全国の国公私立大学の教授、名誉教授らが中心になって、「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」が発足した。呼びかけ人には、白川英樹(筑波大学名誉教授)、梶田隆章(東京大学宇宙線研究所所長)らノーベル賞受賞学者、日本学術会議元会長の広渡清吾(東京大学名誉教授・元副学長)、軍学共同反対連絡会・共同代表の池内了(名古屋大学名誉教授)ら51氏が名を連ねている。3月末には東京でシンポジウムを開くことを明らかにしている。
同フォーラムは、「設立趣意(社会へのよびかけ)」として、あらまし次のように訴えている。
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大学の使命は、高等教育を通じて学生に豊かな学びと人生の選択の機会を保障し、落ちついた自由な環境のもとで多様で独創的な研究成果を生み出すという知の創造と継承によって、明日の社会づくりに貢献することにある。しかし、大学は今、これらの使命を果たすことを危うくするような、深刻な危機に直面している。
第一の危機は、学術研究や高等教育の基盤を支える教育研究費が年年削減され、教育・研究をこれまでの水準で続けることさえ困難になっていることである。教育・研究に不可欠な定期刊行物の購読打ち切りを余儀なくされたり、教員が退職しても後任が採用できず、その分野の研究者が不在となることが少なくない。教職員の一方的な雇い止めや解雇さえ横行している。これらのことは、学部・大学院の教育や研究に打撃を与えるとともに、研究者をめざす人人を減少させ、大学のもっとも重要な役割の一つである多様な学問の継承を危うくしている。研究の質と量の低下すらもたらされている。
政府は、大学を競争的環境に置くことこそが大学を活性化させる鍵だとして、「自ら稼ぐことのできる大学」になることを求めてきた。そのさい、大学を日本経済再生のための「科学技術イノベーション」の拠点にするという観点から、研究資金を重点的に配分する方向を強めてきた。その結果、①人文・社会科学系よりも自然科学系、②基礎研究よりも応用研究、③長期にわたる研究が必要なテーマより短期的に結論が出そうなテーマが重んじられてきた。
第二の危機は、「大学ガバナンス」改革と称して大学にはふさわしくないトップダウン型大学運営が強化され、結果として大学全体が疲弊するに至っていることである。
国立大学では、国立大学法人制度のもとで、競争的資金などへの依存度を高めながら、政府が「改革」の方向づけを与え、その方向づけに沿って「改革」を実行しているかどうかを評価し、資金配分に差をつけるというやり方が、年年緻密化されてきた。
大学内部では、学長を中心とする大学執行部に権限を集中することが推奨され、学内における熟議と合意がおろそかにされている。その結果もたらされているのは、数値化された目標の短期的な達成に慌ただしく追われる大学の姿だ。このような企業的なあり方は、多様な役割を持ち成果がすぐには目に見えにくい大学における教育研究の性格、教育・研究の専門家集団としての教員が、一生涯にわたる学びの一過程にある学生や職員とともに作り上げる大学のあり方にふさわしいものではない。むしろ大学全体を疲弊させるものとなっている。
以上の背景には、文部科学省と中央教育審議会の地位が低下し、首相官邸に政策形成に中心が移っているという事情がある。そのため、「科学技術イノベーション」の拠点、あるいは「地方創生」の拠点として位置づけるというように、経済政策的視点に傾斜した大学政策が打ち出されてきた。その結果、大学間格差が広がり、広がった格差は国立大学でも私立大学でも大学の事実上の「類型化」として固定化されようとしている。
重要なのは、大学が「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」(学校教育法)ことを改めて想起し、多様性を超えて、「大学が大学である以上は備えるべきものは何か」、ということを改めて考えることではないだろうか。
短大を含む大学進学率は57・9%に達しているが、地域差が大きく、4年制の進学率では女子の方がかなり低い。充たされていない進学への希望が少なからず残されているのだ。18歳人口の減少という見通しを大学の淘汰に結びつけるのでなく、学びの場を量的に確保してゆくことが必要である。学生と家族が重い学費負担を強いられている。親からの仕送りは減り、アルバイトへの依存度が高まっている。有利子のものを中心とした奨学金受給者の割合が上昇する一方、返済に苦しむ人人も増加している。大学進学をあきらめた理由の一つが経済的負担の大きさである。
財政的制約が当然のように前提とされるが、財政は未来に向けて何を重視するのかという問題だ。日本は高等教育に対する公的支出が国際的に見ても低く、個人負担が大きい。公的支出の水準を引き上げ、そのための財源について真剣に議論されなければならない。
大学をめぐる課題は多岐にわたり、深い省察を求めるものだ。しかし、大学政策に疑問があっても、それを形に表わし行動することが困難になっている。国立大学のあいだでも、共通の主張をまとめることは容易ではなくなっており、それは私立大学ではいっそう強く当てはまる。だからこそ、国公私を超えて大学の直面する危機と課題にどのように立ち向かうかを議論する場が必要である。
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第1回シンポジウムは3月31日(日)午後1時半から、「大学の危機をのりこえ、明日を拓くために」をテーマに明治大学グローバルホール(グローバルフロント一階)で開催する。梶田隆章・東大宇宙線研究所所長が「基礎科学の持続的発展に向けて」、山本健慈・前和歌山大学学長が「地方国立大の現状と課題」、井野瀬久美恵・甲南大学教授が「大学の特性・個性・自主性のゆくえ」、山口裕之・徳島大学教授が「大学は競争すればよくなるのか」と題して講演。国公私立大学をこえて、市民とともに語りあう。入場無料。申し込み不要。