日米貿易交渉の重大発表は参院選後
米大統領のトランプが25日来日し、27日には日米首脳会談が行われ、3泊4日の日程を終えて28日に離日した。安倍首相は異例づくめの「おもてなし」に精を出した。「土下座外交」「属国外交」を露骨に暴露したもので、その屈辱的な対米従属ぶりは隠しようのないものだった。しかも過剰な「接待三昧」の裏では、貿易にしろ軍事にしろ国民の死活にかかわる国益をトランプに差し出す密約をかわしていた可能性すら疑われている。
トランプ来日の日程を見ると、25日来日、26日午前9時から千葉県茂原市でゴルフ、午後から大相撲夏場所千秋楽観戦、その後都内の炉端焼きで夕食会。27日午前に皇居で天皇と会見、その後日米首脳会談、夜に宮中晩さん会。28日海上自衛隊横須賀基地で護衛艦「かが」に乗船、離日となっている。
多忙なアメリカ大統領が3泊4日で来日したのは1992年のブッシュ以来だ。また、日米首脳会談は先月の26日に開催されたばかりであり、6月にはG20サミットがあり、3カ月連続でトランプと安倍首相は会談することになる。これも異例である。
米紙・ワシントンポストは23日付けの紙面で「天皇からお相撲まで、安倍がトランプのご機嫌をとるために日本の伝統を総動員」と題して、「安倍首相ほどトランプ大統領に媚びへつらうことに心血を注いできた指導者はおそらく世界中を探してもいないだろう。………今度のトランプ大統領の訪日では、日本の昔ながらの伝統を総動員させようと、これまで以上に躍起になっている」と報じた。AP通信は「世界中の多くの指導者たちが、お世辞と好意を見せてトランプ氏にゴマをすろうとしているが、安倍首相はそのハードルをあげた」と過剰なおもてなしを皮肉っている。海外のメディアも注目するほど安倍首相のトランプ「おもてなし」は「そこまで媚びるのか」というほど過剰であった。
そして、26日朝から2時間半にわたってゴルフに興じたあと、トランプは「われわれは素晴らしい時間を過ごした。首相と私は貿易と軍事について多くのことを話した。とても生産的な1日だ」とコメントし、ツイッターに「参院選までは、交渉の多くのことで取引を待つ」「日本との貿易交渉で大きな進展ができつつある。農産物と牛肉が大きな役割を果たす。日本の7月の選挙まで待ったら、大量だ。大きな数量を期待しているぞ!」と投稿し、27日の日米首脳会談の冒頭には「8月に大きな発表がある」とのべた。
4月26日の日米首脳会談でトランプは、「農産物について強力に交渉していく」「日本は重い関税を課している。撤廃させたいと思っている」としたうえで、時期については「5月末に訪日するまでか、訪日のさいに日本でサインするかもしれない」と安倍首相に迫っていた。そのさい安倍首相は7月に参議院選挙があるのでそれまでは待ってほしいと懇願した。5月までに農産物の関税大幅引き下げや撤廃に応じれば農業関係者などの猛反発は必至で、参院選での敗北にもつながりかねないからだ。
そのため安倍首相は27日の日米首脳会談前にトランプを接待漬けにし、なんとか決着を参院選後まで引き延ばしてもらうように働きかけたのではないかと見る向きが有力だ。
トランプが農産物の交渉妥結を7月まで待つとしたのは、安倍首相のためだけではない。トランプ自身が2020年秋には大統領選を控えており、今年9月には選挙戦が本格化する。再選をめざすトランプは貿易交渉で目に見える成果を国民に示すことが必要だ。そのためには、ここで安倍首相に「貸し」をつくり、参院選挙後にはより大幅な譲歩を日本からもぎとろうとしている関係だ。
F35を105機も購入 飲まされる要求の数々
早速27日の首脳会談後の共同記者会見でトランプは、「アメリカはTPPに縛られない」と主張し、農業や自動車などあらゆる分野でTPP以上の譲歩を日本に迫ることを表明した。
日本はこれまでたてまえとして「TPPと同水準の関税撤廃・引き下げが限度」との立場をとってきたが、トランプはそれ以上の市場開放を日本側に迫り、一切譲歩しないと安倍首相に屈服を迫っている。
日米貿易交渉をめぐってはまた、安倍政府は物品のみを対象にしたい意向だが、アメリカ政府は通信や金融などのサービス、投資を含めた包括的な日米FTA協定を想定している。今回の「貸し」をとり返そうと、今後参院選後には強力な脅しを加えてくることは必至だ。
安倍首相はトランプとの密約について内容は一切国民に説明しないまま、参院選あるいは衆参同日選に持ち込み、議席を確保しようとしている。
トランプはまた27日の共同会見のなかで、「日本は米国の防衛装備の最大の買い手となった。新たなF35ステルス戦闘機を105機購入すると発表した。米国の同盟国のなかで日本がもっともF35を保有することになる。………自衛隊と米軍は世界各地で共同訓練をおこなっている」とのべ、日本政府が米国製兵器を大量に購入していることを評価した。貿易赤字解消を掲げて日本に武器購入を迫ってきており、今後も圧力をかけてくることは必至だ。
翌28日には安倍首相とともに横須賀基地を訪れ、海上自衛隊の護衛艦「かが」を視察した。「かが」は事実上の空母化が昨年決まっており、日本政府がアメリカから購入するステルス戦闘機F35の搭載が可能となる。トランプは横須賀基地について「米海軍艦隊と同盟国の海軍艦隊が並んで司令部を置く世界で唯一の港だ」と強調した。さらに「かが」にF35Bの搭載が可能になることに言及し、「より広い領域をさまざまな脅威から防衛する」とのべた。安倍首相は「日米同盟はこれまでになく強固になった。“かが”の艦上にわれわれが並んで立っていることが証だ」とのべた。アメリカの大統領が自衛隊の艦艇に乗るのは初めてで、自衛隊が実質的に米軍の下請軍隊に組みこまれていることを象徴している。
その後トランプは同じ横須賀港の米軍強襲揚陸艦ワスプに移り、米兵を前に「力による平和が必要だ」と演説し、米軍と自衛隊の連携の重要性を訴えた。米海軍横須賀基地は米第七艦隊の拠点で、ワスプは米海兵隊岩国基地所属の最新鋭ステルス戦闘機F35Bを運用している。同艦は通常米海軍佐世保基地に配備されているが、トランプの演説にあわせて横須賀に寄港していた。トランプは安倍首相に「貸し」をつくることで米国製兵器の購入を迫ってくる可能性が高く、すでに今回の過程で密約を結んでいることも考えられる。
また、今回の首脳会談では安倍首相はイランを6月に訪問する意向を表明した。トランプは2018年にイランとの核合意を一方的に破棄し、イランへの制裁を強め、軍事的緊張を高めている。安倍首相のイラン訪問を通じてイランの思惑をつかみたいというトランプ側の要請だ。トランプは大統領就任以来、パリ協定からの脱退、中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱、在イスラエル米大使館のエルサレム移転の強行など、国際社会の秩序を破壊する行動を重ねており、国際社会で孤立を深めている。とくにフランスやドイツなどヨーロッパ各国との関係はきわめて悪化している。主要国ではトランプと緊密な関係を維持している指導者は少なく、トランプにとって安倍首相ぐらいしか親しいパートナーがいないというのが現状だ。そのことは、日本のアメリカ一辺倒の追随外交は国際社会で孤立する道にしか進みようがないことを示している。安倍首相の過剰なトランプ接待が国際的には笑いものになっているところにもそれはあらわれている。
2012年冬の衆院選挙では自民党は「TPP絶対反対」を公約に掲げて過半数の議席を獲得して与党に返り咲き、選挙が終わったらTPP参加を表明するというペテンをおこなった。今年の7月にも参議院選を控えるなかで、トランプとの密約は国民になんら説明しないまま選挙に突入し、選挙が終わったらトランプのいうままにTPP水準以上の市場開放やばく大な武器購入をおこない、自衛隊を米軍の盾として戦地に動員するなど、国益を売り飛ばすペテンの再現が現実味を帯びている。