いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

『食の安全を守る人々』 山田正彦氏らによるドキュメンタリーが公開

 

 山田正彦元農林水産大臣らがクラウドファンディングを呼びかけて制作してきたドキュメンタリー映画『食の安全を守る人々 未来の子どもたちのために』(監督・撮影・編集原村政樹、プロデューサー山田正彦、企画・制作一般社団法人心土不二、102分)が7月2日、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺(東京)にて公開された。今後、大阪、京都、神戸、浜松、名古屋など、全国で順次公開予定だ。

 

 種子法廃止、種苗法の改定、ラウンドアップの規制緩和、ゲノム編集食品の表記なしの流通など、この数年で日本の農業と食をとりまく法制度の改定が矢継ぎ早に進んできた。TPP協定に端を発する急速なグローバル化によって日本の農と食にこれまで以上の危機が押し寄せているが、マスコミはこの現状を正面から報道することはほとんどなく、国内の危機感は薄い。この趨勢が続けば多国籍アグリビジネスによる支配が強まり、食料自給率の低下や命・健康に影響を与えることが懸念されるなか、その実態を多くの人に知ってもらいたいと、山田正彦氏と原村政樹監督がタッグを組み、2019年2月から撮影を続けてきた。日本国内だけでなく、アメリカでのモンサント裁判の原告や、子どものために国や企業と闘う女性、韓国の小学校で普及するオーガニック給食の現状などを幅広く取材し、グローバル化したアグリビジネスの実態や、各国で食の安全にとりくむ人々を映し出すと同時に、食と農の未来図を描くことに力点を置いている。

 

 制作途上であった2020年3月、種苗法改定が審議入りすることを受け、急きょ種子と種苗についてを切り離して制作したのが『タネは誰のもの』だ。各地で自主上映会も開かれた同作は、第94回キネマ旬報文化映画ベスト・テンで7位に、第38回日本映画復興奨励賞を受賞した。

 

 モンサント社(現バイエル)が開発し、農薬耐性を持った遺伝子組み換え作物の種とセットで世界に販売してきたラウンドアップは、主成分のグリホサートが体内に蓄積されること、発がん性を有することがアメリカ・カリフォルニア州在住で末期がんを宣告されたドウェイン・ジョンソン氏の裁判を皮切りに明らかになり、多くの国でグリホサートの禁止や規制がおこなわれるようになってきた。だが日本ではそれに逆行して規制が緩められ、ホームセンターやドラッグストアで簡単に手に入る状態になっている。世界の流れに逆行する日本。

 

 国内でおこなった実験でも髪の毛からグリホサートが検出されるなか、山田正彦氏はアメリカに飛び、3人の子どもの母親で、遺伝子組み換えに反対する母親の会(マムズ・アクロス・アメリカ)の創設者であるゼン・ハニーカット氏や、初めてモンサント社を訴えたドウェイン・ジョンソン氏とその弁護を担当したロバート・ケネディJr弁護士などを取材。大企業からの攻撃を受けながらも屈することなく広がってきた母親たちの運動によって、アメリカのスーパーではオーガニックコーナーが当たり前のようになってきたことを映し出す。

 

 また、フランスのカーン大学のジル=エリック・セラリーニ教授やカリフォルニア大学の微生物生態学研究者であるイグナシオ・チャペラ教授、日本の遺伝子組み換え情報室代表の河田昌東氏(元名古屋大学理学部助手)などにも取材し、遺伝子組み換え作物とゲノム編集作物がどう違うのかなど、専門家の話を通じてこれらの問題点を浮き彫りにしている。国内の医師などの話もまじえながら、これら農薬が子どもの脳神経に影響を及ぼしている可能性が強いことなども明らかにしている。

 

 後半では「子どもたちの未来のために」をテーマに、韓国で広がるオーガニック給食の事例や、アメリカで年10%と急速に拡大している有機農業の事例、さらに、千葉県いすみ市の学校給食有機米100%の実現を支援した民間稲作研究所の稲葉光國氏の話なども紹介し、子どもたちの未来のために農と食のあるべき姿を描き出している。

 

 原村政樹監督は、コメントのなかで「どのような伝え方をしたらいいのか、思いを巡らせた。一方的に危険性を叫んでも映画を観た人の心にどれだけ響くのか、農薬反対団体の宣伝映画と思われるのではないか、暗い気持ちになって絶望を増幅させる結果にならないか、といった心配があった。正義を振りかざして告発するような作品には決してしたくない、むしろ、映画の一シーンだけでも心の底に深く残るような内容にしたい、温かい映画にしたいと思った」「映画をご覧になった方々が、“映画の題名のように、食の安全を守る人々を応援しよう”それだけでなく、“自分も食の安全を守る人々のひとりになろう”なんて思って上映会場を後にしていただければ、この上ない喜びだ」と書いている。

 

 世界の動きが日本国内ではあまり伝えられないなか、山田正彦氏はこの映画制作の過程で取材したことを、全国各地に出向いて講演してきた。前作『タネは誰のもの』とともに、この映画を通じてその内容がさらに広がることを期待している。

 

 なお、この映画製作のためのクラウドファンディングでは約1600人から2000万円をこえる資金が寄せられており、日本国内でも食の安全に対する関心が高まっていることを示している。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。