高杉晋作没150年・劇団はぐるま座創立65周年を記念する『動けば雷電の如く――高杉晋作と明治維新革命』下関公演(主催/劇団はぐるま座、協力/明治維新150年下関もりあげ隊、後援/東行庵、功山寺、下関市、下関市教育委員会)が13日、下関市の生涯学習プラザ海のホールでおこなわれた。会場には下関市内各地から小・中・高校生、中小商工業者、労働者、教師、文化関係者、吉田・新地・長府などの維新ゆかりの地の人人をはじめ、県内各地、また広島や大分などから約500人が参観した。
今回の公演のとりくみは、来年の明治維新150年に向けて、維新発祥の地・下関から大きな盛り上がりをつくる起爆剤にしようと市民有志と劇団はぐるま座によって企画されたもので、とくに新地、長府、吉田など維新ゆかりの地で歴史の継承に尽くしてきた市民が横につながって公演の成功を支えた。倒幕と維新革命に命を捧げた高杉や父祖たちの偉業を顕彰する、全市的なうねりをつくる出発点となった。
公演当日、高杉晋作が眠る東行庵のある吉田地区からバスを仕立てて小学生たち、まちづくりや観光に携わる住民などがやってきたのをはじめ、制服姿の中学生や親子連れが次次と来場し、会場は開演前から熱気にあふれた。ロビーには下関の書家・津田峰雲氏が明治維新150年を記念して揮毫した「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し」の漢文の書が展示された。新地や長府の市民が受付などを担った。
大太鼓とピアノの「男なら」が流れるなかで幕が開き、「これは今からおよそ150年前、徳川幕藩体制を打倒して明治維新を成し遂げ、民族の独立を守り抜いた英雄たちの物語です」というナレーションで始まった。
馬関攘夷戦争からの復興に携わる百姓や町人が口口に安政の不平等条約でみなが苦しめられていることを語り、「徳川を倒して世直しするんじゃったら命をかけるがのう」という一幕1場。続く一幕2場では、高杉晋作が白石正一郎とともに士農工商の身分をこえた奇兵隊を結成する。そして、奇兵隊を潰すために陣所にあらわれた武士が刀を抜こうとして緊張した空気が漂うなか、農民の老婆が「奇兵隊とて見下げてくれな、もとの天下も根は百姓 こんにゃく武士に骨はない…」と歌って追い払う一幕3場は、笑い声とともに拍手で沸いた。
二幕、長州藩が朝敵とされ、外には幕府の征長軍が押し寄せ、内には藩政府を占拠した俗論党が正義派根絶やしを狙うという維新倒幕運動最大の危機のもとで、高杉が「今や古い世界に後戻りはできん。維新あるのみじゃ」「たのむはただ草莽のみ。恐れながら天朝も幕府も、わが藩もいらぬ」といって萩脱出を決意する場面には、観客は熱烈な拍手で応えた。動揺する山県らに対して「話して動かぬのなら、行動で動かす」と決起を決意する場面では、客席から「高杉、行けー!」のかけ声がかかり、わずか80人で長府功山寺で決起する場面では、賛助出演の希翔祐閃流・ソードダンサー侍の10代、20代のメンバーが奇兵隊士として舞台にあらわれると会場はどよめいた。
また決起した高杉と奇兵隊の下に米俵を積んだ大八車を引いて農婦と子ども(賛助出演)があらわれ、奇兵隊士が「百姓衆がどねぇな苦労をしてこれだけの米を集めたか、わしらにわからんとでも思うちょるんかッ」といって証文を渡す場面では、客席からすすり泣きと同時に拍手がわき起こった。最後の「欧米列強の侵略を阻止し、民族の独立を守り抜いた原動力は、まぎれもなく百姓、町人という人民」「明治維新を成し遂げた力こそ、日本民族の誇るべき歴史でなくてなんでありましょう」という場面でも、再度力強い拍手がわき起こり、高杉晋作が享年29歳であったことが伝えられると会場から「ほぅ」という驚嘆の声がもれ、涙をぬぐう姿も見られた。
初めから終わりまで幕間ごとに拍手が起こり、高杉晋作が「男なら」を歌うシーンでは客席で一緒に口ずさむ姿が見られるなど、俳優と観客が一体となって舞台を盛り上げ、熱気あふれる公演となった。また最前列に並んで座った吉田・王喜地区の子どもたちが、ゆかりの地として映し出された吉田の奇兵隊士像を見て「あっ、知ってる!」と反応し、引率した年配者が「子どもたちに伝わった」と喜びを語っていた。下関に息づく高杉晋作や奇兵隊に対する親近感とともに、明治維新を成し遂げた父祖たちに対する誇りの気持ちを観客みなが共有した。
終演後、劇団はぐるま座の富田氏が「今回、高杉晋作没150年という節目の年に新地、長府、吉田のみなさんをはじめ、全市の市民の方方のお力添えで公演が実現した。劇団はぐるま座が下関に拠点を構えてから5年が経過し、今年で創立65周年を迎えることができた。これからも下関のみなさんとともに、日本全国に高杉晋作と奇兵隊の志を発信していく」と挨拶すると大きな拍手が起こった。
子どもとともに参加した母親は「下関に住んでいながら高杉晋作の名前しか知らなかったので勉強したい」と語り、大分から参加した母親は、「大分で何度かこの公演を観たが、観客の反応が大分と違った。高杉晋作が愛されているのを感じた。選挙の前なのでいろいろ考えながら見させてもらった」とのべた。「この劇は何度も見たが、今回が一番よかった」「楽しかった」と舞台の進化を喜ぶ人も多く、ある女性は「百姓や町人など50万領民が明治維新の主人公だったというのがとてもよく伝わってきた」と感想をのべていた。
熱が込もる市民の取組 来年は維新150年
今回の劇団はぐるま座の『雷電』公演は、来年の明治維新150年に向けて、維新発祥の地の市民の力を結集して明治維新の顕彰運動を盛り上げる第一弾の企画としておこなわれた。下関には明治維新革命を成し遂げた高杉晋作や奇兵隊などとゆかりの深い地域が各所にあり、新地、長府、吉田では日常的に全国から訪れる観光客や歴史愛好家をもてなすなど、地道な顕彰を続けている。今回はその3地域の有志が連携しながらとりくみが進み、さらに市内の文化関係者、教育関係者、自治会関係者、医師、維新顕彰に携わる市民ら46人が賛同協力者として名を連ねた。
とりくみを担った長府の男性は、「長府のみならず、下関市の数多くの歴史のなかで、高杉晋作と奇兵隊の決起はとくに有名だ。わが国が混沌としている今だからこそ、奇兵隊決起の気概をこの劇を通じて若い人に感じてもらいたい。また、このたびの公演に協力する活動を通じて、長府や新地、吉田など、市内各所で明治維新の顕彰をしている人人に呼びかけ“明治維新150年下関もりあげ隊”を立ち上げた。来年の維新150年を一緒に盛り上げていく、大きな市民の力をつくっていきたい」と意気込みを語っている。
劇団はぐるま座はとりくみの過程で、市内の学校やスポーツ少年団、PTA、まちづくり協議会、婦人会、老人会、商工会議所、観光ガイドボランティアなどの集まり、介護施設や地域の祭りなど数十カ所で『動けば雷電の如く』の紙芝居の上演をおこなった。そのなかで農民や町人、商人らが原動力となって欧米列強の植民地化に屈従する徳川幕藩体制を打倒し、民族の独立を守り抜き、近代統一国家をうち立てたことが論議され、歴史の真実を学ぶ意欲が高まった。
教育界では、『雷電』の紙芝居を向洋中学校で全校鑑賞、文洋中学校では1年生全員の鑑賞をおこなった。そこでは「武士だけでなく農民、町人、商人という庶民がどんな思いで行動していったのかを学ぶことは、これからの子どもたちの人生に大きく響く内容だ」と教育的意義が語られてきた。また地域の子どもに太鼓の指導をおこなう父親が「故郷を大切にする心、人のために動く精神を育みたい。子どもたちに本物に触れる機会を与えたい」と語って公演のとりくみに協力するなど、市民自身の手で運動が広がってきた。
県や市など行政主導の「明治維新150年キャンペーン」は観光の活性化事業に切り縮められ、父祖たちが命懸けでたたかった明治維新とは何だったのかという顕彰の中身が乏しいことが、とりくむ人たちのなかで共通した問題意識になっていった。今回の公演は維新発祥の地・下関の明治維新顕彰に大きな基盤を据えるものとなり、来年の150周年に向けてこのうねりを下関全体に広げていく出発点となった。