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『地球温暖化の不都合な真実』 マーク・モラノ著 渡辺正訳

 温室効果ガス(CO2)による「地球温暖化」が大大的に宣伝されるようになって30年になる。この間、アル・ゴア(元米副大統領)の『不都合な真実』が衝撃的に売り出され、国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)がそれを科学的に支える形で環境保護団体を従え、メディアがくり返し警鐘を鳴らしてきた。

 

 今日、メディアは「地球温暖化」問題は科学的に決着済みであり、それに異論をとなえる学説はエセ科学の「トンデモ」論であるかのようにふりまいている。そして、どこからともなく、「科学者の97%が“人為的CO2地球温暖化”に合意している」という風潮がまことしやかに振りまかれるようになった。太陽活動との関連を指摘したり、データから南極では寒冷化しているという知見は、正規の研究論文であっても「懐疑派」と称される。

 

 そして最近目につくのは、世界各地をハリケーン、台風、竜巻、大雨、洪水、山火事などの災害が襲うたびにその解説に、「地球温暖化」を枕詞のようにつけるようになったことだ。熱波はともかく寒波や南極の氷の増加まで、さらに地震や飛行機事故まで「温暖化」のせいだといってはばからない風潮がまかりとおっているのである。

 

 だが、それは情緒的に人人の不安を煽るだけで、科学的な根拠をもって納得させるものではない。本書は、20年前から「地球温暖化」問題にとりくんできたアメリカのジャーナリストが、IPCC報告の査読経験を持つなどしている数多くの研究者の学説や、元政治家・運動家の発言を歴史的広がりのなかでていねいに拾い上げ、科学的なデータをもとに真実を照らし出すという姿勢を貫いている。そのことで、国連の権威で大がかりに組織された「人為的地球温暖化」論が、いかに科学的根拠のない砂上の楼閣のようなものか、偽善的でウソにまみれた世界かを赤裸裸にあばき出すものとなっている。

 

シロクマは20年で20倍に 南極の氷も増加

 

 最近、「地球温暖化」よりも、「気候変動」という言葉が使われるようになってきた。そこにも、そうした「不都合な真実」が正直に反映しているという。なによりも、地球の年間平均気温はこの20年間、「加速度的な上昇」の予測に反して横ばいを続けている。ゴアやIPCCが危機感をあおってとりあげてきた「地球の危機」の実例や予測はことごとく外れてしまっている。

 

 温暖化で北極の海氷が解けて、シロクマが絶滅に向かうといって子どもたちを悲しませたが、現在、シロクマは20年前の20倍にまで急増している。NASA衛星観測では南極の氷も増え続け、年ごとに最高記録を更新し、南極の氷融解が海面上昇の原因にならないことが判明した。また、海面上昇によって2000年までに多くの国の沿岸の主要都市が水没するという国連の予測はとっくに失効している。加速度的な海面上昇は生じなかったばかりか、ツバルなどのミクロネシアの島島はサンゴ堆積や干拓などで面積を広げてさえいる。

 

 1980年代末、イギリスの研究者が「数年のうちに雪を知らない子ばかりになる」と発表した。そうならなかったのでその10年後の2000年、大物環境活動家が「地球温暖化は降雪を増やす」と発言して取り繕った。こうしたなかで、一方向の「地球温暖化」でなく、どんなことでも説明できそうな「気候変動」を使う学者が増えてきた。

 

 それにうってつけの事例として持ち出されてきたのが「異常気象」である。しかし、温暖化騒ぎから30年のあいだ地球の気温は、わずか0・2℃から0・3℃の温度上昇で横ばいである。それが「異常な気象」を増やしたと断言できる研究機関はない。2007年には「温暖化でハリケーンの数が倍増した」と騒がれた。だが、07年から17年まで、カテゴリー3以上のハリケーンはアメリカ本土に一個も上陸していない。万事がこんな具合である。

 

「97%の科学者が合意」の嘘 数字捏造は茶飯事

 

 本書は、まっとうな気候学者でも「人為的温暖化説は、97%の科学者が合意」論に惑わされた事情と、それがいかにねつ造されたものかを具体的に暴いている。科学者の多くは、自分で調べないで反論できないので同僚の判断を受け容れるのだ。しかし、IPCC関係の研究者が、名高い「97%」の証拠(論文1万1944編の「要旨」の部分)を具体的に分析したが、再現できなかった。その検証の結果、実際はそのうち中身が「合意」に合うのはわずか64編(0・3~0・5%)であり、明確なでっち上げであることを証明した。

 

 米国気象学会(AMS)は「人為的温暖化の合意」を承認したと声明したが、一般会員の意識調査では、75%の会員がIPCCの主張に同意していなかった。こうした数字のねつ造が茶飯事となっている。著者は、クライメートゲート事件によってIPCCがデータねつ造を常習化する腐敗の温床になっていることが暴露され、多くの良心的な科学者を現実に立ち戻らせる契機となったと指摘している。

 

 著者はあらためて、「科学者たちは合意などしていない。人間活動が温暖化を激しく進めているという叫びに根拠はない」と断言するとともに、科学を進歩させてきたのは政治がらみの「合意」などではなく、“懐疑”を生命とする真実の探究であったことを再確認している。

 

 IPCCの権威を誇るうえで、世界130カ国の政府が送り出した数千人の科学者の集団であることが強調される。だが、その実態は各国の官僚が入り込んだ「科学の仮面をかぶった政治的ロビー集団」である。それは、IPCC前議長のパチャウリが地球温暖化を「私にとっての宗教ですよ」と公言したり、「報告書の目的は世界の理性のある人々に、温暖化対策が必要だと思わせること」で、「報告書の中身は政治の動向に合わせる」といって恥じないことに端的に示されている。

 

 本書から浮かび上がる一つの問題は、ゴアやオバマなど民主党に見られる潮流、「左派」と見なされる勢力が「地球温暖化脅威」論の先頭に立って巨額の予算を投入していることである。ある場合は、「経済成長を許すな」「子どもを守るには子どもをつくらないのがベスト」などと主張する潮流もある。

 

 著者は、「地球を救うという甘い言葉が、科学と経済と政治をどれほどゆがめ腐敗させたか」と批判するとともに、この10年来の「国連気候変動枠組条約国会議」(COP)ではほぼ毎回、「今回こそ最後のチャンス」と叫ばれてきた滑稽さを直視すべきだと訴えている。そして、国連の条約やEPA(米環境保護庁)の規制や、「地球のため」と称する市民の犠牲で、気候や海水面を変える可能性はないことを明確にしている。

 

 ひるがえって日本では「温暖化対策費」として、毎年5兆円を超える巨費が投入され、すでに40兆円を使っている。さらに、2030年までに総額約100兆円を注ぎ込む計画である。

 

 訳者の渡辺正・東京理科大学教授(東京大学名誉教授)は「年間国家予算に近い100兆円を使おうと地球が0・001℃も冷えないことは、小学生でもわかります。血税から回す巨費は、実効の見こめる防災や福祉、医療、教育に回すのが、為政者のとるべき姿勢でしょう」と問いかけている。      
 (日本評論社発行、B6判・308ページ、1800円+税

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