7月21日から始まった夏休みも残り半月余りとなった。多くの働く親たちにとって、40日間という長い夏休みを子どもたちにどう過ごさせるかは切実な問題だ。最近、多くの小学校で1学期の終業式の日にも給食を実施している。それは少しでも長く給食を実施してほしいという親たちの要望を反映したものだ。働く親が大半を占める現状のなかで、子どもたちはどんな生活をしているのか、夏休みに子どもたちの居場所をつくり、勉強をさせたり、食事を支えるといった地域で広がる動きを下関市内で聞いた。
夏休み期間中、働く親にとって児童クラブはなくてはならない存在になっている。2015年度から児童クラブの対象年齢が6年生までに拡大されたが、下関の場合、低学年の希望者が多すぎて高学年は希望しても入れないのが実情だ。市は入所の際に親の勤務時間、内容などを詳しく調査し、定員がオーバーした場合は、低学年を優先したり、勤務時間の長い親の方を優先している。少子化は進行しているが、希望者は増え続け、待機児童まで出ている実態は、子育て世代の生活の変化を映し出している。
下関市内の小学1年生の子どもを持つ父親は、毎朝6時半に息子と2人でラジオ体操に行き、7時から娘と家族4人で朝ご飯を食べ、8時には家族全員で家を出るという。息子は弁当を持って児童クラブ、娘は保育園、夫婦はそれぞれ仕事場に向かう。夕方5時30分ごろに母親が保育園と児童クラブに娘と息子を迎えに行く。30代の父親は「自分が子どものころ、夏休みに学校で過ごすことはなかったが、多くの子どもが児童クラブにお世話になっている。これも時代なのだろうか。せっかくの夏休みなので息子には思い出をつくってあげたいと思い、平日しか休みがとれないが、子どもと2人で近くの海に3回行った」という。
ある児童クラブを昼間にのぞいてみると、異年齢の班で机を並べて弁当を食べていた。集団生活のため「全体リーダー」の子どもが食事の挨拶をして、食後には「テーブル当番」の子どもが机を拭いていた。集団生活を送るなかで4年生の男の子がリーダー的な存在となって、小さい子に工作を教えたり、本を読んであげたりしていた。
児童クラブは朝8時から始まる。9時から10時までは学習タイムで、10時からはおやつと読み聞かせ、11時からは工作や自由遊びの時間となっている。12時から弁当を食べて午後1時から3時まではお昼寝タイム、その後はおやつを食べて自由に遊ぶ時間と決めており、規則正しい生活を送っている。シャボン玉遊び、ビーズアクセサリーづくり、アイロンビーズづくり、すいか割り、工作、紙芝居、市の出前講座を招くなど、子どもたちがさまざまな体験ができるように指導員が創意工夫して企画を考えている。
指導員の女性は、「長い夏休みの時間の大部分を児童クラブで過ごす子どもたちなので、できるだけいろんな体験をさせたり、楽しく思いきり遊ばせたい。ご飯をきれいに食べること、挨拶をすることなど一つ一つが大人になる練習だよといって、しつけもしている。そして何よりも安全に気を使っている」と語り、子どもの性格や特徴などを把握しつつ愛情をもって育てている。
児童クラブは朝8時から午後6時半までが基本で、5時以降は保護者の迎えが必要となる。ある母親は仕事の都合でどうしても6時半に迎えに行けないため、毎日5時になると子どもを1人で帰宅させ、留守番をさせている。母親が家に帰るのは7時過ぎで、夕食を準備して食べるのは8時過ぎになる。「朝から晩まで児童クラブにいて、他に習い事もなく子どもに申し訳ない。だけど子どもが児童クラブが楽しいといってくれるので、少し安心している」と語っていた。
下関市の児童クラブ加入者(5月1日現在)は、2014年度は1766人、2015年度は1998人、2016年度は2065人(待機児童90人)、今年度が2188人(待機児童73人)となっており、年年増加の一途をたどっている。校区によっては児童クラブが2クラスから3クラスに増え、それでも待機児童が出ている実態もあるようだ。
子ども食堂や寺子屋等広がる地域の取組
親が仕事で家にいない子どもが増えるなかで、児童クラブのような公的施設ではなく、地域の力で子どもを見守り育てるとりくみも広がっている。市内のある中学校ではコミュニティスクール事業の一環で、近所の住民や保護者が地域の小・中学生を集めて寺子屋を開いていた。夏休み前に参加者を募り、中学校の教室で勉強を教えたりしている。地域の人が食材を持ち寄り、母親たちが昼食を食べさせている。児童クラブに入れない子どもたちも夏休みを有意義に過ごせるようにという狙いもあり、「近所づきあい」の延長のような形で、地域で子どもを支え育てる力になっている。また別の学校でも、地域の退職教師や大学生が学校で子どもに勉強を教える動きもある。また自治会と子ども会が合同で行事をおこない、地域の交流を深めて子育て世代を支えようという動きが広がっている。
下関市の生野きらきら子ども食堂は、夏休み期間中は毎週1回開いており、食事をする部屋の側に勉強ができるユニットハウスを併設した。毎週火曜日になると子どもたちが勉強道具を持って訪れる。ボランティアの女性や大学生が食前や食後のあき時間に宿題を見ている。時間が余ると幼稚園児なども一緒にオセロやトランプで遊んだりしていた。
2年生と4年生の子どもと、その友だちを引き連れて子ども食堂を訪れた母親は、「夏休みは親にとっても本当に大変だ。私は共働きだが、近くに親が住んでいるので子どもを預けている。昼食もそこでお願いしているので本当に助かっている」と話す。また「子ども食堂に来るときいつも子どもの友だちを誘う。1人で子どもを育てるママ友は仕事で疲れているので、子ども食堂の時間だけでも家でゆっくり過ごしてほしいから」と話していた。
職場の同僚のなかでは「子どもはどうしてる?」と話題になるが、高学年の子どもの場合はほとんど親が昼食をつくり置きして出勤している場合が多く、仕事を終えて家に帰るまでは子どもがどこで何をしているか基本的に「所在不明」だという。日中、親たちが気になって電話をすると、「お兄ちゃんとテレビを見ていた」「友だちの家に遊びに行った」「公民館で友だちとゲームをしていた」というような答えが返ってくるようだ。
なかには夏休み期間中だけスイミングの夏季講習や習い事に通わせる家庭もあるが、それは子どもの居場所を確保するという意味合いも含んでいるようだ。また夏休み期間中、サンデンバスが子ども料金を一律50円にしているのを利用して、バスで兄弟で図書館に行かせたり、子どもだけで祖父母の家に行かせて社会勉強をさせている家庭もあった。また親同士が連絡をとりあい近所の子を誘ってプールや海、ドライブに連れて行くなど、互いに助け合って夏休みを過ごしているところもある。
教師に聞くと、ここ十数年のあいだに共働き家庭が当たり前になったが、当初は午前中や午後2時ごろまでのパート勤めが主流だったという。そのため午後からは親が子どもと一緒に宿題をしたりする時間も持てていた。だが最近は夕方6時、7時までのフルタイムで働く母親が増えているので、「子どもの自由研究はお盆休みが勝負。子どもと一緒にやって、宿題も終わらせたい」「お盆休みの墓参りが唯一の遠出。墓参りが子どもの絵日記の題材になるかも」「子どもの生活が乱れないように、朝のラジオ体操だけは私も早起きして一緒に行っている。特別なのはそれだけで子どもに申し訳ない」という親たちのさまざまな声を耳にしているという。
心配される子供の孤立、夏休みに顕在化
一方、夏休み期間になると心配されるのが「社会との接点がなくなる子たち」の存在だ。日ごろ学校に通っていては見えにくい子どもの生活や親子の状況が夏休みにはとくに顕在化する。地域にあった子ども会組織が弱体化し、児童クラブにも所属せず、習い事などができない子どもは、親が昼食代で置いていった小銭でゲームセンターに行ったり、中学生と一緒になって悪い遊びを覚えたりすることも珍しくない。食事もお菓子やアイス、カップラーメンですませて、夜に遊んで生活習慣が乱れていく。夏休み明けに痩せている子の存在も教師たちは気にしている。経済的に満ち足りた家庭の子が毎年海外旅行に行く一方で、「夏休みにどこに行った?」と尋ねたら近所の公園だったという子どもがいたり、埋めがたい格差もある。「夏休みだからといって、身を粉にして働いている親は子どもにかまっておれない。仕事をしなければ生活が崩れるからだ。でも親子の基盤が育まれていなかったりすると、親の必死さが子どもに伝わらず、必死さが空回りしているお母さんもいる。そういう場合、親も子も孤立しがちだ」という。
そのような家庭環境の変化を背景にして、子どもたちを少しでも地域で見守ろうと、子ども食堂や寺子屋などの民間レベルでの動きが活発になってきたのも特徴だ。「親の代わりはできないけれど、あなたのことを見ているという大人からのシグナルになると思う。これからの時代、親を支え子どもを支える地域の力が活発になっていくのではないか」と関係者は語っていた。学校によっては夏休みが終わる1週間前から家庭訪問をしたり、学校で算数教室を開いたりして子どもたちの生活リズムをとり戻すよう促していくという。
夏休みの子どもの過ごし方の変化は、子育て世代の生活実態を映し出している。