閣僚の失言や「首相の任命責任」を煽るメディアのキャンペーンで国民の目を釘付けにしながら、安倍政府が自衛隊の中東派遣、国民投票法改定案成立、日米貿易協定承認案採決など、国の将来にかかわる重要問題を問答無用でおし進めようとしている。さらに今国会では兵員確保にむけた自衛隊員の初任給引き上げ、医薬品の治験を短縮する「条件付早期承認制度」の法制化、米国の投資家を優遇し中国企業を排除する外為法改定、洋上風力発電建設に使う港湾設備を推進する港湾法改定など、国民に真実を知らせないままさまざまな分野で法改悪が動いている。
国会承認なくホルムズ海峡派遣を強行
今国会で最大の焦点となるべき問題は自衛隊の中東派遣である。だが国会の承認を受ける必要がないため審議対象にすらなっていない。
安倍政府が公表している派遣内容は、①「有志連合」に参加しないが引き続き米国とは緊密に連携していく、②新規装備の艦艇(交戦能力を備えたイージス艦等)派遣や既存の海賊対処部隊の活用を検討する、の二点で、事実上米国主導の有志連合の一翼を担うという意味である。派遣先は「オマーン湾・アラビア海の北部の公海および、バブルマンデブ海峡の東側の公海を中心に検討する」とし、アラビア海全域を対象にしている。
そして大きな問題は今回の自衛隊派遣について「国会承認が不要」となる防衛省設置法に定めた「調査・研究」を適用することを明言し、派遣した自衛隊には後付けで武力行使を認める「海上警備行動」(防衛相が首相の承認を得て命じるため国会承認不要)を発令する可能性に言及したことだ。これまでの国会では、いくらおかしな政府でも自衛隊の海外派遣については国民に計画を公表し、国会内における論議を経て特別措置法や関連法制を整備して派遣に踏み切る手順は踏んでいた。だが今回はまったく国会での審議もせずに、年内の自衛隊中東派遣を決め、挙げ句の果ては「海上警備行動」で武力行使にまでつき進んでいく異常事態が進行している。
こうしたなか国内の憲法研究者125人が今月1日に声明を出し「わたしたちは安保法制のもとで、日本が紛争に巻きこまれたり、日本が武力を行使する恐れを指摘してきた。今回の自衛隊派遣はそれを現実化させかねない」と強い警告を発した。
ところが国会内では与野党ともに「閣僚の資質」や「首相の任命責任」など些末な論議に明け暮れている。国の針路を左右する重要問題を議題にし真剣な論議を交わすという最低限の責任すら喪失した「国会の資質」をまざまざと見せつけている。
改憲の為の国民投票法
こうしたなか、何が何でも今国会で成立させようとしているのが、改憲原案を発議するために不可欠な国民投票法改定案である。今国会で焦点になっている国民投票法改定案は昨年6月に提出したもので、18歳以上の選挙権を認めた2016年の改定公職選挙法を踏まえた内容を追加している。国民投票法改定案自体は駅・商業施設への投票所設置や、水産高校実習生に洋上投票を認める法律で、改憲原案の内容を規定する法律ではない。だが国民投票法改定案を成立させなければ、改憲原案の発議へ進むことができない。安倍政府が国民投票法改定案の成立を急ぐのは、できるだけ早く改憲発議へ進み、改憲を実現するためである。
ちなみに自民党が昨年3月に明らかにした「改憲」をめぐる優先四項目は、①安全保障にかかわる「自衛隊」(九条改正)、②統治機構の在り方に関する「緊急事態」(緊急事態条項導入)、③一票の格差と地域の民意反映が問われる「合区解消・地方公共団体」、④国家百年の計たる「教育の充実」である。
「九条改正」では「戦力不保持」と「交戦権の否認」など九条の条文は残すが、その後に「九条の二」をもうけ「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と追加している。それは「自衛措置」のためなら「戦争放棄」も「戦力の不保持」も投げ棄てて良いと認める内容である。また「緊急事態条項」の項では、国会審議なしで内閣が法律を乱発できる「緊急政令の制定規定」も潜り込ませた。こうして米国が「自衛隊を出せ」といえば「積極的平和主義」等といって、即座に応じることができる憲法に変えるというのだ。
自衛官の給与引き上げ
同時進行で自衛官の初任給やボーナスを引き上げる関連法も提出した。防衛省は「一般国家公務員に準じた給与改定」と主張するが、これは給与引き上げによって自衛官応募者を増やすことが狙いである。
具体的には来年7月から「自衛官候補生」の初任給を月額8600円増(現行13万3500円→14万2100円)とし、自衛官任用一時金は4万5000円増(17万6000円→22万1000円)とする。定年まで務められる「一般曹候補生」は月額9300円増(現行16万9900円→17万9200円)とし、大卒の場合は月額1万7000円増(18万1100円→19万8100円)とする方向だ。全国の自治体で自衛隊への入隊勧誘に向けた名簿提出が問題になってきたが、札束で海外派遣人員の確保を図る動きに乗り出している。
米国の余剰作物投棄場
こうしたなかで米国から大量の輸入品を買い込む日米貿易協定承認案の審議が動いている。今回の日米貿易協定を巡っては、正確な協定内容も農水産業への影響も国民に周知することなく協定承認案の審議だけが先行しているのが実態だ。だが表面化している部分的な内容を見ても
【米国からの輸入】
▼牛肉 関税を現在の38・5%から9%に段階的に引き下げ
▼豚肉 高級品も低価格品も関税削減
▼チーズ チェダーやゴーダなどハード系は関税を最終的にゼロにする
▼ワイン 将来的に関税を撤廃
▼小麦 関税の大幅削減
など、米国の要求を安倍政府が丸呑みしていく姿勢は一目瞭然だ。これは米国から入ってくる牛肉や豚肉、チーズなどの乳製品、小麦などの関税を大幅に引き下げ、日本でみな受け入れるという内容である。しかもこれは「安価な輸入品を受け入れる」というような商取引の関係ではない。日本を米国で売れ残った成長ホルモン剤まみれの肉や遺伝子組み換え食品を売りつけるはけ口、さらには余剰農水産物の投棄場として米国に差し出すという隷属国の対応である。それは安全で高品質な国産農水産物を、安価な米国製品にとってかえさせ、日本国内の農林水産業生産、さらには日本人の胃袋まで米国が牛耳ってしまうことに直結する動きである。
こうした日米貿易協定の承認を野放しにして、日本国内の農林水産業が壊滅状態に陥れば、日本ではいずれまともな食品を手に入れることもできなくなる。日米政府は12月9日の会期内の成立によって、来年1月の日米貿易協定発効を目指しているが、承認案を不成立に追い込み、貿易協定発効を阻むうえで正念場を迎えている。
さらに農業関係を巡っては食品輸出を促進する司令塔を設置する「農林水産物及び食品輸出促進法案」も提出している。これは農林水産省に、農林水産大臣を本部長とし、総務相、外務相、財務相、厚労相、経産相、国交相を本部員とする「農林水産物・食品輸出本部」を設置し、国を挙げて農水産物の輸出を促進するという法案だ。具体的には輸出事業者に融資や債務保証等の支援をおこなう内容で、食品輸出事業者を手厚く支援する内容である。
また肥料配合の規制緩和を柱とする「肥料取締り法改定」も動いている。同法は「労力・コストの低減」を掲げて、これまでできなかった堆肥と化学肥料の混合を認める内容を盛り込んだ。そして「普通肥料(化学肥料等)と特殊肥料(堆肥等)を配合した肥料や、肥料と土壌改良資材を配合した肥料を、届け出で生産できる制度を新設する」と規定している。「低コスト」を掲げて強力な化学肥料の使用が野放しになれば、深刻な土壌汚染を引き起こす危険も現実味を帯びている。
外資呼込む外為法改定
世界経済の勢力図が中国や朝鮮半島などアジア圏を中心に大きく変化するなか、外為法改定案も審議入りした。だが安倍政府はあくまで米国追随外交を続け、中国との取引を排除するシステムづくりを進めている。
現行の外為法は「対外取引原則自由(外為法第一条)」という基本的な立場から「対内直接投資を行う場合に届出や報告は不要」となっている。しかし「上場会社の発行済株式総数10%以上の取得」「会社の事業目的の実質的な変更に関し行う同意等」については事後報告を求めている。
また「国の安全等に係る一定の業種」は「事前届出が必要」と規定している。この事前届出対象業務は、▽国の安全=武器、航空機、原子力、宇宙関連、軍事転用可能な汎用品の製造業、サイバーセキュリティ関連、▽公の秩序=電気・ガス、熱供給、通信事業、放送事業、水道、鉄道、旅客運送、▽公衆の安全=生物学的製剤製造業、警備業、▽我が国経済の円滑運営=農林水産、石油、皮革関連、航空運輸、海運、となっている。
この指定業種がもし事前届出審査で「問題がある」となれば、①投資内容の変更・中止を勧告→②変更・中止命令→③「国の安全」で規定された業種に限って措置命令(株式売却等)を出す、という順序になる。これは国の重要な産業の株を外資が買いしめるのを防ぐためだった。
ところが外為法改定案には「問題ない投資の一層の促進」を掲げ「事前届出免除制度」の導入を盛り込んだ。指定業種のうち武器製造、原子力、電力、通信は届出免除の対象外として例示したが、それ以外は厳密な審査を経ないまま外資の投資を呼び込むことが可能になる。それは水道、鉄道、農林水産など公的な産業が今後、欧米資本を中心にした外資の草刈り場になる危険をはらんでいる。
その一方で「国の安全などを損なう恐れがある」と政府が規定した投資家については、対内直接投資の規制を強化する方向をうち出した。具体的にはファーウェイなど中国企業の排除を想定している。現行の事前届出制度は「措置命令」の対象業務を「国の安全」に限定している。これを改定外為法は「国の安全」に加え「公の秩序、公衆の安全、経済の円滑な運営」にまで拡大している。米国による中国企業の排除や制裁の動きを真似て、わざわざ近隣諸国と対立する方向へと突き進んでいる。
洋上風力促進の法案も
そのほか今国会では「医薬品・医療機器安全確保法改定案」も提出している。これは医薬品の開発や販売を早める「先駆け審査指定制度」(世界に先駆けて開発され早期の治験段階で著明な有効性が見込まれる医薬品等を優先審査の対象に指定する仕組み)や「条件付き早期承認制度」の法制化を求めるもの。十分な治験を経ない薬を世間に送り出す危険な内容だ。
とくに「条件付早期承認制度」は「患者数が少ない等により治験に長期間を要する医薬品等を、一定の有効性・安全性を前提に、条件付で早期に承認する仕組み」で、薬害を招く危険性もある。副作用や死亡報告があいつぎ大きな問題になった抗がん剤「イレッサ」を見ても、通常の治験過程を経ていなかった。新薬申請は通常1年近くかかる。ところがイレッサの場合は承認申請からわずか5カ月で2002年にスピード承認となった。薬剤会社は承認が早ければ早いほど売上が上がるため、もうけも大きくなるが、イレッサのときは副作用の死者が数百人規模に上っている。
あわせて「教職員給与特別措置法改定案」も動いている。「教員の働き方改革を進める」「夏休み期間に休日をまとめどりできる」と宣伝し、「勤務時間を年単位で管理する変形労働時間制」を導入するのが柱だ。
もともと教員の過労死や多忙化は教員不足や子どもの教育に無関係な雑用や研修が多いことが大きな要因だが、それを解決するのではなく「“残業時間を月45時間、年360時間”とする指針の遵守」を掲げ、サラリーマンと同様の勤務形態を導入しようとしている。文科省は学校行事が多い4、6、10、11月の13週は勤務時間を週3時間増やし、子どもたちが夏休みになる8月に5日間まとめて休ませる活用パターンを例示している。加えて部活動、授業準備などもすべて勤務時間に含め、みなタイムカードで管理する方向を打ち出している。
国を挙げて洋上風力発電整備用の港湾確保を支援する「港湾法改定案」も審議入りしている。これは大型の洋上風力発電機材を扱える港湾施設が少ないため、国主導で風力発電建設事業者を支援するという法律だ。法案概要では「国が洋上風力発電設備の設置などの基地となる港湾を指定し、当該港湾の埠頭を発電事業者に長期間貸しつける制度を創設」するとし、港湾区域における公募占用計画の認定有効期間を20年から30年に延長することを明らかにしている。
国会内では国民の目をそらしながら、国の将来にかかわる重要法案をこっそり成立させていくのが常套手段になっている。今国会においても国会で一体何が動いているのか、全国民的な監視の目を強めることが不可欠になっている。
重要法案の審議をフェイク
「桜を見る会」や「重量級大臣の辞任、、、などで国民の目を欺き
日本を沈没させ、衰退化に加速する悪法審議を淡々と進める安倍政権
野党第一党の立憲は指を加え知らんぷりの黙認状態でしょうか?
怖ろしいです。政治に無関心な国民が目覚めないと…
其の為には一人でも多く、山本太郎代表に耳を傾け応援することだと思うのです。