劇団はぐるま座の『動けば雷電の如く―高杉晋作と明治維新革命』公演が、4月28日から5月1日にかけて、宮崎県児湯郡川南町、小林市、東諸県郡国富町の三カ所でおこなわれ、約1000人が観劇した。
川南、小林、国富で公演
宮崎県は2年前の口蹄疫で、約30万頭の家畜を殺処分され、その後、生活の糧を失ったどん底のなかから必ず再生させる、という強い思いで努力が続けられている。口蹄疫やその後の鳥インフルエンザの甚大な影響から農政に対する怒りも激しく、「もうなにも頼りにならない。自分たちの団結の力で変えていこう」という思いが圧倒している。今回とりくまれた演劇がそのような人人を激励し、東日本大震災の津波や原発事故からの復興にも心を寄せ、TPPをはじめとする売国政治を許さず、みんなが団結して、「日本を立て直そう!」という熱気が大爆発する公演となった。
各地で地元の農家や商店主、企業主をはじめとする各階層の人人が、実行委員会に名を連ね、ポスターやチラシの配布、チケットの普及などが進められていった。
畜産業の復興へ蘇る開拓魂 川 南 町
2年前、口蹄疫が最初に発見された川南町は、町の人口1万6000人に対して、16万頭もの牛・豚などの家畜が殺処分された。酪農と畜産を中心にする農業が町内の大きな産業であり、人口の7割が農業者で、農業にかかわらない人はいない。産業がなくなることで地域経済全体に影響は広がり、農家にはわずかな補償金しかなく収入源が絶たれているため生活は厳しい。昨年は鳥インフルエンザでの被害もあり、踏んだり蹴ったりの状態から、復興はいまだ3割に満たない。
しかしこの間、徹底されない消毒作業や、地元を排除した殺処分、その後の復興させる気もない国の対応にやるせない思いを抱えながらきた農業者からは、全国の酪農・畜産業を支え、本当に力をもっているのは生産者であること、口蹄疫やインフルエンザからの復興も自分たちの力でやり遂げなければならないことが確信になっている。
もともと川南町は人の住んでいなかった土地に全国から人が移り住み、固い土地を開墾して農地にし農業を営んできた。広大な農地を作り上げ、畜産業で全国を支えてきたことが誇りをもって語られる。“負けるな開拓魂”で口蹄疫からも復興の途上にあるが、それとは逆行して進められるTPPや消費税増税への怒りとともに、「震災復興も行政側に復興させようというものがまるでない。川南と同じことをやろうとしているのだ」という実感が広がっている。このなかに持ち込まれた今回の劇が非常に歓迎され、公家や大名に頼るのではなく自分たちみずからの力で時代を切り開く高杉晋作や奇兵隊の精神に、「その通りだ! 今、そういう活力がいる!」「みんなを団結させるとりくみだ」と共感が広がり、公演のとりくみを通じて農業復興の機運がさらに盛り上がった。
木材輸入の自由化も重ねて 小 林 市
また、もともと林業を基幹産業として成り立ってきた小林市は、昭和30年代の木材輸入自由化で木材の値は3分の1になり、今は働く場所がなく、若者の流出が深刻で高卒者の1割も残らないという。小林市は県下でももっとも自殺が多く、高齢化率は33%。近年では、新燃岳の噴火によって、農作物に甚大な被害が出た。市内にある市民病院は、地元の業者を差し置いて大手ゼネコンが建設したが、医師不足のため、建物の3階までしか使われない状態になっている。そのなかで市庁舎建て替えの話が急浮上するなど、厳しい市民の生活とはかけ離れた政治がおこなわれ、「市民の家は全部つぶれて、市庁舎だけ残るようなものでいいのか」という怒りを呼んでいる。
かつて、木材の自由化で地域の産業がつぶされていった経験から、「小林はまさに崖っぷちに立たされている。今、TPPを受け入れれば日本全体が小林になる」と危機感をもって語られている。また、宮崎県内の自治体があいついでTPP反対決議を出すなかで、小林市議会では日教組出身の副議長が“慎重に対応すべき”という文言に書き換えたことで、農家の怒りに火がついた。
公演にあたってJAこばやし青年部の男性が実行委員長を担い、JAこばやし女性部総会で紙芝居が上演され大きな反響があった。女性職員が「アメリカは長期戦略で戦後、日本の食生活から変えていった。アメリカの狙いをもっと市民に知らせ、絶対にTPPをやめさせなければいけない。一緒に見に行きましょう」と仲間に呼びかけた。
とりくみのなかでは、本紙「農林漁業から地域経済立て直しを」の紙面や、下関市の市民運動にも関心と共感が寄せられた。「TPPで賛成、反対で割れているが、そうではなく、日本をどうしていくのか、という問題。日本人の胃袋を日本人が支えればなにも問題はなく、それが国を守ることだ。地域にあった旬のものを生産すればよいし、酪農・畜産飼料も、トウモロコシを海外から輸入するよりも国内で生産していけばよっぽど低コストだ。国内での競争で“どこよりも早く”といって膨大な油を炊いて育てるという農業政策自体を変えないといけない」という農家の意識も語られた。
全戸に『雷電』チラシを回覧 国 富 町
川南町と小林市のあいだにある国富町では、町内の6500戸全戸を対象に『雷電』のチラシが回覧された。国富町は葉たばこ生産が全国1位。しかし、JT(日本たばこ産業)が5割の減反政策をうち出し農家の半分がやめ、反面積では6割の減反となった。「大企業はもうけの追求で農家がどうなろうと知ったことではない。農家も商売人も人が必要としているものを提供し、ふれあいや信用が生まれてくるのが本来の姿。この劇は現代そのもの。なにかに頼るのではなく、自分たちの力で町を良くしようと頑張っている人がこの劇を通じて、大きな輪を作ったら力になる」など、積極的な問題意識をもってとりくまれた。
畜産農民が近所の家を一軒一軒まわり、観劇を呼びかける行動に二十数人参加するなど、農繁期にもかかわらず、自分たちの劇として熱心な呼びかけがされた。
公演をとりくむ過程では、各地実行委員会で「高杉晋作に学ぶもの」の読みあわせもおこなわれた。また、実行委員の衣料品店の男性が公演の協賛広告をみずから周囲に訴えてまわるなど、積極的なとりくみのなかで当日を迎えた。
「明日への力をもらった」 公 演 当 日
公演の当日、訪れた観客は、3カ所とも酪農・畜産をはじめとする農業者が圧倒的に多く、それに商工業者、民生委員、介護士などの福祉関係者、自治体職員など幅広い世代約1000人が観劇。小中学生が誘い合って参加したり、幼児を連れた若い母親、20代、30代の保育士などの参加も特徴的だった。剣道教室の稽古日をずらして子どもたちの集団参加もあった。上演が心待ちにされ、1時間以上前から列ができた。
劇が始まると、一つ一つの場面ごとに熱烈な拍手が送られた。高杉が萩を脱出する場面や白石正一郎と高杉が奇兵隊の結成に向け手をとりあう場面など、後半に進むにつれ食い入るように見入っていた。百姓が奇兵隊へ米俵を運んでくる場面では、会場全体にざわめきが広がり、「百姓の魂がこもっとるから重いとよ」などの会話がささやかれ、荷車が去っていくときにはワーっと拍手が起こった。劇中の農民が、農民自身であり、観客と舞台が深く響き合い進行していった。高杉が29歳の若さであったことへ感嘆の声があがり、カーテンコールでは盛大な拍手と「うまいっ」というかけ声もかけられた。
上演後、晴れ晴れとした表情で出てきた人人が、役者とがっちりと握手を交わし、「明日への力をもらった」「生きる勇気をもらった」「まだまだ秘めた地域の力がある!」と思い思いに語っていった。その表情に、実行委員を担った人人からも、「みんなに“雷電スイッチ”が入った」と舞台の大成功が喜びをもって語られていた。「来年も来て下さい」という声が期待をこめていわれ、熱い思いがあふれる場となった。
上演後には、高校生も含めた参加者で感想交流会がおこなわれ、「世直し」のテーマが今の時代にぴったりの演劇であり、今後、全国をつなげていく劇だという確信があいついで出された。「全国に志をもった人人が集まれば日本は変えていける。この劇がきっかけになっていくと思う。どんどん全国に広げていってほしい」(川南町)や「TPPをはじめ今の農業問題を解決すること、地域の発展を考えていく公演にしたい。公演が終わった今だからこそ、かかわった人たちがつながっての出発。民主党も自民党も国民がついて行く考えではない。国民の思いを全国につないでほしい」(小林市、八〇代畜産農家)。また、「今の時代も、みんなを引っ張っていくリーダーがいる。ともにたたかっていく仲間がいる。それは当時も現代も同じ。みんなで頑張りましょう」(小林市・農協青年部)「情熱は波動だ。自分も行動していきたい」(小林市・商店主)と、いきいきした感想が出された。
今後の全国公演にも期待が高まっている。今回日向市から観劇に来た男性が、今月末の日向公演に向けての準備に早速動き始めており、今回実行委員を務めた人人からも、「今後も絶対に見ないといけない劇」として勧めていきたい、とさらなる意欲が語られている。
宮崎県では、29、30日に日向市、延岡市で公演が予定されている。