財務省が自治体の下水道事業について、公費投入を削って使用料値上げを促す方針を明らかにした。同時にコスト削減のため、事業運営の広域化をおし進める方向も示した。安倍政府は民営化を進めるための改定水道法(昨年12月成立)を10月1日にこっそり施行したが、下水道事業を手始めに公費負担を絞りこみ、水道事業全体に民間企業参入を広げていく地ならしに着手している。
財務省は6日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)・財政制度分科会で「公営企業改革」について提言した。そこで「下水道事業の費用負担に関する基本原則は“雨水公費・汚水私費”(雨水の処理は公費で賄うが人工的に生み出された汚水は使用者が負担する)」であるにもかかわらず、「汚水処理に要する費用を使用料で賄っている割合(経費回収割合)は平均でも7割程度」と指摘し「基本原則が貫徹されているとは言い難い」と批判している。
そして「経費回収割合を引き上げるための一つの方法は、汚水処理に要する費用の抑制」と主張し「広域化・共同化への取組を着実に進めるべきだ」と提言している。
さらに各地方自治体が汚水処理費に見合う使用料値上げへ踏み切ることを促すため「一般会計等からの繰入れ(公費投入)を抑え、受益と負担の対応関係を明確化させる」ことも明記した。下水道事業に関する公費負担については「真に必要な範囲に限定されているか、使用料引き上げへの意欲を削ぐものとなっていないかといった観点から検証が必要」とし、公費負担額算出基準の見直しにも言及した。それは下水道事業の公費負担額を引き下げ、使用料値上げと下水道事業の広域化によって収益が上がる構造をつくり、民間企業や外資参入を促進する施策の一環にほかならない。
安倍政府が昨年12月に成立を強行した改定水道法は、水道施設を自治体が保有したまま民間事業者に運営権を売りとばす「コンセッション方式」の導入が柱である。従来の「業務委託」は、水道施設を自治体が所有し、自治体が委託料を払って部分的な業務を民間企業に任せる方式で、民間企業が得る利益は限られていた。また施設ごとの民間企業が所有する「JR型の民営化」は、自然災害で施設が破損すれば巨額な復旧費が欠かせないというリスクがある。
こうした営利企業が参入を渋る要因をみなとり除いたのが「コンセッション方式」である。それは水道施設を使って自由にもうけることを参入企業に認め(水道料金はみな企業の収入になる)、大規模災害で水道施設が破損すると、その復旧費は地方自治体(税金)にかぶせる仕組みである。
水道料金に「役員報酬」も加算
実際に厚労省が9月末に発表した「水道施設運営権の設定に係る許可に関するガイドライン」は、コンセッション方式について「地方公共団体が水道事業者」という位置づけを維持したまま「水道施設運営権」のみ民間事業者に「設定できる」と明記した。
そして自治体側が担当する業務と民間業者が担う業務について次のようにすみわけしている。
【自治体が担う業務】(水道事業の全体方針の決定・全体管理)
▽経営方針の決定
▽議会への対応、条例の制定
▽認可の申請・届け出
▽供給規定の策定
▽危機管理に関する重要な意思決定
▽給水契約の締結、国庫補助の申請
▽水利使用許可の申請
▽指定給水装置工事事業者指定
【民間企業(外資含む)が実施可能な事業】
●水道施設の整備・管理
▽水道施設の更新・大規模修繕・増築
▽水道施設の運転管理・維持・点検
▽給水装置の管理
▽水質検査
●営業・サービス
▽料金の設定・徴収
▽水道の開栓・閉栓
▽利用者の窓口対応
●危機管理
▽災害・事故等への対策
▽応急給水・応急復旧
▽被災水道事業者への応援
またコンセッション導入後の水道料金設定については「役員報酬」も原価として算出する方向が明るみに出ている。これまで水道料金原価といえば「人件費、薬品費、動力費、修繕費、受水費、減価償却費、資産消耗費、公租公課、その他営業費用の合算額」などだったが、新たに水道事業参入を目指す外資や営利企業の役員報酬を保障するために、水道料金の値上げを可能にする規定は施行段階にきている。10月に施行した改定水道法も「適正な原価に照らし公正妥当な料金」としていた改定前の料金規定が「健全な経営を確保することができる公正妥当な料金」に変わっている。
さらに「費用分担」の項では「被害が大規模で事業運営へ多大な影響がある等、水道施設運営権者が合理的な経営努力を行ってもなお負担しきれないと考えられるものは原則として水道事業者等」と規定した。これは大規模な災害が起きれば水道事業者である自治体に復旧費をみな押しつけるという内容だ。日頃は営利企業が水道施設を使って利益を上げるため無制限の水道料金値上げを認め、大規模災害が起きればその復旧費はみな自治体負担(税金)にかぶせるという制度である。
こうした水道民営化に向けた地ならしが国主導で進行している。それが下水道事業の公費負担削減や使用料値上げの動きとなって表面化している。