(2025年2月5日付掲載)
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子どものスマホやSNS依存への対応策を伝えるイギリス議会広報
SNSやスマートフォンの普及が進み、子どもたちが長時間画面の前で過ごすことが当たり前になるなかで、そのリスクが世界中で注目され始めた。依存症になって勉強の集中力が落ちたり睡眠時間が減ったりする問題、同級生の写真を使ってのいじめ、さらには自殺願望サイトや暴力・ポルノ動画に触れたり、詐欺やヘイトの影響を受けたりする問題は、各国共通のようだ。そのなかで欧州では、学校でのスマホの使用を禁止する措置を導入する国が増えている。
フランスやオランダでも
フランスでは2018年、幼稚園から中学校までを対象に、校内でのスマホを全面的に禁止する法律が定められた。
マクロン大統領の委託を受けた専門家らの報告書は、次のように指摘した。
子どもたちは13歳になるまでスマホの使用を許可されるべきではなく、18歳になるまではFacebookやInstagramなどSNSへのアクセスを禁止されるべきだ。ハイテク産業は利益を優先して子どもたちの注意を引きつけ、子どもたちをスクリーンの前に閉じ込め、コントロールし、金もうけをしようとしており、新たなテクノロジー市場で子どもたちが「商品」になりつつあるが、この戦略から子どもたちを保護する必要がある。親と赤ちゃんの絆を深めるために、産科病棟では携帯電話やスクリーンの使用を可能なかぎり制限すべきであり、小学校では特定の障がいがある場合を除き、子どもに個別のタブレットやデジタル機器を与えてはならない。
精神科・依存症科の責任者は「SNSのコンテンツに興味を持たせるよう構築されたアルゴリズムには、ある種の中毒性がある」「テクノロジーはすばらしいツールであり、これからもそうあり続けるだろう。しかし、テクノロジーは人々のために機能しなければならない」とのべている。
オランダでも昨年1月、小中学校でスマホの非教育的使用を禁止する法律が施行された。禁止対象にはスマートウォッチやタブレットも含まれる。政府は「スマホは生徒の成績低下や集中力低下につながる可能性がある」と説明している。
イタリアでは昨秋から、省令にもとづいて、幼稚園から中学校まで、教室でのスマホの使用は教育目的であっても禁止されている。
ベルギーでは、フランス語コミュニティが2025年度から、学校でのスマホやその他の電子機器の娯楽目的での使用を禁止することが決定された。同コミュニティの教育大臣は、「禁止令の目的は、生徒の集中力を高め、より健全な学習環境を整えることだ」とのべた。
ルクセンブルクの教育大臣は声明で、「スマホやSNSの過度の使用が子どもたちに与える影響を懸念している」「重要なのは、デジタル世界と現実世界の適切なバランスだ。それを達成するには、家庭でも学校でも、私たちの社会でも明確なルールが必要だ」とのべた。
ユネスコは、「世界の4カ国に1カ国が、学校でのスマホの禁止を法律で定めている」と、2023年に発表した報告書で指摘している。
スペインでは母親グループ結成 「スマホのない青春時代」
このなかでスペインやイギリスの母親たちの注目すべき行動を、地元メディアが伝えている。
スペインでは、10歳までに子どもの4分の1がスマホを持ち、12歳になるとその割合が75%にもなる。イギリスでは8~11歳の間に子どもの55%がスマホを所有し、12歳になるとその割合が97%にまで上昇する。
そしてスペインでは、子どもたちがオンライン・ポルノを視聴したり、性的暴力の動画を共有したり、人工知能を使って女子生徒の性的なディープフェイク画像を作成する事件が急増したりして、親たちのなかで危惧する声が高まっていた。そのなかで、学校でのスマホ禁止やオンライン安全法が制定された。しかし、それは学校にいるときだけであり、子どもたちの放課後にはどう対処するのか?
そんななか、バルセロナの母親たちが一昨年秋、子どもたちのSNSアクセスの危険性に関する情報を共有し、16歳になるまで子どもにスマホを持たせない運動をおこなうグループ「携帯電話のない青春時代」を立ち上げた。最初は「同じ考えの家族が4つ見つかればいいなと思っていたが、活動はどんどん広がった」という。
グループはすぐに他の学校に広がり、次には国中に広がり、現在では会員数は1万人をこえた。目標は多くの親たちと力をあわせてスマホを規制することであり、「自分の子どもだけがスマホを持たない」という状態にしないことだとのべている。
この運動はイギリスでも広がっている。「スマートフォンのない子ども時代を求める親たち」というグループには、立ち上げて4日で2000人が参加し、3週間後には全国の各州ごとにグループができた。親たちは「スマホを買い与えるのは、子どもに対して悪い決断だということはみんなわかっている。だけど社会規範がまだ追いついていない。それなら社会規範を変えて、スマホを持たせるのを16歳まで待つようにしたらどうだろう」と語っている。
そうしたなかで昨年12月、SNSで子どもが亡くなる事件があいつぐオーストラリアで、16歳未満の子どもによるSNSの利用を禁止する法律が成立した。禁止対象のSNSはX(旧Twitter)、Instagram、Facebook、TikTokなどで、YouTubeなど教育目的で使われるものは適用除外となっている。そして、こうしたプラットフォーム企業が16歳未満の子どもの接続を防ぐ措置をとらなかった場合、最大で4950万豪㌦(約48億円)の罰金を科すとしている。
注目されるのは、親や子どもには罰則を科さず、野放しになっているビッグ・テック(巨大IT企業)を規制しようとしていることだ。そこには欧州同様、子どもたちを守る親たちの行動があったにちがいない。