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『従属の代償:日米軍事一体化の真実』 著・布施祐仁

 外交・安全保障を専門とするジャーナリストの著者は、この本のなかで「自衛隊と米軍との急速な一体化」に警鐘を鳴らす。一体化とは、自衛隊が米軍の下請軍隊として米軍指揮下により強力に組み込まれ、米軍の身代わりとしてより危険な任務を背負わされることである。自衛隊員にとってはたまったものではない。

 

 南西諸島に陸上自衛隊の地対艦ミサイル部隊を配備する動きが進んでいる。奄美大島、宮古島、石垣島に続き、今年3月には沖縄本島の勝連半島にある陸上自衛隊勝連分屯地にも配備された。

 

 この地対艦ミサイル部隊をめぐっては、2021年末に報道された「台湾有事を想定した日米共同作戦計画の原案」(米軍と自衛隊が策定)の中に次の内容があった。「米海兵隊が南西諸島の島々に臨時の軍事拠点を設け、米海軍の空母機動部隊が台湾周辺海域に展開できるよう、地対艦ミサイルで中国艦艇の排除に当たる」。計画は南西諸島が中国軍の攻撃を受けることを前提にしている。

 

 そしてこの地対艦ミサイルの射程は200㌔だが、それを1000㌔に延ばした「能力向上型」ミサイルの配備を2025年から開始するとの発表があった。この長距離ミサイルは、閣議決定された安保三文書で「敵基地攻撃に使う」とされている。射程が1000㌔になると、上海を含め中国の沿岸部に届くことになる。

 

 さらに著者はそれ以上に大きな問題として、米軍の地上発射型中距離ミサイル(射程500~5500㌔)の日本配備を挙げている。すでにアメリカは2019年8月、ロシアと結んでいた中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄し、新たに開発する地上発射型中距離ミサイルをアジア太平洋地域に配備することを明らかにしており、今年四月の軍事演習で初めてフィリピンに展開した。それは中国本土にある中国軍の航空基地やミサイル基地を攻撃する能力がある。

 

 すでに2018年、安倍政権はこの中距離ミサイルの日本への導入を表明していた。「日本政府は地上配備型中距離ミサイルを、第一段階は南西諸島に、第二段階は富士山周辺に、第三段階は北海道に配備する検討に入った」との報道もある。もしそれをやった場合、中国政府は「対抗措置をとる」と明言している。米軍のシナリオでは、日本中の米軍基地が中国軍の攻撃を受けることを前提に、米軍の主力部隊を日本から退避させて自衛隊に当たらせるとしている。もしそうなれば、ウクライナの二の舞いである。

 

 しかも日本は原発列島であり、もし原発が狙われたら島国・日本は終わりである。そもそも戦争などできる国ではない。

 

 著者は今の情勢の危険度を明らかにするため、1962年のキューバ危機を挙げている。あのときソ連が、米国に近いキューバに地上発射型中距離ミサイルを配備したことがきっかけとなり、あわや核戦争かという事態になった。立場が逆なだけで、そっくりの構図だ。そして、中距離ミサイルにはいつでも核弾頭を装填できる。被爆国日本をその舞台にしようというのだから、とんでもない話だ。

 

 著者はその背景に、敗戦から今まで続く対米従属構造があると指摘する。GHQのマッカーサーは対日講和にあたり、「占領が終結した後も、日本の全領域が米軍の基地として機能しなければならない」という覚書を日本政府と交わし、そして日本を出撃・兵站拠点として自由に使いながら朝鮮戦争をおこなった。日本にとっては日米安保条約のもと、今に至るまで領土、領空、領海のすべてを潜在的な米軍基地として利用されるという、およそ独立した主権国家とはいえない状態を押しつけられている。

 

 著者はさらに、日本列島を舞台とする原水爆戦争の危険性についても注意を喚起している。

 

 ブッシュ政権でアジア太平洋安全保障担当の国防副次官を務めたリチャード・ローレスは2020年、「日本に核弾頭搭載可能なアメリカの地上配備型中距離ミサイルを配備し、NATOの“核共有”と類似した政策を導入せよ」と提言した。NATOの「核共有」とは、アメリカのB61核爆弾をNATO加盟国のドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコの基地に合計約100発貯蔵し、加盟国の戦闘機が使用できるようにしていることを指す。

 

 これに反応したのが安倍晋三元首相で、ロシアとウクライナの戦争が始まった直後、「“核共有”の議論をタブー視してはならない」と発言した。維新の会も「核共有による防衛力強化の議論を開始するよう求める提言書」を政府に提出した。

 

 見逃せないのが野党の動きだ。戦後、核兵器持ち込みについては「非核三原則に従って拒否する」というのが政府の公式見解だった。それ自体国民を欺く欺瞞に他ならないが、2009年、民主党政権の岡田外相は、有事の際には米軍の核兵器持ち込みを政府が容認することもありうると国会で答弁した。政府見解の大転換である。

 

 ウクライナ戦争に対しても、れいわを除く立憲や共産など野党各党が「プーチンをやっつけろ」の一色に染まったことは記憶に新しい。翼賛化した野党が戦争への道を掃き清めている。

 

 これに対して著者は、日本が米国追従を改め、ASEANと連携して米中対立の緊張緩和をはかり、戦争を未然に防ぐ平和外交を積極的に展開すべきだと主張している。ASEANは2019年、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」構想を採択し、「対抗ではなく対話と協力のインド太平洋を実現するため、集団的なリーダーシップを発揮する」と主張している。また、世界を見れば、アメリカをはじめとするG7は孤立し、グローバルサウスの国々が経済力も発言権も増してきている。

 

 著者は最後に、戦争と平和の問題について、この国の主権者である国民一人一人が自分の頭で考え、自分なりの答えを出して行動するような主体性を持とうではないかと強調している。そのうえでも参考になる一冊。

 

 (講談社現代新書、254ページ、定価980円+税)

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