女性や若者の新たな動き 民主党内でも「造反組」が躍進
アメリカ中間選挙が6日におこなわれ、トランプ大統領率いる共和党が上院で過半数を維持する一方、下院は民主党が8年ぶりに過半数を奪還し、米国議会は「ねじれ」の構図となった。トランプ政府(共和党)に対する厳しい評価とともに、民主党内でも大統領選後に高まった変革機運をともなって盛り上がりを見せ、二大政党制の下で長く政治の主導権を牛耳ってきたエスタブリッシュメント(支配層)に対して、それを下から揺さぶる世論のうねりを色濃く反映するものとなった。
今回の中間選挙は、上院(100議席)のうち35議席、下院(435議席)のすべてでおこなわれ、さらに50州のうち36州で知事選がおこなわれた。
上院の改選前の勢力は、共和党51議席に対して民主党は49議席。下院では、共和党が235議席、民主党は193議席で、上下両院で共和党が多数派を占めていた。2014年の前回中間選挙でオバマ政府与党の民主党が大敗北して以来の構図だ。
改選の結果(7日現在)、上院(未確定3)で共和党は51議席(うち非改選42)、民主党は46議席(うち非改選23)となり、共和党がかつがつ過半数を維持。下院(未確定10)では、共和党が改選前から34減らして201議席にとどまり、民主党は224議席と大幅に議席を増やし、8年ぶりに多数派を奪還した。
改選36州の知事選では、改選前は共和党が26州、民主党が9州、無所属が1州を握っていた。改選後、共和党は南部フロリダ州や中西部オハイオ州など19州にとどまり、大統領選でトランプ陣営が注力した「ラストベルト(さびついた工場地帯)」の一角である中西部ミシガン州やウィスコンシン州、共和党の基盤であった中部カンザス州、西部ニューメキシコ州など7州で民主党候補が知事ポストを奪取した。7日未明までの集計結果(残1)を改選前と比較すると、共和党は33州から26州へと後退し、民主党は16州から23州へと躍進した。
議会上院の過半数をかつがつ維持したことでトランプ大統領は「大成功」と開き直ったものの、下院では過半数割れし、知事選でも大幅に後退しており、「トランプ旋風」といわれてきた共和党の勢いは陰りを見せた。
今回の中間選挙の特徴として、女性の新人候補が多く当選し、下院では過去最多の100人(選挙前84人)を超えることが確実となった。そのうち85%が民主党候補で、イスラム教徒やアフリカ系、ヒスパニック系、先住民などこれまで政治の舞台から遠い存在だった人人のなかから政治家が数多く誕生している。多くが人種や性別で分断するトランプの政策への批判の高まりとともに、共和党と妥協して富裕層中心の政権運営をしてきたオバマやヒラリー主導の民主党主流派への反発を背景に、「造反組」として出馬した候補者たちだ。
ニューヨーク州14選挙区から史上最年少で出馬し、下院議員に当選した民主党の女性候補オカシオ・コルテス(29歳)は、プエルトリコ出身のウェイトレスで、政治経験はないが大統領選で社会主義的政策を訴えて全米で旋風を巻き起こしたバニー・サンダースの運動員をつとめ、自身も「アメリカ民主社会主義者(DSA)」の一員でもある。社会主義者を自称し、国が医療費を全額負担する国民皆保険制度の制定や、移民の家族を強制的に切り離す米移民税関捜査局(ICE)の廃止、公立大学の授業料無料などを訴え、若者や女性から強い支持を集めた。候補者になるためには選挙資金が大きく左右する構造のなかで、一口200㌦以下の小口献金を集め、その10倍以上の資金力を持つ現職に対抗した。
同地区では、10期連続で当選してきた民主党現職がおり、党幹部で対抗馬もいない無風状態にあったが、オカシオ・コルテスは「ウォール街の法人から利益を得て、この地にも住んでいない、子供たちをこの地域の学校に行かせてもいない。そのような人が私たちを代表することはできない」と批判し、党中枢からの圧力のなかで現職候補に2桁差を付けて圧倒的勝利をおさめた。この番狂わせが民主党内の「風穴」となって多くの女性の立候補を促すことにつながり、保守的な党首脳部の思惑を超えて選挙戦の新たな顔となった。本人も本選で共和党候補に大差を付けて勝利した。
同じく民主党内の「造反組」(サンダース派)として、社会的弱者の保護や、富裕層を優遇するトランプとの対決を訴えたソマリア移民のイルハン・オマル(ミネソタ州、37歳)、パレスチナ移民のラシダ・タリーブ(ミシガン州、42歳)の2人は、アメリカ史上初のイスラム教徒の女性議員となった。いずれもDSAのメンバーであり、行き詰まった資本主義制度に異議を唱え、社会主義を公然と掲げることで若い世代に支持を広げていったことも大きな特徴となった。
また、全米各地で教育予算の充実を求めてストライキを起こした教師たちも結束して立ち上がり、全米で約1500人もの教員が民主党から立候補した。全米教育協会(AFT)の指揮のもと、学校の民営化反対や低予算で荒廃する教育環境を変えることを訴えた運動の広がりは、同じ境遇でたたかう公務員や労働者、父母から支持を集め、民主党躍進の原動力となった。
さらに大統領選でサンダース旋風を巻き起こした若者層もこれらの変革のうねりを作り出す力となった。現地メディアの出口調査では、19~29歳の70%が民主党に投票している。とくにフロリダ州パークランドの高校をはじめ各地で起きた銃乱射事件を機に、高校生や中学生が始めた銃規制の動きは全米に広がり、3月にはワシントンで80万人のデモにつながった。この若年層の動きは、NRA(全米ライフル協会)からの大口献金に依存して銃規制に及び腰の共和党、民主党の現職候補を下から揺さぶり、選挙戦の争点に押し上げた。
大統領選でトランプ勝利を決定づけた五大湖周辺の工業地帯「ラストベルト」でも、アイオワ州、ミシガン州、カンザス州、イリノイ州のそれぞれ下院2地区で民主党候補が共和党の現職に勝利した。知事選では、ウィスコンシン州、イリノイ州の共和党現職が落選し、大統領選挙でトランプ大統領が勝利したミシガン州とカンザス州でも共和党の後継候補が民主党候補に敗れた。
ラストベルトは労働者の街で古くから民主党の基盤であったが、自由貿易や規制緩和のなかで貧困化と荒廃が進み、オバマ政権下でもとり残され、大統領選でその不満をすくい上げる形でトランプが勝利して歴史的番狂わせの象徴的な地域となった。ラストベルトでの敗北は、「好調」といわれるアメリカ経済指標もこの地域には無縁であり、1%の富裕層の利益を優先して99%の勤労者を搾取するトランプへの労働者層の幻滅と反発の高まりを物語った。