安倍首相が2017年2月に訪米したときの夕食会で、トランプ大統領が米カジノ大手ラスベガス・サンズのシェルドン・アデルソン会長を安倍にひきあわせ、ラスベガス・サンズの日本参入に協力を求めた。その1年半後の2018年7月、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法が国会で成立した。昨年末、中国のカジノ企業から賄賂を受けとったとして、元IR担当内閣府副大臣の秋元司が逮捕されたが、それは中国のカジノ企業を排除したい米カジノ大手への忖度とも映る。
さてそのアメリカ本国では、カジノは主に「インディアン」と呼ばれる先住民の居留地につくられている。それは先住民がアメリカで歴史的にどのように扱われてきたかということと密接にかかわっている。亜細亜大学准教授でアメリカ先住民研究が専門の著者が、トランプ登場後の新しい状況を含めてそのことについて書いている。
アメリカの先住民は、コロンブスが「新大陸を発見」するはるか以前から、アメリカの大地で狩猟民族として暮らしてきた。「新大陸発見」後は、侵略者による虐殺によって滅亡の淵に追い込まれ、同時に植民地主義と熾烈な同化政策にさらされた。10万人以上の先住民の子どもたちが強制的に寄宿学校に入れられ、各部族の言語や文化は否定されて、白人に、それも男は農夫、女は家政婦に仕立てる教育が施された。
対先住民戦争に備え、教育目標の一つに「インディアンを殺して人間を救え」を掲げた学校もあったという。
その後、先住民は全米各地の狭い居留地に押し込められた。そこでは仕事はなく、朝から何もやることがない失業者があふれ、ドラッグやアルコール依存症も蔓延してきた。
そうしたなか米国政府は「失業対策」という名目で、先住民の居留地にカジノをつくり、各部族をその経営にかかわらせるようにした。もともと米国内では、ネバダ州やニュージャージー州アトランティック・シティなど特定の州や地域でしか賭博は合法ではなかった。それが1988年に先住民賭博規制法ができてから一気に拡大し、現在では247の部族が全米29州の居留地でカジノ経営に参入している。
それが、今も続く人種差別に抗う先住民の貴重な収入源になっているのは事実。ただ居留地の生活は大部分を連邦政府の資金援助に頼っているが、それが削減されるなか、カジノの収益が居留地のインフラ整備や小学校の建設などに充てられる関係にある。カジノでできた雇用も、賭博は景気の影響を受けやすく人員削減が頻繁なうえ、少ない雇用を先住民と移民が奪いあう状況があるようだ。
そしてカジノには国内だけでなく外国の犯罪組織がもぐり込み、窃盗の横行や偽札の使用、スロット・マシーンへの不正行為などが横行するため、一つのカジノに400台もの監視カメラを設置し、客が入ってから出るまですべてを監視している。先住民のギャンブル依存症も深刻化しているという。
核実験で生活や健康破壊され
後遺症に苦しむ住民
著者が指摘する先住民をめぐるもう一つの問題は、先住民の居留地はウランや石炭など天然資源に恵まれた場所が多く、白人によってしばしば略奪の対象にされ、彼らの生活や健康が破壊されてきたことだ。
合計928回もの核実験がおこなわれたネバダ実験場は、もともとウェスタン・ショショーニ族の領土で、サザン・パイユート族の生活圏と隣接していた。核開発のためのウラン採掘は、おもにニューメキシコ州やアリゾナ州などの先住民の大地でおこなわれてきた。放射能についての知識もないまま、防護服も着ないで、低賃金で採掘に従事させられたたくさんの先住民の元坑夫たちが、今も後遺症に苦しんでいる。
現在トランプ政府は、資源採掘の規制を緩和するために、居留地の一部民営化を進めている。連邦政府管轄下の居留地を民営化すれば、個人所有となった土地には多額の税金がかかるようになり、支払いが滞れば先住民は土地を失い、大資本が吸収できるというシナリオだ。彼らの強欲さに終わりはない。
本書では、失業率の高い居留地の先住民は、軍隊に志願する若者の割合が、他のどの人種と比べても一番高いことにも触れている。第二次大戦では、先住民の全人口35万人のうち4万4000人が軍隊に入隊し、硫黄島やサイパンの最前線に送られたが、それはベトナム戦争でも、9・11後の現在も変わっていないという。同化政策で白人がつくった国家に忠誠を尽くすことを徹底的に仕込まれた彼らは、肉弾として最前線に送られている。
こうしたアメリカ先住民の報告は、アメリカの従属国日本の将来への警鐘とも読める。
(集英社新書、350ページ、定価1000円+税)