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電通の祭典と化す東京五輪 主人公をはき違えていないか?

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックの招致活動をめぐり、日本の招致委員会がIOC(国際オリンピック委員会)の委員にワイロを送っていた疑いがあるとして、フランス司法当局が日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長(当時、招致委員会理事長)について贈賄容疑で訴追に向けた手続きに入った。一方、東京五輪の総経費は、当初約7300億円といっていたのが3兆円をこえるまでに膨れ上がり、夏季五輪史上最大規模になったこと、マーケティング関連業務のすべてを担当する電通が黒幕として采配を振るっていることが明るみになっている。選手のひたむきな奮闘や「おもてなし」ばかりが注目されるその裏で、「平和の祭典」がビジネスの祭典、ひいては「電通の祭典」になったと揶揄されかねない事態になっている。

 

 東京五輪招致の不正については、すでに2016年に英紙『ガーディアン』が報道し、フランス検察局が五輪開催地の指名獲得にからむ汚職事件として捜査を開始していた。同年、国会でもとりあげられたが、菅官房長官が「招致はクリーンな形でおこなわれた」といって幕引きをはかった経緯がある。

 

 2020年の五輪開催をめぐって、東京、マドリード(スペイン)、イスタンブール(トルコ)が立候補し、13年9月のIOC総会で東京に決まった。この総会を前後して、日本の招致委員会からシンガポールのコンサルタント会社、ブラック・タイディングズ社に2億3000万円が振り込まれたが、その一部が、当時古参のIOC委員だったラミン・ディアク国際陸上競技連盟前会長の買収工作の裏金に使われた--という疑惑が捜査の対象になっている。

 

 というのも、タイディングズ社の経営者イアン・タンはディアク前会長の息子パパマッサタと昵懇(じっこん)の間柄といわれるからだ。そしてディアク親子は国際陸連を支配し、国際陸連が支配するIOC委員の「票」が五輪開催地を左右するといわれている。

 

 このディアク親子は、16年リオ五輪の招致をめぐる収賄容疑にも問われている。ブラジル司法当局は17年10月、リオ五輪招致をめぐる贈賄容疑で大会組織委員会会長のカルロス・ヌズマンを逮捕した。招致を決める投票前に、ディアクの息子にブラジル企業から約2億円を渡し、IOC委員を買収しようとした容疑である。ディアク会長も起訴され、息子にも逮捕状が出て国際手配されているが、セネガル政府が引き渡しを拒否している。

 

 日本でも関係者が、竹田会長が起訴されればIOCから資格停止処分にされかねないといい、東京五輪に与えるダメージをぬぐおうと右往左往している。

 

 注目すべきは、竹田恒和とディアクを結びつけたキーマンが広告代理店・電通だったことが暴露されていることだ。竹田自身、タイディングズ社をコンサルに選んだのは電通の推薦だったと認めている。

 

 電通は国際陸連が主催する大会のマーケティング権と放送権を2029年まで独占している。電通はキヤノン、トヨタ、セイコーなどの日本企業を国際陸連のスポンサーに束ねてディアク体制を支えてきたし、その見返りに独占的権利を得てきたのだと、ジャーナリストが指摘している。

 

 だが、こうしたことを日本のメディアは追及しない。大手メディア自身が東京五輪招致委員会の委員で、買収をした側だからだ。委員には産業界や労働団体、農協などのトップとともに、当時のNHK会長松本正之、日本民間放送連盟会長・広瀬道貞(テレビ朝日会長)、日本新聞協会会長・秋山耿太郎(朝日新聞会長)らが名前を連ねている。朝日、読売、毎日、日経の四紙は東京五輪のスポンサーとして計60億円をJOCに払ったが、それを上回る広告収入を電通が保証したことも取り沙汰されている。

 

米国テレビ局のため 選手と観客を猛暑に晒す

 

 五輪招致活動がこうしたカネまみれのものになるのは、五輪自体がテレビ放映権やエンブレムの商標権などをめぐって巨額のカネが動く一大商業イベントになっているからだ。とくに東京五輪は開催費において夏季五輪史上、最大規模になり、50社のスポンサーから4000億円以上の協賛金を集めている。そのすべての窓口になって莫大なマージンをとり、東京五輪の広告宣伝を一手に引き受けているのが電通である。

 

 そして、「既存施設を活用するコンパクトな五輪」のかけ声とは裏腹に、新国立競技場(1645億円)、選手村(954億円)、アクアティクスセンター(水泳会場、683億円)、有明アリーナ(バレーボール会場、357億円)、有明体操競技場(253億円)など、競技関連の建設工事が目白押しだ。建築家らの「新しく建て替えないで維持改修でよい」という意見は無視された。

 

 そのうえドサクサ紛れに首都圏の大規模改造が始まり、超高層ビルを中心にした再開発事業が東京のあちこちで進行している。安倍政府は建築基準法の規制を緩和して高さ日本一の390㍍のビルを認めるなどして、三井不動産、三菱地所などのデベロッパーや鹿島、清水建設、大林組などのスーパーゼネコンに莫大な利潤を保証している。そして建設業界を中心に五輪特需で東京への人手と資材の集中が進む一方で、被災地の復興は遅れに遅れている。

 

 こうして、2013年1月の五輪立候補時には約7300億円といっていた東京五輪の総経費が、ついに3兆円をこえる見込みになったと、東京都の調査チームが発表している。前回、前前回の五輪と比べても2倍をはるかに上回る桁外れの額である。しかも現状では、東京五輪組織委員会がスポンサー協賛金やチケット販売などによって見込んでいる収入は6000億円だけなので、莫大なツケが国民に回される可能性が高い。

 

 オリンピックの商業主義に拍車がかかったのは、1984年のロサンゼルス五輪からだ。それまでIOCは開催都市の自治体と契約を交わし、赤字が出ればその補填も自治体の責任になっていた。だが、史上初の「完全民営化五輪」といわれたロス五輪では、IOCとロサンゼルス大会組織委員会が契約を結んだうえに、赤字が出た場合の補償団体として、IOCと米国オリンピック委員会も契約を交わした。

 

 ロス五輪はテレビ放映権料とスポンサー企業からの協賛金が巨額にのぼり、その合計は大会の総収入の55%を占めた。入場料収入は全体の18%にすぎなかった。大会の収支は2億㌦を上回る空前の黒字になり、黒字の6割が米国オリンピック委員会に分配された。この大会からプロ選手の参加が認められると同時に、禁止されていた企業スポンサーが解禁され、選手は企業の広告塔になった。IOCは巨額の富を手中にし、世界各国で招致合戦が展開されるようになった。

 

 しかし、この商業主義の弊害はたちまちあらわれた。米国のテレビ局から最大のテレビ放映権料を引き出すために、米国のゴールデンタイムにあわせて競技時間を変更させることが頻発した。IOCも、国際水泳連盟や国際体操連盟もこれを認めた。犠牲にされたのは選手の競技環境である。

 

 たとえば1988年のソウル五輪では、カール・ルイスとベン・ジョンソンの対決と騒がれた陸上競技・男子100㍍決勝が、午後0時30分に設定された。当初、国際陸連は気温が下がる午後5時を提案したが、それでは米国西海岸は午前0時、東海岸で午前3時になり、放映権料を高く売れない。それで米国の午後8時~11時になるよう、真夏の正午に競技時間を変更したのだった。

 

 東京五輪でも同じことが起こっている。東京五輪は7月24日に開会式がおこなわれ、8月9日まで続く。そしてパラリンピックが8月25日から9月4日まで開催される。東京の真夏の暑さは尋常ではなく、最高気温が30度をこえるヒートアイランド現象が2カ月以上続き、熱中症で毎日人が倒れて緊急搬送されている。とくに心配されているのがマラソン(女子8月2日、男子8月9日)で、選手保護のため午前7時スタートが計画され、朝5時までくり上げる案も検討されているほどだ。

 

 なぜわざわざこの時期に決めたのかといえば、それはIOCに巨額の資金を提供する米国三大テレビネットワーク(ABC、CBS、NBC)のためにほかならない。米国では春にメジャーリーグが始まり、9月に入るとサッカーの欧州チャンピオンズリーグや米プロフットボールリーグが開幕するが、そのあいまの「夏枯れ対策」なのだ。しかも東京五輪組織委員会は、招致計画書に7月の平均気温を26~29度と記載し、「この季節の東京は温暖な気候」と偽って開催地指名を獲得している。

 

11万人のボランティア 若者を無償労働に駆出す

 

 さらに問題なのは、組織委員会が東京五輪実施のために11万人のボランティアの募集を開始したことだ。ボランティアの応募条件には「1日8時間、10日以上従事できる人」「組織委員会が指定するすべての研修に参加できる人」「大会の成功に向けて最後まで役割をまっとうできる人」などを挙げ、会場までの交通費や遠方から参加の場合の宿泊費は自己負担としている。

 

 これは災害ボランティアと違って自主的なものではなく、しかも五輪自体が営利目的なのは明らかで、善意の若者を無償労働に駆り出すのを「ボランティア」と偽っているにすぎない。

 

 応募まかせではとても足りないと見た組織委員会は、学生をターゲットに絞り、全国800以上の大学と連携協定を結んだ。そして、ボランティア教育という授業をおこない、五輪ボランティアに参加した学生には単位を与えるとりくみを促している。外国語大学では通訳ボランティア育成セミナーを開催して学生を送り込もうとしているが、街角での道案内ならまだしも、五輪の管理運営業務にかかわる翻訳や通訳をボランティアにやらせるなど通訳軽視もはなはだしいと批判が巻き起こっている。

 

 さらに、薬剤師という国家資格保有者に対して、選手村にもうけられる総合診療所のスタッフとして、10日以上すべて無償で協力せよという募集メールが発信されたことが話題になった。ドーピング検査をはじめ、各国の選手たちの健康に重い責任を持たねばならないはずの人材にすら無償労働を求めたのだ。

 

 東京五輪はそもそものはじめから、「福島原発事故は完全にコントロールされている」という安倍首相の嘘から始まった。こうして嘘に嘘を重ねたあげく、一方にオリンピックにまぶりつくスポンサー企業や米国三大テレビネットワーク、建設工事を一手に引き受けるゼネコン、JOC・組織委員会や黒幕としての電通、そして安倍政府がおり、他方に無償労働を提供するボランティア、犠牲を転嫁される選手や観客がいるという構造が浮き彫りになっている。前者の連中がやっている国家の私物化の規模は、モリ&カケどころではない。

 

 2015年5月、サッカー・ワールドカップの開催地招致をめぐり、アメリカ司法省が国際サッカー連盟(FIFA)副会長を含む14人を贈収賄の容疑で起訴したことがあった。当時のFIFA会長、ゼップ・ブラッターはFIFA倫理委員会から資格停止処分と罰金処分を受けた。そして、スポンサー企業からサッカーにカネが流れ込む仕組みをつくったのが、ブラッターの前任のジョアン・アベランジェであり、両者を支えたのが電通だったことも暴露されている。FIFAの膨張と歩調をあわせるかのように電通が巨大企業にのし上がっていったと、ノンフィクション作家が書いている。

 

 メディアは今回の東京五輪疑惑を「ゴーン逮捕の意趣返し」などと騒いでいるが、目先の騒動の陰で巨悪が暗躍し、スポーツを食いものにしていることを見逃すことはできない。

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