東京大学は来年4月以降、学内で働く約8000人の非常勤教職員のうち4800人を雇い止めする方針を打ち出した。このことは一つの重要な労働問題であるが、大学の機能の劣化・崩壊を象徴する問題として注目されている。
東大に勤務する非常勤者は大きく、フルタイムで月給制の特任教員や看護師・医療技術職員など約2700人と、週35時間以内のパートタイムで時間給制で働く事務職、大学病院で医療・看護の補助業務をおこなう労働者ら5300人に分けられる。大学当局の方針は、このうち有期契約の教職員の一部を除き約4800人を5年で雇い止めするというものである。これに対して東大教職員組合や首都圏大学非常勤講師組合は、労働契約法で定められた「無期転換のルール」を踏みにじる違法行為だとして批判と行動を強めている。
改正労働契約法(2013年4月施行)は第18条で、5年以上同じ職場で働く非正規労働者が希望した場合、無期雇用に転換することを定めている。このため、パートタイムやアルバイト、契約社員、準社員、パートナー社員、メイト社員など雇用期間の定められた労働者が、契約の更新の繰り返しによって通算5年を超えた場合、本人の申し込みがあれば無期労働契約(期間の定めのない労働契約)に転換しなければならなくなった。
東大では、教職員組合が2018年4月以降、希望者全員の無期雇用転換を求めている。これに対して大学は、契約期間の更新を上限五年とする「東大独自のルール」があるとして、労働法に優先すると突っぱねようというのである。さらに、その見返りとして来年4月以降、「公募選考(フルタイムの教職員)で採用されれば、有期雇用の職員が無期雇用になれる新しい雇用形態をつくる」としている。
大学当局と組合との交渉では、大学側が「週2~3日で無期転換なんてみみっちいことを言わないで、もっといい職をちゃんと用意するから、こっちに応募してください」と発言したのに対して、教職員から「現在フルタイムの教職員でも試験を受けて、採用されなければ仕事を失う」「パートタイムなら、フルタイムに転換しなければ、そもそも応募できない」などの怒りの声が出されたという。
専門性の高い教育・研究の現場は、スキルの高いパート勤務の技術者、職員が担ってきた。また、女性職員のなかには「夫の扶養の範囲で働きたいから、週3日勤務で良い。時間も短くしてほしい」という声もあり、実務・作業を調整して協業してきた実際がある。「現場で“神の手”として一目置かれている職員5人を解雇して、その替わりにフルタイムの人を1人雇っても、何をする気なんだと思う」など、大学の現場を知らない者のお役所的な発想への憤激が募っている。
日本の「知の拠点」として権威をふりまく東京大学だが、このたびの大量の一斉雇い止めが、高度な質が要求される現場実務の継承性を断ち切り、大学運営に不必要な混乱を持ち込むことは目に見えている。この問題は、目前の「成果と効率」だけを求め、長期の見通しに立った基礎研究を破壊し、人文・社会科学系の学部を縮小するなどアメリカ型の「大学改革」の本質を赤裸裸に示すものだといえる。真理探究の場としての大学機能を強める側からの大学人の活発な論議と発言が期待される。