題にしたのは、種苗法のなかの「自家増殖」で、要請では、「原則禁止」となっている改定案に対し、「国際的に認知された農業者の自家増殖を認める種子の権利を著しく制限するものであり、種苗法の改正案から削除すべきだ」と訴えた。
今回の農水省の種苗法改定案は、2018年の種子法廃止と連動したものだ。政府の種苗法改定の最大の狙いは現在は登録されている品種であっても「原則自由」としている種子の自家増殖や自家採種を「原則禁止」にすることにある。
種苗法改定の口実としては、イチゴやブドウなど日本の優良な品種の種子が中国や韓国に流出していることをあげ、それを防止するためだとしている。だが、現行の種苗法でも「登録された品種を購入して消費以外の目的で輸出することを禁止」しており、種苗法を改定しなくても現行法で十分防ぐことができる。
ところが農水省は、海外流出を防ぐには農家の自家採種や自家増殖の実態を把握しなければならないとして、自家増殖や自家採種を許諾制にし、「原則禁止」とすることを改定案に盛り込んでいる。
「自家採種」とは栽培した植物の種子を採ることをいい、「自家増殖」とは種子ではなく、芽の出た芋を植えて増やしたり、蔓を植えたり株分けして増やすことをいう。
現行の種苗法のもとでも自家増殖禁止が強まってきていた。禁止された品種は2016年までは82種だったものが、今では387種に急増しており、ますます増えるすう勢にあった。さらに政府は種苗法を改定し、「原則禁止」にしようとしている。
種苗法が改定されると、農家は登録された品種の育種権利者に金を払って自家増殖(採種)の許可を得なければならない。許可が得られなければすべての苗を新しく購入しなければならない。違反すれば10年以下の懲役、1000万円以下の罰金の対象になる。
政府は種子法廃止と同時に農業競争力強化支援法を制定し、各都道府県の優良な育種知見を民間に提供することを奨励している。民間のなかには外資も含まれている。そうしたうえで種苗法改定に着手している。
これまで都道府県が開発して保有しているコメ・麦・大豆など主食の種子についても、外資を含む民間企業に売却し、農家にはその民間企業から高い値段で種子を買わせるという狙いだ。
農水省の種苗法改定に関する第四回検討会ではコメの専業農家の例が出され、7㌧ほどを自家採種してきた種子をすべて購入するとなると500万円近い負担増になるとされた。
公共の種子が廃止されて民間企業が開発した種子を購入する場合は、現在でも8~10倍の価格なので4000万~5000万円の負担増になりかねない。当然農家経営を圧迫する。しかも新たな品種を登録しようとすると数百万円から数千万円の費用がかかるので大企業にしかできない。世界の種子業界では、モンサント(現バイエル)とコルテバ・アグリサイエンス(旧ダウ・デュポン)の2社が売上の65%を占める。サカタのタネは2%にも満たない。
専門家は、種子法廃止や種苗法改定は日本の農業を巨大グローバル企業の餌食にするためであると警鐘を鳴らし、国会での成立を阻止するよう訴えている。