米軍艦船が台湾海峡付近を航行して軍事緊張を煽るなか、安倍政府が「尖閣の警備」を掲げた監視強化に乗り出している。鹿児島港には海上保安庁最大級となるヘリ搭載型巡視船(6000~6500㌧級)3隻を追加配備し、石垣島にも同型巡視船を1隻配備する計画を進めている。南西諸島をめぐってミサイル部隊を配置する自衛隊の軍備増強が動いてきたが、海保の体制強化も露骨になっている。
尖閣諸島の領有権をめぐっては日中関係の軍事緊張を避けるため長らく日中双方が「棚上げ」としてきた。ところが石原慎太郎が東京都知事の時、米ヘリテージ財団での講演で「尖閣諸島を買う」と発言し、民主党・野田政府が2012年に国有化した。それをきっかけにして、一気に緊張関係が高まった経緯がある。そして近年は米軍の戦闘艦が周辺海域を航行して軍事挑発をくり返し、中国側も領有権を主張して対抗する関係が続いてきた。このなかで海保は石垣島周辺に12隻の巡視船を配備し「警戒」体制をとってきた。
この「警戒態勢」強化のために浮上した計画が、鹿児島港の尖閣監視拠点化だった。それは現在、鹿児島港に1隻配備しているヘリ搭載巡視船を新たに3隻増やす配置である。専用岸壁を整備し、2020年までに6500㌧級巡視船2隻と6000㌧級巡視船1隻を配備する計画で、海保がこの規模の巡視船を複数配備するのは初となる。鹿児島港は国内最大の監視拠点と化すことを意味している。これまで石垣島周辺に配備している巡視船は1500㌧級前後であり、天候が荒れると航行困難になる。そのため安定感があり、どんな天候でも活動できるヘリ搭載型大型船の集中配備を具体化している。
尖閣諸島と170㌔㍍しか離れていない石垣島には大型の海保専用埠頭や関連施設をつくり、2021年度には6500㌧級の巡視船を配備する方向になっている。
2022年までにヘリ搭載型巡視船4隻、大型巡視船4隻、ジェット機6機を配備する方針で、今年3月には三菱重工業長崎造船所で建造したヘリ搭載巡視船「れいめい」(6500㌧)を進水させた。航続距離が長く遠洋で長期間活動できる大型巡視船を増やしているのが特徴で、事実上、海上自衛隊を側面支援する体制の拡充が進行している。
なお尖閣諸島をめぐっては海保の艦船だけではなく、海自艦船で「警戒活動」をおこなう検討がすでに始まっている。もともと尖閣諸島の警備をめぐって海自は前面に出ない形をとってきた。「武力攻撃対処」を任務とする海自が前面に立てば、逆に武力衝突の危険を増大させるからである。ところが最近検討が始まった計画は「日本版海兵隊」とも呼ばれる陸上自衛隊・水陸機動団など200~300人を海自の「おおすみ」型輸送艦(基準排水量8900㌧)に搭乗させ、尖閣諸島や南西諸島周辺海域を航行させる内容である。
「おおすみ」型護衛艦は戦車を海上から陸地へ運び込むエアクッション型揚陸艦(LCAC)を2隻搭載しており、ヘリコプターの離発着が可能な甲板を備えている。上陸侵攻作戦を担う強襲揚陸艦に匹敵する能力があり、海上に停泊すれば小型ヘリ空母の役割を担うことも可能になる。こうして安倍政府は海保と海自を連動させた監視・戦闘態勢の具体化を急いでいる。
しかも近年の尖閣諸島をめぐるアジア諸国との軍事緊張は米軍艦船が何度も「航行の自由作戦」を実施してきたことと無関係ではない。この緊張状態のなかに割って入り、ヘリ搭載型巡視船や水陸機動団を乗せたヘリ空母を動員した「監視」をおこなうことは軍事緊張を高める効果にしかならない。同時にそれは米軍の「航行の自由作戦」を日本が肩代わりするという危険な意味あいを持っている。