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岸田政府 10兆円規模の大学ファンド計画 大学独法化に続く学術研究の破壊

 岸田政府は1日、総合科学技術・イノベーション会議を開き、「新しい資本主義」の柱として大学ファンド(基金)計画を決定した。これは政府が支出する10兆円規模の基金を株式や債券で運用し、そこで得た利益を全国の国公私立大から選ばれた5~7校程度の「国際卓越研究大学(仮称)」に年間数百億円ずつ配分するというものだ。

 

 これに対して各地の大学の教職員からは、「大学の独立行政法人化の失敗が明らかになっているのに、同じ轍を踏むものだ」「ごく少数の大学への資金投入でなく、裾野が広い基礎研究を重視し、日本全国の大学の底上げこそめざすべきだ」との厳しい意見が出されている。

 

国公私立大から7校を選抜

 

 この大学ファンド計画は、内閣府と文科省の有識者会議がまとめたもの。10兆円の基金の大半を政府の財政投融資でまかなうとしている。それによって大学へ民間の投資を呼び込み、とくに人工知能(AI)や量子などの最先端技術の競争力復活をめざすという。

 

 ただ、これだけの巨額な資金を市場運用に回した例はなく、想定されている運用益も年4・38%と、国民の年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の20年間の運用実績よりもかなり高い。もし運用に失敗すれば、国民にツケが回されることになる。

 

 また、大学ファンドの対象となる「国際卓越研究大学」には、年3%の事業成長が求められることが決まった。ということは、大学がこれまで以上に産業界や国が求める研究に頼ることにならざるをえず、国の側が軍事研究への誘いを強める契機ともなりかねない。

 

 さらに、国際卓越研究大学には、学外者でつくる経営意思決定機関を新設し、この機関に学長を解任できる権限など人事権を与えることも決まった。
 政府は今国会に関連法案を提出する。大学ファンドは2021年度中に運用を開始し、2024年度から運用益を配分するという。

 

 これに対して現場が強い危惧を抱くのは、2004年に国立大学の独法化が実施されて以降、日本の学術の国際的地位が急激に低下している現実があるからだ。

 

日本の学術 地位低下は深刻

 

 日本の大学改革は、新自由主義を基調とする米国式大学運営を日本に持ち込んだものだった。それは企業や個人の投資や寄付によって大学が自己資金を集め、その運用益で大学の運営費を調達するというもので、資金運用のプロが雇われ、経営陣にも企業からの出向者が増えた。

 

 また、大学の授業料が基本的に無料であるヨーロッパの大学とは対照的に、米国の大学は授業料を引き上げ、その支払能力のある学生を呼び込んできた。

 

 これを手本にした小泉内閣は、独法化後、国の運営費交付金を毎年削減する一方、「選択と集中」「競争と評価」を掲げて財界や国の求める研究で業績をあげた大学に資金を集中するようになった。大学は教職員の数を減らさざるを得なくなり、基礎研究は衰退した。

 

 続いて安倍政府は学校教育法と国立大学法人法を改定し、それまで人事や予算決定の権限を持っていた教授会からその権限を剥奪し、学長のリーダーシップを強めた。また、財界が必要としない教員養成系や人文系学部の廃止や転換をうち出した。

 

 この間、ノーベル賞を受賞した学者たちが、「すぐに成果が出る応用研究ばかり重視するのでなく、日の目を見るまでに30年、40年かかるけれども、長期的な社会課題の解決や新産業の創出につながる基礎研究を重視すべきだ」「今のままでは質の高い研究人材は確保できず、日本人のノーベル賞受賞者は出なくなる」とくり返し警鐘を鳴らしてきた。だが、政府はこれを無視し続けた。

 

 その結果、昨年の世界大学ランキングで東大は35位、京大が61位で、トップ200の中に日本はこの2校のみ。自然科学分野の学術論文のうち、他の論文に引用された影響力の大きい論文数で、日本は過去最低の世界10位に後退した。教育・研究・教員人事について教員たちの意向を無視してトップダウンで決まる事件があいつぎ、優秀な人材は去り、学生は学問の府で学問が学べない状況に直面している。

 

 最近、独立行政法人化の方向性を決めた有馬朗人元文部大臣(当時)自身が「国立大学法人化は失敗だった」と発言し、関係者のなかで話題になっている。


 20年にわたる大学の新自由主義改革を見直す世論が渦巻くなか、それに逆行する新自由主義そのものの大学ファンド計画に厳しい視線が注がれている。

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