いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『誰も書かなかった統一教会』 著・有田芳生

 著者は、2022年8月19日のテレビ番組で「統一教会は霊感商法をやってきた反社会的集団」と話したことで、統一教会から名誉毀損で訴えられた。裁判は今年4月、教団の訴えが棄却され著者の勝訴となったが、それ以来テレビの仕事は一切なくなったという。

 

 この本は、統一教会の「反社会性」を詳細に明らかにしている。2022年7月8日の安倍晋三銃撃以降のメディアの報道は、教団の構造的な問題点を追及する方向に深まっていかず、今では報道はほぼなくなった。著者は統一教会の「宗教、政治、多国籍企業、準軍事組織の側面を事実にもとづいて分析する」方向を本書のなかで提起している。

 

統一教会とはなにか

 

 すでに明らかになっているように統一教会は、日本の朝鮮に対する植民地支配についての贖罪意識を信者に植え付け、日本は「サタン主権」の国で、文鮮明や韓鶴子が王として君臨し、天皇をひざまずかせなければならないと主張する。

 

 そして詐欺まがいの霊感商法をやり、高額献金を強要してカネを奪ってきた。それなのになぜ、日本の政権与党の政治家たちがこの反日団体を支援してきたのだろうか。

 

 統一教会は韓国で1954年に生まれ、1959年に日本でも設立された。1964年には安倍晋三の祖父・岸信介が首相私邸だった建物を統一教会に貸して、そこが本部となり、岸はしばしば講演に出向いていた。

 

 韓国では朴正煕が1961年、軍事クーデターで実権を掌握し、諜報機関KCIAをつくった。同年、駐米韓国大使館の陸軍武官補佐官としてアメリカに渡り、CIAとKCIAの仲介をしたのが、統一教会ナンバー2だった朴普煕だ。この時期、文鮮明と統一教会は「勝共」という特別の役割が与えられ、再編された。

 

反共団体が合従連衡

 

 世界的に見ると、第二次大戦中にウクライナの独立運動に参加していたヤロスラフ・ステツコがナチス・ドイツに逮捕されて転向し、1946年に反共団体を結成。その後、台湾の蒋介石と結びつき、そのなかで文鮮明も見出された。そして1966年、世界の反共団体が合従連衡して世界反共連盟(WACL)を結成したが、その中心メンバーが蒋介石、朴正煕、笹川良一、児玉誉士夫、文鮮明だった。WACLはその後、中南米をはじめ世界各地の反共活動に資金や武器を提供し、テロ活動もおこなっていく。

 

 それを受けて1968年、韓国、続いて日本で国際勝共連合が誕生する。日本の勝共連合の発起人には笹川良一や児玉誉士夫とともに岸信介が名を連ねている。その後、統一教会のその政治部門・国際勝共連合は、自民党など日本の政治家との癒着を深め、「自主憲法制定国民会議」「スパイ防止法制定促進国民会議」の実働部隊となっていく。

 

 その背景にアメリカの世界戦略があることは疑いない。

 

 米下院フレーザー委員会は1978年、「統一教会の組織構造は、製造業、国際貿易、防衛契約、金融、その他の事業活動をおこなう多国籍企業に類似している。下級構成員の訓練と活用という点では準軍事組織に似ているが、その他の点では規律の厳格な国際政党の特徴を備えている」「課税団体の文鮮明機関が、免税団体(宗教団体)への資金移動で免税特権を得ている」と指摘する最終報告を出した。

 

 しかし、その後同委員会は活動を停止。フレーザー下院議員は勝共連合の運動員の妨害活動によって落選し、自宅が放火された。フレーザー委員会の調査ディレクターはアパートの屋上から不審な転落死を遂げている。

 

監視強めて全貌解明を

 

 著者は、自民党と統一教会の相互依存関係が築かれる理由として、選挙のさいの投票や選挙事務所に信者を運動員として送り込むこと、国会議員に秘書を無償で提供することとともに、カネの提供があると指摘する。そしてそのカネとは、信者の多くが日本人なので、日本人から奪ったカネが原資なのだ。

 

 1986年の衆参ダブル選挙で自民党が圧勝した後、国際勝共連合の『思想新聞』や統一教会の『世界日報』に、「150人の立候補者を支援し、134人の勝共推進議員を当選させた」という記事が出た。そのとき文鮮明は「この選挙当時に日本のカネで60億円使った」と、説教でのべていた。

 

 こうした関係は今も続いているが、その全貌は解明されないままだ。2021年10月の衆議院選挙と2022年参議院選挙で、憲法改正、安全保障の強化、選択的夫婦別姓反対、同性婚反対といった「推薦確認書」=政策協定を、統一教会は多くの自民党議員と結び、その見返りに選挙応援をおこなっている。

 

 国会議員の秘書に統一教会からどれだけ送り込まれているかの実態もまったく解明されていない。著者が石原慎太郎にインタビューしたとき、石原は「(統一教会信者は)私設秘書だって数十人規模でいる」「私も統一教会の信者を雇っていたが、“私は文鮮明氏の教えに完全に共鳴し……”という書類をもってきて、サインするよう求めたんだ。そうすれば全面的に選挙を手伝い、秘書も送りますと。夜遅く事務所に電気がついていたので、おかしいなと思って入ってみると、その秘書が書類を物色していたんだ。それで辞めてもらった」といったという。これでは個人情報もダダ漏れではないか。

 

 著者は、岸信介―安倍晋太郎―安倍晋三の3代続く、統一教会との深い関係を暴露している。とくに第2次安倍政権では、安倍晋三が2013年の参議院選挙から教団票の差配までするようになったこと、教団との間に入ったのは下関の安倍事務所の配川筆頭秘書だったことも明らかにしている。解明が必要な問題はいまだに多く残っており、世論の監視を緩めてはならないと著者は強調している。

 

(集英社新書、250ページ、定価960円+税)

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