米国の高額兵器に吸い上げられる税金
安倍政府が18日、今後10年間の防衛政策を規定する新たな「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と今後5年間(2019~2023年度)の次期中期防衛力整備計画(中期防)を閣議決定した。今回の防衛大綱は、2016年3月の安保法制施行で米軍を守る「集団的自衛権行使」が合法化されたなかで、軍事予算を大幅に増やし、アメリカから「買え!」といわれた高額兵器をみな買い込むことが中心内容である。F35戦闘機の105機取得や、近隣諸国との軍事緊張を激化させる攻撃型空母の保有も盛り込み、中期防の予算総額は過去最大額の27兆4700億円に達した。アメリカの要求をみな受け入れ、日本を丸ごと「不沈空母」として差し出す方向を明確にしている。
今回の大綱では「パワーバランスの変化が加速化・複雑化し、既存の秩序を巡る不確実性が増している」と明記し、米・中・ロなど地球的規模で新たな争奪戦が激化している国際情勢にふれた。そして「世界的・地域的な秩序の修正を試みる中国やロシアとの戦略的競争がとくに重要な課題」というアメリカの認識を共有すると強調した。アメリカが「インド太平洋地域を優先地域」と位置づけ、同盟国に「責任分担の増加を求めている」ことに積極的に応じる姿勢を示し、「日米同盟は、我が国自身の防衛体制とあいまって、引き続き我が国の安全保障の基軸であり続ける」「我が国が独立国家としての第一義的な責任をしっかり果たしていくことこそが、日米同盟の下での我が国の役割を十分に果たし、その抑止力と対処力を一層強化していく道」と強調した。
こうした基本方向の具体化が「多次元統合防衛力」の構築である。それは従来の陸・海・空の戦争にとどまらず、宇宙空間やサイバー(ネット空間など)、電磁波を扱う電子戦の対応など新領域でも戦闘態勢を取ることを意味する。「宇宙分野」では宇宙領域専門部隊を新設し、サイバー分野ではサイバー部隊を新編する。電子戦分野では陸上自衛隊に電磁波作戦部隊を置く方向だ。新領域では「積極的な防衛体制」を掲げ、他国のレーダーや通信を使えなくする攻撃力の保有を目指している。
戦闘の実動部隊である陸・海・空自衛隊については「敵基地攻撃能力の保有は見送る」といいながら、敵基地攻撃能力を保有した装備を多数買い込むことを明記した。その象徴的な内容がヘリ搭載護衛艦「いずも」型を改修し、ステルス戦闘機F35Bが離発着する「空母」を保有する計画である。「攻撃型空母の保有」が憲法から逸脱するため、安倍政府側は「あくまで防衛目的」「防空や警戒監視に必要な場合に限り運用する」「多機能の護衛艦」とさまざまに主張したが、どんな言葉を使おうとも「攻撃型空母の導入」という事実に変わりはない。現在、「いずも」型護衛艦は、母港が海自横須賀基地の「いずも」と母港が海自呉基地の「かが」の2隻あり、甲板改修後はF35Bを8機ずつ搭載する予定だ。それは米海兵隊岩国基地の増強と連動して呉基地も攻撃拠点に変貌させ、日本全土で出撃体制を強める計画の一環である。
こうした攻撃態勢構築につながる装備をアメリカから大量に買い込むことを中期防で明記している。1兆円以上を投じてF35戦闘機を105機(このうち42機は垂直離着陸可能なF35Bを取得、ロッキード・マーチン社製)追加購入することをはじめ、1機が200億円をこす早期警戒機「E2D」(米ノースロップ・グラマン社製)9機や、新型空中給油機「KC46A」(米ボーイング社)4機の取得も明記した。ステルス戦闘機は相手に気づかれないようにして他国の市街地を攻撃したり航空機を撃墜する戦闘機であり、空中給油機も地球的規模で戦闘機を運用するための「空のガソリンスタンド」だ。それはみな、まぎれもなく「攻撃型装備」だ。
さらに、中国の北京やロシアに届く陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」(2機=2400億円超)の配備を明記した。加えて相手国の射程圏外から一方的な攻撃を加える「スタンドオフ火力」を整備する方針も打ち出し、F35Aに搭載する空対地ミサイル「JSM」(射程500㌔㍍、ノルウェーの会社とロッキード・マーチンの共同開発)の取得、F15戦闘機を改修して搭載する長距離巡航ミサイル「JASSM」(射程900㌔㍍以上、ロッキード・マーチン製)の取得、新型長距離対艦ミサイル「LRASM」(射程500~1000㌔㍍、ロッキード・マーチン製)の取得なども記載した。こうして「“攻撃型空母保有”も“敵基地攻撃能力の保有”も防衛大綱の文面には盛り込んでいない」と欺きながら必要装備はみな先行配備する方向である。そして数年後に「現実とあわなくなった」といって「攻撃型空母保有」も「敵基地攻撃能力の保有」も全面解禁する地ならしに着手している。また大量に買い込む兵器はみな米国製兵器であり、トランプが要求した「バイ、アメリカン」(米国製品を買え)を忠実に実行している。
地上戦を想定した人員確保策も大きな特徴となっている。兵員不足に直面する米軍は肩代わりを日本の自衛隊にさせようとしているからだ。そのため海兵隊が陸上自衛隊と何度も訓練をおこない、島嶼奪還などで本格運用する水陸機動団(日本版海兵隊)を今年三月に発足させた。こうした実動部隊を日本で確保するため、中期防では「地方公共団体と連携して新規採用を増やす」と明記した。女性自衛官の積極的な採用、自衛官の定年引き上げ、退職自衛官の活用、予備自衛官(普段は企業で働き、必要なときのみ召集される)の積極活用も記述した。
そして「国民が安全保障政策に関する知識や情報を正確に認識できるよう教育機関等への講師派遣や公開シンポジウムを通じ、安全保障教育の推進に寄与する」「防衛研究所を中心とする防衛省・自衛隊の研究体制を一層強化するため、国内外の研究機関や大学、シンクタンク等とのネットワーク及び組織的な連携を拡充する」とも記載した。あらゆる義務教育機関や大学などの研究施設を総動員して国民に「安全保障政策」を徹底していく体制であり、かつての「国家総動員」体制を想起させる内容である。
このような施策を実施する予算として今回の中期防では過去最高額の27兆4700億円を計上した。前回の中期防(2014~2030年度)は「23兆9700億円の枠内」と規定していたが、それより3兆5000億円も増額させた。国内では東日本大震災や福島原発事故、熊本地震、西日本豪雨などの災害復旧、高齢化の進行による福祉費増加など出費が増える一方で、少子化による税収減が深刻化している。そのなかで軍事費を増額して米軍需産業に貢ぎ続けている。しかも今回は、アメリカが日本の軍事予算が年間5兆円規模(GDP比一%)にとどまっていることを非難し、「北大西洋条約機構(NATO)加盟国並みのGDP比2%へ引き上げよ」と圧力をかけたなかでの増額である。それは年間10兆円の軍事費拠出を迫るアメリカの要求に、今後も積極的に応えていくという意味あいも含んでいる。
防衛大綱の歴史的変遷
防衛大綱は第2次世界大戦後約30年をへて、アメリカがベトナム侵略戦争に敗北した直後の1976(昭和51)年から策定が始まった。このときの「五一大綱」は「東西冷戦は継続するが緊張緩和の国際情勢」にあるとみなし、「独立国としての必要最小限の基盤的防衛力を保有」と規定した。当時は戦争体験者や戦争で肉親を失った遺族が多数おり、公然と軍備増強に乗り出すことはできなかった。
ところが1990年代初頭に米ソ二極構造が崩壊し、アメリカを中心にした世界市場の争奪戦が激化するなかで「専守防衛」を前提としていた「基盤的防衛力構想」の覆しを開始した。1995(平成7)年に策定した「〇七大綱」では「不透明・不確実な要素がある国際情勢」と評価し、自衛隊の役割に「我が国の防衛」だけでなく「より安定した安全保障環境構築への貢献」や「各種の事態への対応」を追加した。
そして2001年の9・11NYテロ事件、アメリカのアフガン・イラク侵略戦争開始を経た「一六大綱」(2004・平成16年策定)は、想定事態に「国際テロや弾道ミサイルの新たな脅威」を追加した。この時期から日本全土を戦争の前面に立たせていく動きが本格化した。
翌2005年2月の日米安全保障協議委員会(2+2)では「日米共通の戦略目標」に「テロリスト・ネットワークのせん滅」を盛り込み、「在日米軍再編」計画を明らかにした。それは日本に米陸軍第一軍団司令部を移転させ、横田の空軍司令部、横須賀の海軍司令部とともに、陸・海・空自衛隊の全司令部を米軍が掌握することが柱だった。同時に岩国や佐世保を軸にした出撃体制を強め、沖縄の海兵隊部隊を後方のグアムに下げる内容である。
それは米軍がイラクやアフガニスタンで現地住民の強力な反米闘争によって窮地に陥るなか、もっとも危険な地上戦要員をいずれ自衛隊に肩代わりさせていくこと、日本をアジア地域を想定した戦争の矢面に立たせ、米本土防衛の盾にしていく計画だった。そのため07年1月には防衛庁を防衛省に昇格させ、自衛隊の「付随的任務」だった「海外活動」を「本来任務」へ格上げした。陸上自衛隊の装備も「着上陸の可能性が減ったので戦車、火砲を削減し、普通科(歩兵)を中心に強化を図る」とし、「対テロ戦」と海外派兵が中心任務の秘密部隊「中央即応集団」も発足させた。
そして2010(平成22)年には民主党政府が「二二大綱」を閣議決定し、これまでの「基盤的防衛力構想」を「動的防衛力の構築」へ転換させた。「自民党とは違う」「国際貢献のため」と主張しながら、自衛隊がアジア太平洋地域を軸に海外展開する素地をつくった。2011年には中東とアフリカの中間点に位置するジブチで、自衛隊初となる海外基地の運用も開始した。
段階を画したのは米・オバマ政府が、2012年1月に新国防戦略「世界的な指導力の維持と21世紀の優先事項」を打ち出してからである。この新国防戦略は2012年から2021年までの方向性を示すもので「冷戦終結後から国防計画を形成してきた二正面作戦を転換し、主要な敵を打倒できるような戦略配備を計画する」と指摘し「アジア太平洋重視」を強調した。同時に10年間で約5000億㌦の国防予算を削り、アジア太平洋地域と中東地域へ集中的に戦力や投資を振り向けることも盛り込んだ。陸軍と海兵隊を合計で10万人削減する方針も示した。度重なる戦費がアメリカの国家財政を圧迫し国内の反戦世論が噴出するなか、地上戦要員や兵器購入の肩代わりを日本に押しつけることが狙いだった。
同年8月に発表したアーミテージ・ナイ報告書は「新たな役割と任務の見直し」を日本政府に求め、「緊急事態における日本の責任範囲を拡大すべきだ」と指摘した。さらに、集団的自衛権の禁止は日米同盟の障害であり「平和憲法の改正を求めるべきだ」とハッパをかけた。
このアメリカの要求を忠実に実行する代理人として登場したのが第二次安倍政府(2012年12月)だった。2013年12月4日にアメリカのNSC(国家安全保障会議)と連携する日本版NSCを設置し、12月17日に日本版NSCが主導する初の「国家安全保障戦略」と「二五大綱」(平成25年策定)を決定した。このときから防衛大綱はアメリカの主導する「国家安全保障戦略」に基づいて具体化するようになった。この「二五大綱」が盛り込んだ中心は「積極的平和主義」と「統合機動防衛力の構築」である。
安倍政府はこれまで禁じてきた武器輸出の解禁を認め、国境をこえた兵器開発や兵器売買へ積極的に乗り出す姿勢をあらわにした。さらにアーミテージ・ナイ報告書が指摘した集団的自衛権行使を実行に移すため、2015年9月に安保関連法を強行成立させた。それまでは米軍の作戦を常時自衛隊が支援する活動は認めていなかった。そのためイラク・アフガン戦争が始まると、そのたびに特別措置法をつくり期間限定で「後方支援」をしていた。だが安保関連法の施行で、自衛隊が特別措置法なしで常時、米軍を支援することを可能にした。2016年11月には、南スーダンに派遣した陸上自衛隊部隊に「駆け付け警護」と宿営地を守る「共同防護」の任務を付与した。さらに2017年5月には、朝鮮半島の軍事緊張を利用して自衛隊最大のヘリ搭載護衛艦「いずも」が米軍艦船や空母を守る「米艦防護」を実施した。集団的自衛権行使の現実は、「アメリカが日本を守る」のではなく「日本がアメリカを守る」という日米同盟の実態を浮き彫りにした。
そして今春には相浦駐屯地(長崎県佐世保市)を拠点に地上戦専門部隊である水陸機動団を約2100人体制で発足させ、九州・山口県一帯で、米軍岩国基地への空母艦載機移転、萩へのイージス・アショア配備計画、山陽小野田市への宇宙監視レーダー配備計画、航空自衛隊築城基地の滑走路延長、佐賀県へのオスプレイ配備計画、南西諸島へのミサイル部隊配備、辺野古への新基地建設計画などを一斉に動かしている。その延長線上に今回の「多次元統合防衛力の構築」を掲げた軍備増強、つまり日本全土をアメリカの「不沈空母」として差し出す動きが顕在化している。それは「日本を守る備え」などではなく、近隣諸国との軍事緊張を激化させ、日本全土を再び戦争の危険にさらす道である。
今回の防衛大綱と中期防は日本を米本土防衛の盾にしたうえ、米国製高額兵器を売りつけてカモにするアメリカの要求をそのまま方針化していく売国政府の存在を改めて浮き彫りにしている。同時に「日本の防衛」を掲げて具体化してきた「防衛大綱」の到達点は、戦後から継続する「日米安保体制とは何か」を鋭く問う内容になっている。