財務省が9日、政府が保有する日本郵政株を追加売却することを発表した。すでに主幹事選定手続きを開始しており、今秋にも売却を実施し保有比率を現在の57%から3分の1程度(郵政民営化法が定める下限)に引き下げる方向だ。同時に日本郵政はかんぽ生命保険の株を追加売却する方針も明らかにした。郵政民営化以後、日本郵政の株式を政府が保有し、日本郵政がかんぽ生命の運営に関与することで外資や株主主導の営利最優先体質に規制をかける態勢だった。だが政府の保有株を売りとばしてその規制をとり払い、日本の簡易保険市場や郵便事業をまるごと外資に明け渡す動きが加速している。
政府による日本郵政株売却は、国内系証券会社四社、海外系2社程度を選定し、最大約10億6000万株売却(1兆2000億円超)する方向だ。財務省は株式売却で得た資金は「東日本大震災の復興財源に回す」と説明している。だがこの株式売却は、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、日本郵便の管理専門会社・日本郵政の主導権を外資や民間証券会社に売り渡すことを意味する。それは日本郵政に対する政府の公的視点に基づく関与を排除することが狙いだ。
この動きとセットで、日本郵政はかんぽ生命保険の株式を最大1億5040万株売り出すことを発表した。日本郵政は売却益を米保険大手アフラックグループへの出資や株主還元にあてる方向だ。この株売却によって日本郵政の議決権は現在の89%から60%台に下がる。こうして日本郵政の関与を弱め、かんぽ生命保険の主導権をアフラックに差し出していく動きが顕在化している。
現在の生命保険は、死亡時に保険金が出る生命保険(第一分野)、自動車事故や災害時の損害を補償する損害保険(第二分野)、入院や手術のときに保険金が出る医療保険やがん保険・介護保険など(第三分野)主として3種類ある。近年利用者が増えているのは第三分野だが、この保険はアフラックや米メットライフなど外資系が独占的なシェアを持っている。第三分野の保険商品の販売は1970年代に始まるが、日米保険協議でアメリカが圧力をかけ、当初は外資系保険会社の参入しか認めなかった経緯があるからだ。
そのなかでアフラックは1974年に日本支社を置き、日本初のがん保険発売を開始し、顧客を拡大した。アメリカが日本の保険会社に第三分野の保険市場解禁を認めたのは2001年で、すでにアフラックが独占的地位を築いた後だった。
2003年4月に日本郵政公社を発足させ、05年には郵政民営化法を成立させた。07年10月には分割民営化で5社体制を発足させた。これまでは郵便局の窓口業務、郵便業務、簡易保険業務、郵便貯金業務が一つの事業であり、僻地の郵便局を多数抱える郵便業務で赤字が出ても郵貯業務や簡保業務の利益で補填していた。国営のときは必要以上に営利を追求する必要もなかった。
ところが5社体制にして「日本郵政」という管理専門会社の下に「かんぽ生命」「ゆうちょ銀行」「郵便局会社」「郵便事業会社」を独立させたため、利益が出た部門が不採算部門を補うことはできなくなった。それは外資がいずれ、かんぽ生命とゆうちょ銀行の利益だけをつかみどりするための地ならしだった。その結果、郵便局の現場では限度を超えた人減らしや販売促進運動に拍車がかかった。郵便局の統廃合、集配業務の広域化、ATMの導入、郵便局が扱う物販の種類拡大も急速に進行した。
このようななかで動き出したのが日本郵政株売却を認める法整備だった。そして2015年に日本郵政、かんぽ生命保険、ゆうちょ銀行の3社が株式を上場した。翌2016年には元米国通商代表部日本部長であったアフラックのレイク取締役社長が日本郵政の社外取締役に就任した。
こうしたなかで日本郵政は昨年12月末、アフラックに約3000億円出資する方針を明らかにした。その延長線上で財務省による日本郵政株売却と、日本郵政によるかんぽ生命保険株売却も動いている。