いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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アジアなしでは成り立たぬ日本経済 世界情勢激変で問われる進路

国益失う米国一辺倒の矛盾

 

 朝鮮半島をめぐる和平交渉が進み、世界各国がアジア経済圏の急激な変化に対応した対話外交へ舵を切るなか、安倍政府は「中国脅威」論を叫びながら軍備強化に拍車をかけている。アメリカから大量の戦闘機やミサイルを買い込んで辺野古への米軍基地建設をごり押しし、友好関係を結ぶべき近隣諸国と、いずれ戦火を交える体制づくりへ乗り出している。だが日本にとって中国やアジア近隣諸国は食料輸入や経済交流の面で、切っても切れない関係にある。対日貿易量はアジア圏が北米圏の3倍以上に達している。アジア圏は今後、資本主義の不均衡発展にともなって欧米が尻すぼみになるなかで経済発展の可能性を秘めている。アメリカが押しつける「日米安保」体制に縛られ、アジア近隣諸国とのケンカ腰外交をエスカレートさせるなら、日本が経済発展へ向かう道をも閉ざすことになる。

 

 四方を海に囲まれた日本は、海路を通る大型輸送船を中心にして世界各国とさまざまな商品を売り買いしている。2018年の貿易総額は164兆円(輸出=81兆円、輸入=83兆円)だ。

 

 国別に見ると中国が35・1兆円でもっとも多い。これにアメリカ(24・5兆円)、韓国(9・3兆円)、台湾(7・7兆円)、オーストラリア(6・9兆円)、タイ(6・3兆円)、ドイツ(5・2兆円)、サウジアラビア(4・2兆円)、ベトナム(4・2兆円)、インドネシア(4・1兆円)、香港(4・1兆円)、アラブ首長国連邦(4兆円)などが続いている。

 

 

 地域ブロック別に見るとアジア経済圏の貿易額が84兆円で全体の51%を占めている。北米は26・8兆円(全体の16%)、EUは18・9兆円(12%)である。それ以外は中東=12・8兆円、大洋州=8・1兆円、中南米=6・6兆円、ロシア=2・5兆円、アフリカ=1・9兆円と続いている【地図参照】。国別では中国の貿易額が突出しており、地域別では対アジアの貿易額が群を抜いている。

 

 こうした関係は朝鮮半島や中国大陸に近い九州経済圏(九州全県、山口、沖縄含む)はより顕著である。今年2月分の九州経済圏貿易統計(速報)では、貿易総額1・2兆円(輸出=6931億円、輸入=5085億円)のうち、対アジアが53%(中国・20%)を占め、北米は13%(米国・11%)となっている。

 

米中の貿易内容の相違

 

 貿易内容は中国と米国ではそれぞれ特徴がある。

 

 中国との取引で多いのは、半導体製造装置など精密機械を輸出し、中国現地で製造した電子部品やスマートフォンなどを日本に輸入するケースだ。2018年の輸出品(総額15・9兆円)は一般機械(3・9兆円、半導体製造装置等)や電気機器類(半導体部品等、3・4兆円)が7・3兆円で全体の約5割を占めた。輸入品(総額19・2兆円)は電気機器(5・6兆円、電話機等)や電算機類(3・3兆円)、衣類(2兆円)などが多かった。

 

 中国側が歴史的に「民間レベルでの交流」を重視した経緯もあり、企業間や技術者間の交流も盛んだ。そうした関係の深さは、中国の都市と都道府県レベルで姉妹都市提携する自治体が42カ所(アメリカの姉妹都市提携は26カ所)に達したことにもあらわれている。中国との関係では、日本からの輸出より中国からの輸入が3・3兆円上回っているのも特徴だ。

 

 他方、アメリカへの輸出で多いのは自動車などの完成品である。2018年実績では輸出総額15・5兆円のうち、自動車関連が6兆円(174・6万台)、パソコンや建設機械等が3・5兆円、電気機器(IC部品等)が2・1兆円となった。輸出は自動車・家電大手の取引が多いのが特徴だ。

 

 輸入動向(総額9兆円)は食料品(1・5兆円)、化学製品(1・5兆円、医薬品等)、一般機械(1・5兆円、原動機等)、電気機器(1・1兆円)、鉱物性燃料(原油等、1・1兆円)が同規模で並んだ。最近はイラン制裁など脱中東の動きを反映し、アメリカからの原油輸入が増加している。

 

 アメリカとの関係では日本からアメリカに売る輸出額の方が6・5兆円上回った。そのためアメリカは日本から輸入する自動車の関税引き上げを要求した上、「牛肉や米国製兵器をもっと買え」と圧力をかけている。

 

農林水産物貿易の現状

 

 国民生活に密接にかかわるのは農林水産物の動向である。2017年は農林水産物の輸入額は9・4兆円で輸出額は0・8兆円だった。輸入額が8・6兆円上回り、輸入の方が圧倒的に多い特徴がある。このなかでもっとも輸入額が多いのはアメリカの1・7兆円。これに中国(1・2兆円)、タイ(0・6兆円)、カナダ(0・6兆円)、オーストラリア(0・5兆円)などが続いている。

 

 アメリカの輸入品で多いのはトウモロコシ(総輸入量の80%、飼料用が大半)、牛肉(同43%)、豚肉(同29%)、大豆(同72%)、生鮮・乾燥果実(同29%)である。このうち牛肉、豚肉、果実は1965年段階まで、日本の自給率が90%をこえていた。しかし輸入自由化を強行した結果、2017年の自給率は牛肉=36%、豚肉=49%、果実=39%に落ち込んでいる。

 

 他方、中国からの輸入品で多いのは鶏肉調整品(総輸入量の37%)、冷凍野菜(同46%)、生鮮野菜、乾燥野菜、イカなどである。中国からの輸入総額は野菜などの単価が牛肉より低いため、総額ではアメリカを下回る。しかし個別品目の輸入量は大きく、野菜では中国が輸入量1位となったものが多い。2018年に中国が輸入量1位だった野菜は、タマネギ(27万㌧)、ニンジン(9・6万㌧)、キャベツ(7・4万㌧)、ネギ(6・6万㌧)、ゴボウ(4・8万㌧)、ホウレンソウ(4・7万㌧)、ニンニク(2万㌧)、ハクサイ(1・3万㌧)などである。野菜缶(33万㌧)やタケノコ、シイタケなども輸入量トップだった。

 

 水産関係の輸入額も中国が3000億円規模で、同2位のアメリカ(1600億円規模)を大きく引き離している。水産物輸入量で中国がトップだった品目は、ウナギ、フグ、ハマグリ、ホタテ貝、貝柱、あさり、タラの卵、乾燥エビなどだった。

 

 ちなみに日本の食料自給率をみると、野菜も魚介類も1965年段階は100%だった。それが現在の自給率(2017年)は野菜が79%、魚介類は52%に低下した。あらゆる食材を含む食料自給率はすでに38%(2017年)に落ち込んでいる。

 

 このような依存関係が深い現実と無関係に、「中国の脅威から日本を守る」と叫んで米国製兵器を買い込み軍備強化に傾斜するなら、中国やアジア圏との軍事緊張・対立を激化させることになる。しかもそれが輸入の激減につながるなら、国内の農水産物供給、冷凍食品も含めた食材供給が滞ることを意味する。そうなれば国産野菜は急騰し、わずかに入ってきた輸入素材も急騰し、国民生活全体に甚大な影響を及ぼすのは必至である。「ミサイル攻撃から国民を守る」と称して、軍事面において「日米安保」体制強化に乗り出しているのが安倍政府だが、対アジアの喧嘩腰外交は同時に「食料安保」や「経済安保」を脅かす道といえる。

 

可能性を秘めたアジア圏に各国が触手

 

 中国やアジア圏の対日貿易額は、リーマン・ショック前の水準にようやく回復したアメリカやEUを遙かに上回る伸びを見せている【グラフ参照】。それは今後、アジア経済圏の市場が拡大していく変化を示唆している。とくに大きな変化は朝鮮戦争終結に向けて和平交渉が進む朝鮮半島である。ゴールドマン・サックスは南北統一後の朝鮮半島のGDPについて、フランス、ドイツ、日本を抜く規模だと試算している。鉱山資源はタングステン、モリブデン、重晶石、黒鉛、銅、マグネサイト、雲母、蛍石などが世界の上位10位圏内に入るなど豊富で、その埋蔵量は300兆円規模と見られている。

 

 そのため各国の投資ファンドや開発メジャーが市場参入へ動いている。ジム・ロジャーズなどの投資家も、北朝鮮は他国に借金がないこと、今後軍備支出が激減すること、労働者の賃金が低く勤勉であることなどに目をつけ「10~20年のあいだもっとも注目される国」「刺激的な場所」と指摘している。資本主義陣営といわれた西側の経済が衰退するなか、社会主義を標榜し「未開発」できた北朝鮮による市場開放の動きに、資本主義各国が市場争奪で群がっている。

 

 こうした動きと連動して中国主導の巨大経済圏構想・一帯一路やアジアインフラ投資銀行(AIIB)が動き出し、これに対抗して日米主導のインド太平洋構想が動いている。

 

AIIB年次総会(2017年6月、韓国)

 一帯一路は2013年に習近平国家主席が提唱した長期国家ビジョンである。「一帯」は中国西部から中央アジアやモスクワを経由してヨーロッパへと続く「シルクロード経済ベルト」である。「一路」は中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東海岸のケニアからヨーロッパへ続く「21世紀海上シルクロード」である。今後数十年をかけて、これらの地域に道路や港湾、発電所、パイプライン、通信設備などインフラ投資を皮切りに、金融、製造、電子商取引、貿易、政策立案などに参画し、産業活性化を図る方向だ。これはアメリカが第二次世界大戦後に推進したマーシャルプラン以降で最大級となる海外開発計画で、国連機関はこの経済効果を12兆㌦に及ぶと試算している。

 

 これと連動して存在感を急速に高めているのがAIIBである。2016年に57カ国を創設メンバーとして発足し、その後、参加国は欧州や南米、アフリカにも広がり93カ国・地域に拡大している。日本とアメリカは参加を見送ったが、日米主導のアジア開発銀行(ADB)の67カ国・地域を遙かに上回っている。AIIBが承認している投融資案件は、すでに13カ国・34件で、総額75億㌦(約8140億円)に上っている。

 

 この一帯一路が実現すると、旧ブレトン・ウッズ体制のもとでアメリカが築いてきた国際ルールと衝突することは避けられない。ブレトン・ウッズ体制はアメリカのドルと各国通貨の交換比率を一定に保つこと(固定相場制)を軸に自由貿易を発展させる仕組みで、1971年のニクソン・ショックで崩壊し、すでに変動相場制に移行している。だがそれ以後もドルを基軸とする経済は続いてきた。

 

 しかし一帯一路構想はこのアメリカのドル基軸の経済を変化させ、人民元がドルを凌駕する流れへ直結せざるをえない。しかもアメリカは軍事力はあっても、世界各国に投資する資金力はないため、経済的に対抗することはできない関係にある。世界の力関係が変化するなかで、中国が大国として台頭し、覇権を手放しつつあるアメリカになりかわって世界覇権の盟主になろうと動き出している。アメリカの世界覇権が終焉に向かう過渡期の情勢を敏感にとらえ、従来の既成概念にとらわれず、世界各国がそれぞれの国益にみあった外交政策を展開する動きが活発化している。

 

アジア近隣諸国との平和友好こそ

 

 アジアの世紀が動き出しているなかで、「アメリカこそナンバー1」と見なし、軍事協力を軸にした対米従属外交を続けて蚊帳の外に置かれているのが日本だ。アメリカと連携して進める「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、①法の支配、航行の自由、自由貿易などの普及・定着、②経済的繁栄の追求(EPA・FTAや投資協定を含む経済連携の強化)、③平和と安定の確保、を掲げている。その中心は「中国封じ込め」に向けた軍事連携網を構築することである。すでに動いている具体的な内容を見ても、フィリピン、ベトナム、スリランカ、マレーシア、ジブチへの巡視船や監視船供与、モルディブ、タイ、パキスタン、バングラデシュへのテロ監視機材供与など、軍事的色彩の濃い内容が目立っている。

 

 さらに昨年7月にアメリカは太平洋軍を「インド太平洋軍」に改称し、同盟国との連携重視を強調した。これはアメリカが日本を米軍の最前線下請基地とみなし、沖縄だけでなく日本全土を米軍基地化する意図を先取りする動きである。

 

 日本が「ミサイル攻撃の備え」と称して軍備増強を進めて、食料品や工業品を軸にしたアジア諸国との対立を深めれば、必然的にアジア圏との貿易額は縮小せざるをえなくなる。それはアメリカから見れば、より多くの食料品を売りつける好機となる。牛肉にとどまらず保存薬品にまみれた農作物を大量に買わせて、食料自給率39%の日本の胃袋を支配してしまえば、日本の米国依存度はますます高まる。

 

 アメリカの要求に唯唯諾諾と従い、中国やアジア圏との食料や工業品などを軸にした経済的連携を切り捨てていくのか、急速に進展する世界情勢の変化に対応してどの国とも是是非非の独立外交を展開し日本の国益を守っていくのか、日本の進路が問われている。アメリカにつくか、中国につくかという単純な問題ではなく、日本の外交施策が日本の国益や国民経済の発展に足場があるのかどうかが問われている。

 

 日本の「食料安保」「経済安保」を考えれば、近隣諸国と友好平和関係を維持・発展させることが避けられない喫緊の課題となっている。同時にそうした政策を実行に移す最大の障害となっている「日米安保」体制とは何か、見極めることが不可欠になっている。日本の「安全保障」といった場合、それは軍事的な側面ばかりでなく、食料や経済、さらに人口減少など社会の全分野を俯瞰して捉えることが必要不可欠であり、武器で重装備するよりも外交力を高める等等、すべきことはほかに山ほどある。対米従属の鎖につながれた状態で、自由を奪われていること、食い物にされていることが日本社会の低迷を作り出しており、この矛盾を解決することが急がれる。「アジアの世紀」に取り残されるのか否かが問われている。

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