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『限界分譲地:繰り返される野放図な商法と開発秘話』 著・吉川祐介

 最近、「限界ニュータウン」という言葉を目にすることがある。昭和期に開発された都市部郊外のニュータウンで、高齢化が進み、空き家や空き地が拡大し、衰退が著しい住宅街のことだ。

 

 この本がとりあげている「限界分譲地」は、その郊外型ニュータウンのさらに外側、郊外と農村部の境界付近にある。分譲開始から何十年も経っているのに、わずかしか家屋が建っておらず、今なお多数の区画が更地のまま残されているような住宅分譲地のことだ。

 

 著者はその一例として、東京の郊外、千葉県北東部の成田国際空港周辺や、JR総武本線・外房線沿線の自治体をあげている。そこは都市計画法の規制がかからない都市計画区域外で、地価が安い農村地帯だ。そこで有象無象の民間事業者が、開発許可申請が不要な範囲の小規模開発によって宅地分譲をくり返すという、町の将来を見据えた開発とはおよそ対極にあるビジネスが展開された。

 

 そこが今、家屋もまばらでほとんどが空き地のまま放置され、住宅地としての存続が危ぶまれる状態だという。周囲を見ると鉄道は減便、バス路線は縮小・廃止、小中学校の統廃合も進んでいる。公共の上下水道が配備されていない地域もあり、道路や側溝までも所有者の私有地に含まれているケースが多く、それが修復されないまま放置されている。行政指導も入らず、開発業者は廃業。数多く残る更地の区画は、当時投機目的で購入した人の子ども世代が相続し、固定資産税を払い続けるはめになり、地価が暴落しているため手放したいのに手放せない。

 

 著者は、こうしたことの背景に、三井不動産や三菱地所など大手デベロッパーが大手メディアと一体になって煽った、1960年代以降の「持ち家ブーム」があると指摘する。当時、テレビでは毎日「家をつくろう」といったCMが流れ、マイホームの夢を歌った歌謡曲がヒットしたことを覚えている人もいるだろう。

 

 戦後のベビーブーム、産業構造の変化にともなう都市部への人口流入のなかで、都市部では深刻な住宅不足となり、60年代以降、宅地開発が急速に拡大した。潤沢な資金を持つ大手デベロッパーは、条件のよいまとまった土地を仕入れ、中小デベロッパーはそれなりの条件の土地を仕入れていく。消費者は彼らが開発した高額の分譲地を購入し、ローンに自己資金を組み合わせて、人生を懸けた買い物として住宅を得ていった。

 

 しかし、住宅ローンの返済はその家庭に大きな負担を強いる。バブル時期に急速に人口が流入し、新築の家が急増した千葉県八街市と山武町(現・山武市)は、リーマンショック後の2010年、住宅ローン返済の焦げ付きによる競売物件の数が、それぞれ全国1位、2位となった。

 

 1970年代の悪徳不動産の常套手段として、一度分譲地を完売したらすぐに会社をたたんで購入者からのクレームを遮断し、別の名前で新会社を立ち上げて同様の事業をくり返すものがあった。大雨ごとに冠水するような造成地を、十分な説明を受けることなく購入した被害者が、苦情を申し立てる相手もなく泣き寝入り…という問題も起こっていた。

 

 ところが当時、大手メディアは、地価の高騰や住宅難の記事は書いても、そうした企業倫理の欠如した不動産事業者の問題はほとんどとりあげなかった。それは大手メディアにとって、デベロッパーが重要なスポンサーだったからで、大手新聞は新規の宅地分譲・住宅販売を好意的に伝える特集記事を毎月のように組んでいた、と著者は指摘している。

 

 また当時、年を追うごとに上昇し続ける不動産価格は、株などの有価証券と同じく、投機の対象となっていった。消費者に、将来にわたって安心して生活できる住宅を提供するのが目的ではなく、投機が目的の分譲地の乱開発が進んだ。それが現在、不在地主の土地が全国に膨大にとり残される現象となってあらわれている。

 

 その典型が「原野商法」だった。1972年頃から『読売新聞』などの全国紙で、一般の不動産広告の真横に、住宅地でもなければ別荘地でもない、ただ100坪当たりの単価を打ち出しているのみの公告が目立つようになった。多くが北海道の原野で、「無造成・素地のままお分けする投資向け物件」と謳っていた。やっていたのはすべて東京都内の会社で、大手メディアも片棒を担いでいたわけだ。

 

 この詐欺同然の広告は公取委によって摘発され、80年代以降、被害を受けた購入者によっていくつかの民事訴訟が提起された。その大半が原告(購入者)の勝訴となり、被告の業者側に賠償が命じられたものの、圧倒的多数の購入者は泣き寝入りしているものと思われる、と著者はのべている。

 

 問題は、こうしたことがなんの総括もないまま、バブル崩壊後も懲りない投機ブームのなかで、同じことがくり返されていることだ。現在、土地を手放したいのに手放せない人を狙って「ご所有地の売却や活用を提案します」という詐欺もあるそうだ。著者は投機の実験場となった千葉県の例を紹介し、一般庶民にあまりにも情報が少ないことからこの本の執筆に至ったとのべている。
    

 

 (朝日新書、238ページ、定価870円+税)

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