「邦人の生命を守る」といいながら、実際において邦人の生命を奪う「安保」法制の整備を安倍政府がゴリ押ししている。就任以来、特定秘密保護法の制定や米国NSC(国家安全保障会議)の傘下に組みこまれた日本版NSCの設置、集団的自衛権の行使容認を巡る憲法解釈の変更など日米軍事同盟の強化に力を入れてきたが、今国会では集団的自衛権行使を可能にするための「安保」法制改定に手をつけようとしている。「周辺事態」等等の文言をとり払って、米軍の鉄砲玉として極東地域で軍事的な役目を負わされるだけでなく、中東やアフリカなど世界各地の紛争地域に駆り出され、日本の若者が米国の国益と大企業の海外権益を守るために肉弾にされかねず、国土がミサイル攻撃の標的にされることすら現実味を帯びている。戦後七〇年が経過したなかで、命をかけて戦争を阻止しなければ命を奪われかねない抜き差しならない情勢が到来している。
戦争阻止の全国的斗争に活路
今国会の目玉は農相のくだらない献金問題などではなく、「安保」法制の改定である。自民党は周辺事態法から「周辺」の文字を削除し、中東やアフリカなど世界のどこへでも自衛隊が出動できる法律を恒久法として制定しようとしている。自衛隊が海外に「後方支援」で出動するさいには、従来はその都度、特別措置法をもうけなければならなかった。新たな「安保」法制のもとでは、恒久派遣が可能なものとなる。また、これまでは「周辺事態」すなわち中国や北朝鮮といった国国の脅威を建前にしてきたが、その出動範囲について地理的な制約をとり払って、地球の裏側まで出動可能にするものである。そして、国連決議がなくても「自衛権」を理由に外国軍隊の後方支援を可能にしようとしている。4月の統一地方選後に国会に提出する予定と見られている。国会で可決した後、夏以後には日米防衛ガイドラインの改定が予定されており、「周辺」等等の制約をとり払われた自衛隊と米軍の間で、役割分担をとり決めようとしている。
同時進行で防衛省は「文民統制」規定を廃止し、航空自衛隊、海上自衛隊、陸上自衛隊の幕僚長や統幕監部が、大臣の直接の指揮下で作戦や行動を決定していくようにするため、法律改定に乗り出している。「文民統制」についてはかつての大戦への反省から、軍部が暴走しないために歯止めを掛ける措置として講じられてきた。これをとり払って、田母神俊雄(元航空幕僚長)のような男が安倍晋三と一緒になって戦争の指揮棒を振るう体制にしようというものである。
昨年4月には武器輸出3原則も改定した。その後、武器や「防衛」装備の輸出を促進するために政府は企業支援策を練ってきた。国内軍需産業をテコ入れするために財政投融資を利用して資金援助することや、国が出資して官民ファンドを立ち上げ、そこから債権を発行して調達した資金や、国が保有する株式の配当金を財源にして、武器輸出企業に低利融資を実行する制度の確立などを進めている。これも日米防衛ガイドラインの改定が予定されている今年夏までに有識者会議が提言をまとめるとしている。「死の商人」の利潤獲得に政府としてお墨付きを与え、資金面においても融通するもので、国家的規模で戦争ビジネスに乗り出すものだ。
昨年来、イスラエルとも軍事的なつながりを深めてきたのが安倍政府で、勝手に準同盟国として共同声明(昨年五月)を発表し、イスラエルの諜報機関であるモサドやイスラエル軍と自衛隊の連携を強めることを決めた。そして今年1月の中東外遊では、イスラエルの無人戦斗機の開発に日本企業が名乗りを上げているのとかかわって、機体や搭載兵器などを担当すると見られている三菱重工や、遠隔制御技術を任されるNEC、さらに前川製作所、三菱商事、富士フィルム、千代田化工建設、日揮、大日本印刷、スパイバー株式会社、日本貿易保険、三井物産、国際協力銀行、キッコーマン、三菱東京UFJ、三井住友銀行、みずほ銀行、住友商事、伊藤忠商事、丸紅、双日、JETROといった軍需産業や金融機関、商社が勢揃いでイスラエルに同行した。建設関係では清水建設、大成建設、五洋建設、大日本土木、日本設計、東電設計の6社がついていった。
「ISILとたたかう各国に2億㌦支援します!」というのが、要するに中東にODAで資金援助して米国軍需企業やネオコン勢力を潤わせるのと同時に、F35戦斗機をはじめとした日本の軍需製品を売り込み、これを買わせる意図を暴露している。中東は世界最大の武器市場で、紛争が長引けば長引くほど戦争ビジネスを展開する者にとっては好都合な関係である。ここに参入しようとしているのが三菱重工などの大企業で、安倍晋三が得意になってばらまくODA資金をヨルダンやイスラエルなど各国を迂回する形で回収していく手口となっている。
三菱は戦前も戦争によって膨大な利益を得た。こうした財閥系企業が再び戦争狂いの体質を丸出しにして、軍需へと傾斜している。自衛隊の装甲車や潜水艦、艦艇、戦斗機、誘導ミサイル装置、新型クラスター爆弾、空母撃破用対艦ミサイルなど、「専守防衛」というより攻めるための軍需製品を開発してきた企業群が色めき立ち軍需依存で大不況を切り抜けようとしている。その原資は国家予算である。昨年11月にはクラスター爆弾の製造企業7社に対して、世界の金融機関が総額で3兆円を超える融資をおこなっており、そのうち三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友FG、みずほ銀行の邦銀3行が、総額で896億円も融資していた事実をオランダのNGOが暴露した。戦争に群がるのが製造企業だけではなく、金融業界も絡んでおり、イスラエル同行企業のなかに商社や金融機関が入っている理由を教えるものとなった。
外務省はODAの軍事転用も可能にするといって法改定を準備している。平和外交を標榜してきたはずの外務省が戦争外交へと舵を切り、集団的自衛権の行使容認についても、もっとも前のめりな関与をしてきた。「戦地に行ってこい!」「死んでこい」といわれる自衛隊や防衛省以上に積極的なのも特徴である。その戦争外交の延長で出ていった中東において、首相が破れ口を披露して邦人を死に追いやったのである。
人質事件が示すもの 邦人守る気まるでなし
法律を改定して戦争体制を一気に合法化していく流れが強まっている。しかし法律以前に実態ははるかに先行してきた。米軍と自衛隊との一体化も早くから進められてきたもので、イラク戦争の時期から自衛隊が下請軍隊であることに変わりはない。「文民統制」といってもあってないようなもので、既に首相そのものが戦争狂いであり、その仲間たちで固めた政府が支持率17%(自民党の得票率)のくせに大暴走をくり広げているのである。軍人たち以上に為政者が戦争に前のめりで、その自衛隊を統制しているのは「文民」ではなく、誰がどう見ても米軍である。首相はアメリカが統制し、自衛隊は米軍が統制する。指揮棒を振るうのは海の向こうの背後勢力で、てのひらで踊らされた政治家がいい気になってはしゃいでいるに過ぎない。
一連の戦争体制は「邦人の生命を守る」ためではないことは、この間の人質事件だけ見ても歴然としたものになった。安倍政府は昨年12月段階から2人が人質になっていることや、身代金が要求されていることは把握していた。家族は政府に相談していた。ところが政府としては関知せずを貫き、何も動かなかった。1月に入ると、むしろ逆に中東外遊でヨルダンやエジプト、イスラエルなど「イスラム国」と対立関係にある各国を渡り歩き、「ISILとたたかう各国に2億㌦支援する!」とのべ、わざわざ挑発行為に及んだ。
邦人を守る気などまるでないこと、2人を救出する意志も手立てもなかったことが、その後の経過から暴露された。2人の人質は首相の振る舞いが直接の仇になって殺害され、在外邦人も生命の危険にさらされる状況となった。卓球選手団は中東で予定されていた大会出場を断念し、取材でシリアに向かおうとしていたジャーナリストはビザをとり上げられ、国内でも東京マラソンにはマラソンポリスが何人も伴走する体制をとるなど、これまでとは状況が一変した。邦人の生命を危険にさらしたのはまぎれもなく安倍晋三であり、なぜそのおかげで邦人全体が危険な思いをしなければならないのかである。
日本人を世界の紛争地帯に駆り出したい、奴隷軍隊として鉄砲玉にしたいのは米国である。この間の動きは、中国や北朝鮮以上に中東地域に武力参戦させたい意向があることをうかがわせている。人質事件を契機にして一気に有志連合に引きずり込もうと、「身代金要求に応じてはならぬ」等等、日本政府にその都度釘をさし、最終的に2人の邦人が殺害されるまで政府は為す術がなく行動を統制された。
米国は冷戦終了後、単独覇権をしばらく謳歌してきた。ところがリーマン・ショックまできて金融支配も行き詰まり、その財政運営や経済運営も泥沼から抜け出せず、この何年かは外交・軍事戦略を見ても中東政策は破綻し、ウクライナ問題やシリア対応でも世界的に影響力を失っている姿が露呈してきた。一極支配の構造が崩れ、いまや世界統治どころではない。自国は軍事費の削減が迫られ、人的にも物的にも世界で軍事力を展開することができないなかで、日本に集団的自衛権の行使を迫ってきた関係である。自衛隊を奴隷軍隊として駆り出そうという明確な意図がある。
資本主義社会が崩壊に向かい、覇権争奪も激しさを増している。日本の大企業も東南アジアやアフリカなど各地へ権益を求めて出ていき、現地で恨みを買うようになった。そうした反抗を抑えるのが軍事力である。長年、米国の核の傘で守られて経済侵略してきたものの、米国が腐朽・衰退していく過程でみずからの軍事力を米軍指揮下で動員することが迫られている。日本の若者たちは米国の覇権を守る肉弾にされると同時に、こうした独占大企業の海外権益を守るための肉弾として駆り出されることが現実問題となっている。若者が引っぱられるだけでなく、安倍晋三のような男が世界で大きなことをいって回ればいって回るほど、日本列島そのものが核ミサイル攻撃の標的にされ、火の海にされる危険性が高まっている。
今回の人質事件の場合、親日的だった中東において反日感情に火をつけただけでなく、もともと関係などないアラブの矛盾にアメリカやイスラエルの側から首を突っ込んで恨まれ、国土をテロの標的にさらすのだから、これほどバカげたことはない。標的に立候補した張本人やそそのかした周囲だけが狙われるならまだしも、見せしめで2人の人質は殺害され、邦人全体が恨みを買ったのである。「世界の安倍」などといって「凄い僕」を有頂天にさせているのがアメリカやイギリスである。
70年前の大戦で、天皇制軍国主義は暴支膺懲を叫んで戦争に駆り立てていった。メディアは真実を隠蔽して大本営発表をくり返し、他民族への憎しみを煽り、鬼畜米英といって無謀な戦争に突き進んだ。その結果、第2次大戦では送られた南方の戦地で兵隊たちが餓死するような目にあい、さらにアメリカは原爆や全国空襲によって民間人を大量虐殺した。320万人もの邦人が命を奪われた。70年たった現在突っ込もうとしている戦争は第2次大戦よりさらにひどい惨状をつくり出す事は明らかで、今度はアメリカのために核戦争の標的になり、日本列島を火の海にするものである。
米国本土防衛の盾として戦争に投げ込まれるのを黙ってながめているわけにはいかない。日本社会の命運をかけた、殺されないためのたたかいを強めることが抜き差しならない問題として迫られている。沖縄県知事選、佐賀県知事選はじめ各地で反撃の狼煙が上がり、安倍政府を叩きのめす大衆的な世論は全国に充満しきっている。知識人の腹をくくった発言も活発なものになっている。戦争体験者は黙っておらず、戦後70年にして戦争狂いの遺伝子を継いだ為政者が暴れ回ることへ強烈な怒りを抱いている。「独裁」であるといっても、衆院選で示された自民党の支持率(得票率)はわずか17%で、野党解体という状況のもとでかつがつ保っている権力にすぎない。メディアと政治勢力が沈滞しているだけで、戦争に立ち向かう力は幾千万大衆のなかにうっ積している。日本社会の命運をかけた戦争阻止のたたかいを全国的に強め、世論と運動を大結集して形にすること、その力で支持率17%の戦争政府を退場に追い込むことが求められている。