安保法案の18日までの成立を急ぐ安倍政府が17日、参院特別委員会での採決を強行し、参院本会議での採決へと進むなかで、国会前での抗議行動には連日、多くの人人が押し寄せ怒りの声を発している。数百人の自・公議員の頭数だけでゴリ押しするのに対して、国会の外側ではその力関係を示す国民世論の巨大な力が渦巻いている。
これからが本当のたたかい
3万5000人が参加して熱気を帯びた16日夜の抗議行動には、連日、過剰警備が問題視されてきた警視庁がさらに警官を増員し、「国会前を占拠しているのは警察なのか?」と思えるほど大集結した。数十台の警察輸送バスを隙間なく歩道脇に敷き詰め、人人を車道に出さないための鉄柵を敷設。その鉄柵を押さえつけるために何重にも警察隊が徒党を組んで壁をつくり、抗議行動に参加する人人を歩道に圧迫し、ほとんど一台の車も通行していない国会前の車道の「保護」に異常な執念を見せた。抗議現場からはかなり離れた地下鉄の出口にもバリケードをはって、通行する市民に遠く迂回を求めるため駅が大混雑をきたすなどした。だれがどう見ても危険なのは警察の過剰な警備であった。
ただでさえ雨が降り足下が悪いなか、鉄柵につまづいてケガをしたり、押されて転倒する人まで出たため、参加者からは「警察は帰れ!」「市民を守るのが仕事ではないのか。安倍を守るために市民を危険にさらすのか!」「そんなに安倍はこの抗議が怖いのか!」と怒号が飛び交った。国会前の車道を人人が埋め尽くす光景が空撮などで報道されることを嫌がる官邸の指示と見られ、「鉄柵に触れるな」「立ち止まるな」「迂回しろ」と指示して人人をいらだたせ、一部では激しく警官ともみあいになって十数人の参加者が逮捕されるなど、60年安保斗争の再現を恐れる政府の焦りを体現していた。
それでも多くの参加者は整然と抗議行動を継続。「強行採決は許さない!」「戦争法案は絶対廃案!」「安倍は辞めろ!」の大合唱は、参院特別委員会の攻防が続くなか深夜まで続けられ、学生たちをはじめ年配者など数百人は朝まで抗議を継続した。
特別委員会で強行可決し、本会議に持ち込んだ17日の午後6時半には雨天にもかかわらず3万人が参加。強行可決に向けて審議中の国会議事堂を全方位から包囲して「追い詰められているのは彼らだ。これだけの人が集まっていることは未来に希望がある。これからが本当のたたかいだ」「戦争反対!」「憲法守れ!」「独裁許すな!」「賛成議員は全員落とせ!」と怒濤のコールを続けた。
駆けつけてマイクを握った法学者の樋口陽一氏(80歳、東大名誉教授)は「めちゃくちゃな内容の法案をめちゃくちゃなやり方で通そうとしていることに加えて思い出してほしい。外国の議会で約束した法案を後から国会に提出した。彼らがなによりも守るといっている国家そのものの尊厳を売り渡しているではないか! ですから彼らのこの3年間、とりわけこの1年余りやってきたことは、違憲、違法にとどまらない。だからこそ毎日毎晩、全国いたるところで、日頃は発言しないことを美徳とする元裁判官、元最高裁長官まで公に世の中に訴えている。放っておくと日本社会の骨組みそのものが危ないということだ。しかし、いくら壊そうとしても壊せないものができつつある。それはこうやって老若男女、職業の如何を問わず、国の内外を問わず集まって発言する国民の意識だ。若い人たちの行動が全世界に伝えられ、安倍首相は決して日本国民を代表していないんだということが世界の良識ある人たちに広がっている。これからがはじまりだ!」と力強く宣言した。
続いて、学者の会の内田樹氏(神戸女学院大学名誉教授)は、「日本の政治は戦後最低の段階に来ている。夜明けの前の闇が一番深いという。戦後期でもっとも深い闇だが、もうすぐ夜が明けると信じている」とのべ、「政府は法改正で一八歳からの投票を可能にしたが、それはこの世代は政治に関心がないと考え、投票に行ってもメディアの扇動に乗せられて判断すると見ているからだ。だが、この間若い人たちが行動し始めたことがこれほど大きな力を持つということを私も含めて想像もしていなかった。彼らで日本社会が大きく変わる。まずはこの法案に賛成した議員は全員落とす! 全力をあげよう」と呼びかけた。
学者の会に所属する専修大学の教授は、「この法案が通れば日本は確実に戦争政策に加担し、自衛隊は血を流していくことになるだろう。戦後、憲法学が求めてきた非軍事、平和主義の立場を突き破り、負の連鎖、怒りの連鎖が始まる。平和主義の文化国家から軍事国家への道にほかならない。市民の手によって安倍政権を退陣に持ち込み、廃案に追い込むために粘り強くたたかっていこう」と訴えた。
女子学生は、「戦争に備えていれば憂いなしというが、それはこれから戦争の中での生活を強いられるということだ。同盟国アメリカの敵は、日本の敵でしょうか? アメリカはずっと戦争をし、日本はそれに付きあってきた。50年前の自作自演のトンキン湾事件で始まったベトナム戦争では、沖縄から戦闘機が飛び立った。イラク戦争では大量破壊兵器だといいがかりをつけてアメリカが先制攻撃をした。ウソから始まった戦争で多くの市民が殺され、いまだに戦乱が終わっていない。この混乱がISを生みだし、人人を大量の難民にしている。どうしたら同じ過ちをくり返さないで済むのか」「こんなことはイカサマ師のすることだ。日本は戦争を否定して平和を希求してきた。憲法違反の法律はいらない。国会の審議もなく自衛隊を海外に派兵できるというのは、ナチスの全権委任法と同じだ。そのために迷惑をするのは私たちだ。学生だけでなく、いろんな人が声を上げている。この国を守るため、少しでもいい国にしたくてみんなが集まっている。主権者として、今日がダメなら明日、明後日、明明後日と民主主義を希求して行動していきたい」とのべ、大きな拍手が送られた。
なお国会前では原爆展キャラバン隊がパネル展をおこない、参加者から強い関心を集めた。