いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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ドキュメンタリー映画『沈黙を破る』 監督・土井敏郎

 パレスチナ自治区・ガザ地区でパレスチナ人の無差別大量殺戮を続けているイスラエル。その国のなかに、占領地に赴いた経験をもつ元イスラエル将兵たちによってつくられたNGO「沈黙を破る」がある。20代の青年たちが中心になっているグループで、占領地での虐待や略奪、一般住民の殺戮などを告白し、またそうする仲間を増やし、国内で覆い隠されてきた占領地の実態にイスラエル社会が向き合うことを呼びかけている。

 

 この映画は、1985年以降パレスチナに通い続けている土井敏邦氏が、「沈黙を破る」のメンバーに密着し、インタビューで彼らの思いを引き出したドキュメンタリーだ。2009年に公開されて高い評価を受け、今の事態のなかで再び注目されている。

 

難民キャンプ爆撃現場

 

 映画は2002年春、イスラエルがヨルダン川西岸のパレスチナ人難民キャンプに侵攻するところから始まる。

 

 2000年9月にパレスチナで第二次インティファーダ(民衆蜂起)が始まると、イスラエル軍は圧倒的な軍事攻勢を強めた。これに対してパレスチナ人がイスラエルに対する自爆テロ攻撃をくり返し、犠牲者が増えた。するとイスラエルは2002年3月、テロリストを殲滅するといってヨルダン川西岸への侵攻を始めた。

 

 西岸で最大のバラータ難民キャンプ。500㍍四方に2万5000人が暮らす。普段はたくさんの子どもたちが空き地で遊んでいる。ここがイスラエル軍に包囲された。カメラはそのなかにいて、くり返される爆撃のなかを逃げ惑うパレスチナ人たち、その怒りや嘆き悲しむ姿を映し出す。

 

 同年4月には、イスラエル軍はジェニン難民キャンプを「自爆テロ犯の巣窟」といい、約2週間にわたって包囲し、猛攻撃をおこなった。「テロとのたたかい」といいつつ集団懲罰を加え、民族の抹殺を狙うのは今と同じだ。

 

 戦闘機のミサイルや戦車の砲弾で瓦礫の山となった街。死体を掘り起こす人々。泣き叫ぶ母や妻。住民たちは口々にカメラに訴える。

 

 「ブルドーザーがやってきて無差別に家屋を破壊し、抵抗する男たちを次々と埋めた」
 「イスラエル兵は降伏した青年たちをここに集め、全員銃殺した。武器も持たず抵抗もしていないのに。そして“彼らはテロリストだ”と主張するために、全員を埋めた」
 「隣人は“民間人は裸のまま外に出ろ”といわれたので出てみると、イスラエル兵に撃たれ、戦車に踏みつぶされた」

 

イスラエル元将兵たちの告白

 

 一方、2004年6月、イスラエルの元将兵だった青年たちがテルアビブで、「沈黙を破る」と題する写真展を開いた。ユダヤ人入植者を守るという口実でヨルダン川西岸のヘブロンに駐留し、そこで経験したことを知らせるもので、写真とともに多数の元兵士の証言をビデオで流した。

 

 青年たちは小さい頃から「イスラエル軍は世界一道徳的な軍隊」だとくり返し教えられた。だが、実際に占領地で戦闘任務についた経験から「ここで起こっていることは間違っている」と考えるようになり、仲間と論議を始めたという。カメラはパレスチナでそうしたように、イスラエルの家庭のなかにも分け入っていく。青年たちはカメラに向かってこう語っている。

 

 「徴兵され占領地に行ったら、何も考えないこと。そしてパレスチナ人を人間と思わないこと。安全保障の名の下に、夜中に民家を襲っても、子どもや老人を殺してもすべてを正当化する。そして自分は怪物になった」

 

 「まだ18、19歳の若者が、軍隊の一員になることで、自分の両親や祖父母の年齢のパレスチナ人に好きなことができる。身分証明書を見せろ。出ていけ。殴り倒す。われわれが支配しているのだとパレスチナ人に示すことだが、それが快感になる」

 

 「この間までテレビゲームで遊んでいた、それと同じ感覚で、本物の銃で生身の人間を撃つんだ。残忍さがエスカレートし、どんどん転げ落ちて、もう這い上がれない」

 

 「占領地で装甲車を運転し、周囲の車を踏みつぶす。たんに楽しむために。そんな自分が週末に家に帰って楽しめるわけがない。占領地での暴力、憎悪、恐怖心、被害妄想を持ち帰り、バーでの喧嘩や家庭内暴力になっていく」

 

 「学校では南アフリカのアパルトヘイトを教え、正義や人権を教えておきながら、なぜ西岸のアパルトヘイトを教えないんだ。この感情の重みをどう処理していいかわからず、僕は沈黙を破ったんだ」

 

 こうした訴えは、イスラエルでは両親の反対に直面し、「祖国への裏切り」という誹謗中傷を浴びることになったが、彼らはひるまない。

 

 彼らは左翼の兵役拒否者ではない。彼らは優秀な兵士や指揮官であった愛国的な青年たちで、「安全保障」「国を守るため」といいながら、残忍な占領政策によってこの国が内面から死滅しつつあることに心を痛めて行動に立ち上がり、祖国の将来を考えて占領の中止を訴えている。今回も「ガザへの無差別攻撃に反対する」声明を即座に出した。そのやむにやまれぬ思いが、画面の表情やしぐさを通じても伝わってくる。

 

 「沈黙を破る」の顧問の男性は、14歳の娘をパレスチナ人の自爆テロで失った。テロへの怒りの感情は、今も自分の胸をかきむしるという。だが、「報復ではなにも解決しない。自爆するほどの怒りが出てくる原因は自由への願いであり、歴史上、自由への願いが完全に消滅した例はないからだ。平和的な交渉によって、話し合いで解決する以外に道はない」とはっきりいう。こうした運動がイスラエルの中で広がっていることは注目に値する。

 

 この映画(130分)は、株式会社トランスビューからDVDが発売されている。また、『沈黙を破るPart2 愛国の告白』(2022年、169分)の緊急上映会が、現在全国各地でおこなわれている。

 

【リンク】映画『沈黙を破る』公式サイト

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