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『命を守る食卓』 (TJMOOK) 監修・鈴木宣弘、印鑰智哉、安田節子

 日本では、残留農薬や化学肥料、添加物などの規制緩和が進み、世界的に見ても規制の緩い国になっている。それに加えて遺伝子組み換え食品、ゲノム編集食品の解禁、重イオンビーム育種米の作付けが始まろうとしているなど、安全性が確認されていない食べ物が数多く入り込んでいる。

 

 本誌は「食卓に迫った危機を救うためには、消費者が正しく選択する知識を身につけることが大切だ」という視点から、食をめぐる構造的な問題を明らかにしつつ、実際にスーパーなどで商品を選ぶときに、なにに気をつけ、なにを選択すればいいのかを判断するうえでの情報を、全体を網羅する形で盛り込んだ一冊だ。東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘特任教授、OKシードプロジェクトの印鑰智哉氏、食政策センター・ビジョン21代表の安田節子氏が監修している。

 

 「食の安全が個人の努力では守りきれない状況に来ています。今、必要なのは現実を知ること、メディアが伝える政府の情報を疑うこと、私たちにとって本当に安全でおいしい食べ物を選ぶことです」。そんなメッセージから始まる本誌は、知識の格差が健康格差につながる現状のなかで、これまで食の問題について知らなかった消費者にもわかりやすいよう、写真やグラフ、図などをふんだんに使い、日本の食卓に迫る危機を知らせようとしている。

 

 「じつは知らないことだらけ! 毎日の食がこんなに危機的状況だった」では、輸入肉の肥育ホルモン、ゲノム編集や遺伝子組み換え食品、ポストハーベスト、本物から遠ざかる調味料など、現在の食生活に入り込んでいる問題点の指摘されている食品についてとりあげる。

 

 「完全には避けられないからこそ知っておきたい加工品との上手な付き合い方」では、時代とともに便利な加工品が増え、一見充実したように見えるが、そのなかには保存料や防カビ剤、見栄えをよくするための着色料など、不要なもの、悪影響も指摘される食品添加物が使用されていることを明らかにし、加工品をとり入れるうえで、知っておきたい知識を紹介している。

 

 「安全で美味しいものを選べば健康にもつながる 命を延ばす食べ物」では、ホルモンフリーや国産肉、卵は抗生物質不使用で平飼いのもの、できるだけ農薬使用の少ない野菜など、自分や家族の健康を守るうえで、手を伸ばしたい安全性の高いものを紹介している。食品表示の見方も写真入りで紹介されていてわかりやすい。

 

 日本は1970年代まで、輸入農産物の量・品質を厳しく規制してきた。海外産の農産物に日本で禁止されている農薬などが使われていること、そして国産農産物を保護するためだ。しかし、余剰農産物を抱えたアメリカに規制緩和を迫られて、1991年に牛肉、オレンジを輸入自由化したのを皮切りに、その枠はどんどん拡大され、輸出国の都合に合わせて、安全基準や食品表示義務が緩和されてきた。

 

 本誌では、それぞれの食品が抱えている問題点と同時に、こうした食の危機をもたらしてきたアメリカの要求や多国籍アグリビジネス企業の存在などについてもわかりやすく伝え、「私たちが賢くなれば日本の食は変えられる」ことを強調している。

 

 本誌のなかで鈴木宣弘特任教授が強調しているのが、「消費者や農家が分断されないこと」だ。農薬や化学肥料を使う慣行農家も頑張っている。それを「悪い!」といい切ると、有機農家と慣行農家の対立を生み、消費者の分断にもつながるからだ。

 

 3人の監修者は、この本をきっかけに、食品の安全性はもちろん、日本の農業、食料安全保障が危機的な状況になっている問題について考えるきっかけになることを願っているという。

 

 鈴木宣弘氏:「食の安全」と一口にいっても、何が安全なのかわからないと感じる方は多いと思う。それが正解だ。この本も書いてあることを押しつけるものではなく、一つの重要な情報として選択するときの参考にしてほしい。食品添加物やゲノム編集作物の影響について、現時点でわかっていないことも多く、一概に「いい」「悪い」といい切れない。今、農家はみな頑張って日本の食料生産を支えてくれている。輸入より国産の地元の物を選ぶなど、消費者が選択するときの判断を広げるうえでの一助にしてほしい。

 

 印鑰智哉氏:添加物、遺伝子組み換え、ゲノム編集、重イオンビーム育種米まで、なかなか出版物として扱われない内容をタブーなく、幅広く扱っており、日本では貴重な一冊になっている。入門的な内容になっているので、ぜひ手にとって見ていただき、気になったところから深く知ってほしい。

 

 安田節子氏:日本は食に関する規制が厳しい国だったのが、どんどん緩められ、世界に見劣りする状況になっている。日本の農業を衰退させて食料を依存せざるを得ないようにし、日本の隷属を完成させようとするアメリカ政府の意図と、新自由主義のもとで企業利益を最大化させる政策によってもたらされた状況だと思う。

 先般、食料・農業・農村基本法が改定されたが、食料自給率の向上を目指す目標は盛り込まれなかった。気候変動で世界的に食料生産は危うくなり、パンデミックや戦争で、海に囲まれた島国は、輸送が断絶するとアウトであることは明らかになっている。だからこそ食料自給率の向上が急がれる。

 ここに来てコメ不足が表面化している。稲作農家が次々に離農しているからだ。この本は警告を発する一冊だ。まずは自分の健康から守り、農業・農政について考えるきっかけになればうれしい。

 

 (宝島社発行、A4判96ページ、税込1210円)

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