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『イラク 米軍脱走兵、真実の告発』 著 ジョシュア・キー

 アメリカが2003年にイラク侵攻を開始したときの大義名分は「イラクは大量破壊兵器を隠し持っている」「今こそサダム・フセインを倒してイラクに民主主義をもたらす」であった。ところがそれらはすべてでっちあげであり、アメリカの侵略であったことが明白な事実となっている。本書はあの時、ブッシュ大統領が掲げたイラク戦争開戦の大義を信じ「イラクの自由作戦」に参加した米軍兵士による告発本である。

 

 1978年生まれのジョシュア・キーは幼少期、義父が母親に暴力を振るうような家庭環境で育った。救いは優しい祖母、そして朝鮮戦争に兵士として派遣された経験を持つ祖父から、「無防備な人を攻撃することは悪いことだ」と教えられて育ったことだ。

 

 彼は20歳前後で結婚し2人の子どもに恵まれるが、経済的な困難に直面し家族を養うために新兵募集センターのドアを叩くことになった。新兵募集センターでは、リクルーターが「軍事基地での生活は安全で、どんなアメリカ人労働者も満足できる清潔できちんとした住宅に住むことができる。基地では家賃は無料だ。そして家族全員が総合的な健康保険に入れるし、大学の授業料は援助が受けられる」「遠方に送られることはない。戦闘などはさせない」といった。

 

 だが2003年3月、彼が最初に送られたのはイラクだった。彼は本書のなかでこう記している。「戦場には行きたくなかったが、つまるところ、テロをぶちのめしてアメリカを守る仕事を子どもたちの世代にやらせてはいけない、これは今自分がやるべき仕事だと考えた」と。

 

 イラクに行く前の訓練中、米兵らはイラク人のことを「砂漠のニガー」と呼び、イスラム教徒はみなテロリストで、唯一の解決法はできる限り多くのイラク人を殺すことだと思い込まされた。米兵が連日イラクでやったことは、テロリストを捕まえ、テロ活動の証拠を見つけると称した「家宅捜索」だった。家族の寝込みを襲い恐怖に陥れるために一晩に1軒、多いときで4軒の家を急襲する。米兵は徐々に盗み、殺し、レイプなど好き放題におこなうようになっていく。

 

 そして来る日も来る日もイラク人の家からは何一つ出てこないのに米兵は何もしていない男たちを拘束し、家の中を荒らし回る。その様子を怒りのこもった目で見つめる無抵抗な女子どもたち。彼は「一体われわれ米兵は何をしているのだろうか」と疑問を抱き始める。

 

 ある日、アメリカ軍に対する印象を激変させる出来事が起きる。錯乱状態の米兵たちが、イラク人の切断された頭部を笑いながら蹴飛ばしていた。明らかにおもしろがってやっている。この時の状況をこう記す。「狂気のサッカーゲームだ。ぼくは凍りついた。自分の目が信じられなかった。しかし確かに見たのだ」「ぼくがかろうじて保っていた国家に対する信頼の糸を断ち切り、戦場で持つべき信念を打ち砕いた。ずっとぼくたちアメリカ人は世界の正義を守る立場にいると信じてきた。しかし、このとき、イラクでわれわれがしていることのいかがわしさを思い知ったのだ」と。正常な感覚を喪失して殺人マシーンへと変貌していく仲間たち、そして自分。さらにイラク人による暴動も頻発し、常に緊張状態が続き見えない敵に狙われているような恐怖感を抱いていく。

 

目の前で殺された少女

 

 彼は警護のなかでわが子と同じくらいのイラク人の少女と出会う。食事もろくにできない貧しい少女にフェンス越しに食べ物をあげるようになる。それは殺伐とした戦場での心安まるひとときになっていた。

 

 その日もフェンス越しに食料を渡したとたん、自分の目の前で少女の頭が銃で吹き飛ばされる。罪のないイラク少女がまた米兵仲間によって銃殺されたのだ。そのような経験をくり返すなかで、イラクの人たちの平穏な日々を踏みにじり何の罪もない人々の生活や命を破壊しているのが自分たち米軍であり、「アメリカこそテロリスト」であることを思い知っていく。

 

 6カ月余りのイラク滞在ののち、2週間ほど本国へ帰還したとき彼はイラクには戻らないことを決断する。脱走は銃殺に値することを覚悟しつつ、家族を守るためにカナダに逃亡する。「ぼくはアメリカ軍から脱走したことについて、絶対に謝罪しようとは思わない。ぼくは不正義から脱走したのであり、それは進むべき正しい道だった。謝罪すべきことがあるとすれば、ただひとつ、それはイラクの人々に謝罪するしかない」と。

 

 アメリカで貧しい家庭で育った若者たちが、経済的援助などをチラつかされて軍隊に誘導されて戦場に送り込まれ、殺人マシーンへと変貌させられていった事実が実体験としてなまなましく記されている。そしてイラク帰還米兵は2014年段階で1日に22人、1年に約8000人がみずから命を絶っている。

 

 イラク戦争に賛成を表明し自衛隊を派遣したのが日本であり、その後もアメリカの侵略戦争に積極的に加担してきた。

 

 今年に入り、安倍政府は中東地域に自衛隊をあいついで派遣した。アラブ諸国側から見ればアメリカ戦略下のもとでの明白な軍事行動に他ならず、アメリカへの盲従がいかに日本と世界の平和を脅かすものであるか、それを改めて考えさせられる一冊である。
 (合同出版株式会社、253ページ、1600円+税

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロー says:

    イラク派兵を賛成,援助した国の国民として無視してはいけない本ですね。
    早速、注文しました。読了しましたら再度、投稿いたします。

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